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師匠★無双〜俺がパワーレベリングされた訳〜  作者: 名明伸夫
第1部〜王都へ〜
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episode14【魔の森狂想曲②】

「なぁ、兄ちゃん達。本当にここで降りるのか? 今なら俺と一緒に引き返すことも出来るんだぜ」


 じりじりとこちらに迫るトロルロードの群れを見ながら、馬車の男はロエルに聞いた。


「えぇ、お気遣いはありがたいですが、私たちはここで大丈夫です」


「そうかい……それにしても普段は大人しいトロルロードがこれだけ殺気立ってるってのは、一体どういう訳だ?」


「おそらく、“彼ら”の仕業でしょうね」


「彼ら?」


「酒場で出会った賞金稼ぎの兄弟と、女性の魔法使いですよ。群れの中にはよく見れば、手傷を負っている者がいます。後から来る私たちを足止めする為にわざとトロル達を刺激したんでしょう」


「なるほど。あいつららしいやり口だな」


「ウィル。ここであなたに言っておくことが二つあります」


「なんだよ」

 突然のロエルの言葉に俺は身構える。


「まず一つ、ラキを守るのはウィルの使命だと思ってください。そして二つ目は、自分に降りかかる火の粉は自分で払ってください」


「それって、つまり自分の身は自分で守れってことか?」


「そうです。ウィルの場合は“自分とラキの身”ですがね」


「でっ、出来る訳ねーだろ! こっちはレベルよ──」


「ウィル、すぐに諦めるのはあなたの悪い癖です。言っておきますが、あなたのレベルは4ですが、私の渡した剣を装備すれば、能力的にはこの状況を突破できるだけのものは十分備わっています。後は、ウィルのやる気次第ですよ」


「ぐっ……わかったよ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!!」


 俺はそう言って、勢いよく馬車を飛び降りた。


 地面に降り立ち前を見据えると、気が付けば俺達とトロルの距離はかなり縮まっており、目を凝らさずともその表情まではっきりと見てとれるようになっていた。


「数にして7体、いや8体ってところか。ラキ、俺から離れるなよ」


「本当に……大丈夫なの?」

 馬車から降りたラキは、不安そうな面持ちで俺を見た。


「ここまで来たらやるしかねーだろ。この林道沿いに進めば、目的の大物まで辿り着けるんだよな?」


「うん、地図ではそうみたいだけど……」


「二人ともお喋りはそこまでです、来ますよ」

 ロエルがそう言った途端、先頭にいたトロルロードが大きな棍棒を振り上げ、駆け出してきた。


「グァォォォ!!」


(──速いッ!!)


「横に飛べっ!」

 俺はラキの手を強く引っ張り右側へと跳んだ。その直後、周囲に激しい衝撃音と砂埃が舞う。


「ごほっごほっ、無事か?!」


「だ、大丈夫!」

 先ほどまで立っていた場所は、棍棒の衝撃で地面が大きくえぐられていた。


「マトモに喰らったら終わりだ、全部避けるぞ」


「そんな、無茶だよ!」


「来るぞっ!」


 俺がそう叫んだ瞬間、トロルロードは振り下ろした棍棒を今度は横薙ぎに払った。

 反射的に後ろに下がったが、棍棒の風圧が鼻先をかすめる。


「あっぶね……」


「ハァッ、ハァッ、ハァッ」

 間一髪で避けたラキだったが、あまりの恐怖に呼吸が乱れ、その場に尻餅をつく。


「おい、しっかりしろ! 母親を助けたいんだろ!」

 俺はラキを抱え起すと、手を引いて全速力で走った。


(戦わなくていい、ここさえ切り抜ければ──)


 先にやってきて傷を負わせた奴らを追い続けず、後から来た俺達を狙うトロルの群れを見て、俺は一つの仮説を立てていた。


「こ、こっちは林道じゃないよっ」


「わかってる! ただ、まずは奴らから距離をとるんだ」

 俺とラキは生い茂る藪の中へと飛び込み、そのまま奥へ奥へと走った。

 夕闇が隠れ蓑になったおかげか、進むにつれて次第に周囲にトロルの気配は感じられなくなった。


「……逃げ切ったか」


「ハァッ、ハァッ、ちょっと休ませて……もう走れない……」

 ラキは息も絶え絶えな様子で、力なく座り込んだ。


「まぁ、ここまで来ればあいつらも諦めるだろ」

 俺はもう一度辺りの様子を確かめてから、ラキの隣に腰を下ろした。


「もう一人の兄ちゃん、平気かな……」


「ロエルなら大丈夫だ。普段はあんなんだけど、あいつは殺したって死なねーよ」


「ふふっ、変な例えだね。そういえば、どうしてここまで来れば平気だってわかったの?」

 ラキは思い出した様に俺の顔を覗き込む。


「トロルが先に入った奴らじゃなく、後から来た俺達を襲ったのを見て、なんとなくあいつらにも縄張りみたいのがあるんじゃないかと思ってさ」


「縄張り?」


「あぁ、だからその縄張りの範囲から出れば、それ以上は追ってこないんじゃないかってね。あ、言っとくけど何の根拠も無いから周りには用心しとけよ」


「なるほど……兄ちゃんって案外頭良いんだね!」


「案外は余計だ。はぁー、それにしてもいきなりこの仕打ちはキツいぜ……」

 そう言って項垂れていると、ラキはしばらく一点を見つめて何かを考えているようだった。


「あ、あのさ……」


「ん、何だよ?」


「もし、仮にだよ。僕たちが今いる場所がトロルの縄張りじゃ無かったとして」


「あぁ」


「そこがトロルじゃない魔物の縄張りってことはない……よね?」


「………」


「何か、後ろに気配を感じない……?」


「………おい、ラキ」


「え?」



「そういう事はもっと早く言えこのヤロー!!!」


 俺は咄嗟に剣を抜いて振り返った瞬間、茂みの中から()は現れた。

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