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戦場

 ↵


【緊急指名依頼】

■ 依頼主  イシモチインダストリアルグループ代表 ジーロ・イシモチヤ

■ 任務内容 殺人機械群の全殲滅 近隣住民の安全確保

■ 報酬   二億(エナ) ※完全成功報酬

■ 特別支給 圧縮済みライフル砲弾4万発 


 やれるもんならやってみろ。そう言わんばかりの依頼内容だった。

 報酬は破格。想像していた以上に金持ちだ。地殻変動と遺跡隆起の活発なこの地域で、街の再興を主導できれば大きな利益が得られるらしい。

 弾薬は俺の希望によるものだ。相手の数が多すぎるのでどうしても弾が要る。ギルドや周辺にあったものを掻き集めてもらった。成功後に未使用のものは返却することになっているが、果たして余るかどうか……まあこれだけあれば大丈夫だろう。


 ↵


「私は、おまえに、気をつけろと言ったよな? なのにどういうことだ? なぜ軍隊レベルの依頼を受けてきている?」


 リンピアがおかんむりだ。

 タンカーに戻ると、膨れ面のモフモフが、船の前で阻むように仁王立ちしていた。

 無理もない。つい一週間前、彼女は俺の首と胴体が離れ離れになっている光景を特等席で見たばかりなのだ。俺も反省した。気をつけると約束した。だというのに、今度は大都市の防衛軍でも二の足を踏むような機械の大群を相手にすることになった。

 でも、これには理由(ワケ)があるんだ。


「リン……俺の予想通りだと、ここは俺が出ないとまずい」


 実は、偵察機の断片的な映像から気づいたことがある。

 かなりの確信があるのだが……もしも予想通りなら、俺とロックフェイスで大群全てを返り討ちにできる。勝率はじゅうぶんに高い。

 だが俺が行かなければ……当然、取り残された元ジャンク街の住民たちは全滅する。

 しかもそれだけではなく、俺自身の名誉が地に落ちる。救援要請を拒否するとかいう次元の話ではなく、信頼度スコアという数字では計り切れないものが失われる。

 つまり戦う以外の選択肢は無いのだ。俺の考えでは。 

 

「……信じるぞ。だが、気を付けろ。ぜったいに、きをつけるんだぞ」

 

 事情と作戦を説明すると、最後には納得してくれた。

 リンピアはホバータンカー船のほうについてもらうことにした。大群が来る方角は分かっているが、別方向からはぐれ個体が来ることも考えられる。住民たちをできるかぎりホバー船に集めて避難誘導し、その護衛をしてもらう。


「無事に帰ったら、風呂に浸かりながら酒を飲むってやつを体験しよう。いちどやってみたかったんだ」

「……楽しみにしておく」


 大群の対処は俺のロックフェイス単機(ひとり)。そのほうが上手くいく。


 ↵


『アホちゃうか? 逃げられる奴らだけ連れて、さっさとトンズラすればええやんか』

 

