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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第224話:デューオが整えた舞台


「俺は死んで……アンタが、俺に体と言葉を与えた……?」

「そうそう。感謝して欲しいなぁ」

「……」




 デューオのその言葉にジト目になるザジ。

 困ったように笑うデューオはザジの想いを聞いた。


 記憶を見たのと実際にその場面に、立ち会ったのであれば印象はかなり違うだろう。

 デューオは話を聞きつつ、覗いた記憶の整理をしていた。ザジが願うのはサスクールの死であり復活しない事。


 そして、デューオとサスクールが似ていると言う事から彼はデューオに対して殺気を向けていた。

 嫌な気配、嫌な感じ。背筋が凍るようなおぞましさ。それら全てがザジにとっては気に喰わないもの。




(成程。だから、私に殺気を向けたのか……。気配が似ていても、害なすものは容赦しないか)

「……」




 デューオが考えている中、ザジは自分の手を確かめるように何度も握ったり開いたりと繰り返す。


 人間の体。話したり、思った事を動かせる思考。

 前から思っていた。もし、人間になればもっと麗奈と話せていたかも知れない。

 あの小さな体では守れなかった範囲を、今ならしっかりと守れたかも知れない。


 そこまで思って、それはもう叶う事などないのだと知らされる。




「ないものねだりって言うのか、こういうのは」

「んん?」

「……でも、もう安心なんだろ。奴は奴の世界に」

「先延ばしになっただけで、安心ではないね」




 息を飲んだ。

 デューオを睨みながら迫り、彼の胸倉を掴んだ。かなりの力なのか、握りしめている拳からは少量の血がポタポタと流れている。

 だが、今のザジにはそんな事はどうでもよかった。




「どう言う意味だ、先延ばしって……。だって、お前は」

「安全ではない、という事だよ。サスクールは既に、彼女に対して印を付けた後だ。最初に接触した時に焼き印をされただろ? 見た目には何ともない。だが、あれは奴の魔力が強く練られていた。消すのには苦労するだろうね」

「っ……」

「時間を与えれば与えた分だけ強力になる。数年先、彼女は必ずこちらの世界に誘われる」

「なんだとっ!!!」

「断言しよう。私が呼ぶ手配をしなくても、彼女はサスクールと同じ世界に降り立つ。最悪の場合、付いた先は奴の居城だ」

「止めろ!!!」




 片手は既にデューオの首を掴んでいる。 

 言う通りにしなければ、そのまま首をへし折る。そんな気迫を向けられているのに、デューオは涼しい顔のまま「無理」と一言だけ発した。


 その答えに驚き、脅しではないと言う意味でギリギリと首を締めあげる。

 やがてザジは舌打ちをし、デューオを投げ飛ばした。脅しても無駄なのが分かり、彼が事実しか言っていないのを感じ取ったのだろう。


 しかし、その苛立ちは収まる事はない。乱暴に椅子に座り、興奮を落ち着かせるように「ふーっ、ふーっ」と何度も呼吸を繰り返した。




「ホント、彼女以外に興味がないんだね。そんなに大事なの?」

「あ?」

「違うな。何をそんなに自分を責めているんだ」




 首を締められ、無抵抗のまま投げ飛ばされたにも関わらず、デューオはケロリと何ともないまま歩み出している。ダメージがない事もだが、涼しい顔でいるのが物凄く腹が立つ。

 顔を合わせたくない気持ちも込めて舌打ちをし、デューオの視線から外れる。




「……俺は、果たせなかった」




 ポツリとただ一言、ザジはそう言った。

 そのまま話す事なく顔を伏せる。そんなザジに、デューオは隣に座り言葉を待った。


 少しの沈黙の後。ザジは振り絞る様に、自分の思った言葉を続ける。




「頼まれたんだ。いや、頼まれていた、って言う方が正しいのか。……麗奈の母親に、父親に。一緒に住んでる裕二って奴にも、ゆきにも頼まれてたんだ。なのに、俺は……俺は……」




 思い出されるのは朝霧家の皆は、麗奈の事を大事に思っていた事。そして、それと同じ位にザジを思いそして託された。

 ザジが居れば麗奈は無茶はしないのだと。

 先走りやすい麗奈だが、ザジがブレーキ代わりになるからとよく言われていた。


 そして、祖父の武彦も頼んできた人達も最後にはこう言っていた。




「麗奈の味方でいてくれって、そう言われた。……だから、俺は可能な限り傍に居続けた。病気で倒れた時も、怪我をして動けなかった時も。勉強している時も、お菓子を作っている時にも……」




 言った分だけ記憶が蘇ってくる。


 ザジは麗奈の笑顔が好きであり、彼女が笑ってくれるだけで良かった。その笑顔を守れる為なら、ザジはなんだって出来た。

 怖い事も、苦手な事も必要とあれば我慢もした。


 けれども、最後は守れなかった。

 ザジが最後に見たのは、笑顔ではなく涙を流す姿。こんな事になる筈じゃなかった。サスクールの危険性を瞬時に理解したザジは、止めるべきだった。見ないフリをするべきじゃなかったのだ。


 だが、ザジはどんなに訴えても鳴き声だけだ。

 今みたいに言葉を発せない。それがどんなに後悔したくてもし切れない。




「……君はよくやったよ。動物の直感なら、あの場面になると恐怖で動けないさ。本質を見抜く力は人間よりもあるからね。あのまま逃走したっておかしくない」




 それでも勇敢に、無駄と分かりながらも立ち向かったザジは凄い。

 デューオのその言葉にノロノロと顔を上げる。そんな彼にデューオはある提案をした。


 死神になる気はないか、と。




「しに……がみ?」

「大体だと死を司る神様って意味だけど、どうしても死がつくから悪いイメージが付きやすいんだ。私も死神をやってたしね」

「は……?」

「前は大変だったんだよ。死神としての仕事と創造主としての仕事、その両方をやらないといけないんだ。あれはもう大変だったよぉ~」

(死神……コイツが?)




