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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第2章 落とし物はこれですか
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12.カエルを愛でる会

バレーボール大会後半戦!

12.カエルを愛でる会



 昼食が終わり、4回戦があちこちで開始する。

 4回戦にもなると残るチームは8チーム。決勝トーナメントになっていた。

 私たち21レジデンスの他に残っているのは農学部森林環境学科3年のチーム「すぎ花粉」、農学部2年生のチーム「アグリとグラ」、理学部生物学科3年のチーム「二重らせん」、同じく理学部地球惑星学科2年生のチーム「ジェダイ」、工学部建築学科3年生のチーム「パルテノン」、同じく工学部機械航空3年生のチーム「大和」、そしてフレッシュな工学部建築学科1年生のチーム「ヌルヌルノイン」。どのチームも過半数が男子だ。

 そして4回戦目、つまり決勝トーナメントの1回戦の相手はチーム「ヌルヌルノイン」。


 何だよ「ヌルヌルノイン」て!ってそのネーミングに卑猥なものを感じて口に出してしまったが、フリード曰くドイツ語で「009」のことらしい。



 そして知らなかったがその009にはカールがいた。



「よ! カエル兄に梅乃。次対戦相手なんだってな! コテンパンにするから、負け台詞考えとけよ」



 と、わざわざ21レジデンスのシマに単身乗り込んでそれだけ言って去っていった。

 少なくとも2コ上の先輩ら相手に、超生意気な外人1年生だった。

 しかし、21レジデンスの他のメンバーはそんなことは気にしなかったようだ。

 それどころか。


「えー! 何あの子! めちゃくちゃかっこよかったー!!」

「梅乃本当にいつの間に知り合ったの!?」

「てかカエル兄って何だよ? フリードのことか!?」

「てかフリードよりあの子の方が日本語上手かったよなー」


 と、黄色組も暑苦組もメンバーも口々に言ってくるが、少なくとも私とフリードはどの質問にもまともに受けきれなかった。

 これまでフリードがドイツ語や英語、カタコト日本語で喋って誤魔化していたのに、カールは普通に喋ってきやがった。それどころか「カエル兄」などと言ってはいけないことを言ってきた。


 そんなため息を吐きたいところに恭介がぼそっと言ってくる。


「本当にお前、国際色豊かだな」


 それに夏海も便乗。


「ホントにね」






 チーム「ヌルヌルノイン」、略して「009」との試合まで15分ほど間が空いていたので、体育館ロビーに飲み物を買いに行く。

 そこでまたもや遭遇してはいけない人に遭遇してしまった。



 ハインさんだった。



 体育館ロビーの物置倉庫のあたりでたくさんのチアガールを侍らせていた。

 見てはいけないものを見てしまったので私は回れ右。



「お待ちください梅乃お嬢様」



 しかし、その側近は私を逃してはくれなかった。

 それどころか「梅乃お嬢様」。頼むから外で呼ばないでくれ。


「あ、こ、こんにちは。何してるんですか?」


 私は顔が引きつりそうになりながらもハインさんに笑顔を向ける。

 ハインさんはチアガールをそこにとどまらせて私のところへやってくる。

 彼女たちの好奇と不審な目が痛い。


「何って、フリードの応援の準備に決まっているじゃないですか。彼女たちにはそのために集まってもらったのです」

「はぁ……」


 なんて勝手なことをしているんだ、この側近は。

 これ絶対フリード怒るよー。

 家帰ったらふるぼっこにされるだろうな、この人。


「チアガールたちのチーム名は『Froschliebehaber』。ドイツ語で『カエルを愛でる会』という意味です」


 うわーどれだけフリードに嫌がらせしたいんだこの人!?

 それともフリードが好きなの? 好きすぎてカフェの店名にもチアチーム名にも「カエル」入れてるの?

 いや、それでも絶対フリード怒るだろうな。

 今日の夜とかネチネチだよー! ネチネチグチグチ絶対言うよ!


