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第九話 アルジェント家

結構長めです。

 

 メルさんと別れて数十分後。

 俺は周囲を最大限に警戒しつつ、街中を歩いている。

 周囲の人間の視線にも注意を配り、必要以上にこちらを凝視してくる人の事は特に警戒して通り過ぎるまで視線を外さないようにする。

 最も、多少目を集めてしまうのは仕方ないとも思う。

 だって、ボロボロの馬車が街中を走ってるんだもんな。

 

「カンジ君、そこまで気を張らなくても大丈夫だと思いますよ。流石の奴らもこんな街中では襲ってきたりはしないでしょう」


「……う~ん、一応警戒は続けます」


 確かにラインさんの言う通り。

 街中の人通りの多い場所で攻めて来る可能性は低い。

 ラインさんから聞いた話では盗賊を雇ったと思われるマロン商会もこの街では中々に大きな商会。派手な真似は出来ないと思う。


 しかし、奴らは今回盗賊を雇っての襲撃に失敗した。

 それを御踏まえて、なりふり構わず捨て身で来る可能性もある。

 人間ってのは追い詰められた時が一番怖い。

 窮鼠猫を噛むって言葉もあるしな。

 そう言った俺の考えをラインさんに伝えると。


「成程。確かにカンジ君の言う事も一理あります。はあ、私はアカンサスに帰ってこれた事で気が緩んでいたのかもしれませんね」


「いえいえ、あんな状況から街に帰ってこれて安堵する気持ちは良く分かります。警戒は俺がしておくので、ラインさんは楽にしててください」

 

 そう言うとラインさんはお言葉に甘えてとゆっくり息を吐いた。

 しかし、クレアは起きる気配ないな~。

 よっぽど疲れが溜まっていたのか。

 早く家に連れて行って休ませてあげたいな。

 その想いで歩き続けること数十分後。


「到着しました。カンジ君、ここが我がアルジェント家の屋敷です」


 ラインさんの言葉を聞き俺は目の前の屋敷を見る。

 うっほ~、これは凄いな。

 まさしく大豪邸、俺もこんな家に住んでみたいね~。

 いや、けど掃除が大変そうだし別にいいか。

 けど、そういうのってメイドさんとかがやってくれるのかな。

 メイドさんに世話をされて悠々自適の生活。

 いや~憧れますね~~。


 そうやって俺が下らない妄想で鼻の下を伸ばしていると、屋敷の扉が開き中から髭が濃いがっしりとした体格の男性が姿を現す。


 服装から察するにこの人は執事さんかな?

 ダンディでカッコいいわ~。


「ライン様とクレア様、無事にお戻りになられて何よりでございます。そして其方の方が今回の危機を救ってくれた御仁で?」


 ん、もう襲撃の話が伝わってるのか?

