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捨てられた王子たち  作者: ふたぎ おっと
第1章 おとぎの国からこんにちは
29/112

28.報告

梅乃と恭介の絡みです

28.報告


 今日も2時限目から授業なので、昨日と同じく朝食の片付けを私とフリードとカリムとハインで行う。あとの王子たち4人は研究室だのオリエンテーションだので先に学校に出かけていった。アサドは今日も部屋で何かしていた。


 そして昨日と同じく自転車を押しながらフリードと一緒に登校していると、後ろから声を掛けられた。

 振り向けば恭介と神崎こうざきがいた。


「あ、梅吉おはよー。フリードぐっもーにん」

「うーす」

「あ、おはよー」

「オハヨウ」


 神崎が明るく挨拶してくる。恭介はどうやら朝練後みたいで、シャワー浴びたての髪がまだ濡れている。

 こっちもそれに対して挨拶を返したが、フリードがこれまたカモフラージュなのだろうが、カタコトっぽい日本語を喋る。

 うんうん、やっぱり君は出来るカエルだ。


 すると神崎がニヤニヤしながら私を肘でつつく。


「昨日も思ったけど、二人一緒に登校してるよね。なになに? もうそういう仲なの?」

「あんたはすぐ人と人をくっつけたがる」

「えーだってフリード来たの先週末とか今週頭とかそういうレベルでしょ? にしては仲良すぎない? 恭介も思うよな」


 とりあえず冷やかしたいだけの神崎が、どうなのどうなのと聞いてくる。そして無駄に恭介に共感を求める。

 恭介は恭介でいきなり話を振られてきょとんとしていたが、口端を片方だけ上げてニヤリとした顔を向ける。



「まるで一緒に住んでるみたいだな」

「――――ぶほっっ」



 恭介がしれっと核心を突くと、隣でフリードがむせる。

 

 え? え? どうして恭介そこに答えが行き着くの!?

 フリードも一応日本語分からない設定なんだから、そこでむせたらダメでしょ!

 などと、本当のことをいきなり当てられて頭が真っ白になっていると、恭介が言葉を続ける。


「大学に行くのに普通待ち合わせとかしないしな」


 あ、なるほど! 「一緒に登校」っていうのは大学生だと自宅生とか電車で通う人ならあり得る話だが、一人暮らしの場合だとどこかで待ち合わせるか、同棲してるかってことしかないよね。それでもって前者は普通じゃあありえないので後者……。

 うーん、怪しまれないように時間差で出る方が良いのか? なんかそれもそれでどこの高校生だという気分もするが。


 神崎は「あ」と何かを思い出す。そしてニヤニヤ顔で言ってくる。


「じゃあ梅吉、二股だ。悪いヤツ」

「え」


 神崎は両手で私を指差す。

 その手つきやめぃ。


「そうだな、浮気だ」

「だから違うって」


 恭介もそれに便乗。

 この人らは私が別れたことを知らないんだった。だから本当は浮気でも何でもないことを知らない。まぁ仮にまだ続いていたとしても浮気でも何でもないんだけど。


 冷やかしたいだけの神崎は、私を冷やかすだけ冷やかして満足すると、傍らにいたフリードに目をやる。すると、少し目を丸くした。


「あれ? フリード顔赤い。かお、あかいよ?」


 と、フリードのほっぺを指差しながら分かりやすい日本語を話す。

 そんなことをしなくても本当は分かっているフリードなのだが、確かに心なし顔が赤い気がする。というか、眉間にしわを寄せた不機嫌顔だ。


「あれ? こいつ照れてんの?」

「う……うるさいっ」

「あはは、照れてる。かわいー」


 フリードが照れてるのかどうかはさておいて、神崎はいじりの矛先を私からフリードへと変えたようだ。フリードはほんのり赤くなっていただけの顔が、だんだん赤みを増していく。それをまた神崎がからかうという構図が出来てしまった。


 神崎はフリードの首に腕を回すと、二人で先に歩いていく。


 その後ろから自転車を押しながら恭介と歩く。


「それにしても梅乃、最近国際色豊かだな。一昨日もアラブ人連れてたし」

「うーん」

「それにイケメンばっか」

「うーん…………」


 正直これに関してはコメントしづらい。

 まさかそのイケメンたちと一緒に暮らしてるなんて言えないし。まさか3日目にしてそれに馴染んでしまっているというのも、自分でも驚きだ。


「ほどほどにしないとそのうち捨てられるぞ?」

「うーん……」


 これまたコメントしづらいことを言ってきた。

 冗談のつもりで言ったのだろうが、冗談ではないというところが痛いポイントだ。

 こういう冗談をなくすためにも、早めに報告した方が良いのだろうか。


 何とか返す反応を探していたが、そういう機微にすぐ気がつく恭介は、何かを感じ取ったようだ。


「なんだよ、歯切れ悪いな。もしかして冗談じゃないとか?」


 ほら、また核心付いてきたよ。

 本当に恭介って頭が良いだけじゃなくてこう言うところも鋭い。

 きっと恭介に誤魔化しはきかないんだろうな、と思いつつ少し抗ってみることにする。


「そんなことないよ。順風満帆、ラブラブだよ」


 と、おちゃらけながら隣を歩く恭介を下から覗き込む。

 だけどそうしたのは間違いだと思った。


 恭介が私に冗談として言ってきたときにどんな顔してたか見てないから分からないけれど、口ぶりからすればまだ目は笑ってたんだと思う。

 だけど、今見た恭介の顔は真顔で、その目は私の顔に隠した何かを探るような眼をしていた。同時にどこか私を案じているような色をしている。


 これはもう誤魔化せないと思った。


「…………冗談じゃ、ないんだな?」


 恭介はゆっくりと確かめるように聞いてくる。

 

