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会議と知らなかった事実1

 シシリィアは迷宮から脱出してシャルたちと合流すると、ひとまず王宮へと戻った。そして簡単に報告をあげれば、すぐさま会議が開かれることになった。


 数日迷宮を彷徨い、さらにイルヴァに数時間乗っての移動後だ。本音としてはベッドに直行したくて仕方ないのだが、流石にお仕事をサボるわけにもいかない。

 イルヴァとシャルと合流し、会議室の扉を開く。


「失礼します。……遅くなって、申し訳ないです」

「シシィ、戻って早々で悪いわね。とりあえず席に着きなさい」

「はい」


 会議室を見渡せば、シシリィアたちが最後のようだ。遅参を詫びると会議卓の上座に座っている第一王女のフィリスフィアが空席を示す。

 執務用のシンプルなドレスを纏ったフィリスフィアの隣にはランティシュエーヌが居た。この件の責任者はフィリスフィアなのだろう。


 他にはシャンフルード王国南部を任務地とする第三騎士団の団長と副長、魔術師団の団長である第二王女のユリアーナと魔術師団副長。ユリアーナの護衛であり第一の下僕を自称している狼獣人がユリアーナの足元、鋭いピンヒールの下に居るが、それについては誰もがいつも通り目を反らしている。魔術師団副長が青白い顔色で時々胃を抑えているのもいつもの光景だ。


 しかし、そんな場所にエルスタークもしれっと混ざっているのが不思議だ。

 今回の件では当事者だから、ということなのだろうが普通、国の中枢の会議に部外者を入れないだろう。少し首を傾げつつも空いているエルスタークの隣の席に座る。


 シシリィアの着席を確認したランティシュエーヌが口を開く。


「では揃ったので、会議を始めましょう。シシリィア様、ご報告頂いて良いでしょうか」

「はい。まず、トュルムの森で魔獣が異常に増えていた原因は、トュルムの森の中で迷宮が稼働していたせいみたい。この迷宮は多分、休眠迷宮だったのを何者かが稼働させたようです」

「へぇ、休眠迷宮を稼働させる何者って、ナニかしら」


 シシリィアの報告に、にんまりと紅い唇を吊り上げるのはユリアーナだった。大きく波打つ艶やかな黒髪を白い指先に巻きつけ、紫色の瞳で流し見る。

 豊かな胸を強調したダークレッドのドレスを身に纏い、高いヒールの靴で足元の狼獣人を踏みにじっている様は完全に女王様だ。しかし強大な魔力と絶大な魔術センスを持つ彼女は、魔術に関連する物事に対する探究心も人一倍強い。


 今回の件は確実に、ユリアーナの関心を大いに惹きつけるものだ。


「これは推測だけど、闇の妖精の仕業と思います。迷宮の中で、遭遇したの」

「あらぁ、闇の妖精だなんて! すごいモノと会うわね、シシィ」

「闇の妖精、ですか……」


 楽しそうに手を打つユリアーナとは対照的に、思案気に若葉色の瞳を伏せるのはランティシュエーヌだ。そっとその横顔を見上げたフィリスフィアが水色の瞳を不安そうに揺らす。


「どうかしましたか、ランティ」

「フィリス様。闇の妖精は滅多に妖精界から出てくることはない一族です。わざわざこちらに来て、しかも迷宮を起動させるなど、何を企んでいるのかと」

「多分、それはシシィが狙いだからだ」

「シシィが……?」

「え、エルスターク。どういうこと?」

「…………そういうことですか」


 エルスタークの言葉に、ランティシュエーヌ以外が驚きの声を上げる。そして一人納得した様子だったランティシュエーヌは、しかしエルスタークをちらりと見て小さくため息を吐く。

 よく分からない挙動にエルスタークを見上げれば、何やら満足気な笑みを浮かべていた。


「エルスターク?」

「ん? ああ、アイツの狙いがお前だって言うのは、俺には用がないって言っていたからだ」

「……本当に?」

「ああ。シシィも聞いてただろ?」

「マレシュがそんなこと言ってたのは覚えてるけど……。なんで私を狙うのよ?」

「まぁ、シシィだからな」

「何それ……」


 のらくらとシシリィアの問いをはぐらかしてる様子のエルスタークに、大きくため息を吐く。ついこの間も同じようなやり取りをしたような気がする。

 とりあえず一つ首を振り、気分を切り替える。


「まぁ、それは一旦置いとこう。すみません、議題に戻りましょう」

「よろしいので?」

「良くはないけど、第三騎士団の方も来てるんだもの。今はトュルムの森の件を先に片付けるべきだわ」

「シシリィア王女。かたじけない」


 第三騎士団長のほっとした様子にシシリィアは苦笑する。第三騎士団の管轄から大きく外れた話が長くなっては、申し訳ない。

 とりあえず報告に戻ることにする。


「え~と、後は何だろう……。迷宮は危ない罠とかもなくて、出てくる魔獣も魔犬とゴブリンくらいでした。迷宮内の魔獣は多少減らしたけど、まだ溢れてくる可能性があるから竜騎士を配置してきてます。でも、年末までには全員を引き上げさせたいので早めの対応を希望します」