「ほら、あの小癪で小生意気なコゾウに一泡吹かせなくてはいけませんからね」


 そしてカールを小僧呼ばわりしたよ!

 てか一泡吹かせるのはフリードの方であってハインさんじゃないから!

 

 ハインさんはそこまで状況を説明してくれると、私に何かを差し出してきた。

 見れば色とりどりのポンポンと後ろの「カエルを愛でる会」の子達と同じワンピース。


 え!? これを私に着ろと!?

 「カエルを愛でる会」に入れと!!


「いやいやいやいやいや! 無理だから! 絶対着ないから! 無理だから!!!!」


 私は全力で拒否した。

 しかし、この側近は一度言い出したことは突き通す主義。


「何を言うのです。Froschliebehaberのリーダーは梅乃お嬢様、あなたなのですよ? なのに着ないわけには」

「いやいやいや! 私一応選手だから! てか何で勝手に私をリーダーにしてるの!?」

「それはフリードのこんや――」

「いやいやいやいやいやいや!! 違うし! 絶対着ないから!!!!」


 私は全力でその場を逃げ出した。

 ハインさんの目がやばかった!

 両手でチア衣装を持って詰め寄ってきてたよ!!

 てか「婚約者」と言おうとした!?

 どこまであの人の頭の中で私とフリードの関係がエスカレートしてるんだー!?


 ただ飲み物を買いに行ってただけなのに、全力で走って21レジデンスに戻ったため、みんな不審な目で私を見てきた。


「梅吉、試合に出るための準備体操でそんな走ったら意味ないじゃん」


 と言うのは神崎。





 そうこうしているうちに試合の時間がやってきた。

 さっきのカールの発言もあって、試合に出るメンバーは私、フリード、神崎、阿部くん、恭介、大沢。

 大沢曰く、ここで隠し兵器の登場らしい。

 果たしてフリードは大丈夫なんだろうか?



 対する009は全員男子チームだ。

 コートに立つとネットの向こう側でカールが挑発的に笑ってきた。

 おそらくフリードにもその顔を向けただろう。

 というか、フリードがまともなバレーの試合初めてなら、カールも初めてなんじゃないの!? と私は思ったけど、その余裕な態度に一抹の不安を感じた。


 それが顔に出ていたのだろうか、恭介がぽんと背中を叩く。


「気にすんなよ、あんなのただの挑発だ。やるだけ負けた後空しくなるんだぜ」


 とにかっと笑ってくる。

 確かに。勝ってやって悔しい顔をさせてやろうと思った。



 始まる前に両チーム円陣を組む。

 こっちは大沢の掛け声。


「3年生の威厳を見せてやるぜ! 必勝! 21レジデンス!!」

「「「「「「ぉおおおー!!!!」」」」」」


 向こうではリーダーの子の掛け声。


「俺たちの若さを見せつけてやろうぜ!」

「「「「「「00(ぬるぬる)、00(ぬるぬる)、009(ぬるぬるのいん)!! おおおおおおおーーーーー!!!!」」」」」」


 そして掛け声はそれだけではなかった。






「「「F、R、O、S、C、Hカ・エ・ル!! (ぱんぱんぱん)カ・エ・ル!!」」」

ピッピッピッピッピー!!






 21レジデンス声援隊でもなく、009声援隊でもないところから上がった声援を見やれば、色とりどりのポンポン両手に足を上げて踊る『Froschliebehaber』の皆さん。さっきは気がつかなかったけど、チアワンピースの胸の部分に「Ich liebe Frosch」と書かれている。

