表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/13

第二話 脂肪操作


 目を開くと、目の前には草や木。

 なるほど、ここが異世界。

 そして、俺がいる場所は森の中ってわけか。

 まあ定番ではあるな。


 そう考え座り込んだ状態から立ち上がる。

 すると何か違和感を感じた。


(気のせいか? 体が軽い気がする)


 異世界に来る前の俺は立ち上がるのにも一苦労だった。

 体にたっぷりとついた脂肪が普通に重かったし、靴下やしゃがみ込む時など腹の脂肪が行動を邪魔して上手く動けないのだ。

 それを、今は殆ど感じない。

 どうしてだろう。

 そう疑問に思っていると。

 突如、頭に誰かの言葉は聞こえて来る。


(んん、無事に異世界に到着したようだね~)


(……え、その声は神様、ですか?)


(うん、そうだよ~。いや、僕とした事が君にスキルの内容を教えるの忘れてたからさ~。こうして連絡をとってるってわけ)


(成程、わざわざどもです~。それにしても、世界が違ってもこうして連絡取れるんですね。流石は神様ですね)


(いや、これ凄い力を使ってるんだからね~? 流石の僕でもこうして話が出来るのはそっちの時間で数か月に一回程度だと思うからさ~。今からスキルについて教えるけど、聞き逃さないように気をつけてくれよ~)


 ああ、流石に神様と言えど世界を超えて会話は難しいのか。

 そして、次に話せるのは早くて一か月後か。

 これは絶対に聞き逃せないな。


(さて、それじゃ早速だけどぱぱっと説明しちゃうね~。まず、君に与えたスキルは二つで魔力変換・脂肪と脂肪操作だよ。魔力変換・脂肪はその名の通り自身の魔力を脂肪に変換する事が出来て、脂肪操作はありとあらゆる脂肪を自身の思ったままに変幻自在に操る事が出来るのさ~)


 ……ええ。

 なんか、想像してたのと大分違う。

 脂肪操作とか、正直言ってかっこ悪くね?

 もっと、火とか雷とか操る。

 そういったスキルを期待してたんだけどな~。

 ちょっとショックだね。


(あれ、もしかして君、変なスキル貰ったな~とか思ってる?)


 ――うぐ、流石は神様、鋭い。

 

(そ、そんなことありませんよ)


(はあ、棒読み乙。君って嘘つくのあんま上手くないね~。全く、魔力変換のスキルは超レアスキルとして有名なんだよ? これを持ってる人は成功が約束されたようなもんって感じで。それに加えて脂肪操作。この二つの組み合わせは凶悪だよ~)


 ほお~。

 神様がここまで太鼓判を押すんだ。

 もしかしたら、本当に有能なのかも。

 少し希望が見えて来たな。

 

(成程。神様、この二つのスキルで頑張ってみますよ)


(うんうん。そう言ってくれると上げた甲斐があたってもんだね~。それじゃ、スキルの説明も終わったし話はこれくらいにしておこうか。そろそろ僕も限界だからお菓子でも食べてくるよ~。じゃあ頑張って生き残るんだよ~)


 その言葉を最後に神様の声は聞こえなくなった。

 ていうか、神様でもお菓子食べるんだな。

 しかし、異世界に来た俺の事まで気にしてくれるとは。

 いい神様だ、感謝します。

 さて、それじゃ神様の言っていた通り。


「気合い入れて、生き残るとしますかね」


 とりあえず、神様に貰ったスキルの確認をするか。

 最初に脂肪操作の確認だが。

 これ、どうやってスキル発動するんだ?

 う~ん、分からんな。

 この辺りの事も聞いておくべきだったか。

 仕方ない、色々試すか。


 俺は頭の中で脂肪操作、脂肪操作と何度も念じながら自分の体の脂肪を触ったり捻ったり、時には伸ばしたりしてみる。

 

「――うおっ!」


 これは、凄いな!

