第319話:目覚めの時
再び意識が浮上し、自分が気絶させられたのだと気付く。そして、自分の傍に居る気配を感じて目を向けるとそこには「キュウゥゥ」と返事をするあのドラゴンだ。
しかしいつもと様子がかなり違う。
そう思ったユリウスだったが、何でそうなったのかはすぐに思い出す。このドラゴンは何度もユリウスを助けてきた。
ブルームが自分の元から離れると言い、5日日間の間は代わりに置いていくと言われた。
それがこの白いドラゴンの子供だ。
出会った当初からこの子は、ユリウスに対して好意的であった。その行動が、ずっと彼の髪を噛むのは今でもどうかと思っている。
不思議な事にこのドラゴンは自分にしか見えておらず、大精霊達には見えていない。
ブルームは見えているのに、その説明もなく今まで来た。もう少し説明が欲しいと思ったが、彼はウォームと違い説明をするのに慣れていないと気付く。
(あとは元から面倒だったか……)
天空の大精霊であり、最初に創造主によって生まれた大精霊。全ての精霊の父と呼べる存在であり、現に今まで会って来た大精霊達からは「父様」と呼ばれている。
「……もしかして反省しているのか?」
「キュウ」
コクリと小さく頷き、ユリウスに謝る為にと顔をスリスリと寄せている。
随分と態度が違うと思いながら、彼はそのドラゴンを撫でる。撫でながら、麗奈が名前を付けていないのだと指摘されてようやく気付く。
「名前……欲しいのか?」
「ウキュウ!!」
すぐにぱあっと顔が喜びに変わり何度も頷く。
羽をパタパタと動かし嬉しそうにしているのが分かると、ユリウスも言ってみるものだと思う。そしてそんな彼に声を掛けてきた人物がいる。
ザジと同じ死神であるサスティス。
彼はミントグリーンの長髪でオレンジ色の瞳をしていた。死神の時には片方が朱色に染まっており、麗奈に力を渡してからは本来の色の戻っている。
「本来はオレンジ色、なんですね」
「あぁ……。うん、久しく戻ってなかったから。あの力を使い切るなんて日が来るとは思わなかったからね」
そのサスティスは、気絶してしまったユリウスを部屋へと運び世話をしている。
起きないユリウスに、ドラゴンは心配しながら飛び回り自分も何か出来る事はないかとウロウロと動く。それをサスティスからは止められ、そもそも君が行動しなければ彼は起きたまま、と諭されてしまいシュンと落ち込んでいる。
「……つまり、今大人しいのは貴方に説教を受けたから」
「そうなるね。そうでなくても、この子は治療を受けている間もずっと傍に居た。よほど大事な人なんだって分かるよ」
「そう、思っているとは……。俺としては懐いてないって思ってたので」
「キュ……!?」
ユリウスの発言に驚きつつ、自分の行動を思い返す。
嬉しい時、自分は何かとユリウスに突撃をしたり彼の髪を噛んだりしていた。それが段々と悪いのだと気付くと、分かりやすい様の顔が青ざめる。
パクッ、とユリウスの着ている服を軽く引っ張ればすぐに頭を下げた。
謝罪しているのだと気付き、自分の行いが悪いのだと理解した。その行動の流れに今度はユリウスは驚くばかりだ。
「知性高いよ。ただこの子は、学んでないだけだし」
「なんだか、初めて大人しい姿を見て驚いてます」
今もユリウスに撫でられて嬉しいのか、気持ちよさそうに目を閉じている。その雰囲気を見ていると、麗奈と風魔、白虎のような関係を自然と思い出す。
ピタリと撫でる手を止め、ユリウスはサスティスへと視線を向ける。
「俺の状況は理解出来ました。麗奈がここに居ないのも、教えてくれたので理解は出来ます。……ただ、俺達の無事を知りたい人達にはどうしても伝えられないですか?」
「……難しいだろうね。それをデューオが許していない。君達の性格を考えて、アイツは敢えてその方法をとった。断言出来るかい? 無理をしないって」
「……。出来ない、ですね」
「ちゃんと理解できるなら良い。焦って体がバラバラになるのだけは勘弁だ」
「動かせるけど、これもまだ本調子じゃないって事ですか?」
サスティスから詳しく聞いた。
今は満足に体を動かすのは平気だが、魔力を伴う戦闘は無理だという事。デューオは意地悪をしている訳ではなく、自分達が全快になればちゃんと送り届けるという約束をしている。その為に、ハルヒ達異世界人がデューオと会ったのも話している。
