第一話 転移
新作始めました。
俺の名前は斎藤莞爾
高校を卒業したばかりのオタク。
ちなみに大学には通っていない。
正確には受験に落ちたので行けなかった、が正しいだろう。
言い訳にも聞こえるかもしれないが、
別に勉強をサボっていたわけではない。
毎日学校から帰ってきて数時間は勉強した。
志望校も変に高望みなどせず学力に沿った大学を選んだ。
しかし、普通に落ちた。
滑り止めも機能せず、そのまま全て滑り落ちていった。
両親はそんな俺に笑顔で来年は頑張ろうと言ってくれた。
だが、受験に落ちたばかりの俺にはその笑顔さえ重圧に思えてしまった。
結果、俺は近所のアパートに一人暮らしをする事に。
しばらく一人になりたいと両親に涙ながらに告白すると、両親は笑ってお前がそうしたいならそうしなさいと言ってくれた。
本当に、俺には勿体ない両親だと思う。
そして一人暮らしを始めて数か月が過ぎた頃。
俺はある事実に気付いてしまう……。
「あれ、俺ってこんなに太ってたっけ」
部屋に置いてある小さな手鏡を見る。
うん、見事に顔がパンパンである。
座ったまま自分の腹を掴む。
おお、プヨプヨして触り心地がいい。
最後に洗面台にある大きな鏡を見る。
そこには、まるで相撲取りのようになった俺がいた。
勿論、脂肪の中に筋肉が隠れている、なんて事はない。
全て脂肪、完全なるデブだ。
う~ん、どうしてこうなった!?
一人暮らしを始めるまでは少なくとも太ってはいなかった。
つまり、原因は一人暮らし。
そう言えば、最近の俺ってろくに部屋から出ず運動をする事もなく。勉強のストレスからか暇があれば食べ物を口に運んでいた。
しかも、甘い物ばかり。
ああ、こりゃ太るわな~。
「それにしても、酷い姿だ」
余りの自分の醜さに思わす苦笑を漏らす。
こんな姿は他人に見せられない。
オタク友達とのオフ会だって行けない。
あ、俺オタクの友達いなかったわ……。
さて、それは兎も角として。
このままでは非常にまずい。
何故なら、今から数週間後に俺がちゃんと暮らしているか両親が様子を見に来る約束をしているからだ。
父さんと母さんが今の俺の姿を見て何というか……。
この瞬間、俺はダイエットを決意した!
あの優しい両親を傷付けるわけにはいかない。
二人が俺に会いにくるまで数週間。
これだけの間に元の姿に戻るというのは土台無理な話ではあるが、せめてもう少しまともな姿になり二人のショックを減らす!
そう決意した俺の行動は早かった。
洗面場を出てピチピチのジャンバーを羽織る。
ちなみに、腹の肉が邪魔をして前のチャックは閉まらない。
無理にしめようとして腹の肉が挟まりかけ物凄く痛かったので、仕方なく前はオープンにしたままで部屋の外に出る。
そして、ランニング開始だ!
「はっはっ、きっついな~」
一歩進むごとに腹と胸の肉が揺れる。
これを見た通行人はこそこそと笑っている。
そして、小さな子供などはそんな遠慮もなく、俺を指さして豚が走ってるぞ~などと集団で大笑いしていた。
俺は基本的に子供好きだが、クソガキがと思ってしまう。
しかし、我慢だ。
俺が太っているのは事実。こんな姿になったのも自業自得。
ならば、黙って走り続けるしかない。
そうして俺は必死に走り続けた。
自分の体力など考えず、限界まで走り続ける。
その結果、俺は……。
「あ、れ……」
突如、体に力が入らなくなりその場に崩れる。
周りの人達からは小さな笑いが起きるがそれどころではない。
呼吸が全く出来ないのだ。
「かっ、かはぁ」
必死に口を動かしても酸素は入ってこない。
同時に心臓が激しく痛み、顔が苦痛で染まる。
ここにきてようやく周りの人達はただ事ではないと気付いたのか騒ぎ出し、一人の青年が急いで駆け寄ってきて大丈夫ですかと声を掛けて来た。
大丈夫じゃないです。
そう声にしようとしても言葉など出るはずもない。
そして、段々と意識が薄れていき……。
「誰か、誰か救急車を呼んでくれー!」
青年の叫び声が聞こえたと同時に俺の意識は完全に途絶え……なかった。
……ん、あれれ。
何か、急に楽になったぞ?
呼吸も普通に出来て心臓も痛くない?
急にどうして、そんな疑問が湧いて来る。
が、それより先に俺は救急車を呼んでくれと言った男性に礼を言おうと立ち上がり口を開こうとしたのだが。
「……は? 何だこれ」
咄嗟に疑問の声を上げてしまった俺は悪くないと思う。
目の前の男性やその他の人間、犬や小さな虫、車やバイク、それら全てがまるで時が止まってしまったように動かなくなっている。
こんな状況なら、誰だって同じ事するだろ?
てかほんと何だこれ。
目の前の男性の体を触っても全く動かない。
押しても引いても石のように固まっている。
「あ~あ。死んじゃうなんて勿体ないな。全く、君みたいなデブが急に運動なんてするからそうなるんだよ。適度に運動しないとね~」
突如、俺の背後から声が聞こえた。
若い、男の声か?
