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第十話 夕食


「アイリスさん、もしかしてここが俺の部屋でしょうか?」


「そうよ~。少し狭かったかしら?」


 アイリスさんの言葉に俺は慌てて首を振る。

 

「逆ですって。本当にこんな立派な部屋に住ませてもらっていいんです?」


 俺がそう聞いてしまうのも無理はないと思う。

 それ程に案内された部屋が隅々まで掃除が行き届いた立派な部屋で、最高級ホテルと紹介されても違和感を感じないだろう。

 綺麗すぎて逆に落ち着かないくらいだ。

 

「いいのよ~。カンジ君は私達にとって恩人なんだもの~」


 アイリスさんはそう軽く言ってくれる。

 本当にいいのかね~。

 そう考えていると隣のクレアが。


「私の正面の部屋、嫌?」


 そう不安げに聞いてくるので俺は頭を撫でながら。


「ああ、違う違う。部屋が立派で少し驚いていただけだよ。クレアと正面の部屋なのは嬉しいに決まってる。いっぱい話が出来るもんな」


「――うんっ! いっぱいお話しする!」


 クレアは笑顔で嬉しそうに頷いて言った。

 それを見ていたアイリスさんは。


「あらあら~、本当に仲良しね。正直あの話は冗談半分だったんだけど、この分なら本気で考えても問題なさそうね~」


 アイリスさんは俺とクレアのやり取りを微笑ましく見守る。

 いや、若干その笑みが黒い気がするが。

 ま、まあ気のせいだよね~。


「さて、それじゃ私はメルちゃん達のところに戻るからカンジ君は部屋でクレアと仲良くしててね~。ご飯の時間になったら誰かが呼びに来ると思うわ~」


 え、クレアをここに置いていくのか?

 俺が疑問に思っているとメルさんが小声で。


「あんまり拷問の結果とかはクレアに聞かせたくないのよ。えぐい話とかもありそうだし。だから、クレアの事をよろしくねカンジ君」


「成程。そういう事なら任せてください」


「ふふ、頼りになるわ~。それじゃ、また後でね~」


 そう俺に言い残しアイリスさんは部屋から退出した。

 部屋に残された俺とクレアは。


「とりあえず座ろうか。クレアも疲れただろ?」


「うん、分かった」


 クレアが頷いたので俺は近くのベッドに腰を下ろす。

 うお~、物凄くふわふわだね。

 こんなベッドで寝ると気持ちいいだろうな~。

 そんな事を俺が考えているとクレアも同じように腰を下ろす。

 ただし、ベッドにではなく俺の腰の上に。

 

 え、ええ。何故にここまで懐いているんだ!?

 そう疑問に思ってしまうが退けとは言えん。

 だって、クレア凄く満足そうだもん。


「ん、やっぱりカンジさんの側は、落ち着く」


「はは、それは良かった。さて、このままボ~としててもあれだし何か話そうか。クレアは俺に聞きたい事でもある?」


「ん~。山でどんな暮らしをしていたか聞きたい」


 ああ、そう言えばそういう設定だったね。

 でも山暮らし嘘だからな~。

 まぁバロウ森林でいた頃の話でいいか。


「そうだな。まず朝はそれなりに早く起きて、それからはスキルの訓練とか魔物や動物を狩ったりして、その繰り返しかな」


「カンジさんも、スキル持ち?」


「ああ。俺は脂肪操作ってスキルを持ってるよ。本当はもう一つあるんだけど、そっちは魔力の使い方が変わらないから使えないな」


「ん、魔力の使い方、教える?」

  

 唐突なクレアの提案に俺は少し驚く。

 え、クレアってその年で魔力が使えるのか?

 

「うん。ママみたいに上手くは使えないけど、これくらいなら」


 そう言うとクレアは自身の手の平に何か不思議な力を溜めて行き、次の瞬間には手の平に小さな氷の塊が現れていた。

 

 お、おお。これが魔力変換か。

 おそらく、クレアは自身の魔力を氷に変化させたのだ。


「こんなことが出来るなんて。凄いなクレアは」


 自然と称賛の言葉が口から漏れた。

 

「褒められた。嬉しい……」


 クレアは若干恥ずかしそうにして俯きながらも口元は喜びで綻んでいた。

 しかし、手の平に集まっていたあれが魔力なら。

 そう思い俺も手の平に魔力を集めようとするが。

 う~ん、魔力の集め方が分からん。

 ていうか、魔力が全く感じ取れない。


 そうして俺が途方に暮れていると。

 クレアが俺の胸に静かに手を添えた。

 すると、俺の体に何か温かい力を感じる。


「ん、体に力、感じる?」


「……ああ、そうか。この力を感じるのはクレアのお陰なんだな」


「うん、そう。私もこうやってママに魔力を見出してもらった。でも、カンジさんって凄いね。ママと同じくらいの魔力を持ってる」


「え、俺ってそんな魔力あるのか?」


「ん、ある。魔力の量でカンジさんに勝てる人間、あんまりいないと思う。ママが前に自分の魔力量は世界でも上位よ~って言ってたから」

 

