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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第229話:やっとの合流


「れいちゃんに知られたくないからでしょ」

「……」

「アルベルト?」

「ク、クポ~」




 ハルヒに睨まれて視線を逸らすアルベルト。

 そんな様子を微笑ましく見ているのは大精霊のノーム。エルフと同じ尖った耳を持ち、黒いトンガリ帽子を被った人型の大精霊。


 翡翠色の瞳は今は、楽しそうにしておりアルベルトを助ける気がないのが分かる。

 なんせ彼はハルヒにアルベルトの事を話したのだ。


 ドワーフは通常であれば、全長は10センチにも満たない位に小さな体。

 だが、戦士ドワーフは自在に大きさを変えられる。それこそ人間サイズから、巨人のように大きな体にも。


 軽く睨まれているのは、アルベルトはこの事を早めに言わなかった事にある。

 ドワーフは皆、同じようなサイズであり行動できる範囲が少ないと思っていた。が、体の大きさを変えられるというのは単純に戦闘の幅が広がる。


 加えてアルベルトが使っていた魔法の属性は大地。

 防御に優れた魔法であり、彼はいつも武器代わりに振るっている金づちを地面へと叩けば――砂に変り、泥にだって変化できる。


 


「君……。れいちゃんに、巨人になった所を見せたくないんでしょ。それで嫌われたくないから、ずっとその姿で」

「フポポ~?」

「僕を前に誤魔化せると本気で思ってる?」

「フ、フポポゥ……」




 嫌な汗が流れ、アルベルトはじっと見つめるハルヒから逃げる。ゴロゴロと転がり、逃げようとするアルベルトをノームは無言で阻止した。

 植物を操る魔法を得意としているノームは、蔦を扱いアルベルトの事を綺麗に縛っている。




《アルベルト。観念しなよ》

「クポポ!!」

《隠してたのは事実なんだから……。自分の可愛さアピールで、力を伝えてないのはどうなのかなぁ》




 何をするんだと怒るアルベルトに対し、ノームは冷静に返す。

 言われている事は当たっているので、押し黙りついには観念したように頭をペコリと下げた。


 隠していてごめんなさい。

 ハルヒの言うように、嫌われたくない一心で隠していた。



 麗奈から嫌われるというのは難しいと思いつつ、情けない姿を見せたくない気持ちはハルヒにも分かる。

 だから縛られているアルベルトに、ハルヒは手を伸ばした。




「まぁ、君達の事情もあるんだろうけど。でもさ。彼女達がそれを知ったとして、態度とか変わると思う?」




 そう問われ、アルベルトは首を横に振った。

 考えるまでもない。ハルヒも分かってるじゃんと言い、僕もそうだと同意した。




「ゆきとれいちゃんは、誉めそうだけどね」

『むしろ想像つくのがそれしかない』




 風魔がそう答えれば、白虎は無言で頷いている。

 その様子を見て、アルベルトは今までの事を思い出していく。


 麗奈と父親の誠一との最初の出会い。

 あそこからアルベルトの世界は変わった。自分を見ても物珍しそうにせず、楽し気に話しかけて心がすっと軽くなった。


 人間との関りを信じていたアルベルトだったが、自分を見てどんな反応をするのかと考えると怖かった。しかし、彼女達は当たり前のようにアルベルトを受け入れた。ほんの少しだけ、あともう少しだけという思いとは裏腹に――もっと接したくなった。




