episode15【魔の森狂想曲③】
茂みから現れたのは、一匹の狼のような獣だった。
しかし、普通の狼と比べるとその姿は一回り大きく、口元からはギラギラとした大きな牙が不気味に顔をのぞかせていた。
「……一匹、か」
俺は両手で剣を構えたまま、姿勢を低く落とす。
「ガゥルルルル……」
狼のような獣は、俺を中心として円を描くようにゆっくりと周りながら、様子を伺っているようだった。
「ラキ、俺の後ろに立ってろ」
「た、戦うつもり?!」
「あぁ、多分こいつからは逃げられねぇ。それに一匹だけなら、俺でも──ッッ!」
「ガゥアッ!!」
俺が一瞬ラキに気を取られた隙をついて、その獣は素早く地を蹴り飛びかかってくる。
ガギンッッ!!
繰り出された大きな牙に対して、剣で合わせるようにガードしたが、あまりの衝撃の大きさに思わずバランスを崩し、たたらを踏む。
「ゴァッ!」
獣は剣で弾かれた反動を利用し後ろへ飛ぶと、再びこちらに向かって飛びかかってきた。
俺はもう一度剣で弾こうとしたが、バランスを崩した状態では思うように踏ん張りが利かず、横に逸れた牙が脇腹を掠った。
「ぐっ……!」
「に、兄ちゃん! やっぱり無茶だよ!!」
「来るなッ!」
駆け寄ろうとするラキを手で制し、俺は脇腹を抑えながら再び獣へと向き直る。
手に生暖かい感触が伝わることから、出血しているのは間違いなかったが、不思議と痛みは感じられなかった。
「何でだろうな」
「えっ?」
「きっと、この魔物だって俺からしてみれば格上の魔物だってのはわかってる。ましてや戦おうとするなんて、誰が見たって自殺行為だってこともさ」
ラキは俺の言葉に首を傾げる。
「でもよ、この剣のおかげかな……不思議とこいつには負ける気はしねーんだよ」
俺は最初に対峙した時と同様に姿勢を低く落とすと、剣を腰元に構えて深く息を吐いた。
「ガルラァァァ!!!」
「飛びかかるだけが脳の奴なら尚更なぁ!!」
鋭い牙を剥き出しにしながら、猛スピードで接近してくる獣の動きが手に取るようにわかる。
俺はその軌道に合わせて素早く剣を抜いた。
「一閃ッ!」
大きく開かれた口の中心から水平に上下が真っ二つに切り裂かれると、獣はそのスピードを落とすことのないまま、俺の後ろで大きな肉塊へと変わり地に落ちた。
「凄い……」
ラキがそう呟くと同時に、俺の中で聞き覚えのあるファンファーレが鳴り響くと、視界の隅に小さくウインドウが表示された。
【 ウィル は レベル が あがった! 】
【 ウィル は 治癒下位魔法 を 覚えた! 】
【 ウィル は 炎下位魔法 を 覚えた! 】




