箱女
そうだ、ルーマのことを忘れていた。俺が帰ってこれたのはルーマのおかげだ。どこに行ったあの箱……いや、中身から女の姿をしたものが出てきたんだったか……?
「なあ、ルーマ知らないか? あいつのおかげで帰還できたんだけど」
「あの探知機か?」
「いや、探知機のはずだったんだけど……でも実は中身にヒトがいて……」
「水死体なら居るよ、ココに」
「なに?」
屋上の隅に、ビチャビチャに濡れた海藻の塊のようなものが転がっていた。その中には四角いものと人らしき物体が絡まっている。隙間からのぞく肌には生気がない。海岸で見かけたりしたら即通報して立ち去りたい光景だが、その箱と人間には見覚えがあった。
「おまえの体のほうに覆いかぶさってて、邪魔だったから放り投げてしまった……」
「それルーマだ!! 蘇生蘇生!!」
あわてて海藻らしきものを取り除く……いや、コレ、髪だ。
緊急時だから仕方ない、と引き千切ろうとしたが……髪全体から、回路の気配がする。これは……体と箱が髪を通じて接続してるのか?
頭から伸びる貞子のように長い髪が体をぐるぐる巻きにしていて、しかもその先端は箱の中へつながっている。これを解くのはかなりの難問だ。仕方ないので、首周りだけゆるませて、そのまま3人がかりで心肺蘇生を行った。
幸いにも、すぐに水を吐き出して意識を取り戻した。やれやれよかった。このまま命の恩人に昇天されていたら後味が悪すぎるところだった。
「しもた……呼吸……忘れとったわ……おおきに……」
意識を取り戻した彼女は、抑揚のない声で言った。生気のない青白い女。溺れていたせいかと思ったが元からこんな顔色のようだ。柳のように細長い体をしていて、もやしっ子という言葉がよく似合う。四角い箱とは真逆のイメージの中身だ。
話し方も、聞き覚えのある変な関西弁だがかなり印象が違う。ボソボソとした眠そうな喋り方だ。
「うちが寝てるあいだに……えっちなことしとらんやろな……」
「しねえよ。そんな気すら起きんかったわ」
途中で気づいてはいたが、ルーマは服を着ていなかった。髪が要所を際どく隠していたのでなんとかセーフ……逆効果かもしれないが。
仕方ないので俺の上着を貸す。
リンピアが無言で俺の尻を抓ってきた。だからこんな状況でそんな気は起きねえって言ってるだろ。つねり返しておく。
……リンピアの場合、もしかすると長い髪のほうに嫉妬している可能性もあるな。
「おまえ、ルーマでいいんだよな? まずはありがとう、おまえのおかげで帰ってこれた」
「ええんやで」
「……その姿について聞いていいか? 探知機じゃなくて人間だったのか? なんで箱の中にいたんだ?」
「私からも聞きたい。おまえはセントラル内部の者ではないのか? なぜジェイを転移させることができた? 目的はなんだ?」
「ウチは、敵やない……転移できたのは、たまたま介入できただけ……でも今は……」
水濡れ女がのっそりと起き上がり、箱を持ちあげ……ようとしてふらついたので手助けをする。
箱をひっくり返してジャバっと水を捨てると、彼女はそれを頭からすっぽりかぶった。
『今はそんな場合ちゃうで、ジェーやん!』
途端に、声質が変わった。やかましいほどの勢いの良い関西弁。箱のほうについているスピーカーからの音声だ。箱をかぶった半裸の女が、屋上の中心で叫ぶ姿は、かなりシュールだ。
『みんなに知らせんとあかん──ジャンク街は滅亡する! 急いで脱出や!』
↵
セントラルに潜入中、あちこちを覗いて分かったこと──セントラル下部には地殻を固定化してこのあたり一帯の地盤を安定させる機能があった。しかしそれは飛び去ったことで失われたか、壊れてしまった。街は龍震に対して強い土地や、そもそも龍震のない安定した地域でしか成り立たない。その両方が消えてしまった今、ジャンク街は龍震によって崩壊する危険がある。それがルーマの言い分だった。
箱かぶり女の話を聞き終えたリンピアはしばらくのあいだ目を閉じ、ため息をひとつついた。
そして、屋根の縁に立って胸を張り、口を開いた。
「ギルドにいる全員に告げる! この街は崩落の危機にあり、至急の避難が必要だ! 大きな龍震がくるという情報もある! 使えるものはなんでも使って、人とモノを退避させろ! 私は大穴の確認にむかう!」