 当然のように俺の機体の前で待ち構えていた箱はサバサバと言ったが、事情を説明すると言葉を失って唸った。


『……なるほど、そーゆーなぁ。ほんなら、ジェーやんがケツ持ったらんとあかんなぁ』

「でも危険だってことには変わりないからな。船のほうに居ていいぞ」

『うーんさすがになあ……でも専属オペレーターのウチとしては、どんな戦場でもサポートを……』


 もう専属オペレーターのつもりらしい。俺の知らないうちに俺の専属オペレーターが生えてきていた。有り難いことなんだけども。なんでおまえはそんなに積極的なんだよ。


『せや。キューブちゃん、ちょっとおいでや』


 船のまわりで荷運びをしていたキューブ型ロボットの一匹が『呼んだ?』とひょこひょこ近づいてくる。


『ちょっと借りさせてな』


 バチっという音。大きな情報の電流が見えた気がした。

 キューブの気配が変わった。なにか別のモノが入っている。


『コレつけとくわ。助けてほしいことがあったら言うてや。会話機能は無いしスケールダウンしとるけど、だいたいのことはできるで』


 中にルーマの意識が入っている。キューブの体を借りて分身を作ったようだ。箱のルーマとキューブのルーマが、くるりと回って2体同時に決めポーズをした。

 ……俺のナノメタルでできたキューブという俺の一部を、上書きして別物にされてしまった。

 すごいスキルだが、すごすぎておっかない。


『いやいやそれほどでも。前に塔のなかでちょっとバイパス繋げたやろ? そのおかげやて。いわばウチらの、絆の力や』 ミニルーマをペタッと俺の肩に貼り付けてくる。


 それはつまり、バックドアというやつでは? 俺は訝しんだ。本当に大丈夫なんだろうか。

 まあ今はいいか。また今度考えよう。

 実はあまり時間が無い。勝率を高めるなら、近くに誰も居ない広い戦場が望ましい。そのためにはこちらから出向く必要がある。早ければ早いほど良い。

 我が愛機ロックフェイスをアイドリング状態から出力上昇(スピンアップ)。燃料棒およびナノメタルタンク……110%満タン。推進器(スラスタ)機構チェック……良好。自動修復機能……オールグリーン。ここにトラブルさえ起きなければなんとかなる。あとは移動中に確認しよう。

 

 ↵


 ついに出撃……しようとしたとき、ギルドから通信が入った。


「……協力者と合流しろ?」


 独りで、誰にも邪魔されず、最高に格好良く凝った機動で飛び立とうとしていた矢先だ。テンションが下がる。

 目的地方向の沖へ飛ぶと、重武装のアーマーがポツンと一機、俺を待っていた。


『テメエは、本物の疫病神らしいな……』


 第一警備隊の隊長だった、横柄男だ。見れば、彼の機体はかつての重厚なものとは様変わりしていた。フレームは細く、どこか貧弱……言ってしまえば安物に見える。だが、その背部にはフレームの強度を無視したような、アンバランスなほど大口径の火器が鎮座していた。


『族長を連れ戻すだけのはずが、いきなりの大群襲撃だ。……あの頑固ジジィはテコでも動かなくなりやがって……挙げ句に認められたければテメエなんかと共闘してこいときた。たった二機でこの規模を迎え撃つだと? 本格的に耄碌したらしい』


 あの老人はもともと別の地方の工業商社の末端社員だったが、ジャンク街という、研究資材入手源にして販売ルートを開拓した功績により、最上位の立場まで登りつめた人間だった。地元の都市に戻れば大きな権力をもつことが約束されているらしい(ルーマ談)。そんな人間が終わったはずの街にずっと残っていた。その祖父を強引に連れ戻すか、せめて「遺言」だけでも回収してくるというのが、横柄男の役目だったようだ。


『……だが今回ばかりは感謝してやるよ。四機のアーマーを失ったあの日の失態……。その泥を、この戦いで洗い流してやる……上等だ……やってやる……』


 先日セントラルへ俺を護送した第一と第二の警備隊は強制転移に巻き込まれ、ルーマの介入によって帰還することはできたが、無事だったのは中身の人間だけ。アーマーたちは還らぬ者となった。それは心の底から同情する。


「熱くなってるところ悪いが、こちらの指示には従ってもらうぞ。受注主(メイン)は俺だ」

『チッ……作戦は? テメエはどれだけ火力を出せる。それとも、セコい罠でもしかけるか?』

「いや、どちらも不要だ。突っ込む。そちらは援護に徹してくれ」


 煮えたぎっていた男の気勢が、一瞬で抜けた音が聞こえた気がした。


『……それはどういう意味だ?』

「そのまんまだ。突っ込んで、避けて撃つ。それだけで勝てる。おまえも無事に帰してやるよ」


 ↵


 戦場は、遮るもののない広大な荒野。砂礫と多少の岩場……まさに荒野という丁度いいフィールドだ。

 地平線の先、空との境界線が不気味に歪み始めた。

 銀色の線が、空と地を分かつように横一文字に伸びる。それは殺人機械(マーダー)の軍勢だった。数え切れないほどの機械の塊たちが、地平線を埋め尽くしている。

 