時間の誤差を話さないでいるのは、ユリウスを焦らせない為だ。
数分が3日程の時間の流れだと分かれば、納得しかけているユリウスは無理をするのが分かる。責任感が強く、待たされている側の気持ちを汲み取ろうとしている。
だからこそ、全てを伝える訳にはいかない。
ユリウスが本当は麗奈と早く再会したいと言う気持ちも、ハルヒ達に無事を知らせたいと言う気持ちも上手く隠せていると思うがサスティスやデューオにはバレバレだ。
彼はこの時、デューオ達が心の内を読めると言う力を忘れている。
例え気付いたとしても、隠すことは出来ない。それは嘘偽りない、自分自身の願いと欲望なのだから。
「そう言えば、体の崩壊ってどうやって止めてたんですか?」
「青白い炎になったザジとその子が必死で食い止めてたよ」
「キュ~」
「……そっか。いつも助かってる、ありがとうな」
そうドラゴンにお礼を言えば、その子は嬉しそうに羽をパタパタと動かして全身で伝えている。撫でながらある違和感に気付く。
いつもの調子で撫でているが、少しそれにズレを感じた事。空腹を感じるのに、それがいつもよりも鈍く感じている事が分かり――これが全快ではないと告げられる。
そして、何よりも問題なのは今のユリウスには魔力が全く感じ取れない事。
傍に居るドラゴンは、魔力の塊なのにその力を感じ取れない。傍に居るサスティスの魔力も分からない事から、自身の魔力は空なのだと痛感させられる。
「……まずは魔力を感じ取れないと意味がない、か」
「回復の手伝いをするよ。まずは君の中にある大精霊の存在を感じ取る事から始めないとね」
「そうですね。ゆっくり過ごす訳にはいかないけど、こればかりはしょうがない……か」
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ユリウスが目を覚ましたと同時、麗奈もゆっくりと瞼が開かれていく。
ぼんやりとしながら、最初に目に映ったのは黒い髪だ。彼女の手を握り、必死の思いで祈りを捧げているような人物――ザジが居る。
今まで強気でいた彼からは想像がつかない程の、弱々しくて泣きそうな顔だ。
その表情に、彼女は幼い時にザジに心配をかけてしまった時の事を思い出す。
あれは、麗奈が初めて怨霊退治をして怪我をした時。陰陽師専門の知り合いの医者に手当てを受けて貰う中、痛さにうなされる麗奈にザジはずっと傍に居た。泣きもせず騒ぎ気もせず、ただただじっと傍に居た。
その時の姿と、今の彼とが被り麗奈は答えないとと強く思った。
「ザ……ジ……」
「っ……!? れ……」
呼ばれたザジは名前を呼ぼうとして、すぐに我に返る。名前は呼んではダメだと自身を落ち着かせながら麗奈へと視線を交わす。
「ご、めん……。また、泣きそう……だよ」
「誰の所為だよ……全く」
いつも心配させているのに、その本人はまるで自覚がない。
自分がしっかりしないといけないと思ったその心は、子猫であっても死神になったとしても変わらない。
その後、麗奈の髪がグシャグシャになるまで乱暴に撫でる。それを見て慌てて止めるのは、天使族の長であるラフィ。まだ状況がはっきりしない麗奈に、彼は説明をしつつ目が覚めた事を創造主のフィーへと連絡。
「とりあえず、なんとなくだが自分の状況は理解出来た?」
「どうにか、ですね……」
麗奈はそう答えつつ、自分にくっつくザジを見る。
彼は会って以降、麗奈の傍を決して離れない。心配させた自覚があるだけに、麗奈も断れないまま。その様子に流石のフィーも声を掛ける。
「いや、デューオから聞いてたから分かってたんだが。……相当だな」
「……」
「答えてもくれない、か。ラフィの方は」
「私の方も同じですよ。唯一、彼女の受け答えにはちゃんとしているので」
「入れ込みが凄いって言うか、思い入れが強いって事か?」
「すみません、ザジが……」
こうして麗奈も目が覚め、ユリウスと同じく状況を聞く事に。
彼女の方も、ユリウスと同じく自身の力が空になっている。まずは回復させる為に、自身の力を改めて感じ取れる処から2人は取り掛かる。
早く待っている人達の為にも、何よりも自分達の為にと会えないのを承知で2人は回復に努めた。