有無を言わせぬ凄みのある声に一瞬の静寂がおりたのち、たちまち喧騒が復活する。とりあえず人と情報の集まるギルドへとりあえず来たという体の群衆だったが、リンピアの一声をきっかけに、目的と流れが生まれていた。もともとなんとなく理解はしていたところに背中を押された形だ。
リンピアはジャンク街で腫れ物扱いされているが、それは半グレみたいな連中を相手に暴れたからだ。悪行をしているわけではないので、信頼できるところがあったのだろう。
大穴の確認についてくる者たちもいた。自分の眼で確かめたい連中だ。現状の情報を持ち帰ってもらうのは歓迎なので、協力することになった。
……よし、なんとか誤魔化すことに成功したぞ。
街中で大暴れしたリンピアと、大岩消失の原因らしき俺はまんまとギルド事務所屋上から脱走した。そういう空気ができて助かった。
頭のおかしい自称領主は俺を呼び出し、コアを奪い、そしてもう要はないとばかりに飛び去った。街がメチャクチャになったのはあきらかに俺が原因だ。この一連の流れをギルドに説明するとなると、俺の体内にコアが複数あることを説明しなければならなくて困る。もし責任まで負わされることになったら終わりだ。対物スキャナをぶっ放して回ったリンピアも普通ならわりと重めの罰をうけるところだ。
今ならぜんぶ誤魔化せないだろうか? ぜんぶ事情があったんですよ仕方のないことだったんですと。街が崩れるかもという大混乱ですべて有耶無耶になってしまうように願おう。
↵
大穴の広さはかるく10キロ以上あり、砂塵に満たされていて底は見えない。岩が飛び去ったとき露わになった大根のような全容からすると、穴の横幅よりもさらに深さがあるはずだ。
穴に近い高層部では、すでに崩落が進んでいる。坂を形成していた土石や鉄骨がほどけていく。いかにも高級宿というデザインの建造物が傾き、穴のなかの闇へ消えていく。バラバラになりながら断崖絶壁を転がり落ちていく轟音が長く響き、底に落ちたらしき音はかなり遅れてかすかに響く。
ルーマによると最下部にあったという地盤安定化装置は切り離され、そのまま底に残っているらしい。これを確かめに行くのが目的だ。本当に存在しているのか、機能は停止してしまっているのかを確認する必要がある。装置には龍震の観測機なども付属しているらしいので、その情報もほしい。
降下するには当然アーマーに乗っていくが、落下距離が長すぎるのでブースト機動のジャンプではなく、フライトブーストを使用しなければならない。横移動とは勝手の違う、長距離の縦移動には慣れていないので軽い練習が必要だった。こんな奈落で操縦を誤れば事故では済まない。
全員が燃料棒の残量を入念にチェックし、投光器が正常に点灯することを確認したのち、穴へ飛んだ。
慎重に落下したせいか数十分もかかったため、ルーマと話をした。
『──セントラルがジェーやんを持って来い言ってきたんはな、塔攻略の前くらいやで。せやから警備隊はな、リンちゃん経由で合同アタックに誘ったんや。素性調査のためにな。結果、ジェーやんは危険人物ということが分かった』
「なんでそうなる」
『しゃーないやろ、生身でキューブ型の群れバラすやつなんて聞いたことないわ。でもまあ、穏便に引き合せようって話にはなったんやで。悪人じゃないからってマイクはんも弁護してな。無事に連れ帰るまでが任務のはずやったんや。でもウチは心配やったから、独自に動いたんやな』
「それで脱走かよ」
『うん。物資搬入のときに紛れてな、運搬口の途中で薄いとこがあったから潜り込んで……あとは内部からチョチョイとな。かなりきつかったけど、ジェーやんと経験値積んでたおかげで助かったな。そこでセントラルのだいたいの構造が分かってぇ……転移系にバックドア仕掛けられたんは運が良かったなぁ。インスタントやけどギリギリセーフやったわ』
彼女は箱の状態でロックフェイスに積載されている。長身を奇術師のように折りたたんで再び箱に入り、一緒についてきたのだ。
「おまえはなんで、俺を助けたんだ? ギルド側の人間なのか?」
『ウチはな、古代人と戦うスーパーエージェントや』
「なんだそれは」
『乙女には秘密があるもんやで』