「年末の白月祭はくげつさいには竜騎士は欠かせないものね。何にしても、早急に迷宮の監視は第三騎士団へ引き継いで頂きましょう。ゼーブル卿、よろしいでしょうか?」


 フィリスフィアの問いに第三騎士団の団長であるゼーブルが頷く。


 白月祭は年末から年始にかけてあるお祭りで、一年の終わりと新年を祝うものだ。このお祭りでは国内あちこちで問題が発生するのが恒例であり、機動力のある竜騎士団は一日中駆けずり回る日でもある。


 そんな日に動ける竜騎士が少なくなるのは国にとって大問題であるから、とても協力的だった。


「承知しました。魔犬程度の弱い魔獣だけならば、特別な編成も必要ないですからな。取り急ぎ近くの街から一部隊向かわせましょう」

「迷宮はどうするのかしら? 闇の妖精が起動させたって言うから、私は見に行きたいのだけど」

「そうね……。居る魔獣が弱いものばかりということは、財宝などを隠しているタイプの迷宮ではなさそうね」

「恐らく、古代の訓練用の迷宮だと思うぞ。親切に休憩用の安全地帯も用意されてたしな。エネルギー供給がある限り、魔獣も無限湧きするタイプだろうな」

「訓練用の迷宮、ですか……」


 サラリ、と淡い金色の髪を揺らしてランティシュエーヌが首を傾げる。


「どう思いますか、ゼーブル卿?」

「ふむ……。獣型の魔犬と、人型に近いゴブリンですからね。新兵の訓練に丁度いいかもしれないですな」

「そうですか。では、維持コスト次第では訓練所としての活用も出来るかもしれないですね。ユリアーナ様、そういった部分も確認をお願いできますか?」

「良いわ。一般の魔術師が魔力供給すれば稼働維持できる程度ならばいいのよね?」

「そうね。魔術師を一人常駐させる程度であれば、予算的に問題がないわ。迷宮によって周囲が活性化すれば一番嬉しいのだけれど……」


 そう呟いて何やら考え込み始めたフィリスフィアに、ランティシュエーヌが苦笑を零した。

 困った子だ、といった甘やかな視線を向けている。


「フィリス様。その試算はまた後程になさってください」

「……申し訳ないわ。それでは、取り急ぎ第三騎士団は迷宮の監視のための部隊を、近隣の街から派遣を。迷宮の調査には、魔術師団と第三騎士団合同で部隊を編成して、王都から向かってください。竜騎士団は、第三騎士団が到着するまでは引き続き迷宮の監視をお願いします」

「承知しました。では、急ぎ部隊の選定に掛かりますので、我々はこれで失礼させていただきます」

「はい。よろしくお願いします、ゼーブル卿」


 さっと礼をして会議室から第三騎士団の団長と副長が出ていった。

 思ったよりも長くなった会議にふぅ、と息を吐く。


 とりあえず迷宮への竜騎士の配置は短期間で済みそうだが、今森に居る者たちは先日からずっと森での魔獣退治も続けているのだ。一旦交代要員を送るべきだろう。

 交代要員の選定を済ませるまでは休めそうにもない。


 もう一度深くため息を吐くと、隣から伸びてきた手がポスンと頭に乗る。


「なに、エルスターク?」

「3日間迷宮に居たんだ。程々で休むべきだな」

「……もう少し片づけた後、休むよ。それより今更だけど、なんでエルスタークが普通に会議に参加してたの?」


 シシリィアの返しに納得していない様子のエルスタークが余計なことを言わないうちに、ちょっと気になっていたことを聞いてみる。


 しかしあからさまな話題変更に、エルスタークは不快そうな表情をして剣呑な空気を纏う。

 少し背筋がヒヤリとする。背後ではイルヴァとシャルが身構えたようだ。


 一触即発な空気に、助け舟は思いがけないところから出された。


「エルスターク殿。騒ぎを起こす様でしたら、以前の申し出は破棄される、ということでよろしいでしょうか?」

「…………それはない」

「では、魔力を抑えてください」


 冷ややかなランティシュエーヌの言葉に、ため息を吐きつつエルスタークは大人しく従う。

 意外な反応にランティシュエーヌを見れば、呆れた様子で説明してくれる。


「エルスターク殿は、シシリィア様への求婚を正式に国へ申し入れておりますから。その際に一つ契約を交わしましたので、現在この国では、エルスターク殿は私の管轄となります」

「え……?」


 シシリィアは驚きに目を見開き、横を見る。


 色々気になることはある。でも、何よりもエルスタークが正式に求婚の申し出をしていたなんて、知らなかった。

 花嫁、と言われたりしていたが、所詮冗談だと思っていたのだ。

 本気だ、ということなのだろうか。


 しかしエルスタークは何を言うでもなく、ワインレッドの瞳を甘く笑ませるだけだった。

報告の時のシシィの口調が、敬語とタメ語入り混じっているのは、身内が大半な会議だけど大人らしく敬語でいこうとして結局失敗してる感じです。

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