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第十二話 漆黒のローブ


 

 メルさんと冒険者ギルドへ向かっている途中、俺は周囲を歩く人達と自分を見比べて、ああ、やっぱり俺の服装目立つよな~と思った。

 服変えた方がいいのかな~。

 う~ん、けどこの服はな……。


「どうかしたのかカンジ君。何か考え込んでいるようだが?」


「いえいえ。ただ、俺の服装やっぱり変わってるな~って思っただけです」


「まぁその通りではあるな。これから先、この世界で暮らしていくなら嫌でも目立ってしまうだろう。それが嫌なら新しく服でも買うかい?」


 私が買ってやってもいいぞ?

 そうメルさんが打診してくれるが。

 俺はその打診に俺は首を横に振り答える。


「……いえ、しばらくはこの服を着ていようと思います。このダボダボな大きさも脂肪操作を使うのに勝手がいいですし。――それに、この服は俺の母が買ってくれた物なんです」


 この服は俺に残された数少ない母との繋がり。

 出来ればもう少しこの思い出に浸っていたい。

 はは、なんか俺ってマザコンみたいだな。

 ……まあ、別にマザコンでもいっか。

 だって、嫌いより好きな方がいいもんな。

 それに、偉い人が男はみんなマザコンって言ってたし!


「成程、君の気持ちは理解した。しかし、やはりそのままでは色々と不便だろう。ローブならその服の上からでも羽織れるからお勧めだぞ?」


 ローブって漫画とかで見る魔術師っぽい服装のやつ?

 ああ、確かにあれなら問題ないかも。

 この服の上からでも余裕で羽織れそうだし、大きめのサイズを買えば脂肪操作で太った姿に戻ったとしても千切れる事はないだろう。

 うん、ありだね~。


「分かりました。お金が貯まったら買おうと思いま――」


 俺の言葉を遮りメルさんは言った。


「ふ、私が買ってやる、先程そう言っただろう? よし、では冒険者ギルドに行く前に防具屋にでも行くとするか。私の行き付けの店だ、付いてきたまえ」


 そう言ってメルさんは強引に俺の腕を引っ張る。

 やだ、メルさんったら強引なんだから~。

 

 ……いや、ほんと強引だぞ。どんな力してんだこの人。

 俺、結構ガタイいいのに、ズルズルと引きずられていく。

 メルさんは見た目細身なのに、これがレベルの差か!?


 そう驚愕している内にメルさんの行き付けの服屋とやらに到着して、無駄に豪華そうな扉を開け店内へと入っていく。


「これはこれはメルクリア様。いつもご贔屓にしてくださり感謝しております」


「この店は品ぞろえがいいからな、私も助かっているさ。それより、今日の目的はローブだ。出来るだけ大きめで性能もいいのを持ってきてくれ」


 メルさんの言葉に男性はかしこましましたと告げ、側を歩く従業員に最上級のローブをあるだけ持ってきてくれと告げる。

 次に男性は興味深そうに俺の服装を見て言った。


「それにしても、お連れの方は珍しい服を着ていますね。実に興味深い。どの地方で作られた服なのか、実に気になりますね……」


「え~と、悪いですが企業秘密って事で?」


「それは残念です……。と、私とした事が自己紹介を忘れていました。私の名はエリク、この防具店の店長を任されています」


「あ、俺の名前はカンジです。宜しくお願いしますエリクさん」


 そうして俺とエリクさんが挨拶を交わしていると、隣のメルさんが小声で珍しい事もあるものだと呟いたのを俺は聞いた。

 う~ん、何がそんな珍しいのか。

 そう俺が疑問に思っている内に、従業員さんがやってきて。


「店長、要望通りありったけを持ってきました」


「うむ、ご苦労だったね。君は仕事に戻ってくれたまえ」


「かしこまりました。では私はこれで失礼します」


 従業員さんは俺とメルさんは頭を下げ仕事に戻る。

 

 それにしても、ありったけを持ってきたって言うだけはあるな。

 二~三十着はあるだろうか、物凄い量だ。


 俺がその量に圧倒されていると。

 隣のメルさんが感心した様子で言った。


「ほう、地竜の素材を使った物に溶岩獣の素材を使った物もあるな。ここまでの品揃えは王都でも中々あるまい。流石だなエリク」


「いえいえ。これもメルクリア様達が私共に素材を提供してくれているからでございます」


「ふ、私達もこの店のお陰で優秀な防具が手に入っている。お互い様だな。さて、ではこの中からカンジ君に合った物を選ぶとするか」


 ちょっと待って。

 地竜とか溶岩獣とか聞こえて来たんだけど、それってもしかしてめちゃくちゃ高価な物じゃないの? それ、本当に買って貰っていいの?

