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第七話 生き残り




「ほう、これは派手な登場だなカンジ君。それにしても、これほど速く私に追いついてくるとは思っていなかった。流石だな」


 声がしたので後ろを振り向くと、メルさんが感心感心と頷く笑っていた。

 その足元に敵であろう男の生首を三つ置きながら。

 ……うぷっ、生の人間の生首だ。

 魔物でも動物でもそうだったが初見はきつい。

 ふ~ふ~、呼吸を整える。

 よし慣れた。もう大丈夫だ。


「それにしても、やる気十分なようだねカンジ君は。到着早々に敵を仕留めたばかりか、そんな危険な場所に陣取るなんて」


 ん、俺がぶつかったの敵だったのか。

 良かった~。なら別に気にしてくていいか。

 これが襲われている側だったら土下座していたところだ。

 しかし、危険な場所?

 どういうことだと周りを見てみると。

 

 あ~成程ね。

 俺の目の前、盗賊っぽい人達でいっぱいだわ。 

 そして背後には襲われていただろう人達。

 つまり、ここが交戦の最前線ってわけね~。


「おめえ、何もんだ。もしかして、剣鬼の弟子か?」


 ん、剣鬼? 一体誰の事だ。

 そう考え盗賊の視線を辿る。

 あ、もしかしてメルさんの事かな。

 背後を見るとメルさんが頷いているので間違いないか。


「いえいえ、弟子なんて大層な者ではないですよ。メルさんとはつい先ほど知り合ったばかりですので。俺はただの一般人です」


 俺がそう言うと背後のメルさんが異世界出身の君が一般人ね~といった表情で笑っているのが見える。仕方ないじゃん適当に答えたんだから。


 そして、俺が剣鬼の弟子でないと分かった男は。


「へへ、剣鬼の弟子じゃねえって事はお前はそんなに強くねえって事だよな。なら、ここはお前を人質にしてこの場からとんずらするとするぜ!」


「なるほど流石は頭! みんなあいつを囲め!」


「「おおおおお!!」」


 盗賊達は俺を逃がすまいと周囲を囲む。

 しかし、俺の焦りはない。

 だってこいつら、俺の脂肪が全く反応しないもん。

 多分、こいつらは森で戦ったグレイブという男より格下。

 ならば、恐れる必要は微塵もない。

 むしろ俺が気にしているのは。


「メルさん、こいつら生け捕りにするか殺すかどっちがいいです?」


「――ふむ、君は大丈夫なのかね?」


 俺の質問にメルさんは質問で返してくる。

 多分、メルさんは俺が盗賊に後れを取るとは思っていない。

 メルさんの大丈夫かという言葉の真意は、俺が人を殺してしまっても大丈夫かという意味だろう。

 う~ん、確かに最初はきついかも。

 下手すればその場で吐くかも。

 けど、こういうのって慣れるしかないもんな。

 

「はい、問題ありません」


「そうか。ならばライン殿、あの盗賊達の処遇を貴殿に問おう。生け捕りか皆殺しか、どちらが御望みかな?」


 メルさんがライン殿と呼びかけているのは盗賊に襲われ生き残った二人の内の一人、年が四十くらいの身分が高そうなおじさんだ。


「可能であれば二~三人を生け捕りでお願いします。しかしメルクリア君、本当にあの青年一人で大丈夫なんですか? あなたも加勢した方が」


「くく、その心配は不要だよライン殿。さて、カンジ君、二~三人は生け捕りでそれ以外は殺して構わんとの事だ。好きにやりたまえ!」


「分かりました。では、行きます」


 最も、もう仕込みは終わってるけどね。

 

「てめえ、生け捕りやら皆殺しやら俺達を舐めてるんじゃねえぞ! お前ら、遠慮はいらねえ、こいつを血祭りにあげてやれ!」


「うっす! 血反吐吐かせてやりますよ!」


 おいおい、俺を人質にするんじゃないのかよ。

 頭に血が昇って冷静さを失ってるね~。

 まぁ別にどうでもいいか。

 何をしようと、お前らはもう逃げられない。


「――はっ! 何だこりゃ、動けねえぞ!」


「頭、俺達も足に何か纏わりついて、身動きとれません!」


 さて、何故盗賊達は動けなくなったのか。

 それは俺が密かに盗賊達の足元に潜ませた【脂肪の罠】(グレス・シュリンゲ)のお陰だ。

 いや~、盗賊さん本当に間抜けだったわ~。

 まさか、俺達の会話をのんびり聞いてくれるなんて。

 お陰で全員に【脂肪の罠】(グレス・シュリンゲ)を付ける事が出来た。

 もう盗賊達は何も出来ない。

 後は、俺の攻撃の的になるだけだ。


「え~と。生け捕りは三人でいいんだったな」


 とりあえず、頭って呼ばれてる盗賊は残して、それ以外は適当に間引くか。

 そう考え三人以外の盗賊に【脂肪の弾丸】(グレス・バール)を一人に三発ずつ打ち込み、確実に息の根を断っていく。

 

 ん~、意外と平気だな。

 直前に盗賊の死体を見たからか?

