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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第304話:ぶつけられない想い


「……他の神からの遣い?」



 ハルヒは、クーヌの言葉をそのまま繰り返す。

 他の神――それは創造主デューオ以外の事を言っているのだろう。

 ハルヒ達の生きている現代には、多種多様の神様がいる。世界各国の信仰の数だけの神様がいる。


 それは神話としてハルヒ達の時代にはよく浸透しているし、本としてその内容は売られている。お金を払わずとも、ネットで調べたり地元の図書館に行けば資料としてすぐに出てくる。



「言われてみればそうか。別に創造主が1人だなんて誰も言ってない。他の創造主達が僕等みたいな異世界人を呼ぶ理由って分かります?」

「それについては分かりません。ですが、貴方方の世界では勇者と魔王はよく争うような間柄だと聞きます。恐らくですが、他の創造主様達は異世界人を勇者として我々と争わせたいのだと思います」



 クーヌの見解は、先代の魔王であるディスパドのよるもの。

 それは恐らく魔王全員が共通の情報として持っているのだろう。チラリとランセの方を見ると彼は小さく頷いた。



「創造主の存在は、ギリムから少し聞いていた。だからすぐに分かった。……麗奈さん達が異世界人でも、勇者として遣わされた訳じゃないって」

「その違いって、どんな違いなんですか?」



 恐る恐るゆきがそう質問する。

 ディークは自分が説明するよりも、ランセの方が向いている。そう視線で語られ、ランセは話し出した。


 別の創造主達により、ゆき達の様に召喚された者達を総称して異世界人と呼んでいる。

 それはゆき達がこれまで持っている認識と変わらない。

 違いがあるとすれば、それは創造主達の意志により操られているか否かだそうだ。



「この世界の創造主である彼と直接会って気付いた。彼は人の意志を無視するタイプでも、人としての意志を封じるような事はしない」

(とんでもないことをあっさりと言った……!?)



 ヤクルとラウルは同時にそう思うが、口を挟む事はなく黙っている。

 どうやら他の創造主は、呼んだであろう異世界人の意志を封じ魔王との戦いを強制させられている。ランセも含めたギリム達は、その異世界人の意志を元に戻してきちんと送られた世界に送り返している。


 彼等が空間魔法の多くを多用し、扱えるのはその為だ。

 


「私達の意志がはっきりしていると分かったから、ランセさんは優しかったと?」

「そうでもなくても、君達みたいなお人好しはそうそういないでしょ」



 クスリと笑う無邪気なランセ。

 その姿を見てクーヌは先代魔王であるディスパドとの会話を思い出す。




「旦那様。……サスティス様の国と、ランセ様の国が……」

「聞いている」



 その時のディスパドは酷く落ち込んでいた記憶がある。

 少しでも気分を軽くしようと夜食を運んだ。クーヌは知っている。ディスパドは、サスティスともランセとも気が合っていた。


 戦闘センスも合わせ、互いに魔法の切磋琢磨をしてきた。

 いいライバル関係でもあり、友人でもある。だからこそ分かった。2人の国が落ち、ランセが生き残ったと知った時に悟ってしまった。


 ランセの性格上、彼の起こすであろう行動も全て分かる。

 そんな時に自分がしてやれる事は恐らくないであろう事も。



「ランセは真面目だからね。きっと全て終わるまで、こちらとの接触は控えるだろう。個人的には力を貸したいが、勇者にされた異世界人の救済も魔王としての責務の1つだ」



 それを放り出せば、恐らくはランセから叱られるであろう。

 彼等、魔王は意志を封じられた異世界人――勇者を元の世界へと返す事を仕事の1つとしている。それは自身の国を守る為でもあるが、更に内側に位置する国々を守る事に繋がる。



(旦那様は最後まで、ランセ様の身を案じていた。……彼は、良い仲間に巡り合えたようですよ。いらぬ心配をしてしまいまいましたね、旦那様)



 魔界の内側とされる国々。それは、魔法国家ラーグルング国や隣国のディルバーレル国を含めた人間が治める国。

 同じ異世界人でも、意志を抑えつけられていない彼等は賢者、大賢者としてそこに名を広め知られている。だから彼等は勇者と言う単語を知らない。


 それらは全て、賢者や大賢者として言い換えられている。

 魔族達によって異世界人は2つの意味を持つ。

 魔界を侵攻する脅威としての強大な敵。もう1つの意味は繁栄や英知を授ける稀有な存在として。



「ティーラもすぐに分った筈だ。ゆきさんの力が異世界人であると同時に、意志を封じられていない方だとね」

「まさか……魔王にそんな役割があったなんて。じゃあ、ランセさんは戻そうと思えば僕達をいつでも元の世界に戻せたんですか?」

「いいや。私にその力はないよ。サスクールに復讐すると決めた時に、ギリムにその力を渡してきたからね」



 聞けばその異世界人を元の世界に戻す力は、ギリムから授かっていると言う。

 魔王としての巨大な魔力と合わせ、ギリムが認めたからこその特殊な力。だからこそ、魔王である彼等は同時に覚悟していた。


 その元の世界に戻すという行為に、自身の死も含まれているのだと。



「私達が壁として立ちはだかるのには、その勇者と同等の力でないと対抗出来ないのもある。同時に、私達の死は戦わされている異世界人達を正気に戻せる、というスイッチとしての役割もある」