 その中央にはいつの間に着替えたのか、長ラン姿のハインさんが口に笛を咥えながら、白手袋を付けた両手で日の丸の書かれた扇子を振っていた。


 その様子に一同唖然。

 誰が一番唖然としたかというと、もちろんフリード。

 しかし、恥ずかしさからなのか怒りからなのか、フリードの顔は見る見るうちに赤くなっていった。


「早く終わらせるよ」


 と、ぼそっと言ってきた。

 眉間に寄せたしわははち切れんばかりだった。






 現在22-23。

 21レジデンスが負けていた。

 だが、どっちかが先に出てはどっちかが追いつくという、かなりの接戦であるため、始まる前は余裕ぶっていたカールの表情は少し曇りかけていた。


 それもそのはず、こっちには神崎と阿部くんの経験者の二人に加え、運動神経のいい恭介と大沢が揃っている。

 向こうも向こうで、バレー経験者が3人混じっていた。


 それだけでなく、フリードもカールも凄かった。


 恭介の言うとおりセンスが良く、大沢が言うとおりにフリードは隠し兵器だった。

 長いカエル生活で鍛えられてきたのか、ジャンプ力は強く、滑り込みも上手い。おまけに観察力も鋭く、手先も器用にボールを扱っていたため、ことごとく向こうのレシーブを返し、ことごとくブロックをしていた。ここまでフリードのブロックで入った点は12点。


 対するカールも、王子教育で鍛えられてきたのか、運動神経はかなりいい方で、フリードと同じく小手先が器用、その上腕の力も強かった。そのため、非常に絶妙に経験者の子にトスを回しつつも、自分も強いアタックを繰り出していた。ここまででカールが入れた点数は14点。


 どちらも初心者のくせに経験者以上に点を入れていたのである。





ピッピッピッピッピー!!

「「「F、R、O、S、C、Hカ・エ・ル!! (ぱんぱんぱん)カ・エ・ル!!」」」





「いやぁ、フリードのファンは相変わらずすごいなぁ」


 と神崎が感心。

 しかし、試合の方が接戦状態であるため、始まる前は爆笑していたのが今では苦笑いに変わっていた。

 本当にあの側近迷惑だな。




 そして接戦のままデュースに持ち込む。

 21レジデンスが一歩後退している。


 カールのサーブだ。


「カエル兄、これで決めてやる!」


 フリードに向かって叫ぶと、カールはジャンピングサーブを出してきた。


「梅吉!」

「梅乃!」

「はい!」


 そのボールが私のところに来たのでレシーブを返す。

 しかし思った以上にカールのサーブの力が強すぎて、上がったボールは009チーム側へ飛んでいってしまう。


「うああごめん!」

「気にすんな!」


 飛んでいったボールを009の非経験者の子が確実にボールをとった。

 それをカールが経験者の中でも一番上手い子に回す。

 右サイドに上がったボールを、高く飛んだ男の子が鋭くアタックする。


「よし!」

「取った!」


 と向こうがガッツポーズを決めるものの――――。


「ナイスフリード!!」

「まだ行ける!」


 と、ボールがこっちのコート上で上がっていた。

 フリードがギリギリになりながらもスライディングレシーブで取っていたのだ。


「大沢!」

「まかせろ!」


 神崎が上げたボールが大沢に向かう。

 大沢が鋭角な角度でアタックした。


 009側は油断しかけて防御の手が緩んでしまっていたため、それを取れなかった。


「くそ、まだ続くのかよっ」


 と009の子がうんざりしたように言う。

 だがこっちも負けられない。


「行くぜ! 俺のサーブ!」


 今度は大沢がサーブだ。

 向こうに回ったボールを009の子が確実に取る。上がったボールを経験者の子がツーアタックで決めようとしてきた。

 しかしそれをフリードがブロック。

 ブロックした球は、アタックを繰り出したこの手に当たって床に落ちる。



ピッピッピッピッピー!!