 俺の脂肪が予想以上に長く伸びた。

 それはもう千切れてしまうのではないかと思うくらい伸びた。

 ゴムのようにどこまでも伸びる感じだ。

 自分の脂肪ながら少しきめえ。


 その後、色々実験を繰り返した結果、俺の脂肪は俺の思った通りに形状を変化させたり、腹の脂肪を腕に移動させたりと位置も変えられるようだ。

 そして、何と重量までも変化する事が出来た。

 つまり、最初に俺の体が軽く感じたのは、無意識にスキルを使って動きやすいように脂肪を軽くしていたのか。便利なもんだね。


(はは、数か月この体系で過ごしてきたからか物凄い体が軽く感じるな。そして、軽く出来るということは、重くも出来るということ)


 早速試してみるとしますか。

 そう考え軽い気持ちで体の脂肪の重量を増やす。

 

 次の瞬間、俺の体は大きな音を立て地面にめり込んだ。


「――がはっ! 重い、重すぎる!」


 これは非常にまずい。

 このままではペチャンコに潰れてしまう!

 俺は必死に脂肪よ軽くなれ軽くなれと念じた。


「……はあ、助かった」


 本気で命を危機を感じた。 

 おそらく、あと数秒軽くするのが遅れていたら、俺は自分の脂肪に潰され死んでいたと思う。流石にまぬけすぎて神様に申し訳が立たない。

 良かった、本当に生きてて良かった~。

 

 しかし、脂肪を重くするのは当分禁止だな。

 軽くする分には問題ないが、重くするのは命に関わる。 

 今のまでは怖くて使えん。

 少しずつ練習して使いこなせるようにしていこう。

 実験の反省を頭に浮かべていく。

 

 その後、服に付いた泥などを落としていた時。

 俺の視界の端に草や木をなぎ倒し、動物というには明らかに大きく凶暴な見た目の生物が姿を現した。


「ブオオオオオオオ!!」

 

 やべ、さっき大声を上げたのがまずかったか。

 にしても、何だよこの怪物は。

 豚、いや姿はイノシシに近く感じる。

 全長三~四メートル、額には大きな角。

 まさか、こいつが神様の言っていた魔物か?


(神様、初っ端からハード過ぎますって)


 ――っと、今はそんな事を考えている場合じゃない。

 考えるべきことは、どうやってこの場を切り抜けるか。

 逃げる事は……不可能だな。

 魔物は俺を逃がすつもりはないらしい。


 となると、戦うしかないか。

 しかし、俺が出来る事は脂肪の重量と形状と位置の変化。

 ……いやいや、これでどうやって戦えっていうんだ!


「ブオオオオオオオ!!」


 当然、俺の考えがまとまるのを魔物は待ってくれるはずもなく、その巨体をドスンドスンと音を響かせ俺に突進してくる。


(その巨体でその速さ、反則でしょ……)


 そう心の中で嘆く。

 ただ、幸いなのは突進は速いだけで一直線な事。

 進路も簡単に読める。

 

 しかし、進路が読めるからと言って避けられるわけではない。

 元々俺は身体能力が特に優れているわけではない。

 というか、同世代よりは確実に劣っている。

 くそ、やっぱ少しは運動もしておくべきだった。


 さて、避けられないのなら受け止めるしかない。

 問題は、こんなブヨブヨの脂肪であの突進を防げるか。

 どう考えても無理な気がするがこれしかない。

 俺は両腕に体中の脂肪を集め突進に備える。

 そして、魔物の頭部と俺の脂肪が激しくぶつかり合い。


「――がはっっ!!」


 俺の体は衝撃で背後に吹き飛ばされ、大木に激突した。

 背中に衝撃が走り激しく息を吐く。

 しかし、ここで一つ違和感。

 俺が想像していたよりも、痛みが少ない。


 特に直接突進を受けた両腕、普通なら一番痛い場所なはずだが、不思議と全くと言っていいほど、痛みを感じない。

 どうしてか、それは両腕の脂肪を触って初めて気付いた。


(――堅い。まるで鋼鉄)


 ――まさか、脂肪操作は硬度まで操れるのか!?