『規模レベル、ホライゾン……本当に行くのか?』


 横柄男は訝しげに聞いてきた。俺があまりにも間抜けに見えるので、少しでもしくじればさっさと逃げるつもりだろう。まあ構わない。そんな事態にはならない。


「予想が当たった。予定通り行く」


 はるか遠くから押し寄せるマーダーたちを見る。

 そのすべてが同種だ。軽量タイプの人間型の体に、大型の光熱兵器を担いでいる。

 姿形には見覚えがある。かつて塔の中で戦った、なかなか歯ごたえのあったマーダー。俺が満足感を得た敵。

 地平線に広がる、万を超える敵のすべてが、軽量狙撃機体のマーダーだった。


 ギルドで偵察機の映像データを見たときから分かっていたことだった。光熱兵器の『ビーム』には個性が出る。色、形、余波拡散パターン……威力や有効射程によって決まり、武器構造が似ているならビームも似たものになる。

 大群が偵察機にむけて乱射したビームは、全てが同じ光り方をしていた。かつて塔のビル街階層で熱戦をくりひろげた、あの軽量狙撃機体のものと同一だった。


「俺はアイツらの倒し方を知っている。乱戦に持ち込むから、限界ギリギリの遠距離から援護砲撃を頼む。一発撃ったら必ず退避しろ。敵意を稼ぐな」

『……了解』


 俺単機でやる予定だったが、横柄男機体の武装は役立ちそうだったので連れてきた。肩から伸びる背部武装、大口径グレネード砲2門。見るからに鈍重で取り回しの悪そうな装備だが、俺がやろうとしている事と噛み合わせが良い。密集している状況ならうまく数を削ってくれるだろう。

 偵察映像から分かったことは他にもいくつかある。やつらにはキューブが宿っていたときのような高度な思考能力が無い。BOTと人間プレイヤーとの差のように、一目見ればすぐ分かる。数任せに侵攻しているだけだ。ドローンひとつを撃墜するのにも時間がかかりすぎている。ロックオン機能も直線運動の移動先を計算する程度の能力しか無い。砲撃余波で揺れていたとはいえ、一撃で仕留めていない時点でお察しだ。俺は塔での戦闘時点でレーザー砲撃のクセを読み切り、それからの1ヶ月も、たまに思い返して脳内戦闘シミュレーションで遊んでいた。回避シークエンスは脳内で半回路化している。砲口がこちらを向く瞬間に、身体が回避を完了させる確信があった。だから勝率は高いと判断して、簡単に任務を受けてここまで来たのだ。

 

 最大望遠で一体一体が判別できるほどの距離になった。

 やつらはすべて銀色……塗装すら施されていない、成形された金属そのままの大量生産品だった。襲撃をしてこなかった鎮静期間のあいだ、この地方の暴走工場たちはずっとコイツらを増やし続けていたのだろうか?

 なぜ? なんのために?

 俺が言ったからか? 砲台型多脚マーダーを指揮して俺達を追い詰めた狙撃機体に、「グッドゲーム」と。それとも最上階の上位工場で「狙撃機体のほうがマシだった」と貶したから、その意趣返しがしたかったのか? そのためにここまで大量に増えて、近隣の村を巻き込みながら仕返しに来たのか? 塔の上位工場は、俺が地下遭難生活でダイス型と長年戦ってきたことも知っていた。広範囲で知識を共有している何かがいる。そいつが今回の大群を差し向けたのか。

 俺が任務を受けた理由の1つでもある。理屈の通じないガラクタ相手とはいえ、俺が原因だからだ。すでにいくつか村が消えている。俺が始末をつけなければならない。


「なぜ、俺なんだ……?」

 

 俺が憎いのか……それとも、塔で話し相手になってやったのが、そんなに嬉しかったのか。バカバカしい。奴らなりの恩返しなのか? 荒唐無稽だ。なぜ大昔の工業製品たちが俺に媚を売る? たしかに俺のようにコアがいくつもある人間は聞いたことがない──だがそれがそんなに特別なことか? 身体機能はかなりハイクオリティだが、普通の人間8人分と比べれば大した差は無いだろう。アーマーに関しては誰にも負ける気は無いし、いくつか珍しい回路も持っているが、それすらも発掘品で代替可能だ。