 そうして疑問に思うが何でもこの人はボロボロの馬車を見て大体何があったのかを推理してしまったとか。執事って凄いね。


「彼の名前はカンジ君。彼ともう一人、メルクリア君がいなければ間違いなく私とクレアは盗賊による襲撃で命を落としていたでしょう」


「やはり……。カンジ様、私の名前はバトラ。ここアルジェント家で執事長の役職を頂いています。この度はライン様とクレア様の命を救って頂き感謝します」


 バトラさんはそう言って俺に頭を下げる。

 物凄く綺麗な姿勢、そして足元に落ちる涙。

 よほど主人が無事に戻ってきてくれて嬉しかったんだろう。

 ラインさんもクレアも慕われてるな。


 それから俺達は拘束してある盗賊をバトラさんの部下に任せて、バトラさんを先頭に屋敷の中へ入っていく。


 屋敷の中を歩くと何人かが俺を怪しむような視線を向けて来る。

 うん、まあ仕方ないな。

 初対面の人間が屋敷の主の娘を背負っている。

 しかも俺の服装はこの世界では異端。

 こんな状況では怪しむなというのが無理な話だ。

 ちなみに、それを見かねたバトラさんがすぐに事情を説明してくれたので俺にそういった視線を向けていた人達は一転、急に頭を下げ感謝の言葉を口にした。


「申し訳ありませんでしたカンジ様。急だったので説明している暇もなく」


「ああ、気にしていませんのでお構いなく。というより、あれが普通の反応だと思いますよ。それより、どうやら目を覚ましたみたいです」


 屋敷を歩きながらバトラさんと話している内に、背中のクレアが小さく声を上げて動き始めたのを感じた。


「……ん、ここどこ、おうち?」


 クレアは目を擦りながら周りを見て自分の家だと気付く。

 寝起きだからか、前より子供っぽく感じるな。

 そして、クレアが目を覚ましたのを確認してバトラさんが。


「クレア様、ご無事で何よりでございます」


 バトラさんに続いて周りの使用人達も一斉に頭を下げる。

 これを見てクレアは自分の家に帰ってこれたと実感したのか、うん、ちゃんと帰ってこれた、と口にして安心からか目から涙を流した。


 良かったな。

 さて、クレアが目を覚ましたのだからこれ以上は背負ってなくていいか。

 そう思いクレアを下ろそうとすると小声で。


「も、もう少しだけ、このままで……」


「あ~、了解しましたよっと」


 クレアの要望に答えもう少しこのままでいる事に。

 ちなみにこのクレアの様子には使用人の人達は勿論、あの冷静なバトラさんも目を見開き、お嬢様がこれ程にと驚き少し固まっていた。

 この反応を見て、あ~本当に人見知りだったんだなと再確認した。


 その後、数分程歩きやっと目的の部屋へ到着する。

 てか、この屋敷は広すぎな。

 俺一人なら間違いなく迷子だわこれ。


「部屋の中でアイリス様とガリウス様がお待ちです。どうぞ、お入りください」


 そうしてバトラさんが扉を開けたので俺達は部屋へ入る。

 部屋の中には物凄く高そうなソファが数個置いてあり、そこにラインさんがそのまま年を取った感じの男性と超絶に美人な女性が座っていた。


 いや、マジで美人だな。

 メルさんも美人だったが全く引けを取っていない。

 やべ、つい見惚れてしまう。

 そうして俺がニヤけていると。


「カンジさん、お母さんに見惚れちゃ、駄目だよ?」


 あ、ああ、そうだよな。

 初対面の人を余り見続けるのは失礼だ。

 

 ――ん?


 今、クレアはこの女性の事をお母さんって言わなかったか?

 え、いや、そんなまさかね~。

 だって、どう見ても二十歳前後にしか見えないし。

 まさか、クレアの母親がこんな若いわけないよな?


 そんな事を考えながら部屋に入り二人とクレアを下ろす。

 そして二人の向かいのソファに俺が座ると、クレアも俺の隣にちょこんと腰を下ろして俺の近くに寄りかなり密着している形になる。

 

 これを見た女性はまあまあと嬉しそうに嬉しそうに顔を輝かせ、反対に男性の方は少しだけムムっとした表情になって俺を睨んだ。


 あれ、俺ってなんか失礼な事でもしたかな。

 そう思っているとラインさんが気にしなくても大丈夫ですよ。

 あれはいつもの事ですからと声を掛けてくれる。

 う~ん、意味はあんま分からんがまあいいか。

 そう思っていると男性が口を開き。


「ふん、クレアと少々くっつきすぎだと思うがまぁええ。それでライン、この者がお主ら二人の命を救ってくれた者で相違ないか?」


「その通りです父上。こちらのカンジ君と今はいないですがメルクリア君がいなければ私達が生きて帰って来る事は不可能だったでしょう」


 ああ、名前に聞き覚えがあると思ったが。

 成程、この人がアルジェント商会先代会長さんでラインさんの父親。

 あ~、そう言われると確かに凄みがあるな。

 老人とは思えない圧を感じる。


「そうか。ではカンジ君、我々からも感謝を。わしの名はガリウス。ラインの父でクレアの祖父じゃ。そしてこちらが」


「ラインの妻でクレアの母親のアイリスよ~。カンジ君、二人を救ってくれて本当にありがとう。心から感謝してるわ~」


 そう言って二人は俺に頭を下げる。

 俺はいつも通りどういたしましてと無難に返答する。

 ていうか、本当にこの人がクレアの母親かよ。

 見た目もそうだが話し方も非常にゆる~く感じた為に、全く大人として見れない。あえて言うなら近所の若いお姉さんって感じだ。

 にしても、今でこれならクレアを生んだ時って。

 もしかして、ラインさんってロリコン?