俺は背後を振り向き声の主の姿を見る。
予想通り、見た目は若い男。
しかし、それよりも気になる事が。
「……いや、貴方も俺と同じくらい、太ってるじゃないですか」
俺の言葉に元から張っている顔を更に膨らませ男は言った。
「う、煩いな~! 僕はいいんだよ僕は! 何て言ったって僕は神様何だからね! 全く、折角助けてあげたのに失礼しちゃうよ~」
目の前の男性は子供のように地団太を踏み鳴らす。
ズシンズシンと音が重い。
ていうか、今この男性は何て言った?
「神様、貴方は本当に神様なんですか?」
「んん、別に敬語とか使わなくていいよ~ん。僕は寛大だからね。それにしても、よく僕が神様って信じたね。胡散臭いとは思わなかったの」
神様の言葉に俺は首を振り答えた。
「ああ、俺は目上の人と話す時と初対面の人と話す時、それと子供と話す時以外は基本敬語なんて気にしないでください。それと胡散臭くなかったかですが、状況が状況なもんで信じるしかないって感じですかね」
俺以外の全てが止まってしまった世界。
この世界で普通に動いている人が普通なわけがない。
そう思っただけだ。
「んん~、いいね。理解が早いのは大変素晴らしい。まぁ君が普段読んでる本の影響もありそうだけどね~。流行りだもんね、異世界行くのって」
おお、流石は神様。
俺が読んでる本までお見通しか。
確かに、そういった関係の本は沢山読んだ。
しかし、と言う事はだ。
「神様、もしかして俺は異世界に行くんでしょうか?」
俺の問に神様は嬉しそうに答えた。
「ピンポ~ン。君さ、このままだと普通に死んで天国にいっちゃうからね~。そこを僕が特別に異世界に連れて行ってあげようってわけ~」
ああ、やはり俺はこのままだと死ぬのか。
そこを神様は異世界に連れて行ってくれると。
う~ん、興味はあるな。
それに、俺だってまだ若く死にたくはない。
ただ、疑問は残る。
「神様、何で俺にそこまでしてくれるんですか?」
「それはね~。君と僕が凄く凄~く似ているからさ~」
「俺と神様が似ている?……あ、それってもしかして」
「うん、体系が凄く似ているんだ。それが一番の理由だね!」
そうなりますよね~。
神様って俺とほぼ体系同じだもんな。
しかし、随分と軽い理由なこと。
神様ってそんなんでいいのかね。
最も、俺にとっては有りがたい話だが。
「神様、そう言う事なら異世界に行ってみたいと思います。ただ、その前に二つほど質問をしてもいいですか?」
「勿論、何でも聞いてくれよ~」
「ではまず一つ目。俺がこれから行く世界は日本のように基本的に平和な世界なのでしょうか? それとも、普段から戦いなどが起きる世界ですか?」
「う~ん、後者かな。君がこれから行く世界は魔物もいるし、人間同士もよく争いを起こしている世界さ。ただ、安心してくれていいよ。君に合った戦闘に使えるスキルを二つ付けてあげるからさ。後は、会話や文字の書き取りも問題なく出来るようにはしておくよ~」
おお、見た目通り随分と太っ腹な神様だ。
特に言葉や文字に不安がないのは有りがたい。
異世界の人間と全く喋れないとか軽く積みかねない。
不安が何個か減りましたな~。
「ありがとうございます、安心しました。では二つ目の質問ですが、俺は二度とこの世界に帰ってくることは出来ないのでしょうか?」
「うん、無理だね」
神様の即答に想像していたとはいえショックを受ける。
うん、そんな都合のいい話はないよな。
しかし、それなら俺はこの世界でやり残した事がある。
「そうですか。では神様、異世界に行く前に最後の頼みを聞いて貰ってもいいですかね? それが終わればすぐに異世界に行きます」
「ん? 別にいいよ~。同じデブのよしみだ。あ、生き返らせてとかはなしね?」
「はは、分かっていますよ」
その後、俺は神様の力で少し離れた一軒家へ移動する。
そこは俺が生まれてからずっと住んでいた家。
少し離れていただけなのに懐かしく感じる。
そう思い居間に向かうと父さんと母さんがいた。
ああ、そういや今日は休日だったな。
一人暮らしをすると曜日感覚が狂うね。
「ん~。優しそうなご両親だね」
神様の言葉に俺は嬉しくなって自慢の両親ですと言う。
そして、俺は二人に最後の言葉を。
「父さん母さん、今まで沢山迷惑を掛けてきてごめん。そして、今まで育ててくれて本当にありがとう。俺、死んじゃったんだけど、別に世界で元気にやってるから。父さんと母さんは体に気を付けて、長生きしてください」
この止まった世界で果たして俺の言葉が届くのか。
これが不安だったのだが、俺の言葉で固まっているはずの両親の目から涙が流れてきたのを見て、ちゃんと伝わってのだと確信した。
隣を見ると神様がお腹を揺らしドヤ顔していた。
きっと、神様が何かしてくれたのだろう。
俺は神様に深く頭を下げ感謝した。
「さて、それじゃ異世界に送るけど、準備はいいかい?」
「はい。いつでも大丈夫です」
次の瞬間、俺の意識は暗転した。
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