episode12【その名はラキ】
「兄ちゃん達、魔の森に行くんだよね?」
「君は……?」
俺は突然声をかけてきた少年を見つめながら声をかけた。
「僕はラキ、この街で漁師の手伝いをやって暮らしてる。さっき兄ちゃんが酒場でテッド達と言い争ってるのを聞いちゃってさ」
ラキは伏し目がちに俺の方をちらりと見た。
「言い争ってるって、別に俺は何も──ウグッ」
「それで、私たちが魔の森へ行く事とあなたに何の関係が?」
ラキに抗議しようとする俺の口を塞ぎ、ロエルは品定めするような視線をラキに向けた。
「……母さんが、病気なんだ」
「病気?」
「お医者さんは難しい病気だけど、治らない病気じゃないって言ってた。でも……薬を作るには“スリーク草”っていう薬草が必要だって……」
「なるほど、それでその薬草があるのが魔の森って訳だな」
俺がそう言葉を繋げると、ラキは無言で頷いた。
「それで、あなたの要件は?」
「……僕も、兄ちゃん達と一緒に魔の森へ連れて行って欲しいんだ!」
ロエルの言葉にラキは真っ直ぐに俺たちを見据えると、力強く答えた。
「あのなぁ、魔の森ってのはヤバい魔物がウジャウジャいる場所なんだぜ。そんな所にお前みたいな子供を簡単に連れて行けるかよ」
「そんなこと分かってる! ……分かってるけど、母さんのために少しでも何かしたいんだ。でも、僕一人じゃとてもあんな所には行けないし、他に頼れる人だって居ないんだ……」
「ったく……。どうする、ロエル?」
俺はため息をついてロエルを見ると、ロエルは目を細め、何故か口元に薄ら笑いを浮かべていた。
「ロ、ロエル?」
「……おや、失敬。あなたはラキ、と言いましたね?」
ロエルは再びラキに視線を戻し、ラキの目をじっと正面から見つめた。
「はい!」
「あなたの熱意とその気持ちを尊重して、同行を許可しましょう」
そう言ってロエルはにっこりと笑った。
「本当!?」
「ただし、知っての通り魔の森は危険に溢れています。我々について来たからとは言え、安全に薬草を採れる保証はないことと、あくまで目的はトロルの討伐だということをしっかり覚えていて下さいね」
「あ、ありがとうございます!」
「おいおい、本気でこの子供を連れて行くのかよ?!」
「もちろん、二言はありませんよ。彼の力強い意思は本物です。それにウィルにとっても何かを守りながら戦うことは修行の良い機会になりますからね」
「んな……」
唖然とする俺を尻目にロエルは馬車に乗り込むと、ラキも深々とお辞儀をして後に続いていった。
……討伐推奨レベル30〜40の依頼で、レベル4の俺が何をどう守りゃいいんだよ。




