第248話:因縁への決着
(サスティスさんがくれたこの力。出来てあと3回が限界だ)
ザジとランセの攻撃に合わせ、麗奈は正確に打ち出せる力を数として見積もっていた。
本来なら神の力の一部を体に取り込んだのなら、膨大な力により自分の自我さえなくなる。あるいは、使った瞬間に死ぬ。
だが麗奈は意識もある上、暴走せずにいる。
それは彼女が契約した青龍が竜神の子供という点もあり、朝霧家が飛躍的に名を伸ばしたのも近因する。
初代当主の優菜は、青龍と名を与え少しの時間でも彼と共に過ごした。
幼馴染みの日菜も混ざり、土御門家の幸彦も彼女との行動を大事にしていた。その時の青龍も、口は出さなくても恩は返したいと常々思っていた。
(ラーグルング国の人柱として彼等がなったのも、強制じゃない。自分達の意思で、優菜さんとの約束をここまで守って来た。その繋がりが、今までの縁がここに繋がってる)
少しとは言え朝霧家は、竜神の力を用いた封印術を会得し秘術とした。
それが麗奈も使っている血染めの結界。その力の適性が高い上、この世界で始まりの魔法を使う大精霊との契約を果たした。
そして極めつけは、さっき別れたサスティスが施した祝福の力。
それらの力が、ただの人間である麗奈を崩壊から守っている。神の力を使っても、あと3回は扱えるのだと感覚的に分かる。
(ヘルスお兄ちゃんの事を起こしたのもサスティスさんだ。本当に彼は、出来る限りの全てを可能性を作り上げた)
だから――と、その思いを潰える訳にはいかない。
ここで逃せば全てが終わる。そう思い、彼女は再び虹の力を呼び起こす。契約した大精霊アシュプはもう居ない。だが、ギリギリまで使えるのは彼の願いかまた家宝の力によるものか。
「破軍さん、ユウトに止めをお願いします。これが最後ですっ!!」
『必ずやり遂げる。やってくれ』
「了解です」
虹の矢を作り、破軍の力を定着させる。
日菜の破魔の力も後押しし、2人で止めを刺す。すぐに第2射が放たれていき、怨霊が阻もうとするがかき消され浄化されていく。
(空気が軽くなった。成程、向こうでの術の性質って事かしら)
今までの怨霊を全て鳥籠へと吸収したが、ここでエレキの活動の限界が来た。
足元から消えていく自身に驚かず、ユリウスへと近付き――頬にキスを落とした。
「え」
「は……?」
隣で見ていたヘルスも、された方のユリウスも思わず目が点になる。
だが、徐々に顔を赤くしたユリウスが物凄い勢いで頬を拭う。
「こ、こんな時に、なんなんだっ……!!!」
「ふふ、可愛い反応しちゃって。彼女と同じ貴方にも祝福を上げたのよ」
「はい!?」
「んじゃあ、私はこれで退散。あとは頑張りなさいね~」
「え、まっ、待って!!!」
制止するユリウスの声も空しく、エレキの姿がすぐに消えた。
困惑した空気の中、2人の間を駆け抜けたランセが怒鳴り散らす。
「止まってないでさっさと動け!!!」
「「あ。はい……」」
恥ずかしさもあったが気にする余裕もない。
戸惑いつつもユリウスが魔力を練り上げようとして、その違和感に気付く。
(ん? 金の粒子……。これって)
その粒子は双剣を流し込められる。覆うような動きをする粒子に、ユリウスは剣をそのまま振るった。放たれたその一撃は、空間に穴を開けブラックホールのような吸引力で次々と怨霊を吸い込んでいく。
「これって」
「分からないですけど、祝福だと思いたいです」
ユリウスは視界の端で何かが急降下をしていくのが見えた。咄嗟に麗奈の名を叫んだが、彼女はラークの力を受け止めるので精一杯。
「うぐっ」
「付き合ってもらうよ、麗奈」
「な、んで私の名前を……!!」
その疑問にはまだ答えずラークは、麗奈を押し切るようにして下に落とす。白虎がすぐに助けに向かい、次にザジが後を追う。
『主!!』
「アイツは俺が倒す。お前等は、そっちをどうにかしろっ!!!」
「あ、おいっ」
ユリウスはザジの手を取ろうとした――が、その体はスルリと抜ける。
驚きに目を見張るも、同時に彼が死神であるという証明にもなった。改めて、彼は死者でありその彼が幾度となく麗奈を助けて来た事実が突き付けられる。
一方のザジはそんなユリウスの反応を気にした様子もなく後を追う。
遅れてアルベルトが麗奈を追い、契約をしたノームはユリウスへと説明をする。
《麗奈さんは必ず守り抜くし、連れて来る。その間、そっちも負けないで》
