第261話:世界の守護者
ノームから精剣を託された麗奈は、そこから死神と同じ青白い炎が灯るのを感じ取る。そして、自分の瞳が朱色から元の黒い瞳へと戻っている。
その事をユリウスに指摘され、死神サスティスの力が麗奈から精剣へと移ったのだと理解した。
「ふぅ……。ユリィ、どんな調子?」
「そうだな。確かに魔力の回復は感じられるんだ。でも――」
ノームの力は魔力の回復へと変換され、麗奈達に力を貸している大精霊達も同じ事をしてきた。
ユリウスと契約したガロウは既に結晶体として体を変化させたが、彼もノームと同じく双剣へとその水晶体が入っている状態。
聞こえていた声も今はない。
それに不安を覚えるよりも、ユリウスとしては先に回復させたい事があった。
疲労感だけは、どうていも拭えないでいる。
(さっきより顔色は良いけど。でも……きっと無理してる)
一方で麗奈はユリウスの様子をそう判断し、自分もどちらかと言えば同じなのだと思っている。
その時、麗奈の頭の中で声が掛けられた。四神の1人、竜神の子供である青龍からだ。
『麗奈、声が分かるか?』
「青龍? う、うん。分かるよ。ごめんね、私もう霊力が……」
『大丈夫だ。それは分かっている。俺の力を君達2人に分け与える。そうすれば、疲労感は少しだけだが緩和は出来るし、最後に攻撃を加える事も可能だ』
「っ。でも……」
青龍の力を2人に渡す。
彼は魔物に身を墜としたクラーケンの呪いを解く為に、命ごと犠牲にしようとしていた。彼は確かに竜神の子供ではあるが、長い年月の間ラーグルング国の呪いに対抗するために身を削り続けて来た。
そして麗奈と契約をした事で、本来の力も行使出来て来た。
しかし、身を削って来た事で自身の存在も保てなくなる事態になり、せめてものと思いクラーケンの呪いを解こうとした。
寸前の所で、麗奈とハルヒが大精霊へと戻し死神のザジが消滅を防ぐ手伝いをした。
そのお陰で青龍は消える事なく、今も麗奈の式神としている。
麗奈の不安を感じ取り、青龍は安心だと告げる。
『大丈夫だ、麗奈。あの時のような事はもうない。ザジに救われ、今は貴方の式神だ。勝手に居なくなる事はもうしないから安心してくれ。それに今話せるのは、ノームの回復があってこそだ』
「……本当に大丈夫なんだね?」
確認をせずにはいられない。
青龍も無理をする傾向にあるからこそ、もしくは契約した麗奈自身が無理をしがちだからか。それを隠そうとしている部分がある。自分の選択が間違っていたら――と不安に押し潰されそうになる麗奈に、そっとユリウスは手を握った。
そして、何か策があるのだろうと思った彼は麗奈に言った。
「頼む。何か出来る事がまだあるなら、俺はそれに賭ける」
「……分かった。実はね。青龍の力を私達に分け与えようって話をしていて。疲労感はそれなら緩和出来るって」
「青龍はそれを行っても大丈夫だって、言ったんだよな?」
「うん。無理はしないって言ってる」
「風魔を含めた、麗奈の式神達は無理をする傾向だからか」
「うぐっ……そ、そうだね」
痛い所を突かれたと思い、麗奈も周りからそう見られているんだと改めて自覚する。
ユリウスは改めて頼んだ。その声に青龍は了解だと答え、2人を蒼い気で包み込む。
別の神の力を感じ取り、ザジはその方向へと視線を向けた。
見覚えのある力に、ふっと顔を緩め青龍を助けて正解だったのだと思った。
同時に彼は、サスティスに言われていたある言葉を思い出す。
「ザジ。君の勘は結構大事だから、そのままで居てね?」
「なんだよ、いきなり……」
気持ち悪いという視線を向けるも、サスティスに気にした様子はない。
むしろザジの行動を見抜いていたからか、笑って受けて止めている。
「ふふっ、私の勘って意外に当たるんだよ。長寿だからかな?」
「は? どんだけ生きてんだよ」
「ん~。300年から数えるの止めたから、もっと生きてるんじゃない?」
「……なんだ、それ。めちゃくちゃ上かよ」
何で見た目、そんなに若いんだよと文句を言うザジにサスティスは気にしてる様子はない。
彼は今更ながら、デューオがザジを押し付けてきたのがなんとなしに分かる。
「アイツ、色々と考えてるんだろうけどさ……。変に空回りするか、タイミングが合わないだけだと思うんだよね。嫌いだけど」