「…………うん、別れたよ」

「いつ」

「3月あたま」


 恭介は眉を寄せるとばつの悪そうな顔をして鼻で息を吐く。

 その顔は、聞いてはいけないことを聞いてしまったことに対する後悔と気まずさなのか、それとも折角自分が紹介したのに別れてしまったことに対する憤りなのか、少々判断しかねる。

 正直恭介に言えなかったのは後者が理由だ。

 相手は恭介の剣道部の先輩で、その先輩に恭介はかなり可愛がられていたのだからなおさらだ。


「何で別れたんだ?」

「…………それ、言わなきゃダメ?」


 ”どうして別れたか”については、理由は明白だ。だがその理由を述べるのは、正直喉に突っかかるものがある。あまり良い別れ方じゃなかったから。というより、あまり思い出したくないことも結構あったけれど。


「言えないようなことされたのか?」


 ”したのか?”という疑問系じゃないことにこっちが疑問。自分の大事な先輩よりも私を庇うというのだろうか。

 その核心を突いたような真剣な眼差しが私を刺す。


 きっとこの人に嘘は通用しないだろう。


 だけど私はにへらと笑う。


「ほら、男って彼女の前だと変わるって言うじゃない? 昴先輩は恭介にとっても憧れの先輩なんだから、そんなことでイメージ崩したくないでしょ?」


 私がなんとかそれっぽく誤魔化す。

 恭介はわずかに眉をひそめたが、もうそれ以上は無理に聞き出そうとしなかった。

 その代わり、私の頭に手を乗せて、心配そうな顔を向けてきた。


「それで最近元気なかったんだな。悪かった」

「あ、いや、私のことは気にしないで」


 最近の元気のなさは、特にここ3日の突然の生活の変化に対する疲れがあったのだろうけれども、ここはそういうことにさせてもらおう。

 恭介はぽんぽんと私の頭を叩く。




「あ、そういや、今度の日曜日、資源生物で花見しようって言ってるんだけど、お前メーリス回ってる?」


 しんみりした空気を入れ換えるためか、恭介は思い出したかのように別の話題に変えた。


「お花見? あ、そういえばそんなメーリスあったね!」

「そうだよ、梅吉~。メーリス返してないでしょー。大沢が言ってたぜ」


 と、前を歩いていたはずの神崎が”花見”というワードに食いついて戻ってくる。腕はフリードの首から解かれていた。

 ちなみに大沢というのは資源生物学科のまとめ役。


「えー、どうせ返信率悪いんでしょ、それ」

「あーあ、大沢泣くよ? ちゃんと返せよー」

「ちなみに大沢が女子が少ないって嘆いてたぞ」

「え? 夏海も行かないの?」

「バイトだってよ」


 まぁ、確かに今度の日曜日は4月の第二日曜なのだが、まだまだ新学期開けて間もないので、予定も詰まっているのだろう。


「梅吉来るでしょ? 梅吉来ると盛り上がるから助かるんだけど」

「私?今からでもいいなら勿論行くけど」


 そこまで言って私はフリードを振り返る。

 フリードも留学した今じゃ資源生物学科のメンバーだ。


「ねぇ、フリードはどうするの?」

「お前、普通に日本語で聞くなよ」

「あ、えへへ」


 さっきまでしんみりした話をしていたからか、すっかりその辺のことを忘れかけていた。恭介が指摘しなくても、フリード自身が同じことを思っていたのだろうが。


「ね、フリード。花見分かる? Seeing cherry blossom,next Sunday.」


 神崎が簡単な英語でフリードに説明する。

 おとぎの国でもニッポン地方に行ったことあるらしいし、花見自体は知っているだろうが。


「…………ソレ、ヨルカラ?」


 あ、そうだった。フリードの最大の難点。お花見が夜からならフリードは参加したくてもできない。

 神崎がにかにかしながら答える。


「いやいや、昼からだよ。バーベキューするよ。来る?」


 フリードは首を縦に振る。

 まぁ花見と言えば大体昼からだから問題はない。

 果たしてフリードが”バーベキュー”という言葉を知っているのかは謎だが。


「それじゃ決まり。大沢に言っておくよ」


 と、再び神崎とフリードは前を歩き出す。


 すると、神崎がやってきたことで離されていた手が再び私の頭の上に乗った。


「ほら、みんなでぱーっとすれば嫌なことも忘れるだろ?」


 と上から笑いかけてくる。その笑顔はどこか頼もしげで、どこかしたり顔だ。

 だけど私を案じてくれるその眼差しに、心が温まる気がした。

 だから私も笑顔を返した。

 

「ありがと」

「どういたしまして」




 私と昴先輩の間に何があったかは、やっぱり恭介には言えないし、言わない方が良いと思った。それは恭介の仲での先輩像を崩すわけにもいかないというのもあるし、私がまだその段階まで物事を整理できていないからなのもある。いずれは恭介に話すのだろうが、それには私にまだまだ時間が必要だ。


 だからそのときが来るまでは待っててほしい。




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