「おとめ……?」
降下は、幸いにも無事に済んだ。
どんどん暗闇に飲まれていく自由落下はスリリングな体験だったが、実際の難易度としては高くなかった。穴が広すぎるおかげで崖壁面にも他の機体にも接触する危険が少なく、上から降ってくる落下物に注意するだけで良かったからだ。
ただし最後、『前方』の闇から『穴の底』が現れたときは少しだけびっくりした。真っ暗闇を自由落下していたせいで感覚が狂っていたのだ。リンピアがレーダーで注意してくれていたおかげで事故は無かった。
地盤安定化装置……らしきものは、穴の中央にあった。が、壊れかけていて、ほぼ残骸だった。警告音のようなブザーが鳴り響き、赤いランプが光っている。
大型の機械らしきもの──装置というよりは施設。岩が飛び去ったときの衝撃でどこもかしこも潰れ、岩に埋まり、どういう機構なのかはよく分からなかった。ルーマにも読み取りできる場所が見つからない。
同行していた者の中に発掘品に詳しいという男がいたが、そいつにとっても判別不能だった。そもそも、地盤安定化を可能にするなんて発掘品は見たことも聞いたことも無く、もし実在すればとんでもない価値があるという。人間の居住可能な土地を任意の場所に作れるとするなら、たしかに貴重なのだが。
崩れた大岩が押し寄せてきたので、これ以上は危険と判断した。発掘品に詳しい男は渋ったが、強引に引っ張って撤収となった。
地盤安定の発掘品調査については不完全燃焼だったが、結論は出た。穴の崖面は不安定で、龍震が来なくとも崩落し続けている。体積は広く深く、ジャンク街を10個まとめて飲み込んでも有り余るほどだ。
もはや装置がどうこうの問題じゃない。単純に穴が大きすぎて周囲への被害が甚大だ。
上部で待機している中継要員に通信を送り、ギルドへ調査データの伝達を頼んだ。
ジャンク街からは全住民が早急に退去すべきだ。
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穴から出ると、街からはすでに退避が進行中だった。港から沖へと何本もの列ができている。ホバー車両や作業用アーマーが総動員されて物資を運び出している。
サイレンがウーウーうるさい。ギルドにあった分厚いマニュアルをペラペラっと一気読みした記憶を呼び出す──これは大規模なキメラ虫や殺人機械の群れの襲撃など、街の存続に関わる警告の鳴り方だったはずだ。
街はすでに存在感を失い、隙間だらけに見えた。商業エリアの看板が外されているからだろうか。露店もきれいに消え失せている。
あまりにも素早い。混乱も暴動も起きず、蜘蛛の子を散らすように街から逃げている。この世界では街そのものが消えるような事件なんて当たり前だということか。
ズズズと地響きがしたので見てみると、区画のひとつがまるごと動き出していた。ルーマが探知したところによると、巨大な船らしい。街を作り始めた頃の古い移民船。これを土台にして街は始まったのだろう。いざという時にまた使えるようになっていたようだ。
見る限り、崩落による人的被害は少なそうだ。人口は穴から距離のある中腹以下に集中しているからだろう。むしろ急いで資産を持ち出すために人の手で破壊されているところのほうが多い。解体されて資材として持ち出された建築物も多いようだ。
俺たちは遠出の準備をしていたので、すでに荷物はまとめている。リンピアによると、置き去りになっていた俺の愛機ロックフェイスを含めて、全て女船長のホバータンカーへ積み込み済みらしい。
となると、他人の手伝いでもしたほうがいいのだろうか。避難作業とか。災害対策本部はあるだろうか。
ギルドのあった場所へ通信をとると、すでに事務所機能は街の外へ移したとのことだったので、そちらへ飛んだ。
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街からじゅうぶんに離れた沖、そこそこ平らな岩地に物資集積所ができあがっていた。難民キャンプのようでもある……いや、難民キャンプそのものか。だが活気がある。数多くのアーマーとドライバたちが怒鳴り合いながら物を運んだり積んだり移したりしている。
