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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第3章 アヒルもきれいな白色
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1.カリムの休日コース

梅乃視点です

1.カリムの休日コース



「ねぇ、カリムって普段何してるの?」



 特に予定のない日曜日。

 少し遅めにダイニングルームに行けば他のメンツはおらず、カリムしかいなかった。


 というのもテオとクリスは例の如くバイトで、ハンスは休日なのに学校で作業があるとか。ハインさんは今日も相変わらずカフェに繰り出しているようで、他の3人もどこかに出かけていないみたい。


 なので今日は家にカリムと私の二人きり。

 アサドもクリスもいないことだから久々に私が二人分の昼食を作って、ちょうど今食べ終わったところだ。



 そして皿洗いをしているときにふと思ったことをカリムに投げつけた。


「何でいきなりそんなこと聞いてくるんだ?」


 カリムはきょとんとした顔で私を見下ろしている。


「えーだってカリムもアサドも本来はあの5人の監視役で来てるわけじゃない? その割にいつ監視してるのか謎だし。ハインさんみたいに主人ほったらかして何かやってるのかなっと思って」


 私はカリムから受け取った皿を布巾で拭きながら言った。

 だってその通りだよね? 世話役を私にお願いして魔神たちが何してるのか謎だよね?

 別に世話役が嫌って言うんじゃないんだけれど。


 するとカリムはどこか考える素振りを見せる。


「うーん、別にハインみたいに何か特別にしてるってわけでもないんだが……」


 そこまで言うと、カリムは皿を洗いながら私の方に顔を向けてきた。


「気になるっていうんなら俺の休日コース案内するぞ?」


 カリムはにかっとさわやかに笑って言ってきた。

 カリムの「休日コース」とはいったい何なのだろうか。

 これを聞いて首を横に振るやつはいないだろう。少なくともそんな気になるワードを突きつけられて素通りできるわけがない。


「うん、よろしく」


 すかさず私は頷いた。





 お昼の片づけを終わらせ身支度を軽く済ませてから、私とカリムはマンションの外に出た。

 そしてカリムの歩くままに私もついていった。





 まずカリムが向かった先は、家から徒歩圏内に位置する河童公園だった。


 休日であるからか、公園内はそれなりに人でにぎわっている。

 そんな中に長身のアラブ人が悠々と慣れた足取りで入っていく。当然人々の注目を浴びまくっている。

 普段家ではアラブ服を着ているカリムは、外出ということもあって今日は七部袖のTシャツにスキニーデニムというすっきりした格好でいる。そのため、自然に人々の中に紛れ込めそうではあるけれど、カリムもカリムで王子たちに負けないくらいのさわやかイケメンであるため、人目を惹きまくりだ。


 そんなことをつゆも気にする様子もなく、カリムは公園の小道を先へと進んでいく。

 そうして着いたのは、河童公園の真ん中にある池だった。

 カリムは池の柵に寄りかかると、池の主の河童、沼男さんを呼んだ。


「おい、沼男。今日も来たぞ」

「呼ぶにしては雑な呼び方だな」

「いいんだよ、いつもこれであいつ来るから」


 あまりに適当な呼び方に突っ込んだらカリムがしれっと返してきた。

 まぁ古い付き合いらしいから別にこれでもいいのかもしれないけれど。


 すると池の水面が揺れ、真ん中に緑色の皿が浮かび上がった。

 そしてひょこっと顔だけ出して沼男さんが現れた。


「おいでなさいでやんす。お、今日はサクラウメ殿も一緒でやんすね」


 と、顔だけ出した状態で柵の方まで近づいてきた。


「お久しぶりです」


 私は沼男さんに会釈する。沼男さんも池の中で頭を下げる。

 あの花見以来、会うのが2回目だ。


「と言ってもまぁすぐにいなくなるけどな」


 すると隣からカリムのそんな声が聞こえてきた。


「え? そうなの?」

「まぁ、いつも軽く近況報告聞くくらいだし」


 そんなものなのか。

 まぁ普段からよく会う仲らしいし、そんなものなのかな?