 俺はもう少し安そうなローブでも~。

 そう言うとメルさんは首を振り言った。


「カンジ君、安物が悪いとは言わんが自分の身が大事ならちゃんとした物を買うべきだ。安物には安物の理由が、高価な物には高価な物の理由がちゃんとある」


「確かにメルクリア様の言う通りですね。冒険者や傭兵の方が金を勿体なく思い安物を買った結果、死んでしまったという話もよく耳にします」


「そう言う事だ。だからこそ、冒険者や傭兵は金に糸目を付けるべきではない。なのでここは黙って私に甘えておくべきだと思うよ」


 ……そこまで言われると、反論なんて出来ない。

 俺がメルさんにお願いしますと告げる。

 メルさんはうむと頷きエリクさんに言った。


「ではエリク、カンジ君に合った効果を持つローブはあるかな?」


「そうですね。見た限りカンジ君は接近戦を主に行うようですので、先程見て頂いた地竜のローブはどうでしょうか。衝撃耐性の効果を持っています」


「ふむ、悪くないな。他には何かないか?」


「でしたら、溶岩獣のローブなども優秀だと思います。こちらは熱耐性の効果を持っており、火魔法を軽減したり、熱暑でも問題なく行動できます」


「中々だな。うむ、迷ってしまうな……と、何か目についた物があったかい?」


 メルさんの言う通り、今の俺は大量のある中で一つだけ漆黒に染まるローブに目を奪われていた。これ、いけてるな。


「エリクさん、このローブを詳細を聞いてもいいですか?」


「それは黒狼の毛皮を加工したものローブですね。効果は斬撃耐性、それと少量ですが隠密性の上昇も備えています」


 おお、優秀な効果だ。

 隠密性は色々役に立ちそうだし、斬撃耐性は特に良い。

 いつか、メルさんと戦う時も役に立ちそうだ。

 大きさも問題ないし見た目も最高。

 よし、俺はこれに決めたぞ!


「メルさん、俺はこれにしたいと思うんですがどうでしょうか?」


「うむ、斬撃耐性はどちらかと言えば冒険者とより傭兵向きだが悪くはないと思うね。それに、君の考えもある程度は読める」


 いいんじゃないかな。

 そう言って笑顔でメルさんは頷いてくれる。

 

「さて、では話の通りこれに決めたいと思うが、値段はいくらかな?」


「こちらは白金貨三百枚となります」


 ぶうううううううううう!!

 白金貨三百って、日本円で三千万かよ!?

 嘘だろ!? 俺、どんだけメルさんに世話になるんだよ!!

 どんどん恩が積み重なってくじゃねえか!

 

 俺の驚愕を他所に、メルさんは次元収納箱の中から大きな包みを取り出し、エリクさんに割と適当にポイって感じで渡した。 

 あれ、三千万の扱い軽くね?

 

「確か白金貨が三百と少し入っていたはずだ。釣りは要らん」


「これはこれは、いつもありがとうございます。ではカンジ様、こちらが黒狼のローブになりますので、お受け取り下さい」


 黒狼のローブを受け取った俺は早速身に纏って感触を確かめていく。

 う~ん、最高だねこれは。

 動きに何の支障もないし、恐ろしく軽い。

 それでいて生地の質はしっかりしている。

 こうして実際に着ると確かに高級なのも納得いく。

 安物とは違うぜ安物とはよ~!

 ――まあ、買ってもらった物だけどね。

 

「ほう、中々に似合っているな」


「確かに。カンジ様は髪や目も黒く、漆黒のローブとよく合っています。最も、傭兵や冒険者というより、諜報係や暗殺者に見えてしまいますが」


 ああ~確かにな~。

 今の俺の格好って真っ黒だもんな。

 どちらかと言えば闇に潜む暗殺者って感じか?

 やべ、また中二病っぽくなっちまった。

 

「さて、目的の物は買えたことだし、そろそろ行くと……カンジ君、黒狼のローブに見惚れるのはそれくらいにしたらどうかな?」


「――ああ、すいません! つい嬉しくて!」


「ふふ、怒ってはいないさ。喜んでもらえて嬉しく思うよ。さて、では今度こそ冒険者ギルドへ向かうとしよう。世話になったなエレク」


「いえ、私の方こそ良い取引をさせて頂きました」


 そして、良い出会いも……。

 エレクさんそう言って俺に一つ頼みごとを。


「カンジ様、もし貴方が冒険者の道に進むのなら、珍しい素材を見付けば場合などは私の店に持ってきてくれると助かります。その場合、ギルドで売るよりも色を付ける事を約束します」


 エレクさんは真剣な表情でそう告げる。

 その目はまさに商売人って感じの目だ。

 

 そして、これを聞いたメルさんは面白い物を見たという感じで言った。


「お前が自分の名を簡単に告げるなど珍しいと思っていたが、やはりカンジ君に目を付けていたか。くく、相変わらず抜け目がない」


 ああ、なるなる。

 メルさんが俺達が自己紹介した時に驚いていたのはそういう事か。

 それにしても、何であったばかりの俺にこんな期待を?


「メルクリア様が私の店に誰かを連れてくるなどカリン様以来。気にするなと言う方が無理な話です。それにカンジ様は何か大成しそうな雰囲気をお持ちに感じます。こちらはあくまで私の勘ですがね」


 恐ろしく高い評価をしてくれるな。

 さて、ここまで言われて断るわけにはいかんよな~。


「分かりました。俺は冒険者の道に進むつもりですので、珍しい素材などを見つけた場合はギルドよりこちらを優先する事を約束します」


「カンジ様のご厚意、感謝します」


 こうして俺とエレクさんは一つの約束を交わした。

 そして、俺とメルさんは店を出て今度こそ冒険者ギルドへ向かった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

少しでも小説が面白い、続きが読んでみたいと思って頂けたなら、ブックマークを付けて貰えたり下の【☆☆☆☆☆】で評価ポイントを付けて貰えると凄く嬉しいです!


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