銀ランタン祭りと星闇の夜2
銀ランタン祭りは、新年を迎えて一月後の新月の夜に行われる。
「寒くて暗い、雪の新月を暖かく照らし出そうと街の人たちが雪で作った台に蝋燭で明かりを灯したのが始まりなんです」
「雪で作られたランタンだから、銀ランタンということか」
「はい。今では、王都の主要な通りには全て銀ランタンが灯されるので、とても綺麗なんですよ」
シシリィアはディルスに銀ランタン祭りを説明しながら、王都を歩いていた。
王都中、降り積もった雪を使って色々な形のランタンが作られている。
子供たちが作った少し歪な円柱に蝋燭を入れるための穴が掘られただけのものから、美しい透かし彫りが施されたもの、果ては最早美しい彫像のように見えるものまである。
まだ日の高い時間である今は蝋燭は入れられていないが、街の人渾身の作品を見て回るだけでも楽しい。
「ひめさま~! 見て見て、コレ、ぼくが作ったの!」
「こら、王女に失礼だろう! すみません、シシリィア王女……」
「ふふ、構わないよ。素敵なランタンだね、お祭りを楽しんでね」
「うん!」
「シシリィア王女、これから中央公園ですかい? 今回も竜騎士団は凄いですねぇ!!」
「今年も一位を狙っているからね。投票よろしくね!」
「ははは、それは出来栄え次第ですよ。それにしても、今日はまた新しいイケメン連れてますね」
「新しいイケメンって……」
「ははは、お仕事だって分かってますよ。王女もお祭り楽しんでください!!」
街の人に揶揄われ、シシリィアは隣のディルスを見上げる。
流石に闇の妖精が街中に居ると目立つ、ということで闇色の翅と特徴的な髪の毛は擬態してもらっている。とはいえ、姿形は変わるわけではない。
憂いを帯びた表情の美麗な妖精は周囲の目を惹く。
先程のように直球で揶揄ってくる人は少ないが、道行く人たちは皆ディルスに目を奪われている様子だ。
「……随分、民たちと気さくに話すのだな」
「そうですね。私は騎士として街に出ること多いから、気安く接してもらえるんだと思います」
「そうか。羨ましいものだな……」
「あはは…………」
聞いたところによると、闇の妖精は自分たちの王を崇拝するレベルで慕っているらしい。そのせいで、ディルスに対して普通に接する者はとても少ないという。
色々と苦労が絶えないであろうディルスに掛ける言葉が見つからない。
笑って誤魔化しながら、銀ランタン祭りのメイン会場である王都中央公園へと進む。
「ぇえっと、銀ランタン祭りの説明が途中でしたね。さっき、街中でも彫像レベルのランタンがあったと思うんですけど、年々ヒートアップした結果、巨大雪像が作られるようになって……」
「それが、これなのか……。凄まじい、な」
「ええ。ちゃんとお祭りとして整備される前は、こんな雪像が街中で作られちゃって大変だったんですって」
苦笑しながら説明するシシリィアたちの前には、民家よりも大きな雪像が何体も作られていた。
神話をモチーフにした神秘的なものや、近頃街中で人気な小説のワンシーンを模したものなど様々だ。一体、明らかに子供に教育に良くない雰囲気の、身近な人を模した雪像がある気もするが、そっとそこからは目を反らす。
「王都に拠点を持つ騎士団3つと、毎年抽選で選ばれる有志の団体がここで雪像を作ってます。それで、見に来た人たちに投票をしてもらって出来栄えを競うんです」
「ああ、だから先程投票、と言っていたのだな」
「はい。結構、銀ランタン祭りの順位が騎士団同士でも争いになることが多くって、負けられないんです」
王都に拠点を持つ騎士団は竜騎士団以外に、王都守護が任務である第一騎士団と、王宮守護が任務の近衛騎士団がある。
それぞれ騎士団の中でもエリート集団であるのだが、何故か銀ランタン祭りは各自のプライドを掛けた争いになっている。ここでの順位が低いと、他の騎士団に盛大に煽られるのだ。
竜騎士団は他の騎士団に比べて圧倒的に人数が少ない。
そのため、他の騎士団は非番の騎士が少しずつ雪像を作っていくのだが、竜騎士団だけは今日一日で竜騎士総出で雪像を作っていた。毎年、銀ランタン祭りの日に他の仕事が入らない様調整するのが大変なのだ。
竜騎士団が魔法まで駆使しながら作っている雪像を見上げる。
昔から人気が高い小説のクライマックス、竜騎士が巨大な魔物を倒して攫われた姫を助けるシーンを再現したものだ。
王女であるシシリィアが団長の騎士団ではあるが、攫われた姫はシシリィアとは正反対な清楚な美少女系の造形な辺り、全く以て忖度しない団員たちだ。
「やはり、竜騎士団だから竜騎士がモチーフなんだな」
「ええ。皆、自分の竜をモチーフにしたくて毎年大変なんです。数年前には、雪像じゃなくで自分の竜を飾った人まで居たんです」
「それは……」
「勿論すぐバレて失格になりましたけどね」
あの時はまだシシリィアは竜騎士団の団長ではなかったけど、忘れられない出来事だ。
思い出してため息が漏れそうになっているところで、シシリィアに気が付いたシャルに声を掛けられる。
「シシィ様、来ていたんですね。そちらはもしかして……」
「ディルスさん。休暇を取れって追い出されたらしくて、今日一日銀ランタン祭りの案内をすることになったの」
「追い出された……」
「迷惑を掛けてすまない」
「いえ……。それでは、今日はシシィ様は一日ディルス様のご対応ということですね」
「うん。雪像の方は進みは問題ないかなって思うけど、大丈夫?」
「ええ、そちらは問題ありません。ただ……」
そこで言葉を切ったシャルが困った様子でとある方向へと視線を向けた。
珍しい様子に小さく首を傾げつつ、そちらへとシシリィアも視線を向ける。
するとそこには――。
「エルスタークとシャルルさん……!?」
以前ノーザリオンの里で出会った氷薔薇の妖精であるシャルルと、エルスタークが何やら言い争っている。
明らかに面倒くさそうな状況に、シシリィアも顔を引き攣らせるのだった。