「クポポ」

「だろうね。僕も君とまだまだ話したいんだ。その巨人化が早くに分かれば、もう少し状況は違ったんだろうけど……」

「グッ……ポポゥ」




 ションボリとしたアルベルトに、ハルヒは「冗談だよ」と言いつつ優しく頭を撫でた。

 力を隠していた事にはもう怒っていない。だから、次は麗奈とゆきにきちんと話す様にと告げる。途端、嫌われたくないからか目線がキョロキョロとしている。




《観念しなよ、アルベルト。最初から最後まで、君が全部悪いんだし》

「……ポ」




 分かったとばかりに胸を張る。

 話をしている内に、歩く体力までは回復できた。ゆっくりではあるが、進んでいくハルヒにアルベルトが先行。崩壊が進んでいる割に、周りの状況がかなりゆっくりに感じた。


 不思議に思いノームに聞いてみると、彼はにっこりして《私の魔法だよ》と答えた。




《私はね。他の4大精霊達と違って、転生を1度もしていない。長い時間の中を生きた精霊には、ちょっとした特典が付くんだよ。ま、それだけ私が逃げるのが上手いって事で》

「……特典?」

《能力の幅が広がると言えば良いのかな。他の精霊が知らない事を知っている。創造主様の事も、死神の事も――色々とね》




 転生を果たした精霊は、そこから第2、第3の人生を歩む。

 精霊が亡くなるのは死神に手を下されるか、自力の魔力が何らかの原因で無くなる事。自分の身を削ってでも成し遂げる事をすれば精霊は死ぬ。


 その影響は様々。

 大精霊クラスの力ならば、支配している地域に悪影響が及ぶ。また、属性が同じ精霊同士で力の暴走がしやすくなる。


 ノームが他の4大精霊と違うのは、長生きである事と転生をせずに生きた事での特典。

 本来、創造主であるデューオの存在を感じ取れる上に話せるのは彼に作られた大精霊だけ。原初の大精霊アシュプと天空の大精霊であるブルームのみだ。

 そんな彼等から作られた精霊は、創造主の存在もだが力も感知は出来ない。


 だが、ノームはその創造主の存在が僅かながら分かる。

 現に1度。彼は、デューオからの妨害を受けた。麗奈に魔王サスクールの事を話そうとした時に、強烈な頭痛を喰らった。


 頭が割れる感じの痛みに耐えながら、彼はデューオに言われたのだ。

 「余計な事は話すな」と。




「創造主……。創造主……」




 そんな中、ハルヒは何かを思い出そうと必死だ。

 アルベルトは自分に話の矛先が向かない事にホッとし、ノームはハルヒの言葉を待っている。なんのきっかけがハルヒを悩ませているのか。




《もしかして、創造主様と会ったりした?》

「ある、のかな……」

《そう言えば知らなかったね。異世界人は、必ず創造主様と会うんだよ。記憶にないのも無理ないと思う。時間にしたらほんの一瞬。目が合ったのかも怪しい位の感覚だし》

「……それって、会った事になるの?」




 ハルヒとしては会ったというには短すぎるが、創造主側から言わせればそれだけで十分なのだという。

 別の世界から人を呼び、自分の創った世界を誘う。

 その際に不都合がないように。自分の体がちゃんと動くように、何不自由なくいつも通りになるように合わせる。

 それが――目を合わせるという行為になる。 

 そうすることで、少なからず創造主の魔力を明け渡すという事に繋がると言うのだ。




「それって……」

《そう。異世界人は、必ず創造主の魔力が当てられる。だからこそ君達は、この世界では高い魔力と珍しい力に目覚めるんだ》

「そりゃあ……。色々と狙われる要素を作る訳だ」

《まぁ、それは予想外だったのかも知れないね。恐らく向こうとしては、少しでも過ごしやすいようにとしたのかも知れないんだし》

「れいちゃんが狙われるのも……仕方ない事?」

《それは……その~》




 ハルヒの言葉に、思わず返答が困るノーム。

 頬を掻きながらも、麗奈が狙われる要素は仕方ないとは言いずらい。彼女の性格も考えれば、たまたまなのかも知れないが。


 それでもやはり思うのは、精霊に好かれているという点。




「いや、いい。なんでもない……。れいちゃんのあれは今に始まった事じゃないよ」

「クポポ」

「はいはい、そうだね。君はれいちゃんが好きだから、自分の力も隠してたんだし」

「グッ……。ポポ~」




 ハルヒにそう言われ、傷付いたアルベルトはその場でうずくまる。

 しかし、すぐに起き上がりピョンピョンと跳ねた。早く行かないと自分の父親と合流が出来ないのだと言った。




(その為にここに残ったんだ。なんか、話題を変えられた感あるけど)

「クポポ」

「疑ってないから平気だよ。ノームが止めてくれるのも申し訳ないし、さっさと急ごう」




 その後、アルベルトはハルヒの肩に飛び乗り父親の元へと向かう。

 聞けばジグルドは、アシュプの攻撃により怪我を負っているという。ノームがある程度は治療したが、魔族や魔物の追撃がないとは限らない。

 



「クポポ~」

「ん? あの人がアルベルトのお父さんなんだね」




 アルベルトのテンションが上がっている。

 父親と喧嘩していたのは聞いていたが、それでも合流できる事は嬉しいのだろう。恐らく本人は気付いていないだろうが、ソワソワしているのをハルヒは気付いていた。


 近付いていくとぐったりとしている大きな男。そして、心配そうに見ている大柄の男が2人もおり3人の内のどれかがアルベルトの父親なのだと分かる。彼等もハルヒとアルベルトに気が付くと軽く手を振ってくれている。




「アルベルト。お前、無事だったのか」

「ん? お前さんは異世界人か」

「え、まぁ……そうです」




 ニチリでは普通にしていた和服も、国の外に出れば服装がまるで違う。

 最初はそう思ったが、次第に異世界人は創造主の魔力に当てられる話を聞いていたのですぐに違うと分かる。

 恐らく自分達の魔力とは違う。その点をドワーフである彼等は見抜き、そして確認の為に聞いたのだろうと結論付けた。




「……女みたいな顔つきだな」

「は?」

「クポポ」

「アルベルトも拒否しているぞ。彼はれっきとした男だって」




 現代でもハルヒはその見た目で女性に見られた事も少なくない。

 だがここに来て、いきなりの確認に思わず睨んでしまった。他意はないにしろ、地雷だと分かったからかすぐに謝られたが。




《良かった。傷は開いてないし、大人しくしてくれたんだ。こっちは落ち着いたから治療の続きをしますね》

「……申し訳ない、ノーム様」




 そんな他愛のない会話を聞きながら、ジグルドはノームの治療を受ける。

 チラリと息子のアルベルトを見ながら生きている事にホッとしつつ、ふと感じた魔力を目で追ってしまう。


 こうしている間にも、この上空では激しい魔力のぶつかり合いが続いている。

 それが段々と大きくなっているのを、不安に思った。だが、生き残る事を優先しようと考えすぐにその考えは捨てた。



 




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