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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第306話:同盟国の交流会


 ハルヒ達が魔界に滞在するという方針が決まり、イーナスだけでなくキールの父親のイディールも驚きを隠せないでいた。



「魔界ってだけでも驚いたけど、滞在も許すとはね」

「そう言えば、魔王はランセさん以外にも居るんだったね。一斉に来なくて助かった、と言うべきかな」

「はぁ、それにヘルスから聞いた内容も内容だ……」



 深く椅子に腰を掛け、既に疲れたような表情になる。

 魔界の魔王としての役割を聞き、麗奈達以外の異世界人の現状を知る。彼女達は意志を封じられていないのは、この世界に召喚したのがこの世界の創造主だからだろう。

 

 付喪神や多種多様な神が居るのは、麗奈や誠一から話を軽くだが聞いていた。

 この世界を作った創造主以外にも神はいる。


 問題なのは、その他の神がこの世界になんの用があるのか。何故、異世界人の意志を封じる必要があるのか。



「どうやら麗奈ちゃんのように、私達は多くの事柄に巻き込まれすいようですね」

「もしくは今のこの時代には、かもね」

「あはは……それはあり得る、な」



 大賢者であるキールと異世界人の咲。

 今までの記録で大賢者が同じ時代に2人も現れるような事はなかった。しかし、これは現に起きている。

 それを今までは、魔王の器とされた麗奈による起因だと思っていた。



「……お疲れの所に申し訳ないが、イーナス君。これは同盟国の参加状だよ。その中にハーフエルフの村長やドワーフの人達も参加するって事だよ」

「あ、はい」



 きっかけは、セレーネが神について調べてみると聞き、その報告を聞く中で情報を共有できないかと提案されたのだ。

 騎士国家ダリューセクは、魔物の襲撃を2度与える結果になり復興をしつつも以前の様な活気に戻りつつあると言う。互いの近況の報告も兼ねて、同盟国同士での交流も図ろうと言われたのだ。



「そうなると場所はラーグルング国で良いですね」

「よろしいんですか?」

「同盟をすると決めた時、この国で色々と進めてきましたしその同盟書もこちらにあります。あの時は何故だかとんとん拍子で決まりました」



 同盟をすると決めた時、ニチリに結界を施したと同時にダリューセクにも結界を設置した。

 その結界を作ったのは誠一と武彦の2人、補助を行った浄化師の裕二だ。

 ダリューセクは騎士国家であると同時に水の都としても有名な場所。その国の特徴を生かすために水脈を利用する事に決めた。


 水脈は水の流れであり、水の気を扱うハルヒにとってはその流れを読むのは造作もない。

 麗奈が契約している玄武は、その水の気を扱う神として定められた式神。流れを読むことはもちろんの事、水の術式を組む時にもその威力は倍増する。


 その利点を誠一達は結界の強度に当てようと考えた。

 ハルヒに水脈を利用する事、この国の守護についているのは大精霊フェンリルであり精剣の力の源である事も説明されたのも踏まえての結界作り。


 ダリューセクの中に流れる水の流れ、土地の大きさを含めての術式を組む。

 陰陽師としての経験、空を飛べる九尾と清の協力もあり今も結界は正常に働いている。2人の話によれば、強度を強くした事で遠距離での魔法攻撃にも耐えられると聞いている。


 その事をセレーネに伝えれば、彼女は嬉しそうにしており心からの感謝をしてくれた。



「お恥ずかしい話、私達の国は地上には強くても上空への対策がなかったもので……。同盟を組んだ見返りとしても、大きな恩です。ありがとうございます」



 そこからイーナスとセレーネ、宰相のファルディールも交えての話し合いが進められた。

 呼ばれるのは各国の王族、宰相といった主要人物達。

 

 そこで張り切るのは、厨房の人達、武彦と彼と契約した霊獣である清だ。



『ふふん、妾はこれでも数千年生きた狐。和食の味付けは心得ているし、ゆきちゃんに教えたのも妾だ』

『オメーだって最初は失敗していた癖に』

『うるさい、バカ狐!!』

『ぐわああっ、おまっ!? 俺が霊体化してなかったら危ないっての!!』



 様子を見に来た九尾は、半透明の霊体化をしており清は彼にしか効かないような狐火を起こす。既にラーグルング国では、清と九尾の喧嘩は日常茶飯事として捉えられておりもう慣れている。