ノームだけでなく、追随するように残りの4大精霊、フェンリル、ポセイドン、サラマンダーが続く。ガロウはユリウス達の方に残り、彼にある事を促した。
「え、契約……? ここでか」
《俺はランセとの契約は切れてるし、他に闇を使うのってユリウスだろ?》
「だったらもう1度ランセさんと」
《出来ねーよ。契約を切ったら、別の契約者に変わる。これは俺達のルールだ。ついでだ。お父様の魔力を宿した剣は1本だったろ? ならここでもう1本、作っても平気だろう》
「え」
それはここで精剣を作る、と言う事だろう。
思わず良いのかと思っていると、ヘルスとランセは勧めて来た。使える手は何でも使え、と。
「悪いが私は無理だぞ、ユリィ。これ以上、体に負荷はかけられない」
「その前に、ヘルスは光の魔法を扱う。闇の魔法を扱えても、その大半は光の力になる。ガロウにとっては居心地が悪い。ヘルスが契約するならまだ光の精霊の方が良いからな」
《お、流石に分かってるな。兄も性格は良いんだが、光が一緒だと俺的には親友を思い出すし。ま、今はその親友も仲間も居ないが》
「……」
その言葉にユリウスは目を伏せる。
彼はブルームから聞かされた。光の大精霊は、その昔に魔王により滅ぼされた。ガロウの仲間である闇の大精霊も同様であり、彼とその親友は運よく生き残った。
ランセが通りかからなければ起きなかった奇跡。
それは、彼がサスクールを探していたからこそ起きたもの。魔王の魔力を探り、各地を旅していたランセはそこでガロウと親友であるサンクと出会い――契約を果たした。
ランセは光の大精霊サンクとの契約により、魔王としての力を一時的にしか引き出せなくした。
代わりにサンクとガロウは、自分達も死んだ者と偽装出来る事。そして、仇の魔王を見付けたその時には契約を解除し復讐を成す。
そのサンクが麗奈に施された多重の呪いを解いたのを知らない。
彼はその身を犠牲にしたのは、麗奈を助ける為であり恩を返す為。
魔王との契約で、サンクは属性転換を行えた。それは、対極の属性に染まる事で扱える力である。だが、蝕むその力は振るう事も出来るが、サンクの記憶と名前を奪う。残るのはただ魔王を倒すという強い恨みのみ。
《親友のサンクはな。……麗奈のお陰で自分の名前だけじゃない。声も、記憶も取り戻せたんだ。少し交流したろ。黒騎士の精霊――あれは親友なんだよ》
「あの、黒騎士が……?」
《言葉が少し片言だったろ。あれは属性転換での影響。……アイツの命が、麗奈を助けた。いつの間にか、お互いに助け合ってたんだよ》
不思議だよな、と笑うガロウにどう返して良いか分からない。
ユリウスはただ悔し気に唇を噛むしか出来ない。その間にも、怨霊と化したリートとサスクールが攻撃を仕掛けるもヘルスの虹の魔法により消されていく。
加えて今まで抑えていた怨霊達が一斉に襲い掛かる。
それらをランセが大鎌で切り捨て、自身の魔力を込めた攻撃も駆使して寄せ付けない。
「俺、ランセさんみたいに上手くはないと思うけど」
《そこは気にすんなよ。お互いに気楽にしようぜ? 俺は堅苦しいの嫌いだし》
「強制なんかしないよ。今まで通り、ガロウはしたいようにすればいい。ブルームだって勝手に出て来て、勝手に引っ込んでは怒るんだ」
《待て、何で我が引き合いに出される》
不満げに呟くブルームにユリウスは何となくと答える。
双剣の1本をガロウへと向ける。ブルームの魔力を纏った剣はもう1本の方にあるが、ガロウに向けられたそれには魔力を纏わない剣だ。
その柄にある小さな水晶は、未だに透明なもの。
《俺は闇の大精霊、ガロウ。ユリウスと共に道を歩み、守る者だ!!!》
ガロウの宣言に水晶は反応を示す。
その魔力は吸い込まれるように導かれ、水晶を黒く染め上げる。続けて剣に黒い魔力が帯び、強烈な力が怨霊達を一掃する。
「ちいっ、精剣を2本だとっ!?」
「ブルーム、ガロウ。行くぞっ!!」
《任せろよっ》
《言われんでもやってやる!!》
驚愕するサスクールに、ユリウスは魔力の斬撃を飛ばす。
麗奈が戻るまでに自分達に出来る事は時間稼ぎ。彼は信じて待つ。
その為にとフリーゲに渡された薬を飲み、体が軋むのを無理に動かす。この副作用がどこまで続くは分からないが、ここで魔力を回復させないといけない。そんな思いに駆られながら、ブルームの背に乗りながらユリウスは突進した。




