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25.だからこそ、彼に協力を依頼した。

【登場人物】

・霧崎 掠:ブロンズ・ルーキー。

・リエム:紫苑の花束における魔法使い。

・レミィ:ギルド本部から派遣された職員。

・狐さん:ギルド本部の代表取締役。

 狐さんは、広々とした会議室を悠然と歩き回る。チャック付きポリ袋を、これでもかと見せびらかしながら話を続けた。

「所詮、話の内容が影響を及ぼすのは7%、と言ったところさ」

 突拍子もない切り出しに「何の話ですか」と問いかけるが、彼は話をまるっきり聞いていない。

 まるで、ただの独り言だ。

「見た目が55%、声の大きさやトーンが38%。結局のところ、外見が評価を決定づけると言えるだろうね」

 続いて、狐さんはわざとらしく狐面の隙間から覗く黒髪を弄る。

 ディファンのものと思われる金髪と比較するように。

「冒険者にとって、髪色はとても重要な要素だろう?より魔力が多いことを証明する髪色の冒険者と組みたいと思うのは必然の道理さ。ブロンズ・ルーキー君なら特に分かると思うけど」

 狐さんは、俺に話を振ったわけでは無かった。

 俺達の傍らに立つ、レミィの方に視線を送っていたのだ。


 彼女はどこか恨めしそうに三白眼で俺を睨みながら、狐さんに言葉を返した。

「ほんっとうに、ですねぇ。散々この頑固クソボケ冒険者に振り回されましたからねぇ……。何度、会議室の使用許可手続きを取ったり他の部署との段取り組んだか……”また?”って嫌そうな顔されるこっちの身にもなって欲しいですねぇ?」

「悪かったよ……」

 悪口詰め合わせセットでそうなじられては、俺としては平謝りする他ない。

 

 ただ本題はそこではない。

 リエムは深々と被ったつば広の帽子の隙間から、狐さんを見つめる。

「あの。一体どこまでディファンのことを把握しているんですか。教えてください、他人事じゃ無いんです」

「ま、気になるよね。勿論そのために呼んだんだ、君達には知る権利……いや、義務がある」

「義務、ですか」

 リエムの言葉の反芻(はんすう)に、狐さんは「うん」と頷いた。

 

 それから、机の上に置かれていたフラットファイルの中から、いくつかの報告書を俺達に見せびらかす。

「近年はダンジョンコアの暴走したという報告書が例年よりも多く上がっている。ちょうど6年前を契機としてね」

「6年前……」

 狐さんの言葉をオウム返ししたリエム。神妙な表情で俯いたかと思えば、力なく項垂れる。

「ちょうど”紫苑の花束”が表舞台から消えた辺り、ですね……私が関係している、のでしょうか……」

「今のところはなんとも言えないね。だから、リエムちゃんが自分を責め立てるのは早計というものだよ」

 あえて、彼は本来の名前である”リール”ではなく今の名前である”リエム”と呼んだ。

 それから、更に狐さんはファイルの中からいくつもの資料を重ねて取り出す。

「僕達ギルドとしても、ただ後出しで対応しなければいけないというのは(しゃく)でね。定期的にダンジョンコアを調査しているんだ。細かいことは省くけど、ダンジョンコアに溜まっている魔力量の推移を記録しているよ。そして、その含有量は以前よりもかなり増しているようだ」

 狐さんの言葉を受けて、受け取った資料に目を向ける。確かに時系列ごとの魔力量の変遷についてまとめられていた。

 そして、6年前を契機としてその魔力量は著しく増加しているのが分かる。

 俺はその事実を確認した上で、狐さんに問いを投げかける。

「確認ですが、魔物という存在自体。ダンジョンコアから漏れ出した魔力を元として生み出される……でしたか?」

「うん、よく勉強しているね。魔物の構成要素は魔力にある……しかし、だ」

 彼はそこで言葉を切り、右手を捻ってぱちんと指を鳴らした。

 人差し指の先から、小さな火の玉が生み出される。

「魔法もまた、同じ魔力で構成されているんだ。これは偶然だろうか、必然だろうか?」

「俺に聞かれても……」

「ま、分からないよね。僕達だって、暴走したダンジョンコアを調査して、対処しながら回っているんだけど。如何せん原因究明には辿り着けなくてね」

 そこで言葉を切った狐さん。人差し指の先の炎を消した後、改めて俺達の方へと向き直る。

「ただ、ダンジョンコアが暴走した後には、決まって同一の魔法痕が残っている。魔法痕というのは、要は魔法のクセみたいなものだね。そう簡単に馴染んだクセというのは消えやしない」