 なぜ、俺なんだ。

 疑問は尽きない。

 だが……今はどうでもいい。


「やっとだロックフェイス。……やっと、おまえに相応(ふさわ)しい戦場だ」


 万の軍勢。圧倒的戦力差。後退不可。初見ではない攻略法の確立した相手に乱戦を狙うのは塔でやったことの焼き直しだが、それには目を瞑ろう。寝ぼけながらでも勝てるような雑魚相手ではなく、こちらをアーマーごと消し飛ばしかねない相手。緊迫感が段違いだ。6年間慣れ飽きた生身格闘ではなく、1ヶ月と少ししかマトモに操縦できていないアーマーによる戦闘だ。

 アーマー戦だ。

 アーマー戦だ。

 盗賊のような雑魚相手ではなく、ジャンク拾いのような作業ではなく、その場しのぎの急造アーマーではなく、ロックフェイスという俺自慢の愛機による鬼気迫る本格的なアーマー戦だ。


 敵の先頭集団が、ついに戦闘領域圏内に入った。


「行こう──独立傭兵ジェイ、ロックフェイス、出撃しゅる」


 じゅるじゅる、と音がする。不愉快な水音だ。

 何の音だ?

 俺のヨダレだった。

 溢れて止まらない。

 ブースター全開。猛烈な加速G。みるみる敵が迫る。ビームの破壊的な光が映像視界を埋め尽くす。

 じゅるじゅる──じゅるじゅる──


 ↵


 //アーカイブ視点: ダン・イシモチヤ


 地味な戦いだと思った。

 最初は、地味な戦いだと思っていた。

 接敵した当初こそ、地平線から光の大波が押し寄せたが、ヤツはあっさりと第一波をかわして群れの中へ飛び込んだ。すると同士討ちを避けるためにビームは散発的になった。それくらいの知能はガラクタにも備わっている。ヤツの機体は大群に隠れて消えた。


 オレはすっかりやる気を失っていた。冷静になって考えれば、成功するわけがない。たしかにこの大群襲撃を退けることができれば、オレの将来は拓けるだろう。失った名誉を挽回するだけでなく、一族の中でも出世街道のトップに躍り出て、グループの長の座すら狙える。族長の無茶振りに応えることさえできれば。

 ……無茶だ。

 無理。無謀。不可能。冷静に考えればわかることだ。耄碌ジジイの趣味の悪い冗談だ。

 オレを正気に戻してくれたヤツには感謝したい。視野が狭まっていたオレはありったけの重火力をぶちかまし、それが終わった瞬間に死ぬ羽目になるところだった。自分以上の馬鹿が現れた衝撃で我に返った。


 オレの代わりに、ヤツが死んでくれるらしい。

 あの群れの中に飛び込んで、生きて帰れるわけが無い。1機1機がアーマーに匹敵する中型マーダーの群れに対してどうすれば勝てるというのか。殺意に染まった暴徒の中へ警官ひとりを放り込んで生還するわけがない。紙一重で回避したところで、いつかは死に追いつかれる。奇跡は何度も続かないから奇跡と呼ばれる。

 オレはしばらく観測してから逃げるつもりだ。族長からの命令など知ったことか。これはヤツの指示でもある。攻撃すればあっという間に脅威認定され、大群に取り囲まれて終わり。言われなくても手など出さない。

