表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

第五話 次元収納箱

 

「ほう、それが君の本当の姿か。中々に凛々しいではないか」


 脂肪を凝縮してスリム型になった俺を見て、メルさんは素直に感心した様子で言った。若干獲物を狙う目つきになっているのは気のせいだろう。

 しかし、どちらかと言えば太ってる時が本当の姿なんだけどね~。

 まあ、普段はこの姿で過ごすつもりだから別にいっか。


「そう言えばメルさん。あのグレイブという男は最後まで俺を魔人と思い込んでいましたが、魔人とはどういった存在なのでしょうか?」


「ああ、魔人とは突然変異で生まれた知性を持った魔物が更に進化を繰り返して、最終的に人型にまで進化した者を我々は魔人と称している」


「ほ~成程。突然変異って事は、当然普通の魔物より強いんですよね?」


「そうだね。かなり昔の話になるが、小国の近隣で一匹の魔人が誕生し、魔人によって小国が滅ぼされたという話も残っている。並の人間程度では相手にもならない。それ故に、今回は私が駆り出されたというわけさ。無駄足に終わってしまったがね」


 そう言って少し残念そうな顔になるメルさん。

 ああ、この人は魔人と戦いたかったのか。

 しかし、小国を滅ぼす存在と戦ってみたいか。

 う~ん、理解出来んわ。

 正直、少し引いた。


「最も、魔人の代わりと言っては失礼かもしれんが、君を見つける事が出来たのは非常に幸運だったけどね。くく、将来が楽しみだよ君は」


 メルさんは本当に嬉しそうに笑っている。 

 基本メルさんは美人なので笑うだけで絵になるのだが、目だけは笑っておらず俺の事をギラギラとした目で見て来るので普通に怖い。

 折角の美人なのにな~。

 

 さて、それはさておき。


「そう言えば、メルさんはどうしてこの森に魔人がいると思ったんです?」


「ああ、簡単な話だよ。突然変異の魔物が魔人に進化するのに必要なのが魔物を食べる事なのさ。故に昔から魔人が生まれる予兆としてその付近の魔物の数が極端に減るといった現象が記録されている。そして最近、ここバロス森林の魔物が急激に減り始めた。傭兵や冒険者に依頼など出していないにも関わらずだ。不信に思うのも当然だと思わないかい?」


 メルさんの言葉に俺は黙って頷く。

 しかし、魔物の数が減ったのって俺が原因だな。

 訓練の為に数百以上の魔物は殺した。

 そのせいで勘違いさせてしまったとしたら悪い事したな。


「メルさん、魔物の数が減ったのは俺が原因だと思います。この世界に来てから数週間の間、俺は訓練の為にひたすら魔物を殺し続けていましたから。今回はそのせいで魔人が出たと混乱させてしまい、申し訳ありません」


 そう言って頭を下げる俺にメルさんは首を振り。


「ふっ、謝る必要はないさ。基本的に魔物の数が減って困る者などいないからね。それに君の証言で真相は分かった。これを伝えれば街の混乱も収まり領主様も安心してくれるだろう。それにしても、君はこの世界に来て数週間なのかね。それだけの期間でグレイブを圧倒するとは、やはり君は優秀だ!」