「同一の魔法痕、まさか……!」

 狐さんの言葉にハッとした表情を浮かべたリエム。食い入るように前傾姿勢となり、続く彼の発言を待つ。

 すると彼は、わざとらしいまでに大胆な動きでポリ袋を突き出した。

「そう、ディファンのものと思われる魔法痕さ。6年前から、急激に増えたダンジョンコアの暴走。その一連の出来事の影に、彼はいつも潜んでいる」

「何で、なの……」

「分かっていたら、こんな勿体ぶった前振りなんかしないさ。だからこそ、君達を呼んだんだ」


 遂に話は本題に入る。

「さて、かなり話を延ばしてしまって悪かったね。ブロンズ・ルーキーこと霧崎 掠君と、元”紫苑の花束”の魔法使い……リエムちゃんの2人にも調査に協力して欲しいんだ。ダンジョンコアの暴走に関わっていると思われる、ディファンを探し出すのを手伝ってくれないか?」

 狐さんの問いかけに、俺とリエムはほぼ同じタイミングで顔を見合わせた。

 それから、示し合わせたわけでもないのに同時に返事する。

「勿論です。俺でよければ、是非協力させてください」

「勿論です!私こそ、協力させてください!」

 まさか息ぴったりに返事をするとは思わず、俺とリエムは再び目配せし合う。

 それから互いに、何もおかしいところは無いのに「ふふっ」と吹き出した。

「仲睦まじいのは良いことだね。うん、決めた。君達は信頼に値する存在と言えるだろうね」

「ありがとうございます」

 好意的に取られるとは思わず、俺は素直に頭を下げる。

 それから、狐さんは俺達をぐるりと見渡した。

「そうだね、また民間ギルドに話を通しておくよ。表沙汰に出来ない話だから、基本的にはレミィちゃんを中継役に据え置こうか。何か新しい情報があれば、逐一(ちくいち)伝達するよ」

 狐さんがそう告げると、レミィは「またよろしくお願い致しますねぇ」と手をひらひらとさせた。

「俺達は、何か情報を受け取るまでは普通に冒険者として活動して良いのですか?」

「むしろ活動してない方が怪しいでしょ。それに霧崎君とかじっとしていられないタチでしょ、任せるよ」

「あー……そこまで見抜かれますか。助かります」

 いくらギルド本部から重要な役割を与えられたとはいえ、元々俺が目指したのは冒険者だ。本来担うべき仕事を疎かにしたくなかった。

 その胸中を容易く見抜かれていたことに、思わず苦笑が漏れる。


 俺はギルド本部の代表取締役――狐さんの計らいに感謝しつつ、その場を後にした。

 

 ----


 霧崎 掠とリエムが居なくなった室内。

 代表取締役である狐さん。彼は顔を覆う狐面を外し、ちらりとレミィに視線を送る。

「ねえ、レミィちゃん」

「なんですかぁ。私もさっさと仕事に戻りたいんですがぁ……?」

 上層部からの問いかけにも関わらず、気怠げな返事をするレミィ。

 あまりにも無礼な態度だったが、狐さんは気にした様子など無かった。

「霧崎君は、転生者だ。そして、レミィちゃんも転生者だね。転生者というのはそう珍しい話ではない」

「……一体、何の話ですかぁ?」

 レミィはのらりくらりと、間延びした口調で言葉を返す。

 だが、その目は笑っていなかった。

「転生者は、どういう訳か身体に備わった魔力が高い傾向にある。ただの偶然と呼ぶには、あまりにも必然性が高すぎると思わないかい?」

「さぁ、そんな偶然もあるでしょうよぅ」

「しらを切らないでよ。そもそも転生者という存在が、異なる世界線の存在する証明となっている」

「いきなり哲学的な話ですかぁ?私そういうの苦手なんで、もう行ってもいいですかねぇ」

 レミィはとぼけた言葉を返す。

 だが、狐さんは笑わなかった。伸びきった艶のある黒髪の隙間から、どこか気怠げな瞳を覗かせる。

「転生者は、どうして転生するんだろうね?どうして、転生者は魔力を多く備わって生まれるんだろうね?」

「……さぁ?」

 話を聞く気はない、という態度を前面に出したレミィをよそに、狐さんは話を続ける。

「僕はね、転生者であることを公にしている霧崎君にしか、この答えを導くことが出来ないと思うんだよ。だからこそ、彼に協力を依頼した」

「……彼に対して、狐さんは一体何を求めているんですか?」

「そうだね、強いて言えば……」

 狐さんは、狐面を器用に指先で回しながら、区切った言葉の続きを発する。


「未来、かな」

 

 続く

 ご無沙汰です。

 かなりゆっくりとさせて頂きました。毎日更新……出来るかは分からないですが、気楽に進めていきます。

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