「な、何の話だ」
「ううん、ただの独り言。ザジ、君は死神になってまで何かを守りたい子が居るんでしょ?」
「言う気ねぇ」
「それは言っているようなものだよ?」
ザジが明らかに変わったのは麗奈と関りを持ち、そして自分もその影響を受けている。必死で隠しているザジが可愛くてしょうがないのか、サスティスはニヤニヤと見ている。
「ま、君は感情で動く癖をどうにかしないとね。今回、サスクールだけじゃないと思うからさ」
「何の話だ?」
「んー。勘なんだけど、サスクールだけでこれだけの規模を起こせるのかなって」
「でも奴がここで行ってきた事は事実だろ? お前の国だってそれでやられてるのに」
「復讐心に駆られてだけど、今はかなり冷静に見れてる。うん、君等のお陰だよ」
1人で納得しているサスティスに、ザジは訳が分からないという表情をする。
そんなザジにサスティスは、頭の片隅にでも入れておいてと言われ、その時は「ふーん」と気のない返事をした。
だが、今はどうだろう。
彼の勘は当たっている。サスクール1人で、この規模の事を引き起こすには無理がある。それこそ協力者がいない限りは。
「アイツと会って良かった。そうでないと、この異質さは気付けないんだからな」
ディルバーレル国の時、偶然ではないとはいえ麗奈と会えて良かった。
その時、彼女の傍にいた青龍の力を見なければザジは違和感に気付けなかった。仕組んだデューオにはイライラを増すが、それでも今は感謝するしかない。
一方で、新たに乱入してきた人物は死神ザジの姿を見て驚いていた。
今まで生きてきた中で、彼等が協力と言う形をとった形はなかったからだ。同時に確信を得た。そんな奇跡を起こしたと思われる人物に――。
(優菜。君の言った通りだ。……未来は繋げられるんだな)
ザジと同じ青白い炎を生み、呪いの空間を焼き尽くす。
そこでようやく乱入者が男性であり、ウェーブのかかった長髪の薄いクリーム色に黒いマントを羽織った姿である事。
瞳が澄んだ蒼い瞳。今、その瞳はザジと同じく炎が灯った状態でサスクールを睨む。
「さて、お前の力を削がないといけないな」
「ぐぅ……!!」
貫かれても再生を繰り返してきたサスクールに変化が生まれる。
ノームから受けた精剣からの斬撃と乱入者から攻撃によるものだ。この呪いの空間は、サスクールの力を上げただけではない。
この空間に入れる者も制限をかけた。
1度でも呪いを受けた者だけが入れるようにした。麗奈は、ここに来るまでに幾度となく呪いを受けた影響で弱体化し、ユリウスは柱の呪いで弱体化をさせられていた。
逆に呪いを解く力を持つランセ、その力をはね返してしまう兄のヘルスとは相性が悪い。
今も彼等がここに辿り着けていないのは、その特殊性にある。しかし、やはりと言うべきか死神のザジと白い子供のドラゴンはデューオが特別に力を多く注がれた存在。
そして、ここ来て面倒な相手が乱入してきた。
7人いた魔王の1人にして、世界の守護者たる人物――ギリム・アーク。
「っ、何故来れる。お前は――」
「余の国に来た魔物と魔族の軍勢か? そんなもの、余が居なくても片付けられる。数を多く配置しても無意味だ。サスクール。お前に協力してきた連中は、全て血祭りにしているだろうよ」
そんな事よりもお前だよと言わんばかりの睨みに射貫かれ、更に炎が迫りくる。
それだけではない。ギリムの一撃を受けた時、サスクールは核を失った事に気付く。
今、どうにか具現化出来ているのも、この空間を維持が出来ているのも全ては異界の神の力。
その力を封じた核を、この男は見抜いたばかりは一撃で葬ってみせた。
「守護者……。デューオの半身!!」
「死神、異界の神の核は砕いた。行けるか?」
「俺に命令すんなっ」
ギリムに気を取られ、ザジの突撃に気付かなかった。
ハッとした時には、既に大鎌を振り下ろされて体を両断。
とてつもない痛みが体中を走り回り、青白い炎がサスクールを焼き尽くしていく。
それと同時。
青龍に力を分け与えられた麗奈とユリウスが立ち上がる。2人が手にしていた精剣が融合を果たしていく。白い子供のドラゴンが協力し、天空の大精霊ブルームの虹の力が加わっていく。
ここに世界でただ1つの新たな精剣が、生まれようとしていた――。