 俺は思わず息を飲んだ。

 同時に神様の言っていた言葉を思い出す。

 はは、確かに変幻自在。

 神様、確かにこのスキル使えますよ!


 そうして少し余裕が出来た俺が表情に笑みを浮かべながら目の前の魔物を見ると、魔物は頭部から少量の血を流し、角には少しヒビが入っている。

 

 よし、俺の脂肪と奴の角では俺の脂肪の方が硬い。

 勝機が見えた、生き残れるぞ。


「ブオオオオオオ!!」


 魔物は俺のそんな態度が気に食わなかったのか。

 闘争本能が刺激されたかのように大きな叫びを上げ、再び俺に向かって突進してきた。明らかに先程以上の速さ、だが……。


「所詮は猪突猛進。姿が似ると性格も似るんだな」


 先程と違って心に余裕が生まれていた俺は冷静に魔物の動きを見切り、片腕に脂肪を集中させ、大槍の形状に変化させ硬化する。

 これを、突進に合わせ魔物の額に突き刺した。


「ブ、ブオオォォ……」


 脂肪の槍は魔物の頭部に深く突き刺さり、やがて魔物は崩れ落ちた。


「……死んだか?」


 確証が取れない。

 ここは異世界でこいつは魔物。

 もしかしたら、頭部を刺されても生きている生物はいるかもしれない。

 もしかしたら、死んだ振りをしているかも。

 

 そう考えた俺は魔物が動かなくなった後も観察を続け、目が閉じられ心臓の音も聞こえなくなり体も冷たくなってきてようやく死んだと確信した。

 これを確認した俺はようやく魔物の体に突き刺さったままだった脂肪を抜き元の状態へ戻し、大きく息を吐きその場に腰をついた。


「ふ~。何とかなったか」

 

 危なかった。死ぬかと思った。

 脂肪の硬化に気付かなければ俺の勝利はなかった。

 薄氷の勝利、といったところか。

 だが、勝ちは勝ちだ!


(神様、何とか生き残りました)


 さて、本当はこのまま勝利の余韻に浸っていたいんだが。

 魔物の死体、このままには出来ないよな~。

 そう考えふと俺は自分が殺した魔物の死体を見ると、突如、胃から口に向かって何かが込み上げてきて草むらに嘔吐した。


 ああ、これが初めて生き物を殺した感覚か。


 分かってはいたが、いいもんではないな。

 少し罪悪感が湧いて来る。

 しかし、同時に魔物を殺した事で達成感も感じている。

 はあ、人間って複雑だよな~。


「ゲホッ。まあ割り切るしかないか」


 神様の言っていた通りならここは甘い世界ではない。

 これから先、生き物を殺す事は何度もあるだろう。

 その度に嘔吐していたのでは体が持たない。

 大丈夫、俺は割り切るのは得意だ。

 

 ……よし、覚悟は決めた。


 さて、それじゃ今度こそ魔物の処分を考えるか。

 最初に思いつくのは食べて処理するって事だが。

 流石に火を通さないのは不安だよな~。

 寄生虫、とかいるかもだし。

 けど、火を起こすとか無理だよな。

 

 ……いや、ちょっと待てよ。

 確か、昔に読んだ漫画で石と石を打ち合わせ火を起こしていたな。

 正確には火花を起こすんだったか?

 けどあれって確か普通の石じゃなくて火打石とかいうのだった気が。

 いや、何事も試しか。

 もしかしたら、気合いで何とかなるかも!

 そうと決まれば、手ごろな石でも探すとしますかね~。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

少しでも小説が面白い、続きが読んでみたいと思って頂けたなら、ブックマークを付けて貰えたり下の【☆☆☆☆☆】で評価ポイントを付けて貰えると励みになります!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