第十一話 俺の世界とこの世界
夕食後。
クレアに少し童話を話したりして自分の部屋に戻った俺は、
魔力変換・脂肪を使っての実験を行っていた。
「ここから部屋の隅までいけるか。成程ね~」
大体だが、5メートル前後は離れていても脂肪は作れる。
しかし、距離が遠くなるほど脂肪を作る速度は遅くなる。
そして形状変化の制御も難しくなっていく。
加えて、強度も俺の脂肪とはかなり差がある。
今の所、半分程度の強度が限界だ。
更に魔力で作る脂肪には時間制限がある。
五~十分ってとこかな。
込める魔力によって変わるが大体この辺りだ。
それを超えると俺の意志とは関係なく脂肪は消える。
う~ん、こうして考えると余り使えないか。
……いや、考えるのは早計だな。
俺が実験を始めてもう数時間。
生み出した脂肪は俺の纏っている脂肪の数十倍はある。
それだけの脂肪を生み出したにも関わらず、
俺の体に一切の疲れはない。
いくら本物の脂肪より各能力の制度は劣るものの、あれだけの量の脂肪を自由に使えるとすれば、使える戦略や技も増える。
例えば、自分の脂肪を消費するのが嫌で使えなかった【脂肪大砲】も魔力を使っての脂肪なら遠慮なく使っていける。
勿論、威力などは下がるだろうけどね~。
そして、俺が一番注目しているのは重量変化だ。
先程、形状変化と強度変化は本物より劣っていると言ったが、重量変化だけは本物と大差ない程度に扱える事が分かった。
最も、重量変化は扱いが難しく、本物の脂肪でも一か百かと言った感じで大雑把にしか制御できていないんだけどね。
ただ、それでも使い道はある。
これから色々と試していくとしよう。
そう考えながら俺はベッドに横になる。
おお~、やっぱこのベッドいいな。
最近、地面で寝てばかりだったからな。
実は腰の辺りが結構痛かったのだ。
これなら今日は快適に眠る事が出来そうだ……。
=============
翌日、早朝。
ん~よく寝たな。
いい気分で寝る事が出来た。
やっぱりベッドはいいね~。
起きた時に体が痛くないってのが最高だ。
「カンジさん、起きてる?」
ベッドから立ち上がり背筋を伸ばす。
そうしていると扉がノックされクレアの声が。
俺は少し歩き扉を開けて。
「おはようクレア」
「おはよう。カンジさん、早起きなんだね」
「はは、それを言うならクレアもだろ。驚いたよ、クレアがこんなに早く起きて来るなんて。もしかして、朝食の時間だったりする?」
「ううん、朝食の時間はもうちょっと後。ただ、朝食の時間までカンジさんに話を聞かせてもらいたくて、頑張って早起きした」
あ~、こりゃ相当童話気に入ってるな。
けどどうしよう、童話のストックあんまないんだよな。
仕方ない。漫画とかの話も混ぜていくか。
「分かった分かった。それじゃ朝食の時間までな?」
「――うん、分かった!」
そう言ってクレアは俺の部屋にするりと入り込んで、俺のベッドの前にスタンバイしている。早く座れ、膝に座れないと言われているようだ。
俺はクレアの様子に苦笑しながらベッドに座り、膝の上にクレアを乗せて童話や漫画の話などを一時間ほど語った。
「カンジ様、そろそろ朝食の時間でございます」
この声はバトラさんか。
俺は分かりましたと返事をして扉を開ける。
「おや、クレア様もご一緒でしたか。でしたら、お二人とも食堂にお越しください。ガリウス様とメルクリア様がお待ちです」
ん、ラインさんとアイリスさんは一緒ではないのか?