「「「F、R、O、S、C、Hカ・エ・ル!! (ぱんぱんぱん)カ・エ・ル!!」」」



「あーうるさい」


 とフリード。

 しかしこれで21レジデンスが一歩前進した。


「次で決めるぞ!」


 と声を上げるのは大沢。


「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」

「「「「21レジデンス頑張れーーー!!!!」」」」


 声援隊の熱い声がかかる。

 一人ずつ声もかけられ、再び緊張感が走る。



「大沢、いけー!」


 大沢が力強いサーブを繰り出す。

 それをカールが取る。経験者の子が上手い子に回し、バックアタック。

 しかしそれを阿部くんがレシーブ。


「佐倉さん!」

「はい! 神崎!」

「任せろ!!」


 回ってきたボールを右サイドにいた神崎に向かって上げる。


「取らせるもんか!」


 と向こうが長い腕でブロックをしてくるが――。


「かかったね」


 と、神崎は舌を出しながら、アタックではなくふわっとしたフェイント出す。


「よっしゃ!」

「今度こそ!」


 と、私たちはガッツポーズを決めかけたが、床に落ちるギリギリでそのボールは上げられた。


「カール!」

「行くぞ!」


 そのボールはカールへと回され、カールが左から力強いアタックを出してきた。

 大沢と恭介がそのブロックに携わった。


 しかし――――。


「やばい!」

「あああ!」


 ブロックで大沢の手に当たった球は、ネットすれすれでこっちのコートに落下する。



「―――くっ!」

「まだだ! 行ける行ける! 梅乃!!」

「はい! あぁ、でも弱いかも!」

「くっっ仕方ない!!」


 また同点かと思われたとき、フリードが落ちかけたボールを取った。

 しかしコントロールが上手くいかず、後ろに行った飛んだそれを私が何とか取るものの、攻撃までは行かなかったため、009側に送り出す。


「こっちだ! こっち来たぞ!!」

「チャンスだ! これでまた追いつくぞ!」


 と009は確実に回った球をスリー攻撃で決めにかかる。


「まだまだだぁ!」


 と上手い子が右サイドからスパイク。

 

「やらせるか!!!!」


 と恭介と神崎の二人でブロック。

 恭介の手に当たったそれは、009側のコートに落ちかける。


「絶対取る!!」


 とカールがレシーブするが、コントロールが上手くいかなくて、ネットに当たってしまった。



ピーーーーーーーーーーーーーーー。

「47対45で、21レジデンスの勝ち!!」



 審判を務めていた委員会の子が声を上げる。



「勝った……」

「勝ったぞ……!!」

「うわああああ!!!!」


 と、21レジデンスは6人が6人してハイタッチをし合っていた。

 息を切らしながらも、みんなで円陣組んで喜びの声を上げていた。


 対する009はというと。


「あー負けた。悔しい」

「惜しかったなぁ」

「てか疲れた……」


 と、床にへばりついて落胆する子もいれば疲労で寝転がる子もいた。

 これで009は敗退。といってもベスト8。



 あれだけ大口叩いていたカールはと言うと、床にうつぶせで寝転がりながら悔しがっていた。



 その後21レジデンスは準決勝に進出したが、009と47対45までの泥沼試合で有力人員が疲労していた上に、6人も経験者を揃えてきてその上4人もマスター(現役)を出してきた理学部地球惑星学科2年のチームジェダイに惨敗。

 躊躇なく鋭いスパイクを決めてくるジェダイが完全に暗黒側に見えたのは私だけではなかっただろう。

 それでもベスト4には輝いた。





 表彰式後、打ち上げに行ったが、夜にカエルになってしまうフリードは打ち上げに行かずに帰宅。

 あの素直じゃないツンデレ野郎は、今日は夢中になって楽しんでいたし、ヤツのブロックとレシーブでかなりの点を守られていたのに、打ち上げに出られないのはひどく残念だった。


 みんなも同じことを言っていたが、その話の中でフリードのあだ名がついてしまった。



 当然、あだ名は「カエル」。



 明日からみんなにさんざんからかわれることが決定したフリードに、心の中で合掌した。



とは言いつつ、フリードはかなり愛されてます笑

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