 あと少しだけ観測情報を集めてギルドへ提出すれば、最低限の責務は果たしたことになるだろう。


 せめて……ヤツが死ぬところまでは見届けてやる。

 大群の隙間から、ビームの光が漏れ出している。

 ピカリ、ピカリと断続的に光り続けている。

 ズドン、ズドンとライフル砲の音も聞こえる。

 ヤツはまだ、死んでいないらしい。


 ↵


 あの光熱砲の攻撃には強いクセが有る、軽量化と大火力の引き換えだ、具体的には発射前の発光、強く光った一瞬の後に砲撃が来る、照準センサーを向けるために軌道固定する必要があるので、照準波照射を感じ取ることでも察知可能、狙うという動作の時点でこの前兆は必ず予測可能だ、脳内で警告本能が音を鳴らした瞬間にステップブースト、これの繰り返し、数が多すぎるのでもちろん難易度は爆上がりしているが、やることの基本は変わらない、ステップブースト、反撃撃破、しかもこれは今気づいたがチャージ中の砲身を狙えば一発で撃破できるほどの爆発が生まれるというオマケ付き、ステップブースト、ロックフェイスは回避と速度重視のために追加装甲は今日はナシだ、反撃撃破、追加ブースタ中量機体ってシンプルに強いよなあ、ステップブースト、反撃撃破、回避するときには砲撃してきた砲口も分かっているので反撃もスムーズで一石二鳥、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、



 ↵


 //アーカイブ視点: ダン・イシモチヤ


 ピカリ、ピカリ、ズドン、ズドン。

 ピカリ、ピカリ、ズドンズドン。

 ピカリ、ズドンズドン。

 音は響き続けている。速度を増しながら。


 ↵


ップ、反撃ステップ、クイックターン、ステップ反撃、ここで決めポーズ、ステップ、反撃、ステップ、反撃、一拍、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ ステップ、反撃、クイック、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、一呼吸、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、クイックステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップブーストとはスラスタ噴射機構内部に一時的に不完全燃焼状態のENを貯めた後で噴出させることで瞬間的な加速を行うアーマー戦の基本機動方法だが、当然だが一時的な貯めが必要になる以上、連発できないという欠点がある、この数相手だと致命的だ、だが俺とロックフェイスなら無問題、メインブースターだけでなく姿勢制御用の脚部ブースタでもステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、肩部の姿勢制御用ブースタでもステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、それにロックフェイスには追加ブースターがある、これは背部武装マウントに付いているためいくらか効率低下しているがほぼメインブースターと同じ推進能力があり、さらにメインブースターよりも推力方向の自由度が高い、つまり最大効率である前進だけでなく、横方向でも十分な速度を保持できるということで、つまりどういうことかというと、誰もが憧れた、あの機体移動が実践レベルで実現できるということだステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ ステップ、反撃、ステップ、反撃、クイック、反撃、クイック、反撃、スロー、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステップ ステップ、反撃、ステップ、反撃、ステッ


 ↵


 //アーカイブ視点: ダン・イシモチヤ


 困惑が大きくなり続ける。恐怖と言い換えてもいい。オレは恐怖しつつある。

 音が止まらない。

 ヤツが死なない。


 ピカリズドンピカリズドン ピカリズドンピカリズドン

 ピカリズドンズドン ピカリズドンズドン

 ピカズドドン ピカズドドン 

 ピカドドン ピカドドン

 ズドンドドドンドドッドドドドンドドッド


『なあ、楽しんでるか?』


 通信が入ったとき、オレはもう少しで声を出すところだった。


『乱戦のコツってのは、実は簡単だ。横を無視して、前後だけを警戒すればいい。相対速度ですれ違っていれば被弾などしない。一方、同じ軸線上だと止まって見える。野球中継の剛速球が遅く見える理屈だ。つまり進行方向とその反対方向の敵を両方潰し続ければいい。具体的にはどうするかというと…………さあ、俺を見てくれ』


 オレは、美しいものを見た。

 群れの一角で立て続けに爆発。ライフル砲の攻撃で複数体のマーダーが消し飛んだことにより、奥で起こっていることが見えるようになった。

 ヤツが戦っている光景。

 その機体はまるで氷上を滑るように戦っていた。凡庸な中量機が、ありえないほどのなめらかさで地上を横切っていく。

 地上ブースト移動はアーマーの基礎にして極意。地面の凹凸にあわせながら地表反発効果を絶やさないようにするのは並大抵ではない技術が必要。しかも猛烈な頻度でステップブーストを交えている。ヤツは高所からの落下衝撃で脚部と腕部のフレームを破損させる程度の腕前──そう調査にあったはずなのに。

 さらに異様なのはその姿勢。

 半身(はんみ)だ。移動方向に対して横を向いている。低姿勢でスタンスを広げ、ときに回転し、ドリフトしながら撃ち続ける。片手のライフルで前方の敵を撃ちながら、もう一方のライフルで後方を撃ち抜いている。

