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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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幕間∶2人の行方


「……よし、この反応は彼のもの」




 目を閉じていた人物は、感知した魔力にそう呟く。急いで行動に起こさなければ、普通の人間には耐えられない。




「全く。面倒を押し付けたよね、アイツは」




 悪口を言いながらも、自分の管理している世界だからと自由に動く。

 彼はデューオと同じ創造主で狭間の神である。


 名はユーテル。 


 肩まである薄青色の髪に細い体つき。その体を覆うフードはふんわりと軽く被っているだけ。いつもなら、眠そうにしている上にのんびりとした性格。だから、彼が担当したこの異界では問題は殆ど起きない。


 だが、今はその問題が起きてしまった。

 通常、人間には耐えられない筈の異空間。そこに反応が2つあり、同時にその2人を守るように強い力が発せられた。



 その力の根源は、デューオのもの。

 だから彼はすぐに気付いた。この力は、彼の手足として働いている死神だと。




「ねえ君。このままだと、守っている2人が危ないんだ。事情を聞くからこちらに預けてくれないか」




 青白い炎がその言葉に、大きく揺らぎ更に激しさをまして燃え上がる。

 その反応から、自分達に対して良い感情を持ち合わせていないと分かる。しかし、彼も引けない理由があった。




「君がこっちの事を嫌う事情は、アイツの所為だが……。だからといって、一括りにしないて欲しいな」

「アイツも信用出来ない。だからお前達、神も信じない!!」

「……アイツ。どんな嫌われ方してんの」




 その青白い炎の中か声が聞えた。その主は死神のザジ。

 魔王サスクールを倒した彼等だが、どういう訳かあの場所から戻れなくなっていた。思わずイラついたザジは、悪足掻きとして自分ではなくユリウスと麗奈を出さない為のものだと理解した。




「うげっ。なにさ、これ……」




 ユーテルは嫌な顔をする。その理由は、炎に向かって伸びている黒い手の数々。

 しかも恨みが籠った声で「ニガサナイ……」、「オチロ……」とザジではなく彼が守っているユリウスと麗奈を狙っている。


 死者に用はなく、生者を対象とし自分達と同じように苦しみを味合わせようとしているのだろう。だから、ザジは躊躇なく死神の力を使った。

 幸いと言うべきか、自分はまだ余力がある。ここまで来たら、サスティスと同じく自分も消えるのだとしても、最後まで守り抜く気でいる。




《キュー、キュウ?》

「んん? おや君は……」




 バサッ、と小さな羽音が聞えたかと思えばユーテルに向かって来る白いドラゴン。

 小さな体は、子供そのものであり瞳は小さく愛らしい。だが、そのドラゴンから発している力が誰のものか分かっている。


 死神と同じデューオによって創り出された存在。

 サスティスもデューオにより、死神となったがザジと違い与えられた力は多くない。それでも、あれだけの事が出来たのは彼の器用さと魔王と言う特殊な存在だからこそだ。




「ザジ!!」

「っ……。な、んでお前がここに」




 今のザジは、人の姿を保っていない。

 青白い炎が今のザジとしての姿。彼は炎となり、自分の力を削っている状態でユリウスと麗奈を守っている。

 この異空間へと足を踏み入れたのは相棒であるサスティスだ。




「ザジ。ここに居たら力を消耗するだけじゃない。守っている2人にも影響が出る」

「っ。だから……だから今ここで――俺がっ!!」

「意地を張るな。アイツの事が嫌いなのは、私も同じだよ。戻ったら1発以上は殴るから安心していい。これ以上、自分の力を削り続けるのは危ないんだ。それは自分がよく分かってるだろ」

「……」

「異空間を脱出出来るのは、それを管理している貴方だけ。協力する気は元々あったんでしょ?」

「あると言うか、アイツに頼まれたからで……。あ、別に殴り飛ばすのは構わないよ。ただ殴った所で、アイツの性格が治る訳じゃないし」




 そう答えるユーテルに、サスティスは「気分です」と笑顔で答える。

 デューオが嫌われる理由には深くツッコまないでおき、ザジへと手を伸ばす。




「彼とは相棒なんでしょ? こっちの言う事は信用しなくて良いから、相棒の言葉には従って良いと思うんだ。だから約束しよう。2人を悪いようにはしないし、君も無事にここから脱出してみせる」