 怪しいとばかりザジが睨むも、デューオはずっとどんなに大変だったのかを話していく。正直に言えば、話しの半分以上も聞いていない。

 だけど聞いていて、良い点もあった。


 死神は死ぬ者の前に現れ、魂を狩り取る仕事をしている。


 そして、ザジを見付けた様に冥府へと送り届けている。だから冥府を管理しているエレキとは、少なからず顔を合わせるし上司に近い。


 デューオが勧めるのはそれだけではない。

 まず彼の世界では、死神という存在を確認出来ない。その姿を確認したら最後、既にその相手は亡くなっている。


 そして、死神になる点で良いのはもう1つあった。




「私の世界には精霊が居るんだが、死神なら精霊も魔王も関係なく死に導ける」

「!?」 

「……これがどう言う意味か、ザジには分かるよね?」

「それって、もしかして……」

「サスクールは既に魂だけの存在。体は私は処理したから、逃げるのには必ず媒介が必要だ。死神が唯一、手が出せないのは生きている人間。まだ死期が遠い人達だからね」

「……」

「魂を狩るのが死神の仕事。それはサスクールにも当てはまる。奴は入れ物がない状態だ。そして、その器として必要なものはあの世界ではあまりにも適性が少なすぎる」




 だから彼は狙い続けるのだ。魂だけのサスクールが完全に適性出来る存在――それが朝霧家の女性のみ。そしてそれはもう麗奈だけだという事実。




「奴が諦めないのは無理もない。完全に適性がある人は、この世にもう1人だけだ。……朝霧 麗奈ちゃんは、どうあっても奴に狙われる。どんな手を使ってでも、奴は必ず彼女を手中に収める」

「っ……」




 なんて事だと思った。

 サスクールから引き剥がせても、麗奈が狙われる事は変わらない。世界が違えば手の出しようなないと思っていたが、それすらも計算されてた上で印を付けた。

 サスクールの用意の良さと、悪知恵に憤るザジ。そんな彼に、デューオは彼に手を差し伸べた。




「それを防ぎたいなら――死神になって殺す気はない? そうすれば、君の恨みは果たされる。サスクールを許さないその気持ち。それは彼女の安全の為だろう?」

「……良いぜ。アンタのその案、乗ってやる。奴をこの手でぶちのめせるんだ。そのチャンスをくれるって事だろ? けど、良いのかよ」

「何が?」

「アンタだって、サスクールを殺したいんじゃないのか。なのに」

「別に。私が出来るのは邪魔をする事だけで、計画そのものを伸ばす事しか出来ない。自分で創った世界に介入が出来るのも制限があるんだ」




 そうなのかと考え、デューオの手を取り協力するのだと約束した。ザジにとっては願ったり叶ったりだ。手が出せない相手を、倒せる力が手に入る。その力で今度こそ麗奈を守る。


 そう決めたザジはデューオにあるお願いをした。




「なら……俺の記憶を消すことは出来るか?」

「え」

「せめて麗奈が呼ばれるのも遅れて欲しい。奴が居ない世界で呼ぶ方が良いだろう。それに……約束を守れなかった俺が、会う訳にはいかないしな」

「出来なくはないけど……。彼女と再会したくないの?」

「……したくない、と言えば嘘になる。でも、やっぱり顔を合わせられない。どんな顔をして会えって言うんだよ」




 悲し気に瞳を伏せ、それ以上は何も言わない。

 そんなザジの様子にデューオは納得した。約束を果たそうと彼の記憶も含め、何で死んだのかという理由も――歩んできたもの全てを消した。


 しかし、デューオはザジのその約束を果たす気はない。


 これだけの強い想い、そしてサスクールだけを殺すと言う怨念を抱いたザジ。だと言うのに、彼はその見返りは要らないと言うのだ。それではあまりにも可哀想だ。

 麗奈はヘルスの魔法で記憶を消され、ザジも記憶を消す選択をした。


 だから、デューオが出来たお願いは2人を会わせる事。そして、彼女の監視をザジに押し付けると言うものだ。


 どんなに記憶を消そうとも、本人が思い出したくないと思っていても、守りたい存在がいれば自然と刺激される。


 その刺激で記憶が全て元に戻ったとしても、文句は言わないで欲しい。


 

 そんな思いを込めて、デューオはザジの記憶を消した。彼はその影響か、ゆっくりと目が閉じられていきそのまま気を失った。


 知識を一から学び直すには、傍に居るべきパートナーが必要だろう。そうなると、自然と浮かんでくる相手はサスクールに殺された魔王しか思い浮かばない。




「約束は時に守って時に破るよ。……君の奮闘を祈る、ザジ」




 舞台を整えよう。

 サスクールを確実に倒す手駒、その復讐心を利用する手はない。そう考えたデューオは、ザジのパートナーとしてサスティスを呼び付けた。


 

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