 馬鹿の代名詞とされるライフル砲二丁撃ち──それを当然のように扱いこなしている。しかも別方向へ同時に照準しながら。操縦技術が常識をぶち抜いて卓越しているのはわかったが、なぜそうなっているのか理解ができない。

 曲芸だ。

 ヤツは死地で、遊んでいる。


『これさあ、俺は勝手にイナバウアー撃ちって呼んでるんだけどさあ、いちど真剣な実戦でやってみたかったんだよな、夢がひとつ叶ったよ、これナンバリングタイトルの神オープニングムービー内で看板機がやってたんだけどさあ、これがマジで格好良くて、スケートリンクで視線集めながら真似できるよに練習してたんだよね、でも実戦でも本当に有効だってのは初めて知ったな、最高効率を求めてたら自然にこの姿勢になってたんだよ、すごくないか? やっぱりアセンブルコアって神ゲーなんだな、ちなみにムービー中ではこの後包囲されて、でも一気に範囲攻撃で掃除する場面でさあ、それも真似してみたくてさあ、だからさあ、ちょっと頼んだぜ』


 もう少しで思考放棄をするところだったオレは、かろうじて聞き返した。


「……頼んだ?」

『ああ、美味しいのを集めるから、そのポイントへよろしく』


 奇妙なことが起こった。視界に青い矢印マークが出ている。インターフェイス機能のバグかと思ったが、異常アラートは無い。

 矢印マークが指し示しているのは、群れの一箇所だった。

 踊り続けるヤツは注目の的だ。その箇所に、背面をむけるマーダーが誘われるように集まっていく。

 美味しい標的。

 ムカッと来た。ここまでされて、ここまで遊び相手にされてお膳立てされて、それで逃げ出すような奴は男ではない。イシモチヤの人間ではない。

 オレはダン、イシモチヤ一族の戦闘番長。荒くれ者だらけの大岩ジャンク街で治安部隊の一番隊長を勤め上げ、多少の失態など屁にもせず、これからも腕っぷし一本で構成員を引っ張っていく男。

 この程度の地獄で、こんな馬鹿と一緒に、終わる男じゃねぇ。


「上等だァ!! 当たるんじゃねえぞォ!!」


 二門いっぺんにぶっ放した。

 火力のみを追求した、イシモチインダストリアル渾身の新製品。発掘品の研究をもとに自力で開発・生産することに成功した大口径グレネード重キャノン『イワナガ・ハウル』──その砲撃が集団のど真ん中で炸裂した。

 破壊だけを考えて、無心で撃った。そのせいで、ヤツもギリギリ巻き込まれる範囲内にいた。

 だがもはや、オレは疑わない。

 案の定、ヤツは無傷だった。

 ……範囲外へ避けて、なぜかまた爆心地に戻ってきている?

 

『粉塵の中から姿を現す機体……たまらんな』


 じゅるりとノイズ音がした。なんの音だろうか。


『最高の一撃だったよ。なあ、おまえの名前は?』

「…………ダンだ。ダン・イシモチヤ。いずれイシモチグループを率いる男。覚えておけ」

『俺はジェイ、独立傭兵ジェイだ。この愛機はロックフェイス』

「そうかよ」


 そんなやりとりができるほどに余裕がある。

 敵が減っているのだ。明らかに目視でわかる。撃退、しつつある。

 それでもまだウジャウジャといる。一気に片付けたせいで同士討ちの可能性が減り、砲撃体勢に入った群れがいくつもある。

 攻撃したせいでオレも狙われるだろう。

 だが、もう逃げるつもりはない。

 

『なあ、俺はすごく楽しい。おまえは、楽しんでるか?』

「……ああ、楽しいねェ!! じゃんじゃん美味しいのを持ってきやがれ!!」


 返事のかわりに、ジェイのロックフェイスは再び踊りだす。 

 じゅるりとノイズ音がした。なんの音だろうか。


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― 新着の感想 ―
反撃の最中に混じるブルートゥよw 白栗さんのムービーは初めて見た時痺れたなあ
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