「俺よりも2人を優先しろ」

「そんなに優先度が高いなら、君だってちゃんと生き残らないと。――って事でエレキ」




 名を呼んだ瞬間、金の魔力を帯びた雷が放たれた。

 それらはザジに伸びていた黒い影達を葬り去り、3人の元へと静かに降りた。金髪のツインテールに、高身長の女性――女神であり、冥界を守護する存在が現れる。




「ほらほら、生者を自分達の方へと誘導しない。私の所に来て、穏やかに暮らしなさい」




 パチンと指を鳴らし、影達を別空間へと誘った。

 途端に静かになり、警戒を続けるザジをエレキは「もう平気」と告げるも疑う様に炎をちらつかせていた。




「……デューオの所為で、私達まで同じになされても困るんだけど」

「すみません。彼、あの子の言う事ならすぐに聞くんですけど……」

「ちっ。居ないのかよ、アイツは」




 舌打ちしながら、青白い炎が人の形へと形成されていく。

 彼のすぐ近くではユリウスと麗奈が気を失っており、ユーテルがすぐに抱えた。この異空間が人に合わないのは、違う空間同士を繋げまたは合わせ合っている状態だからだ。


 空間が常に入れ替わり、場が変わり続けるこの場に人間の体は耐えられない。

 そう言う仕様として作られている。2人が今まで無事でいたのは、ザジとユリウスが契約していた大精霊ブルームのお陰という形になる。




「ほら、デューオ。頼まれていた2人だよ……。これで合ってる?」




 一方でデューオとフィーが居る場所へとユーテルが空間を切り裂いて、確認を急がせる。3人の傍では、エレキの妹であるエルナがその様子を心配そうに見ている。




「うん。大丈夫……間違いない、この2人だよ。ありがとう、ユーテル」

「うわっ、そんなこと言うなんて……気持ち悪っ」

「おい」




 お礼を言われるとは思わなかったユーテルは、今も自分の体を抱きしめ現実を受け止められていない。フィーはそのやりとりを無視し2人の状態を診た。

 やはりと言うべきか、衰弱と魔力の暴走が同時に引き起こしている。このまま2人を同じ所に居る場合、いずれは反発が起きて体が耐えきれない。




「悪いけどフィー。片方の治療を頼むよ」

「はいはいっと。……んー、魔力とは別の力が絡んでて、今にも崩壊しそうだな。より重症な方を治療しとくわ」




 彼がそう言って抱き上げたのは麗奈だ。

 その時、追って来たザジが強い力で腕を掴む。怒りに燃える目を見つつ、フィーはこのままでいると死ぬぞと告げるも離す気配がない。




「何処に連れて行く」

「俺が創った世界だよ。デューオと同じ魔力で満ちてる世界だが、下界を見る天上界に連れてくんだ」

「……天上、界?」




 意味の分からない言葉を言われ、思わず同じ言葉を繰り返した。

 だがピンと来ないザジにどう説明しようかと迷う。しかし迷ったのも数秒後。ザジに向けて「一緒に来るか」と当然のように言った。


 その間、ザジは強い力で腕を抑え込んでいるがフィーが堪える様子は全くない。




「別に良いだろデューオ。このままだと、連れて行かないと納得もしないし」

「……君の方がそれで良いなら」

「よしっ、決まり!! じゃあ来い。この子と同じ最上級の客人って扱いにしとくから」

「は? え、あ、おい……!!」




 説明しろと怒鳴るザジを無視し、その場を去った。

 ユーテルも用が済んだからか自分の管轄である異空間へと消える。暴走寸前のユリウスをデューオが抱き上げ、そのまま虹の薔薇が広がる庭園へと転移。


 その薔薇園の中心には、虹色の巨大な結晶体がある。ユリウスを近付かせた瞬間――その結晶の中に吸い込まれ魔力が注がれる。




《キュウ!? キュウーー!!》

「いたっ!! ちょ、ちがっ、治療だし!!」




 白いドラゴンはユリウスが中に居る状況に怒り、デューオの頭に乗り髪を引っ張る。止めるように抗議するも、デューオもそこは引く気がない。




「あのままだと、互いの力が変に共鳴して暴発するんだよ。あの場でそれが起きたら、間違いなく2人の体はバラバラになる。それでもやるなって言うの」

《キュ……。ウキュウ~》

「なら説明してから実行しろ」

「げふっ……!!」




 そこにサスティスの強烈な蹴りが入り、デューオは軽く吹き飛ばされる。

 派手な音がするも、結晶体はビクともしない。かなり頑丈に作られており、神が創ったんだから当たり前かと納得する。




「彼が起きるまで、私と居ようか」

「キュウ♪」




 サスティスの腕の中に収まる白いドラゴンがそう答え、心配そうにユリウスを見る。

 デューオがハルヒ達に、一応無事だと言ったのは嘘ではない。だが、彼等に会えるかは――目が覚めない2人の状態にかかっていると言うのも、また事実だった。



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