「それって……!! そ、それは、自分達の死を代償にして元に戻すという方法も取れるって事ですか」

「うん。ごめんね……今まで黙っていて。これを言うとゆきさんや麗奈さんの事を傷付けるだろうな、とは思っていたから。なかなか言い出せなかった」



 思わず立ち上がったゆきに、ランセは今までも変わらずの優しい笑顔でそう答えた。

 ストン、と座りやがてポロポロと涙が溢れてきた。



「そんなの……。何で、ランセさん達が背負う必要があるんです。そんな……いつでも死ぬ覚悟を持たせるような酷い事を……」

「あー、ほら。感受性が高いのが分かるから、あんまり言いたくなくて……。えっと私が泣かせたみたいになってるし」

「いや、実際に泣かせてるんで合ってると思いますよ?」

「ハルヒ君、そういう茶化しは要らないからっ」



 注意するもヤクルとラウルが密かに頷いているのを見た。

 軽く睨むも2人はすぐにサッと視線を逸らす。その時、ランセの頭を叩きながら入ったのはキール達だ。



「ほら謝ってよ。ゆきちゃん泣かせたら怒られるよ、主ちゃんに」

「キールに構う理由がないね」

「……確かに違う、か」



 ボソリと言ったディークの言葉にピクリと反応をしたのは執事のクーヌのみ。

 実を言えば彼等は初めなのだ。

 意志を封じられずにいる異世界人との邂逅は。ギリムの客人としているのも、彼が保証しているという証拠として働いている。


 疑う気持ちは最初から無かったが、実際に会わなければ事実かどうかも分からない。

 だからディークは協力が出来るかと言われた時に即答した。父の最後を見た時、最初は憎くて仕方がなかった。


 異世界人とはいえ、彼等によって殺された魔族達は多い。

 恨みや悲しみがあり、異世界人だと紹介されれば復讐しようとする者も居るだろう。ディークが協力したのは見極める為だ。


 父を殺した異世界人と、目の前に居る異世界人との違いをはっきりする為に。

 だからランセは最初に質問をしたのだろう。異世界人が憎いかそうでないか、と。



(親父と一緒に居ただけはあるねー。僕の心情は見抜かれてたようだし……)



 密かに柄に手を伸ばしていたのを、静かに下ろしては再び紅茶を口にする。

 ディークのその行動に、ホッとした様子なのはクーヌ。彼はその時のディークの嘆きを知っているからこそ、彼は私怨に駆られてしまうのではと少なからず思っていた。


 その様子を密かに見ていたランセは、ディークの言葉に偽りがないのを確認。彼をゆき達に会う機会をくれたギリムに密かにお礼を言う。



「あ、皆さんこちらに居たんですね」



 そこに裕二達が入ってくる。

 彼を案内した魔族の手には資料が幾つか持っており、アウラが受け取りつつも嬉しそうにしている。



「驚きました。ここの資料には、魔法の基礎だけじゃなくて属性について詳しく書かれているんですね!!」

「ラーグルング国にあるのもかなり多かったですが、同じ位に膨大でビックリです。これなら聖属性魔法も上手く使えるかも知れないし、練習しないと……」



 裕二の何気ない一言に、案内をしていた魔族の雰囲気がザワリと変わる。

 ハッとしながらすぐに動いたのはランセとディークだ。



「危ないっ!?」

「え」



 ディルベルトの警戒する声に、裕二は思わず振り向く。

 ここまで案内してくれたであろう魔族が、眼前に迫っていただけでなく目を潰そうとしている。防御しようにも間に合わず、避けようとすれば後ろに居るアウラに流れてしまう。


 咄嗟にそう判断をした裕二は、理由が分からずとも攻撃を受ける気で動きを止める。



「裕二さんっ!!」



 悲鳴に近い声でゆきが叫ぶ。ハルヒも結界を行使しようと札を取り出し、既に駆け出しているがランセもディークも分かっていた。

 ――間に合わない、と。



「っ……!!」



 せめて目を守ろうと閉じるも、思っている衝撃が来ない。

 裕二は恐る恐る目を開けていく。彼と魔族との間には1人の男性が立っている。攻撃を仕掛けた魔族の腕を捻り上げながら彼は発した。



「何をしているんです。これはどういう事ですか」



 静かな怒りを向けられると同時、自身の行動を瞬時に理解。

 顔が真っ青になり、とんでもない事をしたと分かるまでに時間はそうかからない。


 ギリムの右腕であるリームが答えないでいる魔族に対してもう1度質問をした。

 


「誰が手を下せ、だなんて言いましたか? 答えなさい」



 静かに淡々と告げられる内容。

 しかし、この場の誰もがすぐに分かった。腕を握られた側の魔族はブワッと嫌な汗をかく。


 答えによっては消されてしまう。

 そう思わせるだけのプレッシャーがこの場を包んだ。


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