24.人の印象の55%は見た目で決まるという話だし。
【登場人物】
・霧崎 掠:ブロンズ・ルーキー。
・リエム:紫苑の花束における魔法使い。
・レミィ:ギルド本部から派遣された職員。
静かだった。
ただ俺達の足音だけが響く廊下は、もはや誰も存在しないのではないだろうかという気分にすらさせる。
だが、窓の外から見える景色を見下ろせば、確かに人はいる。
忙しなく働く従業員の姿は、まるで働きアリのようだ。
俺達が向かう先は、そんな働きアリを統べる者が待つ場所だ。
重厚感あふれる扉の前に立ったレミィは、慎重に、傷をつけないように優しく扉をノックした。
「……第4支部所属、冒険者支援担当。レミィです」
「どうぞ」
男性のくぐもった声が聞こえる。
だが、思った以上にその声の主は若かった。
「……失礼します」
俺とリエムは、レミィに促されて恐る恐る中に入った。
……中には、誰も居ない。
「……ん?」
視界に映る景色がおかしくなったのかと思い、リエムに視線を送る。だが彼女も困惑した様子で首を横に振った。
「……あのっ、民間ギルド所属のリエムですっ。レミィさんから招待を受け、参りました!」
リエムは率先して名乗りを上げる。周囲を見渡しながら、声の主を探す。
しばらくすると、声の主は突如として現れた。
「ばあーーーーーーんっっっっ!!」
「——っ!?」
恐らくリエムが以前使った技術の類か。陽炎のように揺らめくシルエットが俺達の眼前に顕現し、その実態が露わとなる。
俺は咄嗟にリエムの前に腕を伸ばし、腰を低くして屈める。
呆気に取られるリエムをよそに、俺は情報収集に努める。
——狐面で顔を覆っている。素性は公にしないタイプか?
——俺達を試そうとしているのか?
自分でも驚くほど、思考がぐるぐると駆け巡る。
しかしそんな俺の様子がおかしいのか、目の前に現れた狐面で顔を覆った妙齢の男性は声を上げて笑った。
「ふっ、は、はははっ!そんな警戒しなくていーじゃんっ!」
「……あー……すみません、つい、癖で……」
咄嗟に臨戦態勢を取った俺に対し、恐らくギルドのトップと思われる男性はおどけたように手を広げる。
俺は構えを解き、改めてその男性を観察することにした。
中性的な細身の肉体に、ぴったりと密着するように着込んだ漆黒のスーツ。まるで執事を思わせるほどにすらりと背筋の伸びた姿勢から放たれるのは、つかみどころのない雰囲気だ。
顔は狐面で覆われており、年齢を推測することは出来ない。
狐面の隙間から伸びるのは、漆黒の髪だった。
「……黒髪?」
「おや、気になるかなー?この艶やかな黒髪がさっ。ちょうどこの間美容院でストレートにしてもらったんだよね」
「……そういうことを聞いているのではありませんが……」
「せっかくこの日の為に身だしなみを整えてきたというのに……もっと良いリアクションが欲しいものだよ、残念」
狐面の男性は、わざといじけたように石ころを蹴るような動作をした。当然ながらそこに石が転がっている訳ではない。
彼はちらりと俺達を値踏みするようにこちらを見やり、顎に手を当てながら話を続けた。
「僕としてはね。咄嗟の反応で人間性が分かると思っているんだ」
「咄嗟の反応……?」
その言葉に、背筋に薄ら寒いものが流れる気がした。
既に俺達は彼から評価を受けている段階だ、という実感を抱く。
「そこのブロンズ・ルーキー君は黒髪の魔法使いちゃんを庇った上で、僕をじっくりと観察していたね。おおかた、プライドが高く完璧主義、と言ったところかい?」
「……そこまで自分を分析したことが無いので、分かりませんが……間違ってはいないと思います」
一体この短時間でどこまで見抜かれたというのか。
次に、狐面の彼はリエムに視線を向ける。
「黒髪の魔法使いちゃんは油断ならないね。ただブロンズ・ルーキー君に守られているように見せかけて、短剣から手が離れてない。プロの冒険者だね」
そう評価を受けたリエムは、短剣の柄に触れていた右手を離して、自然体を作った。
「よく、気付きましたね」
「まーギルドのトップたるもの、人を観察しないといけないからね。特に立ち姿からその人となりは出るものさ」
彼は言葉を切り、右掌をわざとらしくリエムに伸ばした。それはまるで、華やかなダンスにでも誘っているかのようだ。
「そう思わないかい?”紫苑の花束”のリールちゃんっ?」
「……っ!?」
リエムは慌ててレミィに視線を送った。
だがレミィは静かに首を横に振って、リエムの言いたいことを否定する。
「私は言ってませんってぇ。人を試すようなことを止めてくださいよぅ……”狐”さん」
「あははははっ!どうにも人をかき乱す行為と言うのは楽しくてねっ」
”狐さん”と呼ばれた男性は、声を上げて楽しそうに笑う。
それから、西洋の貴族といった振る舞いで、仰々しいお辞儀をした。
「さて、自己紹介が遅れたね。紹介に預かったように、僕はギルド本部代表取締役の者だ。お面の通り”狐”と呼んでくれ」
「……ギルド職員って、変な奴しかなれない仕事なのか?」
思わず漏れた言葉に、リエムは「ちょっと!」と慌てた様子で俺の脛を蹴った。
その痛みにハッとして、慌てて「いや」と訂正しかかった時だ。
狐さんはまるで起こった様子もなく、げたげたと声を上げて笑う。
「ぶっ、ははははっ!確かに変わり者が多いのは確かだねっ!黒髪の魔法使いちゃんを仲間に引き入れたブロンズ・ルーキー君も大概変わり者だと思うけどっ」
「……リエムは俺にないものを持っていますから。見た目だけで何もかも判断してはいけないんだって、彼女が教えてくれたんです」
「ふぅん、良い出会いに恵まれたんだねぇ……ただ、君はこうも思ったはずだ。『何故黒髪の人間が、ギルド本部の代表取締役を担っているのか』と?」
「……そ、それは」
狐さんの指摘は図星だった。
失礼を与えないように、どう言葉を返すべきかと逡巡する。しかし狐さんはおどけたように背伸びして、それから「うん」と頷いた。
「や、ごめんねー。別に悪いことじゃないんだよ。確かに見た目と言うのは人を判断する手っ取り早い情報だからね?人の印象の55%は見た目で決まるという話だし」
「すみません。失礼を働きました」
「いやいやいや謝らなくて良いって。魔力量が髪色に出るからね、仕方ない話なんだ。ただ見た目だけで何もかもは決まらないよ、って話さ」
「それは、リエムにも言われましたね……見た目だけで才能を勝手に判断するな、と」
俺の言葉に狐さんは「そう」と頷いた。
それから、大股で室内をゆったりと歩き回って辺りを見渡す。
「外見、髪色、重心の置き方、歩き方、姿勢、些細な仕草。確かに見た目でおおよその素質が見えることもある。だが、それと反対に見えないものもある……実際に、君達……いや、僕もか。見えなかったものがあった」
狐さんは胸ポケットに入れていた、チャック付きのポリ袋を取り出した。
そこにはレミィが以前俺達に見せた、金色の髪が入っていた。
「さて、ディファンはその正義感に満ちた見た目の内に、一体何を隠していたんだろうね?」
続く
割と「勢いとノリ」で書き始めたところがあるので、ストーリー進めながらプロット組んでます。
許してください。