 あ~、いい人なんだけどすぐ興奮するのはやめてほしいな。

 その度に俺の体が恐怖で震えてしまう。

 しかし、予想以上に大事になってたみたいだな~。

 これは少し反省、やり過ぎは良くないってね。


 ――んっ、脂肪が少し揺れているな。

 多分、この反応は魔物だろうな。

 そう考え俺はメルさんに魔物の接近を伝えようとするが、どうやらその必要はなかったようで、メルさんはニヤリと笑って言った。


「ほう、気付いたか。いい索敵能力だ」


 どうやらメルさんは俺に言われるまでもなくとうの昔に魔物の接近に気付いていたようだ。俺は流石だな~と素直に感心する。


「グランベアーか。Bクラスに認定されている魔物で中堅クラスだな。どうだいカンジ君、君が戦ってみるかい?」


「あ、いえ。こいつは先程倒したばかりなのでメルさんに任せますよ」


「……そうか。ならば、さっさと片づけるとしよう」


 メルさんは俺が戦うところを見れると思っていたのか、メルさんに戦いを任すと言うと分かりやすく肩を落とし落ち込んでしまう。

 可哀想だなと思うと同時に違う感情も浮かんでくる。

 あ~、強気な女性の落ち込む姿っていいな。

 俺、もしかしてSっ気あるかも。


 そうして俺が自分の性癖について考えている間にメルさんは腰の剣に手を添えて、次に瞬間には凄まじい闘気と静電気が体に纏わりついていく。

 何だ、体がざわつく。

 メルさんは何をする気なんだ!?


「散れ。【雷光一閃】」


 メルさんが雷光一閃と口にしたと同時。

 数十メートルは離れていたはずのグランベアーの首が地面に転がる。

 ……明らかに、居合の間合いではない。

 一体、メルさんは何をしたんだ。

 俺は口に手を当て必死に考える。


「さて、カンジ君。私が何をしたのか分かったかな?」


「……刀身に雷を纏い間合いを伸ばした、ですか?」


「――くく、素晴らしい! まさか一目で看破されるとは!」


 嬉しそうに笑うメルさんに俺はほぼ勘ですよと答える。

 実際、技を放つ前に静電気を感じていなければ、そして元の世界のオタク知識がなければ俺は正解に辿り着く事は出来なかった。

 

 しかし、何て技だよ。

 居合の速さをそのままに遠距離攻撃は反則だろ!

 しかも、俺の予想通りならこの技の射程範囲は更に広い。

 ……俺は、こんな人と戦う約束をしてしまったのか。

 今更ながら、やってしまったな。


 しかし、実際これどうすればいいんだ?

 もし、俺の【脂肪の弾丸】(グレス・バール)とメルさんの【雷光一閃】で遠距離の打ち合いになった場合、確実に俺が負ける。

 技を撃ち出してからの速さが違いすぎる。

 もっと【脂肪の弾丸】(グレス・バール)の速度を上げるべきか。

 そう言えば、脂肪はバネのようにも変化出来た。

 バネを上手く利用出来れば、【脂肪の弾丸】(グレス・バール)の速さは上がる。

 そうすれば【雷光一閃】との打ち合いにも少しは希望が見えてくるか。

 

「お~いカンジ君、そろそろいいかな?」


「……はっ! 申し訳ないですメルさん。つい【雷光一閃】への対応に技の改善を考えていたら夢中になってしまい」


 メルさんの様子から察するに俺は自分の世界に入っていたのだろう。

 俺は昔からそういうところがある。

 一つの事に夢中になると他の事が考えられなくなるんだ。

 俺は必死にメルさんに謝罪をするが、メルさんは欠片も怒っている様子はなく、それどころか非常に感心した様子で俺の肩を叩いた。


「ふっ、気にするな。【雷光一閃】への対策ということは私との約束を真剣に考えてくれているというわけだ。それを怒るなどするものか。むしろ、私は嬉しく思っているよ。君に戦意が残っていることにね」


 メルさんによれば大抵の人間は【雷光一閃】を見ただけで戦意損失してしまうらしい。まあ実際に見た感想としては無理もないと思う。

 正直、俺だって本当は怖いし戦いたくはない。

 けど、約束してしまったから。

 男として一度した約束は破れない。

 ……俺の生活もかかってるし。


「さて、ではもう一度話を戻すが。グランベアーの素材を持ち帰ろうと思うのだが君は袋など持っているかい? なければ私の次元収納箱を使うが」


「持ってはいないですね。ていうか、魔物の素材って売れるんです?」


「勿論だ。ここバロス森林は平均的に魔物のランクのこの周辺では高めでね。高位の冒険者や傭兵でなければ中々来ない場所なんだ。それ故に、自然とこの森に住む魔物の素材は値上がりしていったわけさ」