 人を殺した罪悪感も嫌悪感も殆ど感じない。

 まあ相手が盗賊ってのも関係してるんだろうけど。

 

 そんな事を考えている内に三人以外の盗賊を殺し終え、ぼ~としていると誰かが俺の肩に優しく手を置いて言った。


「良くやったよカンジ君。お疲れ様。その様子だと大丈夫だったみたいだね」


「あ、はい。思っていたよりも全然平気でした」


「それは良かった。それにしても、見事な手際だったよ。まさか私と話をしている最中に既に手を打っていたとは。いやはや脱帽したね」


「あ、ありがとうございます!」


 おお、メルさんみたいな美人に褒められると緊張する~。

 けど、素直に嬉しいな。


 その後、生け捕りにした盗賊をメルさんが次元収納箱から取り出した縄で縛りあげ、襲撃によりボロボロになってしまった馬車へ放り投げる。

 次に、盗賊に襲われていた二人が近づいてきた。


 生き残ったのは幼い少女とラインと呼ばれた男性の二人か。

 馬車の周りに転がっているのは護衛だった人達かね。

 残念だけど全員息絶えてしまっている。


「君の名前を教えてもらってもいいですか?」


「あ、はい。俺の名前はカンジです」


「カンジ君ですか。私の名前はライン。知っているかもしれませんがアカンサスを拠点に活動しているアルジェント商会の現会長です。そしてこの子が私の娘のクレア。少々人見知りなもので隠れてしまっていますが、ほら挨拶しなさい」


「名前、クレア。よろしくです」


 恥ずかしそうにしながらもクレアはしっかり挨拶してくれた。

 俺もその場で膝を曲げクレアと目線を合わせて。


「クレア、良い名前だね。俺の名前はカンジ。よろしくね」

 

 俺の言葉にクレアは少し嬉しそうにうんと頷いた。

 これにラインさんはクレアが初対面の人間に返事をするなんてと驚き、メルさんはカンジ君って子供の扱いが上手なんだなと感心していた。

 まあ、これでも元の世界では子供好きだった。

 子供の扱いは慣れている方だと思っている。


「さて、自己紹介も済んだところで改めて二人に礼を言います。二人が来なければ確実に私とクレアの命はなかった。助けてくれて本当にありがとございます」


 そうしてラインさんとクレアは俺達に頭を下げた。

 俺はどういたしましてと言って、メルさんは目を細めて。


「礼は受け取るが余り気にしてくていいさ。人助けは私の趣味の一つだからね。それより、たかが盗賊相手にここまで一方的にやられるとは。何があった?」


 う~ん、確かに変だよな。

 だってこの盗賊達は、はっきり言って弱かった。

 あんな奴らにこの人数の護衛が一方的にやられるだろうか。

 考えられる要因としては人質を取られたか、もしくは……。


「……帰り道に罠を仕掛けられ、馬車が止まった瞬間を狙われ一方的に襲われました。おそらく、我々を最初から狙っての行動でしょう」


「成程。初めから目的はアルジェント商会で盗賊を雇った黒幕がいると。ライン殿は心辺りなどはないのかな?」


「一番怪しいのは、マロン商会だと私は考えています。奴らは私達アルジェント商会に対してこれまで何度も嫌がらせをしてきました。おそらく、同じ街を拠点に活動している我らが奴らにとっては邪魔な存在だったのでしょう」