 初めの頃は、城が燃えたのではと慌てる事も多かったが麗奈や誠一がその手の説明をして騎士団も魔道隊にも認識は得られている。


 喧嘩するほど仲が良い、という事にして納得させていく。


 そして九尾の言う様に、武彦との契約を交わしてからの清はかなり不器用だった。

 清にとっての黒歴史をこうも暴露してくる九尾に、彼女は怒りを燃やしいつも以上に激しい攻撃を繰り出す。



「さて。あの子達の喧嘩はいつもの事だ。こちらはこちらの準備をしよう。この国に集まる人達は皆、重鎮の方ばかりだ。おもてなしはしっかりしないとだね」



 武彦がそうにこやかに言えば、場はすぐに和んでいく。

 そしてその隙に暴れている九尾を誠一が術で縛り上げ、素早く退散。清は居なくなった九尾に対してイラついているのか、自分の周りに狐火を灯し続けていた。


 そんな彼女に武彦は変わらずの笑顔で対応。ポン、と彼女の肩に手を置く。



「清、その辺に。ゆきちゃん達が仲良くなれた国の人達にもてなすんだ。恥ずかしくないようにしないとだよ?」

『っ。も、もちろん!! 主様、ゆきちゃんと麗奈ちゃんが友達になった所だ。妾だってちゃんともてなく心はあるぞ』

「よし、それでいい。……確認だが、彼等が苦手とするような食材や料理はあるのかね」



 確認を取ったのは、厨房を一手に引き受ける料理長だ。

 そんな彼は緊張した面持ちではあるが、失礼がないようにとイーナス宰相から渡された報告を読み上げていく。


 同盟国であるディルバーレル国、ニチリ、ダリューセクの3国は米文化が盛んである事。特にニチリは麗奈達の居た現代の食文化の中で和食が中心に出されている。


 ダリューセクも米を食す機会はあるものの、麺類や携帯食、片手間で食べられるような食文化の方が盛んだと言う。


 そして隣国のディルバーレル国は、自国での薬草の栽培や土地の環境からラーグルング国とそう変わらない食文化である事。違う点を挙げるなら薬草を使った料理が盛んであると言う情報を掴んでいる。



「ふむ。……では私達が居る国も含めて、米文化はそれなりに定着しているんだね。ニチリは和食、ダリューセクは西洋に近い。ディルバーレル国は、薬草などを使った料理……ハーブ系か」

「でも、武彦様達が来てからもっと食文化が豊かになったと思います。まさか魚を生で食べられるとは思いませんでしたし、おにぎりもかなり好評だと聞いています」



 魚を焼いたり煮る料理はあるが、生での食す事はなかったらしい。

 しかし、それは新鮮でなければならないし定着していたのは海の近くに住んでいる村人達だけだ。それが、この城の方にまで伝わるのは魔道隊が各地に設置した転移陣の恩恵もある。


 1度、魔物の侵入を許してしまったラーグルング国は対策として国の重要拠点だけでなく海辺や森林の付近にある村々も含めた所にまで設置。緊急用に城に自動で転移出来るようにと設置を義務付け、即座に取り掛かった。


 それは、麗奈が試験により柱を正常に戻した事。

 同時にキールがこの国に帰還したからこそ出来た処置だ。


 

 早くから辺境伯への連絡用も含め騎士団の派遣に関してもっと端的に行えないかと悩んでいたイーナスとユリウスにとって、麗奈とキールの2人の働きより恩恵は凄まじいものだった。



 空間魔法を多用し、応用が出来るキールが先導して行うことで魔道隊と騎士団の連携と合わせての通信のやりとり。結界の補助、魔力の譲渡もキールが戻ったからこそ手早く出来た。


 師団長と言う地位は彼にとってはなんともないと捉えるが、実力に見合うだけの功績を残している。


 しかし、本人にそれを告げても「そう? 好きなようにしただけだよ」と返されるだけ。



(キール君が執着しているのは知識欲と魔法に関してだけのようだし。孫を大事にしてくれるのは助かるが、やりすぎるとラウル君にキレられるし)



 同じく麗奈を主として仕えるようになったラウルは、基本的にキールの捕縛をメインに動いている。勝手に動けば麗奈にちょっかいを出すのは目に見えており、助けを頼まれるのも日常だ。


 ふと、そんな日常が懐かしくなり寂し気に笑う。



『主様? どうしたの』

「いや、何でもないよ」



 主の顔色を見てピンと来た清。だが、彼女がここで口にすれば周りに伝播してしまう。

 誰も口に出さないだけで、寂しいのだ。麗奈が居ない事も、ユリウスが居ない事も――。



『じゃあ、米文化が定着しているならおにぎりを提供するのはどうだ? お互いの近況を報告し合うのなら、片手間に食べられる方が良いだろう? 主様が作った緑茶も出せばバッチリだ』

「し、しかし……。集まれる方々は、ヘルス様やユリウス様のような王族も来るのだし、あまり質素に思われると印象を悪くされるのでは」

「交流会と言っても、その内容は神様についての議題のようだし……。と、取り合えずメニュー内容を考えてイーナス宰相に判断を仰ぎましょう」



 そうと決まればまずは献立の内容からだ。

 清がここで和菓子のどら焼きを推し、その餡の種類もあんこだけでなく白あんやずんだ、芋あんと言った種類が挙げられる。

 麗奈が得意なお菓子作りには和菓子も含まれており、よく彼女と2人で試行錯誤していた。

 だからこそ清はどら焼きを推すし熱量も凄い。彼女にとってどら焼きは、麗奈との思い出が沢山詰まった物。


 麗奈とゆき、ハルヒとの交流で広がった同盟ならばこそ。彼等のしてきた事を清が出来る精一杯の行動だ。



『主様。どら焼きの味は保証して良いぞ♪ 絶対に絶対に美味しいって言わせて見せる!!』

「ふふ、清は本当にどら焼きが好きだね。イーナス君も好きになってくれたから、他の国の人達にもおすそ分けをしたい……。うん、そういう想いは大事だよ」

『そうと決まれば、日程が決まるまでに試行錯誤して唸らせて見せるぞ!!!』



 気合の入った清を含めた厨房の団結力は凄い。

 イーナスの許可を貰いつつ、交流会の日程を決めていく。その1週間後、ラーグルング国で互いの近況報告も含めた場が設けられる。


 集まった者達は、それぞれが間接的にまたは直接的にでも麗奈やユリウスに助けられた者達ばかり。

 その2人を探す為、無事を祈りながら行動に移していった。その様子を見ていた創造主デューオはポツリと呟く。



「君等が目を覚まさないから、皆が痺れを切らしているよ」



 その呟きに、麗奈とユリウスの手がピクリと反応する。

 麗奈は創造主であるフィーが治める天使族の国で――。

 ユリウスはデューオの居る部屋で目を覚まそうともがく。そうしたくとも、未だに力が入らない2人にはただ時間だけが過ぎていった。


 

 

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