 いや、そんなまさかね~……。


「ん、私の顔に何か付いていますかね?」


「ああ、何でもないです。ただ、アイリスさん凄く若いな~て思っただけで」


 俺の言葉を聞き、アイリスさんは嬉しそうに手をパンパンと叩きもう若く見えるだなんてそんな本当の事を照れるわ~と言った。

 

 ――え、本当の事をって普通自分で言うか!?

 最初は大人しい感じの人かと思ったけど。

 この人、結構いい性格してるかも。


「それにしても、カンジ君みたいな子が盗賊を倒しちゃうなんてね~。メルちゃんと一緒だったって聞くし、相当鍛えられたのかしら~?」


「……え、もしかしてメルちゃんって」


「そそ、メルクリアのことよ~。私とあの子は生まれたすぐに知り合ってそれからず~と一緒の親友なの~。昔は一緒に傭兵をやってた時期もあったのよ~。結局、最後は私が怪我で引退しちゃったんだけど、懐かしいわね~」


 ええ、てことはこの人ってメルさんと同い年?

 確かメルさんって俺より一回り上だったよな。

 てことは、この見た目で二十八かよ……。

 メルさんでも実年齢より若く見えるってのに。

 この人は次元が違うわ。

 あ~、異世界って怖え。


「それでも、あの怪我のお陰でアルジェント家に嫁ぐ決心が付いたのだから、良かったとも言えるわね~。それより、カンジ君ってメルちゃんの事をメルって呼んでるって話は本当なのかしら~?」


「あ、はい。メルさんからそう呼べと言われましたので」


「――あらあら、うふふ。あのメルちゃんがね~。カンジ君、良い事を教えてあげるわ。メルちゃんは自分の興味のある相手にしかメルって呼ばせないのよ~」


「え、まじです?」


「まじって言葉はよく分からないけど本当よ~。少なくとも、ここ数年でメルちゃんが自分の事をメルって呼べって言った相手なんていなかったわ~。つまり、貴方はメルちゃんと一緒になれる可能性があるって事なのよ~」


 そうアイリスさんは興奮しながら言った。

 ほんと、女性って他人の恋愛話が好きだよね~。

 いや、それにしてもメルさんが俺に興味か。

 メルさんみたいな美人にそう思われてると思うと嬉しいね。

 思わず顔が綻んでしまうぜ~。


「ん、カンジさん、ニヤニヤしてる……」


 そう言ってクレアが俺の手を軽くつねってくる。

 表情は若干不機嫌そうに見えた。

 いきなりどうしたんだろうか。

 もしかして、嫉妬か!?

 まさかクレアも俺の事を……。

 いや、クレアは子供だし流石にねえな。

 う~ん、分からん。


「んん、アイリス君にカンジ君、楽しく話しているところを悪いんだが、そろそろ事件についての話に移ってもええか?」


 そうしてガリウスさんが言葉を発した瞬間、今までのんびりとした空気だった部屋に突如として体を刺すような緊張感が生まれる。

 そして、事件の当事者であるラインさんが口を開く。


「ではまず最初から。父上も知っての通り、私はクレアと護衛数十人を雇いクラリスへ新商品の品定めをしに行きました。その帰り、私達は盗賊に襲われカンジ君とメルクリア君に助けられたというわけです」


「バトラに聞いた通りだな。しかし、盗賊如きにやられる護衛をお前が雇うはずがない。待ち伏せにでもあったか?」


「はい。盗賊達は最初から我々を狙っていたのだと思います。そして、その情報を盗賊に与え狙うよう指示したのはマロン商会と考えています」


「確かにあそこは最近例の馬鹿息子に後を譲ったと聞く。前の会長は性格は最悪と言ってもよい程だったが、最後の一線は守っておったのだがな」


 そう言ってガリウスさんが激しい怒りを露わにする。

 しかし、その遥か上の怒気を放っているのは隣のアイリスさん。

 その表情は先程までと然程変わらない笑顔。

 それが逆に物凄く怖く感じる。


「も~またマロン商会なの。いい加減にしてほしいわね。しかも、クレアの命まで狙ってくるなんて。こんなことになるなら早めに殺しておけば良かったかしら~」

 

 怖い怖い、本当も怖い。

 まるで、部屋全体が冷気で満たされていくように感じる。

 寒気で体の震えが止まらない。

 ……あれ、これ本当に冷気放ってません?