 それから沼男さんとここ一週間の動向を報告し合ってから、公園を後にした。

 カリムの言ったとおり本当に軽く近況報告し合うだけだったから、「え、それでいいの?」と思わず聞いてしまったほどだ。

 案外おとぎの国の男の付き合いってのも、ここの世界と同じであっさりしているのかもしれない。







 次にカリムが向かった先は、河童公園から15分ほど離れたところにある美術館だった。

 なんとなくカリムが美術館に行くというのは結びつかなかったので、かなり意外だった。


「カリムって美術館とか来るんだね」

「まぁ、いつもってわけじゃないけどな。博物館だったり図書館だったり水族館だったりいろいろだ」


 うーん、ますますカリムが普段何しているのか謎になってきた。

 さっきの沼男さんとのやりとりはまだ古い友人だから分かるんだけれど、美術館とか博物館とかに何の用事があるのだろうか?

 単にカリムがそういうものに興味があるってだけなのかな?



 この美術館、私の家からも徒歩圏内にあるからいつでも来れると思って一度も来たことがなかったけれど、モダンアートの美術館らしい。美術館の外装がらせんを巻いていたり、中も不思議な天井をしていたりと、建築様式からもモダンアートの雰囲気が伝わってくる。



 中に入って美術館のあちこちに視線を向けつつ受付の方に行こうとしたら、カリムに腕を引っ張られた。


「俺らはこっち」

「え、だってチケット買わないと」

「大丈夫大丈夫。顔パスだから」

「え?」


 そんなよく分からないことを言いながらもカリムは私の腕を引っ張って展示フロアの入り口の方まで行く。

 そこまで行くと当然チケットもぎりの人がいて半券を回収している。しかし、その人はカリムの顔見るなりお辞儀をするだけに止まり、特にチケットを出してくださいとか言わずに展示フロアへ通してくれた。


 え、どういうこと?

 顔パスとか言ってたけれど、何でこの人こっちの世界の美術館で顔パスになってんの!?


 私は理解出来なさすぎてカリムの顔をじっと見た。

 カリムはそれに気がついて少し眉をひそめた。


「……なんだよ」

「いや、だって色々不自然じゃない?」

「そうか?」

「うん」


 正直なところ、不自然さでいえばカリムが美術館に来るってあたりから違和感ありまくりで、しかもその美術館がモダンアートってあたりもなんだか結びつかなすぎて意外すぎる。

 まぁこれが本当にカリムの趣味ならこう思うのも失礼なのだけれども。


 するとカリムはどこか気まずげな表情を浮かべて頬を掻く。


「んーまぁ確かに不自然といえば不自然か。まぁ、ここにはそれなりに来るから従業員に覚えられたってわけだ」

「うーん? 年パスも買わずにってこと?」

「そういうことだ。いいから大人しく観てろって」


 とカリムは私の頭をこつんと叩くと、中の展示品を一つ一つ見始めた。

 なんとなく無理矢理誤魔化されたようで釈然としないものが残るが、あれこれ詮索しても無駄のような気がしたので、私も大人しく展示品を見ることにする。


 モダンアートっていうこともあり、不思議な形をしたオブジェや一見カオスに見えるような絵画が多く展示されている。それがおしゃれな物に見えるからアートって不思議だと思う。一体こういうものを作る人の脳内ってどうなっているのか見てみたい気もする。


 そんなことを思いながら一つ一つ見ていたら、気がつけば私一人先へ進んでしまっていたみたいで、カリムの姿が見えなくなっていた。

 少し戻ってカリムを探しに行けば、2フロアほど前にあるオブジェの前にいた。

 声をかけようと思ったけれど、なんだかかけづらい雰囲気を放っていた。



 タコの足のような物が飛び出ている花瓶型のオブジェを、カリムはどこか探るような目つきで眺めていた。




長いのでちょっと切ります。デート続きます

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