ていうか、メルさんもう来てるのかよ。
確かにまた顔を出すって言ってたけど。
こんな早朝に来るとはね~。
「成程。待たせるには怖い二人だ。早速食堂へ向かいます。バトラさん連絡ありがとうございました。クレア、行こうか」
「うん、行く」
そうして俺とクレアは食堂へ向かった。
「……ほ、ほう。更に仲良くなったようじゃないか」
食堂に着くとメルさんが最初に声を掛けて来た。
言葉に何か棘を感じたのは気のせいだろう。
しかし、やっぱ美人だよな~。
服装が昨日と違うのが理由だろうか、昨日よりも二倍増しくらいで綺麗に見える。
あ~、眼福眼福。
「ぐぎぃ~~! わしのクレアが~~!」
そしてガリウスさんはいつも通りっと。
はは、昨日のアレが嘘のように思えるな~。
まぁ面白いから別にいいけど。
そう思いながら俺とクレアは席に着いた。
「そう言えば、アイリスさんとラインさんはいないんですか?」
「あの二人は証拠となる盗賊達を連れバトラ殿達の部下と共に領主の元へ向かったよ。マロン商会の悪事を告発するために」
「成程。けどそれって大丈夫なのでしょうか? もしマロン商会がその情報を聞きつけたら、二人が襲われてしまうことも」
俺の言葉にメルさんは心配は不要だと言う。
「アイリスがいれば問題はないさ。奴は足の怪我で遠出が出来なくなり傭兵は引退したものの、魔法の腕は些かも落ちてはいない。もしマロン商会の者が二人を襲ったとしても、氷漬けの死体が出来るだけだろうね」
何でも、足に怪我をする前のアイリスさんはメルさんとほぼ同格の実力者で、傭兵の中でも五本の指に入るくらい魔法には優れているとか。
てかやっぱ魔法とかあるんですね~。
けど待てよ、アイリスさんのアレってスキルじゃないっけ?
この事についてメルさんに質問してみたところ、何でも魔力を使って行う事象全てを魔法として定めているらしく、魔力変換のスキルも魔力を使っているため、魔法として扱われているようだ。
その後、朝食を食べ終えた俺達は少し休憩を取り、クレアはガリウスさんと勉強の時間という事でガリウスさんの部屋へ二人で向かった。
ちなみに、孫と二人きりになれるためガリウスさんは上機嫌だった。
そして、食堂に残った俺とメルさんはと言うと。
「さて、早速だが君の世界の話を聞くとしようか」
「分かりました。では俺の部屋に向かいましょう」
流石に食堂で俺の世界についての話をするわけにはいかなので、俺はメルさんを連れて与えられた部屋へと戻っていく。
そして俺はベッドにメルさんは椅子に座り話が始まった。
「さて、何から話していけばいいか。まず、俺のいた世界では魔法やスキルなどといった現象は存在していません。その代わり、科学技術が発達しています」
「ほう、科学技術。詳しく話を聞かせてもらえるか?」
俺は普段の生活で使う化学の技術、それに車や飛行機といった移動手段、加えて電気やガスなど色々な事を話していく。
メルさんは俺の話を聞いている時は普段の冷静な姿と違い、まるで子供かのように目を輝かせ、凄い、素晴らしいなど何度も何度も感心していた。
「車や飛行機などと言う移動手段も興味深く感じたが、まさか人間が魔法を使わずに電気を生み出すとは。科学技術、素晴らしいではないか」
俺の話に興奮して頬を赤くするメルさん。
少し失礼だが俺はメルさんをただの戦闘狂かと思っていた。
しかし、こうした姿を見ると印象が変わる。
そう言えば、古文書を読むのが趣味だとも言っていたな。
メルさんは自分が持ちえない知識を取り込む事に貪欲だ。
意外と研究者とかそういう仕事も似合いそうだ。
その後も建造物の事や電話やパソコンの事など色々話して、気付いたら部屋で話し始めてから数時間の時が経っていた。
「俺の話はこれくらいですが。どうでしたかメルさん?」
「……ああ、満足した、満足したとも。本当に素晴らしい時間だった。未知の情報にここまで心を揺さぶられるのは数年ぶりだったよ」
その言葉通り、メルさんは荒く息を吐きながら顔を上気させ、何度も何度も満足そうに頷いて嬉しそうに笑うのだった。
それにしても、このメルさんえろいな。
顔も赤くなり息も荒い、色気やっば。
いや~、いいっすね~~!!