 ま、まじか~……。

 俺、倒した魔物は食えるとこ以外、そこら辺に埋めたぞ。

 うわ~、勿体ない事したな。

 結構ショックだぞこれは……。


 落ち込んだ様子の俺にメルさんはどうかしたのかね?と声を掛けてくれて、俺は自分のした事を全てメルさんに話していく。


「成程。確かにそれは災難だが、カンジ君くらい強ければこれから先、金を稼ぐのに苦労はないさ。元気を出したまえ」


 メルさんの言葉で俺はそうかなと思い元に戻る。

 いや~、美人に慰められるのもいいね~。


「さて、では解体をするので少し待っていてくれ」


 そうしてメルさんは目にも止まらぬ速さで魔物を解体していく。

 すげ~、解体も居合でするんだな。

 

「よし、これで終わりだ」


 そう言ってメルさんはポケットから取り出した小さな箱に素材を入れていく。

 俺は最初、そんな小さな箱にこんな大量の素材は入るのかと疑問に思ったが、予想に反して小さな箱に大量の素材はあっさり収まった。

 どういう事なのかメルさんに聞いてみると。


「これは次元収納箱。空間魔法を扱える魔術師が作る事が出来るマジックアイテムだね。見た目は小さく見えるが、この中には数トンを超える物が入っている」


「数トン!? それが本当なら物凄く便利ですね!」


「君の言う通り、高位の冒険者や傭兵などは皆これを使っている。ただし、需要に反して供給が少ないため、必然的にかなり高価になってしまうけどね」


「成程。それは残念ですね」


 メルさんが高価と言うんだ、本当に高いんだろう。

 う~ん、便利そうだからすぐにでも欲しかったんだけどな。

 残念、俺が手に入れるのは当分先になりそうだ。

 仕方ない、地道に金を溜めていこう。

 そう俺が思っているとメルさんはポケットに手を入れ。


「くく、そんな物欲しそうな目を向けるな。ほれ、受け取りたまえ」


 そう言ってメルさんは何か投げたので反射的にそれを掴み取る。

 そして、受け取った者を見て俺は驚きで固まる。

 何故ならそこにあったのは……。


「もしかして、これはメルさんの物と同じ次元収納箱、ですか?」


「ああ、そうだよ。丁度使っていない次元収納箱が余っていてね。それを君に上げようと思う。便利な道具も使わなければ意味がないからね」


 俺はメルさんの言葉に一瞬だけ嬉しさで顔が綻ぶも、すぐに先程の言葉を思い出して慌てて首を横に振りメルさんに言った。


「いやいや、これは駄目ですよ! メルさんさっき言ったじゃないですか高価なものって! そんなのこんな簡単に受け取れませんよ!」


「そう慌てるな。私は先程たしかに高価な物と言ったが、君に渡したそれに金はかかっていない。遠慮なく使うといいさ」


 ……え、金がかかってないってどういう?

 つまり、誰かから貰ったってこと?

 いや、違うな。

 メルさんは人から持った者をこんな雑に扱う人じゃない。

 それくらいは俺にだって分かる。

 てことは、それ以外の方法。

 考えられるのは一つだけ。


「メルさん、もしかしてこれを作ったのって」


「ああ、君の予想通り、それの作成者は私だ」


 まじかよ~。

 剣技だけでも化け物なのに、魔法まで使えるとか。

 そんなん万能超人じゃないですか~やだ~。

 っと、ふざけるのはこれくらいにして。

 

「……あの、本当に貰ってもいいんですかね?」


「勿論だとも。本当にそれは暇つぶしで作っただけで私にとって不要な物だったからね。それを君が有効活用してくれるなら私は嬉しく思うよ。さて、素材も全て片づけた事だし、先に進もうか。そろそろバロウ森林を抜けるよ」


 あ~あ、ここまでされたら俺もメルさんの期待には応えないとな。

 当面の目標、メルさんが満足できる程度には強くなる。

 正直、不安しかないが。

 俺が恩を返せるとしたらこれしかない。

 頑張ってみるか……。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

少しでも小説が面白い、続きが読んでみたいと思って頂けたなら、ブックマークを付けて貰えたり下の【☆☆☆☆☆】で評価ポイントを付けて貰えると励みになります!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