 おお、それは純粋に嬉しいね~。

 魔力は多くて困るもんでもないだろうからな。

 嬉しい誤算ってやつかね~。


「後は簡単。感じた魔力を、体の外に放出する感じで」


 成程、こうしてこうか!

 クレアの言う通りにすると体の外に魔力が放出され、放出された魔力は瞬時に脂肪へと姿を変えて俺の手の平に現れる。


 おお、これが魔力変換・脂肪の効果か!

 確かに魔力が脂肪になっちまった!

 プニプニして新鮮な脂肪だ~!


「ん、成功、した?」


「ああ、クレアのお陰だよ」


「そう。良かった」


 そう言ってクレアは頭を俺に方に向けてきたので、俺はさっきと同じようにクレアの頭を優しく撫でる。

 クレアは頭を撫でられるのが好きらしい。

 しかし、さらさらで綺麗な髪だな~。

 撫でてるこっちも気持ちよくなってくる。

 ……変な意味じゃないぞ?


 その後、魔力の使い方を教えてもらったお礼に俺は童話などの話を覚えている限りでクレアに話してあげていた。

 クレアは俺の予想以上に童話の内容にのめり込んでいる様子で、俺が思い出すのに時間が掛かると早く早くと俺の体を擦って来る。

 こういうところはまだ子供だな~。

 

「凄い凄い。こんな話、ママでも話してくれなかった」


 ああ、流石のアイリスさんも知ってるわけないわな。

 俺の世界の話なわけだし。


「クレア、この話は俺達だけの秘密な?」


 俺の言葉にクレアは素直に頷く。

 一応、口止めをしておく。

 ここの一家なら話しても問題なさそうとは思うが。

 それもメルさんに色々と話してからかな。


「カンジさん。もっと話、聞かせて?」


「う~ん。残念だけど今日はこれまでかな」


 直後、部屋をノックする音が聞こえる。

 夕飯の時間のようでバトラさんの部下が呼びに来たようだ。

 夕飯の時間という事で立ち上がろうとするが膝の上のクレアが動いてくれないので立ち上がれない。もっと童話を聞いていたいようだ。


「クレア、俺は今日からこの屋敷に住むんだ。これから話をする機会だって山のようにあるさ。そうだろ?」


「……ん、分かった」


 クレアは若干不満そうではあるが俺の膝から立ち上がり、俺と一緒に部屋を出て食事が用意してあるという部屋へ向かった。

 そして部屋には人が軽く数十人は座っても余りそうな程の大きさのテーブルがあり、ラインさんやアイリスさん達は既に席に着いていた。


「これは、凄いご馳走ですね」


「うふふ、そう言って貰えると頑張って用意した甲斐があるわ~」


「アイリス、用意したのは君ではないでしょうに。さて、カンジ君とクレア、好きな場所に座ってください。食事を始めましょう」


 ラインさんの言う通り俺は適当な席に座る。

 そしてクレアは奥の席にいるガリウスさんが必死にわしの隣空いてるよ~的なアピールをしているにも関わらず普通に俺の隣に座った。

 ガリウスさんが落ち込んだ様子で呟く。


「ク、クレアが。わしのクレアが……」


「もう義父様ったら~。嬉しい事じゃない~。クレアが私達以外とあんなに打ち解けるなんて~。義父様もそろそろ孫離れしたらどうかしら~」


「ク、クレアはまだ九歳じゃぞ!? 孫離れにはまだ早すぎるわ!」


「ええ~。確かにクレアは九歳だけど~もう立派なレディよ~? だって、あんな表情が出来るんですもの~」


 その後もガリウスさんとアイリスさんのやり取りは続き、ラインさんが仕方ないと言った表情で二人に話しかける。


「二人とも、その辺にしておいてください。折角の料理が冷めてしまいます」


 ラインさんの一言で二人は大人しくなり、ガリウスさんが手元にある飲み物が入ったコップを持ち乾杯と言って、賑やかな夕食が始まった。


「ん、カンジさん、美味しい?」


「ああ、これは絶品だ」


 その言葉に一切の嘘はなく、ナイフとフォークを使って食べているステーキなどは今まで食べてきたどの肉よりも柔らかく、上品な味がする。

 舌がとろけるとはまさにこの事か。

 よく焼いているからか肉の香ばしさも凄い。

 特に脂の部分が美味しく感じた。

 

