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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第350話:動くきっかけ


「ギリムさん、少し良いですか?」



 ラウルの呼びかけにギリムは無言で頷き、その間ハルヒ達はエルサと言う子に会いに行っている。

 ハルヒ達が離れていくのをラウルは確認し、コソッと調べた事を告げた。



「実は……。この村以外だけでなく、それなりに大きい街でも人攫いがあったという調査結果を聞きました。街に常駐している騎士団や自警団も注意はしていますが、手掛かりがあまりになかったとの事です」

「……そうか。転移の類で移動されれば、物音せずに連れ去るのも可能だしな。こういう事に魔法は使うべきじゃないんだが」

「ゆき達にはその……ショックが大きいかと思って、彼等の前で話すのはと」

「神秘……だったか。彼女達には魔法はそういう風に見えているらしいな。――ほら、見てみろ」



 ギリムの指さす方を見れば、エルサの周りに小さな炎と氷が意思を持ったように動いている。

 ゆきと咲がそれらを動物に扮して操作し、笑顔になって貰おうとしての行動。魔法を身近で見た事が無かったエルサも含めた村の子達は、夢中になってそれらを追い掛けている。



「ふふ、子供は無邪気が良い。使い手によって見方が変わってしまうのも事実だ。本来であれば、神秘と言う表現の方が正しい」

「……そう、ですね」



 それを言われ、ラウルが思い出したのは麗奈の嬉しそうな顔だ。

 ラウルが扱う魔法は氷であり、扱いがかなり難しいもの。しかし、麗奈の世界にはない神秘に彼女は夢中になり、輝かしい笑顔でいた。


 子供達の嬉しそうな顔を見て、麗奈の笑顔と被り魔法は神秘であるべきだと言うギリムの言葉にも頷けた。一方でハルヒは、自身の式神を使い1~2人程の子供を空へと上げている。

 全身が白い紙で出来ている鳥だが、子供を乗せてもビクともしない。そんな不思議が体験できるとあってか、彼等の周りにはいつの間にか子供達が一斉に集まりだしている。



「当分は帰れそうにないな。今日はここで野宿でもするか」

「え、そんな簡単に決めて良いんですか」

「余がここに来たのは、村の周りを強化する為でもある。リームも理解をしてくれる」

「それなら良いんですが」

「アイツからすれば、逃げているように聞こえるだろうしな。ま、実際に逃げているんだが」

「……怒られませんか、それ」



 無言を貫くギリムに、ラウルは逃げているんだと思いそれ以上は何も言わない。

 結局、夕方まで子供達の相手をする事になり本当に野宿をすると言う形で決まった。最初はエルサの家にでもと思ったが、ハルヒ達は見回りもするからという事で丁重に断った。



「転移の類……。そう言えばアイツも、似たようなもの使ってたな」

「君達の術にも似たようなものはあるのか?」

「まぁ、あるにはありますよ。ただ、魔法と違ってこっちには媒介が必ず必要ですけど」



 見回りをするハルヒとギリム。ラウルの方には、ゆき達と行動する事になり改めてギリムはハルヒ達の扱う術について質問をした。


 その媒介となるものが、ハルヒと麗奈達が使っている術札になる。

 例え霊力がない者でも、この術札であれば術者との連絡だけでなく簡易的な移動も出来る。しかし、転移と違い稼げる距離はその術者の霊力に依存する。



「魔法での通信の方がかなり便利ですよ。札がないと使えないし、連絡にしろ移動にしろ術者の力に頼る形になるので」

「例えば通信をしながらの戦闘は可能なのか?」

「出来なくはないですけど……。出来れば戦闘には集中したい方ですね」

「まだ念話での連絡の方が負担は少ない、か」

「魔法での便利さを知ったらね」



 歩きながらそう話すハルヒに、ギリムはラウルと話した内容を告げる。

 彼は一瞬だけ驚くように目を見開いたが、その可能性の方が高いかとすんなりと受け止めた。



「……意外だな」

「僕はゆき達より戦闘に慣れてるんで。彼女達が直視出来ないような事でも、受け止める覚悟はとっくにしている」

「そうか。君の前では包み隠さない方が良さそうだな」

「ま、でも……ゆき達には僕から話しておきます。ついこの間まで、戦う事とは無縁の場所に居たので」

「そういうケアは任せておくか。君も辛くなったら遠慮くなく言ってくれ」

「はは。ギリムさん、ランセさんみたいな事を言ってる。ホント、この世界の魔王って皆さん世話好きなんですね」

「……おかしいか?」



 キョトンと返すギリムにハルヒは「おかしくないです」と笑顔で返答。

 少し前まで、魔王は最大の敵という物語が多くハルヒも先入観に囚われていた。最初にランセという例外と関わる事で、その先入観も今はない。



「ギリムさん達が魔王で助かりました。今、こうしている事が凄く心強いです」

「そうか。そんな感謝のされ方は初めてだな」



 そう言いながらギリムは心地が良いと感じる。

 そんな時、リームからの報告があった。急に増えてきたように思えるが、実際には年々多く表面化され辛いだけらしい。



「余達が商会を幾つか潰したから、急な変わりが必要になったのか」

「……それって」

「ハルヒ。奴と対面した時、生贄にするんだと言ったんだったな?」



 質問され、ハルヒはすぐに頷いた。

 今でも思い出すと腹立たしい。人の血肉を使い、生贄とする考えに魔族のユウトを思い出す。

 あんな非人道的な事を、魔族ではなく同じ人間が平然としているのだと、分かるだけでも怒りで頭が沸騰したように熱くなる。



「なら、連中にとって簡単に入手できるルートが潰されたとみるべきだな。そして、その続きをするのにどうしても必要となった場合……表立って行動をする」

「……そうか、奴隷商会を使って人々を集めてたのか」

「戦争はないにしろ。魔物の被害で、村がなくなる事も珍しくない。そう言った行き場のない者達を、都合の良いように攫い、あるいは自らの意思でそうさせたか。……いずれにしろ、こちらが商会を潰したからこそ接触出来たと捉えるべきだな」

「……じゃあ、行方不明者の人達はもう……」

「全員が全員そうでないにしろ、な。人間だけでなく他の種族にもそれが言える。エルフ、獣人、ドワーフ……姿をあまり見なくなった種族に関しても、彼等の犠牲にされただろう」



 エルフと獣人の仲は悪く、ドワーフは人間から離れた事で外との関りを絶った。

 それが神殺しの思惑であってもなくても。

 今回はエルサ達が無事だった。それはハルヒ達が依頼を引き受けたからであり、扱うランクの依頼としては低いもの。

 そして、相対した相手が特殊であればパーティーによっては全滅していただろう事。偶然とはいえ、ハルヒ達が関われたのは運が良い事だと言うギリムに、少しだけ複雑な気持ちで聞く。



「裏で動き回っている連中を引きずり出すのは難しい。世界を壊すだけの力がある者なら、な。だとすれば、協力者がいるのは確定だ。帝国なのか、西の覇者か……。大きな戦が起ころうとしているんだろう」


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