よく見てみると地面には線が引かれていて、巨大な街の地図になっており、物資はそれに従って置かれているように見える。どうやら運んできたものを地図上の同じ場所に保管することになっているようだ。誰が運んでも元の持ち主が分かりやすいようにしているのだろうか? ギルドの受付嬢が忙しそうに腕を振って指示を出している。人間用の仮住居エリアもあるが、幼児と老人だけが小さくまとまっている。働ける者は総動員しているようだ。
仮設されたギルド事務所──見覚えのある看板が置かれている空き地へ着陸する。伝言メモが乱雑に張られた掲示板や、ただの木箱でできた椅子が無造作に置かれている。一息つきながら情報交換をしているディグアウター。家財を失って取り乱している住民たちと、それに対応する事務員。
「貴重な情報を頂き感謝いたします。おかげさまで迅速な避難を行うことができました」
馴染みの受付嬢が出迎えた。この非常事態でも変わらず愛想の良い笑顔だ。
「ところで、ジェイ様。セントラル内部でのことについて、詳細な聴取をさせていただきたいのですが……」
逃げ切れなかった。まあ、そうなるよなあ。
少し悩む……ギルドへ素直に報告するべきだろうか? あの頭のおかしい自称領主は俺を呼びつけ、体内の8コアのうちの1つを奪い、そしてもう用は無いとばかりに飛び去ってしまった。どう考えても俺が原因だ。もちろん諸悪の根源はあのクソガキであって俺のせい俺が悪いとは思わないが……
いちばん困るのは、俺がコアを奪われてもまだ7コアも残っている異常生命体だとバレることだ。危険思想家アマルガムや人間型マーダーだと認定されてしまえばいろんな罪を俺のせいにされかねない。とはいえ、どう誤魔化せば……
と考えていたら、箱女が発言した。
『ちょい待ち。今回のはカクシンハ案件や。詳細はコレ』
データ通信の気配。すると受付嬢は一瞬で理解したようだった。
『対象ジェイについては調査中につき追求無用。保護と観察はウチが続行するものとする』
「ご苦労さまです、トレーサー。セントラル領主様は悪質な古代人と認定。あの者たちの信用度スコアは没収・禁却処理としておきます。ジェイ様、このたびは災難でしたね」
あっさりとした様子で、迷惑料のようなものが支払われると説明される。受付嬢はそれで終わりだという様子で、忙しそうに他の作業へ戻っていった。
『ジェーやんの体のことについては、適当にごまかしといたで。ウチ、役に立つ女やろ?』
「……なんだ? 『トレーサー』って」
『ウチのコードネームやな。ギルドの諜報装置、闇に潜む耳、裏世界を操るコードマスター、伝説のS級ディグアウタートレーサーとはウチのことや』
「ぜんぶ知らねえよ」
↵
ジャンク街からの大移動はまる2日続き、避難所は小さな街へ化けた。
この街の主産業は屑拾い。いまやジャンク街跡地は屑拾いたちの出勤先となっている。出来たてホヤホヤ、新鮮でホットな稼ぎ場だ。
腕の立つディグアウターや金持ちはすでに別の街へ旅立った。この街に被災者と呼べるような軟弱者はおらず、朝から晩まで喜んでガラクタ漁りしている人の群れしか見つけられない。
崩壊直後こそ元の所有者とギルド経由で公平な交渉があったが、今やほとんど拾ったもん勝ちになっている。こういうのが普通らしい。
俺とリンピアは、ようやくまともに休みをとった。屑拾いにとってはかなりの稼ぎになるので、サジや船長たちに付き合ってずっとジャンク漁りをしていたのだ。リンピアのように立派な機体を所有しているディグアウターにとってもかなりの金額になった。俺が重症直後だったので様子見がてら丁度良い仕事だった。最初の方は人命救助の気分だったが、皆勝手に逃げ延びていて、誰も彼もが屑拾いに夢中だった。俺もすぐに金で頭がいっぱいになった。もうすっかり快調だ。
俺達は今、タンカー船を拠点にしている。
その甲板の一角に3メートルほどの立方体が鎮座していた。
仕事終わりの疲れた体を癒やしてくれるのが、この立方体──なんと低周波ジャグジー付きの高性能バスユニットだ。サジたちが高級宿の残骸からいくつか掘り当てて、自分たち用に1つ確保しておいたらしい。かなり高額な代物のはずだが、元の所有者もすでに退避済みで面倒もない。一番風呂はどうぞと言われたので、ありがたく堪能させていただく。
