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第六話 年の差



「おお、この景色は凄いですね~」


 バロウ森林を出て一番に俺の視界に入ってきるのは、殆ど何も整備などされてはいないどこまでも続いていると錯覚させる程の広さの草原。

 何だか、吸い込まれそうになってくるな。

 それにしても、風が気持ちい~。


「さて、ここからはアカンサスまで歩いていくぞ。ん、どうしたのかねカンジ君。何か驚いている様子だが?」


「……あ、いえ。物凄く綺麗な光景だと思いました。実は、俺が住んでいた場所って基本的に自然は淘汰されて殆ど残っていないんですよ。だから、ここまで自然がそのまま残っているのを見て少し感動してしまいまして」


「成程な。私達この世界の人間は見慣れているので何も思わんだろうが、やはり世界が違うと事情も違うと言う事か。しかし、自然が淘汰された世界。この目で見てみたい気もするが、少しばかり寂しさも感じてしまうな」


 メルさんは難しい表情で腕を組み思いをはせる。

 俺は確かにな~と思い昔を思い出す。

 小さい頃、俺はよく祖父や祖母に近くの森林に連れて行ってもらってカブトムシなどの昆虫を捕まえて遊んでいた。

 あの頃は、まだ自然がそれなりに残っていた。

 しかし、数年後には森林がデパートに変わった。

 あれを見た時は何とも言えない気持ちになったものだ。 

 しかし、両親は近場にデパートが出来た事で生活しやすくなると喜んでいた。

 つまり、自然が淘汰されていった結果、人が生活しやすい環境になっていっているのもまた事実なので、一概に悪いとは言えんところが難しいな。


「ふむ。やはり違う世界の者と話していると違う視点が見えてきて面白いものだ。街で君に話を聞くのが俄然楽しみになってきたよ」


「勿論、俺が知っている事を全て話しますよ。けど、余り期待はしないでくださいね。まだ二十も生きていないので知らない事ばかりですので」


「――何だと!?」


 俺の言葉にメルさんは何故か派手に驚く。

 ……え、そんなリアクションとって驚く要素あった?

 俺が疑問で首を傾げていると。


「君はその見た目で年が二十いっていないのか!?」


「あ、はい。俺は今年で十八になります」


「何と……その見た目で十八とはな。まさか、私と一回りも年が離れているとは思わなかった。少しショックだが、まあ仕方ない」


 一回り程度は許容範囲だろう。

 そうメルさんは小さく呟いた。

 俺は何が許容範囲なのかよく分からなかったが、それよりメルさんが俺より一回りも年上だって事に驚いた。

 だって、俺より一回り上って事はつまり……。

 そこまで考えた瞬間、俺の体に寒気が走る。


「カンジ君、女性の年について余り詮索すべきではない」


「……俺、口に出してました?」


「そんなことはないさ。ただ、女性は年の話には敏感なのだよ」


 いやいやいやいや~!

 勝手に心を読むのは敏感ってレベルじゃないでしょ!?

 それと、さっきから腰の剣に手を添えるのを辞めてくれ!

 冗談だと分かっていても怖すぎる!

 

「くく、これくらいにしておくか。君に嫌われたくはないのでね。さて、それなりに長話をしてしまった。そろそろ進むとしようか」


 そう言ってメルさんは鞘から手を放し俺から視線を逸らす。

 俺はメルさんの威圧から解放された事で気が緩み、薄く凝縮してある脂肪がポヨンと飛び出しそうになるのをぐっとこらえた。


「了解です。ちなみに、ここからアカンサスという街まではどの程度距離が離れているのか教えて貰ってもいいです?」


「そうだな。普通に歩いたとして六時間程度だろうか」


 ふむ、歩いてそれなら余り距離は離れていないな。

 日が沈むまでには問題なく到着できそうだ。

 しかし、この世界に来て妙に体力が上がった俺なら問題ないが、元の世界の俺だと六時間歩けって言われたら無理ですって答えただろうな~。


「他に聞きたい事はないようだね。では、行こうか」


 そうして俺達は再び歩き出した。



 

 ===================




 あの後、歩き続けること三時間。

 俺は特に疲れもなく淡々と歩き続けている。

 やはり体力は上がってるみたいだな。

 魔物と戦った影響だろうか。

 

 そうして俺が呑気に考えていると、目の前を歩くメルさんが急に立ち止まり、考え事をしていた俺はメルさんの背中にぶつかってしまう。

 うお、いい匂いがするな。

 何で女の人ってこんないい匂いするんだろ。

 不思議だよな~。

 ……いやいや、違う違う。


「メルさん、ぶつかってしまい申し訳――」


「カンジ君、何か悲鳴のような声が聞こえないか?」


 俺の謝罪を遮りメルさんは真剣な様子で言った。

 う~ん、俺には悲鳴なんて聞こえないな。

 っとその時、俺の脂肪がプルプルと震えだした。

 この脂肪の動きから察するにあっちか。

 

「どうやら君も感じ取ったようだね。さて、私はこれから現場に向かおうと思うんだが、君はどうする? この場で待っているかい?」


「いえ、俺も向かいます」


 メルさんは悲鳴が聞こえると言った。

 つまり、誰かが助けを求めている。

 それが分かっていて無視は出来ない。

 加えてこんな場所に一人で置いていかれたくはない。

 どう考えても遭難する未来しか見えん!


「そうか。なら一緒に行くとしよう。とはいえ、緊急事態のようなので私は本気を出して走る。君は死にもの狂いで付いてきたまえ」


 そう言い終えた直後。 

 俺の視界からメルさんの姿が消失した。

 

 ……ええ~。

 メルさん、死にもの狂いで付いて来いってこれは流石に無理です。

 人間が出せる速さとは思えませんって。

 まあ、幸い向かった方角は分かる。

 遅れたが俺も向かうとしよう。


「移動用脂肪術【脂肪速脚】(グレス・シュネル)


 薄く凝縮してあった脂肪を全て足付近に集中させ、その全てを弾力性のある脂肪へ変化させ、足全体をバネのように変化させる。

 この技により俺は高速移動を可能にした。

 俺は膝を曲げ足に力を溜め、一気に駆け出す。


 ふ~、相変わらず異常な速さだ。

 周りの景色がぶれて見える程の速さ。

 それ故に細かな制御は今だに無理。

 おそらく、これを石や大木など障害物のある場所で使えば俺は間違いなくそれらに頭から衝突して、悲惨で無様な死を遂げるだろう。

 しかし、障害物の少ないここなら【脂肪速脚】(グレス・シュネル)を気兼ねなく使う事が出来る。俺はひたすら全速力で走っていく。


 その結果、あっという間に目的の場所が視界に収まってきたのだが、俺はここで肝心な事を考えていなかった事に気付く。

 

 ……これ、どうやって止まればいいんだ?


 そう、俺は速く走る事だけ考え、後の事は考えていなかった。

 やべ、額に冷や汗が流れてくる。

 しかし、今更考えても仕方ない。

 俺は必死に両足でブレーキをかける。

 地面と脂肪の摩擦でキュルルルと凄い音が鳴る。

 それでも俺の体は止まる事はなく。

 そのまま、誰か分からない男に突っ込んでいった。


「な、なんだあいつ――ゴフッッッ!!」


 俺は男の体がクッションとなり止まる事が出来たのだが、男は血反吐を吐きながら数十メートルほど遠くへ吹き飛んでいった。

 ……ああ、やっちまったな~。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

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