「アイリス、魔力を抑えて。私達を氷漬けにするつもりですか?」


「あら、ごめんなさいね、少し興奮しちゃったみたい~。それにしてもカンジ君は流石ね~。私の魔力に当てられても平然としてるんですもの~」


 いや、普通に寒いですけどね。

 でも不思議だな。

 俺は寒さで震えていたのに。

 クレアは平気そうにしている。

 俺の疑問にアイリスさんが答えてくれた。


「それはクレアが私と同じ属性の魔力変換を持ってるからね~」


 何でもアイリスさんは魔力変換・氷のスキルを持っているらしく、先程の冷気も魔力が冷気に変換された結果らしい。

 そして、クレアもアイリスさんと同じスキルを持っていて、そのお陰で冷気や寒さに対して抵抗力があるのだとか。


「全く、カンジ君もいるのですから少しは落ち着いてください。それに、今回の件ではカンジ君達のお陰で有益な証拠を得る事も出来そうです」


「ああ、盗賊を生け捕りにしてくれたんですってね~。ありがとねカンジ君。もしこれがメルちゃんだけだったら生け捕りは無理だったわ~」


「……え、メルさんの実力なら生け捕りなんて容易いのでは」


「そんなことないわ~。メルちゃんってば昔から手加減が下手でね~。生け捕りなんて器用な事は中々出来ないのよ~。今は昔よりはましになったかもしれないけど。前何て生け捕りにしようとして首に手刀したら首の骨が折れちゃったのよ~」


 へえ、メルさんにも意外な弱点があるんだな~。

 けど、人間だもの、弱点くらいあるよね。

 むしろ、メルさんも完璧超人じゃないって分かって安心したわ。


「そう言えば、バトラ、盗賊への拷問っていま誰がやってるの~?」


「今は私の部下が行っています」


「ふ~ん。それで大人しく情報を吐けばいいけど。もし情報を出し渋るようなら私に言ってね~。昔から、そういうのは得意なのよ~」


 うわ、凄い笑顔で凄い怖い事を言うな。


「わし達は情報を待つしかないじゃろう。さて。ではここからは別の話になるが、どうしてクレアはそこまでカンジ君に懐いているのかね?」


 ――え、いきなりそんな話になるの?

 てか、俺だってどうしてクレアがこんなに懐いているか不思議ですって。

 確かに昔から子供からは懐かれやすかったけど。

 クレアの場合は懐き過ぎだよな。


「カンジ君。クレアは人見知りで昔から私達家族以外とは距離をとる傾向にあったのじゃ。そのクレアが出会ったばかりの君にそうまで懐いて、この部屋に入ってからもずっとくっついて離れない。君はクレアに一体何を――」


「は~い。義父様それくらいにしてくださいね~」


「むむ、邪魔をせんでくれ! わしはクレアの祖父として!」


「これ以上カンジ君に変な事をいうつもりなら、氷漬けにしますよ?」


「――ごほん。カンジ君、先程の言葉は忘れてくれ」


 え、ええ……。

 ガリウスさんそんなに怯えて。 

 まさか、前にも氷漬けにされた事が……。

 とりあえず、この家の頂点がアイリスさんという事は分かった。

 そしてラインさんが俺に小声で告げる。


「カンジ君、父上にとってクレアは初孫ですので非常に可愛がっているのです。そのクレアが予想以上に君と仲良くしているので嫉妬しているんです」


「成程。確かに初孫は可愛いっていいますもんね~」

 