「これは……水精製装置として優秀だな……」
独立式のバスユニットは、どこにも接続されていないのに快適な温水シャワーを提供してくれた。どうやら大気中の水分を集めたり、使用済みの水を再濾過する機能があるようだ。ちなみに浴槽は無く、バスルーム全体に湯をためて浸かる方式らしい。シャワーも壁と天上の穴から降り注ぐ方式。発掘品らしく独特でちょっと慣れないが、楽しい。
壁面のボタンはなんとシャンプーとリンスのディスペンサーだった。さすがに手動補充かナノメタルを消費して精製する方式のようだが、キッチリ満タンだ。今日くらいは使ってもいいだろう。灯りもオシャレで落ち着く間接照明。地球基準でも高級な風呂だ。
とはいえ発掘品でも限界はあるだろうし、このあとも何人も使用するはずなので、湯水を湯水のように使い放題というわけにはいかない。
「このほうが2倍効率的だぞ」
と言いながら途中乱入してきたリンピアといっしょに、しばらくの時間楽しんだ。
ひとつ分かったのは、リンピアの髪を閉鎖空間で洗うべきではないということだ。特に、ちゃんとしたシャンプーをたっぷり使ってはいけない。調子に乗ってワシャワシャすると使うと泡立ちすぎて、泡で溺れるところだった。溺死はもう御免だ。
↵
夜はロックフェイスのコクピットが寝室になった。広めに改造していてマットレスもあるので、プライベート空間のない状況では役立つのだ。
「ルーマのことだけどさあ……」
「思うところはあるが……役立ちすぎるな。同行させない手は無い……」
状況が落ち着き次第、俺達は女船長のホバータンカー船で旅立つことになっている。街が消えたせいで早まったが、もともとそういう手筈だった。サジやリンゴを含む少年団も一緒だ。いつのまにか随分仲が深まった。ちなみにいまさらだが、女船長の名前はヴェダという。
そこに同行を願い出てきたのが、ルーマだ。
あの箱は今、俺のストーカーとなっている。
いかに自分が役に立つかを、俺の後をつけ、コクピットの後部に陣取り、ありとあらゆる情報的サポートを行いながらベラベラベラベラとアピールし続けてくるのだ。
アイツは良いやつだ。塔攻略のときは文字通り鍵となって役立ったし、今回も身をなげうって助けてくれた。俺達ふたりの命の恩人と言える。探知機のような情報収集処理能力を欲しがっていた俺達にとってまさにうってつけの人材だ。
だが積極的すぎてちょっと引く。俺に好意的すぎて引く。何がそんなに気になるんだ。どうも古代人にとって俺の体が重要なのでよく調べたいらしいが。
「S級ディグアウターってのは本当らしいぞ」
「あんなやつが……」
ギルドの照会機能で確かめさせてもらったところ、百年以上前から信頼スコアと実績スコアを積み重ねた本物のS級ライセンスだった。彼女は古代人と同じくらい古い時代から生きているが、確かに人間で、致命的な犯罪歴は無く、いくつかの重大事件を解決するきっかけになったことも事実らしい。ギルドへの貢献により、いくつかの特権も付与されているとか。
だが探知機のふりをして何十年も箱の姿でいるのはちょっと引く。マイク隊長は笑って許していたが……あれは絶対、思考放棄した顔だった。
「悪いやつではない。私自身も嫌いではない。渡りに船ですらある。だが……気を付けろよ」
静かなコクピットの中、リンピアが頭をモフッと押し付けてきた。
「本当に、きをつけろよ……」
心配させてしまったらしい。今回のいろいろについて。そりゃそうだよな。手も脚も出せない場所へ連れ去られたと思ったら、頭だけになって帰ってきたんだから。俺が逆の立場だったらパニックになっていただろう。
気の効いた言葉を返そうと思ったが、うまく思い浮かばなかったので、モフッと頭を撫でておく。おかしいな、俺にはこういうとき自動でペラペラ喋ってくれる回路もあったはずだが。
あらためて考えると、俺も腹が立ってきた。
いろいろ起こりすぎて麻痺していたけど、なんなんだよあのクソガキ自称領主は。傍若無人にもほどがある。しかもよく思い出すと、アーマーを消すとか言っていた。許されるべきではない。アイツは、俺の敵だ。いつか借りを返す。そして対処する。
……疲れた。
リンピアとぴったりくっついて、ぐっすりと眠った。