 余りの美味さに俺が夢中で食事をしていると、 

 ラインさんが何故か少し驚いていた。

 どうしてか、理由を聞いてみると。


「いや、カンジ君は山奥で暮らしていると聞いていましたので。正直、思っていたよりもマナーが良くて感心していたところです」


 やべ、山暮らしの設定だった。

 俺は慌てて言い訳を並べる。


「あ~。実は山暮らしをする前は普通の家で暮らしていたもので。その頃の名残りみたいなものですかね。まあ昔の話ですよ」


 適当に作った雑な設定。

 信じて貰えるか不安だったが、何故かアイリスさんやラインさんは俺の話を聞いて目に涙を溜め、同情の視線を俺に向けた。


「カンジ君も苦労したのね~。大丈夫よ、これからは私達が付いてるわ!」


「アイリスの言う通りです。カンジ君、これから先、何か困った事があればすぐに私達に相談してください。必ず力になります」


 え、ええ~。

 どうして可哀想な子を見るような視線を俺に向けるの?

 後から聞いた話だが、普通の家で暮らしていたはずの俺が山暮らしを始めるなんて相当辛い過去があったんだろうと思ったとか。

 う~ん、嘘をついたみたいで心が痛むな。


 その後、酒を飲み過ぎたガリウスさんが少し暴走しかけて、それをアイリスさんが強引に宥めるなどの騒動があったものの、賑やかな夕食は終わり、それぞれが自分の部屋に戻っていく時間となった。


「はぁ、全く。父上はお酒に弱いんですから。飲み過ぎないでくださいといつも言ってるじゃないですか。カンジ君の前でみっともない」

 

 そう言ってラインさんは飲み崩れてしまったガリウスさんに肩を貸して、ため息をつきながら苦言を呈した。

 ただ、ラインさんは気持ちは分かりますけどねとフォローをしていた。何でもバトラさんは見事に盗賊から情報を引き出して、それがかなり有力な情報だったのか、明日にでもマロン商会はお縄に付くという事だ。


 成程、それで機嫌が良くなって酒を飲み過ぎたと。

 それなら仕方ないかなと俺も思う。

 ていうか、流石はバトラさんだね~。


 そして、ラインさんに連れられ自分の部屋に戻ろうと俺の横を通り過ぎようとした時、ガリウスさんが俺に小声で言った。


「カンジ君、クレアを助けてくれて本当に感謝しておる。あの子はわしの、いやわし達の宝なのじゃ。アイリス君の言う通りクレアは本当に君に懐いておる。これからもクレアの事をどうかよろしく頼む」


 それだけ俺に言い残し、ラインさんとガリウスさんは自分の部屋に戻っていった。

 そしてこれを見ていたアイリスさんが。


「ふふ、義父様ってば恥ずかしがっちゃって~」


「正直、少し意外でした。ガリウスさんは俺の事を余り好きではないかと」


「ええ~。そんな事はないわよ~。義父様ったらカンジ君のいないところではよく孫を守ってくれた、あの青年は信用に値するって物凄く嬉しそうに語ってるのよ~。私が知る限り、義父様がここまで人を褒めるのはメルちゃん以来よ~」


 アイリスさんはそう言って俺の手を取った。


「勿論、私も同じ気持ちよ。本当に感謝しているわ。クレア達をカンジ君が助けてくれなくて死んでいたとしたら、私は多分、マロン商会に関わる人間を皆殺しにしていたと思うわ。例え相手に子供や女性が混ざっていようともね」


「……物騒な話ですね」


「うん、自分でもそう思うわ。だから、今こうして私が笑って話せているのはカンジ君のお陰なの。本当にありがとね」


 アイリスさんはそう言い残し部屋へ戻っていった。


 ……冷たい目だった。

 冷静に冷徹に殺意だけを凝縮したような感じか。

 俺がクレア達を助けてなかったら、あの人は本当に殺るだろうな。

 あ~、まじで助けれて良かった。

 

「ん、カンジさん、お母さんと何か話した?」


「何でもないさ。さて、クレアは俺と部屋に戻ろうか」


「部屋に戻ったら、またお話聞かせてくれる?」


「う~ん。寝るまでの少しの間だけな?」


「――早く、戻ろ!」


 そう言って必死に俺の袖を引っ張るクレアの苦笑しながら、俺は食堂を出て自分の部屋へと戻っていった。

 


最後まで読んで頂きありがとうございます。

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