 その後、バトラさんの部下が情報を引き出すまでのんびり俺達が話をしていると、部屋の扉が開いて。


「ふ~、大分遅れてしまった。全く、アクアは一度話を始めると長話になって叶わんな。それにしても、随分と馴染んでいるねカンジ君」


 部屋に入ってきたのは少し疲れた様子のメルさんだ。

 もう用事は終わったのだろうか。


「はい、皆さんとは仲良くさせて頂いています」


「もう本当にカンジ君は良い子でね~。将来はクレアちゃんと一緒になって欲しいって考えてるくらいよ~。けど、もしそうなったらメルちゃんは困るかしら~?」


 アイリスさんは煽るようにメルさんに話しかける。

 メルさんはため息を尽きながら言った。


「全く、昔から色恋沙汰が好きなのか変わっていないなお前は。それと、私をメルちゃんなどと呼ぶなと何度も言っているだろう」


「嫌よ~。だって私達、親友でしょ~?」


「はあ、話のはぐらかし方も昔から変わらんな」


 メルさんはため息を尽きながらも苦笑している。

 ああ、この二人が親友ってのは本当なんだな。

 だって、メルさんアイリスさんと話してると楽しそうだもんな~。


「かか、相変わらず仲が良いのう。それにしても、最近は姿を見せてくれなくて心配しておったが、変わらず元気そうで安心したわい」


「あ~、最近は多忙続きで顔を出す暇がなかっただけですよガリウス殿」


 次はガリウスさんとメルさんが気軽に話し出した。

 そう言えばこの二人も昔からの知り合いだっけか。

 メルさんは二人と少し話した後、俺の隣、クレアが座っている反対方向にどすんと座り込んだ。ああ、やっぱいい匂いするわ~。


「それにしても、まだ情報が引き出せていないとは。拷問が生温いのではないか? これ以上時間が掛かるようなら私が手伝ってやってもいいが?」


「それは駄目よ~。メルちゃんが拷問したら部屋が血だらけになるじゃない~」


 ……え?

 拷問で部屋が血だらけになるの!?

 それって本当に拷問なの!?


「ふむ、メルクリア様の言う通り部下では荷が重いか。ライン様、私も拷問に参加しようと思うのですが、しばらくここを離れても?」


「勿論です。任せましたよバトラ」


 ラインさんの言葉に頭を下げバトラさんは部屋を出ていく。

 ほ~バトラさんって拷問も出来るのか。

 

「バトラ殿が行ってくれるなら私が行くまでもないな」


「そうね~。バトラの拷問ってメルちゃんのと比べて違う方向で怖いからね~。きっとあの盗賊達もすぐに白状しちゃうわ~」


 この恐ろしい二人からの絶対なる信頼感。

 俺は逆にバトラさんがどんな拷問をするのか怖くなってきたぞ。

 相当えぐいことするんだろうな~。


「さて、拷問の事はバトラ殿に任せるとして。カンジ君、君は今夜はどこで泊まるのは予定はあるのかね? もう外は日が落ちているが」


 え、まじ?

 そう思って窓から外を見ると確かに暗い。

 日本のように電灯もないので真っ暗だ。

 メルさんの言う通りどこで泊まるか考えなければ。

 けど、俺っていま一文無しなんだよね~。

 普通の宿には泊まれないしどうするか。


「ふむ、もし困っているなら私と同じ宿に君も――」


「それならカンジ君、しばらくアルジェント家に泊まっていったらどうかしら~。この屋敷って無駄に広いし部屋も多いからカンジ君なら大歓迎よ~。ね、義父様も貴方もそう思うでしょ~」


 メルさんの言葉を遮りアイリスさんがそう提案する。

 メルさんは少し悔しそうにアイリスさんを睨み、アイリスさんは口から小さく舌を出して片目を瞑り笑っていた。


「それはいい考えです。父上も勿論賛成ですよね?」


「わしも構わんが一つ条件がある。カンジ君の部屋とクレアの部屋はなるべく離して――」


「決まりね~。それじゃ早速部屋に案内するけど~。カンジ君の部屋はクレアの正面の部屋でいいかしら~。クレアもそれでいい?」


 アイリスさんの言葉にクレアは激しく頷き了承の意を示す。

 これに対してガリウスさんはわしの話をと言いかけるが、アイリスさんに人睨みされただけで黙り、それでよいと言ってしまう。

 あれ、少し可哀想に思えてきたぞ。


「じゃあ早速カンジ君の部屋に行きましょうか~。クレアも一緒に行きたそうだから連れて行くとして、メルちゃんはどうする~?」


「ふん、私はここに残る。バトラ殿の事だ、きっとすぐに情報を引き出してくれるだろう。その情報を傭兵集会場のギランに伝えねばならんのでな」


 つまり、情報が入り次第メルさんはここを出るって事か。

 なら、今日はこれでお別れか。

 出会って一日なのに寂しく感じるな。

 

「ふ、そんな顔をするな。君がここに泊まるというなら明日にでもまた顔を出すさ。その時は色々な話をしようではないか」


 俺はそうですねと笑って、最後に今日は本当に色々ありがとうございましたと言い残し、アイリスさんとクレアと部屋を出ていく。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

少しでも小説が面白い、続きが読んでみたいと思って頂けたなら、ブックマークを付けて貰えたり下の【☆☆☆☆☆】で評価ポイントを付けて貰えると嬉しいです!

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