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星彩の街と忍び寄る影4

 ジーヴルの街の代表に襲撃については解決したことを伝え、シシリィアたちは急ぎ王宮へと戻る。夜とはいえ、早急に報告する必要があると判断したからだ。

 そして事の顛末をランティシュエーヌへ報告したところ、すぐさま会議が開かれることとなった。


 集まったのはシシリィアたちのほかに、ランティシュエーヌとフィリスフィア、ユリアーナだった。色々と公に出来ないようなことが多すぎるため、身内ばかり集められたようだ。

 そして再度ジーヴルの街での顛末を説明すると、ユリアーナが意味深な視線をシシリィアへ送りつつ口を開く。


「ふふ、色々興味深いことばっかりだけど。まさか、エルスタークさんが魔人族の王子様だったなんてねぇ」

「ユリア姉様……」

「ユリア、茶化すようなことじゃないわ」

「茶化しているわけじゃないわよ。でもフィリス姉様は知っていたのじゃないかしら? それで黙っていたのだとしたら、意地悪じゃないかしらぁ?」

「ちょ、ユリア姉様!」


 確かに、エルスタークの気持ちを受け入れるかどうかで悩んでいた時、彼の身分を知っていたらまた違う考えが出てきたかもしれない。

 でもそれは、周りから教えてもらうことではないと思うのだ。


 それに、結局はエルスタークが何者かなんてことは関係ないのだ。

 今まで触れてきた彼に惹かれ、そして、共に居たいと思ったのだ。


 だから、エルスタークが魔人族の王族ということには驚いたし、教えて貰えていなかったことはちょっとショックだったけど、そんなに拘るようなことではないと思っていた。

 それなのに茶化しているのか、シシリィアを心配してくれているのか分からないが、この話題でフィリスフィアに絡むユリアーナに焦る。


 わたわたとユリアーナの名を呼ぶシシリィアにちらりと視線を送ったフィリスフィアは、小さくため息を吐いた。


「シシィ、落ち着きなさい。……それに、知っていて黙っていたわけではないわ。そうじゃないか、という予想はしていたけれど」

「予想していた、のか?」


 唖然とした様子のエルスタークに、ランティシュエーヌが少し呆れた様子で頷く。


「ええ。以前、貴方へ多少の便宜を図る代わりにと紹介して頂いた商人ですが、魔人族の王族御用達とのことでしたから。後は、貴方の規格外の強さなどを思えば、想像はつきます」

「あ~……」


 聞いている感じだと、エルスタークは自身の身分を誰にも告げてはいないのだろうが、隠せてはいなかったようだ。

 全く気付きもしなかったシシリィアが言えることではないが、迂闊すぎるのではないだろうか。


 そのことに呆れるのと同時に、国に対する求婚の申し入れに自身の身分を使っていなかったらしいことに気付く。


 魔人族の王族だということを前面に押し出して求婚を申し入れていれば、シシリィアの意思など関係なしに婚姻が成立していた可能性が高いのに、だ。

 魔人族の国であるフィスターニス国は独自の技術が多く、その国と結びつきが出来ることはとても有用なことなのだ。エルスタークも、王族なのだからそのことは良く分かっていたはずだ。


 しかしそうはせずに、シシリィアの気持ちが自身へ向くよう努力してくれた。

 それは、エルスタークの想いが本気だからなのだろう。


 シシリィアはふわりと顔を綻ばせ、隣に座るエルスタークへとそっと手を伸ばす。そして会議卓に頭を抱えて突っ伏している彼の背を軽く撫でる。


「シシィ?」

「色々と、ありがとうね」

「……ああ」

「あらぁ、仲が良さそうで良かったわ」

「っ、ユリア姉様!」

「ユリア。シシィが可愛いのは分かるけれど、そろそろ話を進めたいから揶揄うのは止めなさい」

「はぁい」


 相変わらずな様子のユリアーナに頭が痛そうな表情のフィリスフィアは、しかし一つ息を吐くとランティシュエーヌへと視線を送る。


 ランティシュエーヌは心得た様子で小さく頷き、エルスタークへと話を振る。


「さて、エルスターク殿。今回の件の犯人……ゼルクイードを殺した影の者についてご説明願えますか?」

「ああ。想像は付いているだろうが、国お抱えの暗殺者集団みたいなものだな。フィスターニス国内の危険人物の処理が主な任務だな」

「ゼルクイードとやらは、現王に反抗的な思想だから消された、といことですか」

「あの者の言い分ではそうだが、違和感がある」

「やはり、そうですか……」


 エルスタークの言葉に、ランティシュエーヌが柳眉を顰めてため息を吐く。

 重苦しい空気にエルスタークもため息を吐き、さらに口を開く。


「ゼルクイードが既に行動を起こし、他国に害を及ぼした後に即殺害するなんて、悪手でしかないだろう?」

「ええ。ジーヴルの街とシシィへ害を及ぼされたのだから、我が国としてはフィスターニス国へ賠償を求めない訳ないもの。それなのに犯人の口を塞ぐなんて、余程疚しいことがあるのでしょうね」

「だろうな。だが、それは王の意思ではないだろうな」

「フィスターニス国王の意思ではない、と?」


 フィリスフィアが水色の瞳で鋭くエルスタークを見据える。

 その眼差しは、先程までユリアーナやシシリィアへ向けていた優しいものとは違い、執政者らしく厳しいものだった。


「ああ。今、影の者を含めた軍部は王ではなく先王の弟、俺たちの叔父が掌握しているはずだ。表面上は王に従っているが、あの人は野心の強い人だからな。そっちの意向の可能性が高いだろうな」

「国王の意向でないと言うのは、朗報でもありますが、きな臭い話ですね……」

「ええ。交渉が難航しそうだわ……」


 悩まし気にため息を吐いたフィリスフィアは、さらにエルスタークへ問う。


「ジーヴルの街を襲った魔物など妖精の介入が思われるようだけれど、フィスターニス国は妖精の国と関係があるのかしら?」

「いや。俺が知る限りは無いな。魔人は妖精の守護を得ることもほぼないから、守護妖精として居る者も見たことがない」

「魔人は妖精が気に入る気質ではないですからね」


 サラリ、と淡い金色の髪を揺らしてランティシュエーヌがシシリィアを見る。

 急に若葉色の瞳を向けられ、思わずビクリとしてしまう。やっぱり、どうにもこの妖精が苦手なのだ。


「シシリィア様。闇の妖精王を呼んで頂けますか?」

「ディルスさんを? どうやって……」

「シシリィア様は闇の妖精王の名を与えられていますから。呼べば、妖精界にだって届きます」

「そうなんだ……。やっぱり、ゼルクイードが使役していたヤツらが闇属性っぽいから?」

「ええ。私の知識では、あのような存在は知りません。闇の妖精に関連したモノであれば、()の方も無関係ではないでしょう」


 そう言うランティシュエーヌの瞳は冷徹な光を宿している。


 同族である闇の妖精を庇うより、シャンフルード王国へ害を成した存在への怒りを強く抱いている様だ。

 その考えの根源は、フィリスフィアへの想いなのだろう。それでも、少し意外に思ってしまう。


 自身が守護する人間が危険に晒されたわけではないのに、ここまで怒る妖精も珍しいだろう。

 そんなランティシュエーヌの変化を感じながら、シシリィアはディルスを呼ぶためにその名前を口にするのだった。


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