「……ふう、さてと。君は約束を果たしてくれたことだし、次は私の番だな。話していくとしよう。この世界について」
そうしてメルさんはいつもの冷静な顔に戻る。
ああ、もう少しえろいメルさん見ていたかった。
けど仕方ない、俺の為に話をしてくれるんだ。
一言も聞き逃さないよう集中するぞ。
「この世界は大きく分け四つの大陸に別れている。まず私達が今いるのがシャリア大陸、ここより東にあるのがレガル大陸、西にあるのがウォール大陸、そして北にあるのがゴラン大陸」
ほ~大陸四つしかないのか。
いや、地球だって大陸は六個くらいだっけか。
そう考えると特別に狭いってわけではなさそうだ。
「各大陸の特徴だが、我々のいるシャリア大陸は昔から争いが少ないとして有名だ。逆にレガル大陸は争いが盛んで血の気が多い傭兵や冒険者が集まる大陸とも言われている。私も修行時代に行ってはいたが、まあ二度と行きたいとは思えんな」
ほお、戦いが好きなメルさんが行きたいと思えないって余程酷いとこなんだような~。絶対行きたくないわ~。
「次にウォール大陸だが、ここは昔、魔大陸と呼ばれていた時代もあり、今でも人間以外の種族、獣人やドワーフなどが多く住む大陸だ」
「……えっ? この世界って人間以外にも種族いるんです?」
「ん、勿論だよ。この世界には獣人やドワーフを含め数十を超える種族が住んでいる。最も、人間よりは圧倒的に数は少ないけどね」
おお、成程ね。
獣人か、兎の獣人とかいたら会ってみたいな。
そして耳とか触らせてもらったりして~。
夢が膨らみますね~。ケモミミ最高!
「さて、最後にゴラン大陸だが、この大陸は四つで唯一人間しか住んでいない大陸だ。……いや、人間以外を間引きした大陸と言った方が正しいか」
「ん、最後、何か言いましたメルさん?」
「――いや、今の君が必要な話ではないさ。ただ、九仙華月、この名だけは頭の片隅に入れておいてくれ」
「ん~、よく分かりませんが覚えておきます」
「うむ、素直でよろしい。では次の話に移ろうか」
そうして俺は次に貨幣について聞かされる。
何でもこの世界では銅貨、銀貨、金貨、白金貨といった値があるらしい。
それぞれの価値はこんな感じだ。
銅貨一枚、百円。
銀貨一枚、千円。
金貨一枚、一万円。
白金貨一枚、十万円。
「最も、白金貨などは貴族達しかほぼ使ってはいないがね。貴族以外の人は銅貨、銀貨、金貨で取引をするのが一般的だね」
成程、思ったより分かり易くて助かる。
問題は俺が一文無しってことくらいかな!
早く俺も仕事して金溜めないとな~。
「さて、では最後に仕事の話に移ろうか」
お、待ってました。
さて、俺に合った仕事はあるのかね~。
「私が君に進めるのは冒険者か傭兵だ。それ以外は正直微妙、というより異世界に来たばかりの君にとっては難しい仕事ばかりだろう」
「冒険者か傭兵ですか。ちなみに、その二つってどんな違いがあるんです?」
「そうだね。冒険者は主に魔物を相手に戦う仕事で、傭兵は主に人間を相手にする仕事かな。勿論、場合によっては逆もあり得るがね」
「成程。なら俺は冒険者になろうと思います」
人間相手にするよりは魔物を相手にする方が気が楽だもんな~。
俺の答えを聞いたメルさんはうんうんと頷き。
「うむ、良い選択だな。魔物は倒すとレベルが上がるからね」
「やっぱそうですよね~レベルが……えっ? ちょっと待ってください。この世界ってレベルとかそういう概念あるんです!?」
「うむ、レベルは確かに存在している。昔から魔物を倒すとレベルが上がると言われていてね。実際に魔物を一定数倒すとレベルが上がり身体能力や魔力が上昇していくのさ。最も、スキルや技術は自分で鍛えるしかないがね」
成程ね。
どうやら俺の体力が増えているのは魔物を倒してレベルが上がった影響のようだ。
しかし、そうなると俺のレベルが気になるな~。
何か調べる方法とかないのかね?
「ふむ、丁度話も終わったところだし、レベルが気になるなら冒険者ギルドにでも行ってみるかい? あそこならレベルを測る装置もあったはずだし、ついでに君の冒険者登録もおこなってしまえばいい」
「おお、行きます!」
「よし、では早速向かうとしようか」
そうして俺とメルさんは屋敷を出て冒険者ギルドへ向かった。
俺のレベル、いくつか楽しみだな~。
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