 あ~成程ね。

 つまり、商売敵を消したかったと。

 ていうか、それだけで盗賊雇って人殺しさせるのか。

 異世界怖ええ~。

 日本が平和な国だったって実感するわ~。


「奴らの手口は非常に狡猾で嫌がらせの証拠などは微塵も残しはしなかった。それ故に、我々は悔しくはありましたが泣き寝入りをするしかなかった」


 ラインさんが鬼のような表情になり拳を握る。

 余りの力で爪が自分の手に食い込み血が滲んでしまっている。

 そんなラインさんはメルさんは言った。


「その辺にしておけ。今回は証拠がある」


「……ええ、その通りです。あの盗賊には何が何でも雇い主について話してもらうつもりです。例え、どんな非道な手を使ったとしても」


 ラインさんの視線は寒気がするほどの凄みを帯びている。

 その視線からは殺気すら感じる程だ。

 まぁ自分と娘が殺されかけたんだ。

 相手を殺したいと思うのも自然か。

 

「さて、そうと決まれば一刻も早くアカンサスに戻らないといけませんね。幸い馬車は壊れかけですが動きはします。馬も殺されずに済みました」


 へえ、馬が無事ってのは意外だな。

 逃げる手段は真っ先に潰しそうなもんだが。

 そう考えているとメルさんがおそらくあの盗賊達は馬を売るつもりだったんだろうと俺の疑問に答えてくれた。

 どうやら馬はそれなりに高価なようだ。


「ん、けどラインさんとクレアはどこに乗るつもりですか? 馬車の中は縛っているとはいえ盗賊がいる状態ですけど」

 

「そうですね。私は御者台に乗るつもりですが、クレアはどうしたい?」


 ラインさんの言葉にクレアは小さな体をビクリと揺らして。


「あの人達と近くにいるのは、怖い……」

 

 うん、それが普通の感性だよな。

 誰だって自分を襲ってきた人の近くになんていたくはない。

 例え縄で縛られ何も出来なくなっていてもだ。

 むしろ、ラインさんは肝が据わりすぎ。

 俺だったら絶対近づきたくねえわ。

 

 しかし、それならクレアをどうするか。

 う~ん、俺は少し考えある提案を。


「もし良ければ、俺がクレアを背負ってアカンサスまで行きましょうか?」


 冗談交じりに言った俺の提案にクレアはラインさんの側を離れ、テクテクと可愛らしく歩いてきて、小さな手で俺の服を握り言った。


「カンジさん、アカンサスまでよろしく、です」


 そう上目使いに懇願するクレアは非常に可愛かった。

 う~ん、俺にその気はないと思っていたのだが、

 ロリコンの気持ちが少し分かってしまうな。

 確かにこれは尊いわ~。


「――まさか、クレアがここまで心を許すとは。カンジ君、貴方には人を引き付ける何かがあるのかもしれませんね」


 何故かラインさんが物凄く俺の事を買い被っているような気がしたので、俺は首を振り慌てて言った。


「いえいえ、単純に子供が好きなだけですよ俺は」


「ただの子供好きですか。それだけでクレアが懐くとは思えませんは今はそういうことにしておきましょう。さて、ではクレアはカンジ殿に任せるとして出発……いやその前にやっておくべき事がありました」


 ラインさんは戦いがあった場所へ歩いていく。

 そこには当然、護衛だった人達の死体がある。

 何をするのだろうか。

 そう思って黙って見ていると、ラインさんは護衛の人達の死体の前で両手を合わせ、目から少量の涙を流しながら言った。


「ありがとう。君達が命を懸け私達を守ってくれたお陰でメルクリア君とカンジ殿が来るまで生き残ることが出来ました。本当に感謝します。出来る事なら君達の死体も持って帰りたいのですが、この場に置いていく事を許してください」


 あの壊れかけの馬車ではこの人数は無理だよな。 

 それより、ここまで護衛に親身になるとは驚いた。

 あの護衛の人達は昔からの知り合いなのだろうか。

 俺の疑問にメルさんがすぐに答えてくれた。


「彼らはアカンサスで護衛として雇われた普通の傭兵だろうな。つまり、所詮は金でつながった関係と言える。ただ、どんな理由があるにしろ、彼らが命を懸け二人を守ったという事実は変わる事はない」


 ……そうか、この人達は命を懸け自分の仕事を全うしたんだな。

 そしてラインさんやメルさんの言葉を聞いていたクレアも死体を見るのは怖いのか目を背けているが、守ってくれてありがとうと小さく頭を下げ言った。

 まだ十歳前後だろうに心が強く賢い子だ。

 

「――二人とも待たせてしまいましたね。ではアカンサスに向かうとしましょう。メルクリア君にカンジ殿、クレアも準備はいいですか?」


 メルさんはいつでも大丈夫だと言って、俺もクレアの小さな体を背負っていつでも行けますと返事をした。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

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