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23.今の私は、結果的に都合の良い状態となってる。

【登場人物】

・霧崎 掠:ブロンズ・ルーキー。

・リエム:紫苑の花束における魔法使い。

・レミィ:ギルド本部から派遣された職員。

 それは巨大な建造物だった。

 重苦しさすら感じるほどの漆黒の外壁で覆われた高層ビルが、雲を貫かんとするほどまで空高く(そび)え立つ。

 数多の従業員を迎え入れる広さを持つ、広大な出入り口には生け垣が植えられている。

 等間隔で並ぶ樹木の中で存在感を示す、大理石で作られた銘板には「ギルド総合本部」と洗練されたデザインで書き記されていた。

 高級感すら感じるその建物は、一般人には届かない世界であることが一目瞭然だった。

「……まさか、ここに来る機会があるとは思わなかったよ」

 圧巻の景色に、足を踏み入れることを躊躇する。

 大企業の御曹司だった俺にとって、転生前でこそ見慣れた景色ではあった。

 しかし、今の俺はただの一個人だ。

 本来であれば、部外者として近寄ることすら叶わない場所なのだ。

 隣ではリエムが、陰鬱とした表情で俯いていた。

「……どうして、なの。どうして……」

「リエム……」

 鍔広の帽子と、長く伸びた黒髪の隙間から憂いの帯びた顔色が覗く。

 彼女の胸中は容易に想像できた。

「……話を聞きに行こう。俺達はその為にギルド本部に来たんだ」

「うん……」

 リエムは俺の言葉に、びくりと一度身体を振るわせてから頷いた。


 ”紫苑の花束”におけるリーダー、ディファンがダンジョンコアの暴走に関わっている可能性がある。

 その可能性についてレミィから説明された俺達は、改めて説明を求めるべくギルド本部へと向かう運びとなった。

 レミィは、未だにリエムの存在をギルド内にも秘匿にしているらしい。

 本来であれば、リエムの心境次第で解決する問題だったはずだ。


 だが”紫苑の花束”が、魔物の襲撃に関与している可能性があると知らされた以上……世間に魔法使いリールの正体を公表することに、慎重とならざるを得ない状態になった。


「今の私は、結果的に都合の良い状態となってる。レミィさんもそれを分かってるから、素性を隠すように勧めたんだろうね」

「まあ、俺もレミィには引け目感じてるからな……」

 パーティメンバー募集の為に、無茶振りをしてギルド本部に散々迷惑をかけたことを思い出して申し訳ない気持ちとなる。

 ズンと胃のそこに鉛のような重いものが()し掛かるような気分になりながら、大きくため息を吐いた。

 ただ、公表はしないにせよ、ギルド内には話を通した方が良いだろう。

「話をスムーズに進めるなら、リエムの正体は上層部には通した方が良いだろうな」

「……なんだか、大人の事情って感じで嫌だけどね……」

 困ったように、引きつった笑みをリエムは向ける。

 彼女の言いたいことも十分に理解できたが、致し方ないことだ。

「まあ手をこまねいていても何も解決しない。行こう」

「まさか、ここまで大事になるとはね。自分が()いた種だから、仕方ないけど……」

 俺達を待っていたかのように、ギルド本部入口へと続く自動ドアは、静かなモーター音を奏でて開いた。


 

 ギルド本部とは、その名の通り民間ギルドを統括する場所だ。

 民間ギルドは依頼主と冒険者を橋渡しする部門、として機能する施設だった。

 しかしギルド本部の役割は大きく異なる。

 

 魔法の開発・発展を進め、体系化した技術を各地方に普及させていくこと。

 冒険者という職業を世間に認知させる為、継続した広告活動を実施すること。

 想定外の事態が生じた際、即座に対応できるように各民間ギルドに指示を出す司令塔としての役割。


 などの機能を持ち合わせた施設である。

 


 緊張を押し殺すように生唾を飲み込みながら、ギルド本部に足を踏み入れる。

 すると、ホテルのラウンジを彷彿とさせる広々としたロビーの中に、1人の女性が立っていた。

「来ましたねぇ。待ってましたよぅ」

 レミィだった。

「ああ、待たせて悪いな。魔導車が遅延しててさ」

「魔法陣構造に異常が見つかったんでしたっけ?災難でしたねぇ。テレポート施設は使わないんですかぁ?」

「いつも冒険者やらでごった返してるから嫌なんだよ。あと転送酔いするし」

「まあ私達職員も利用してますからねぇ~」

 他愛ない雑談を交わした後、俺は早々に本題に入る。

 ちらりと縋るような視線を向けているリエムに頷きかけてから、口を開いた。

「まだリエムの話は、ギルドには報告してないんだよな?」

 その問いかけに対し、レミィは「何を当然のことを」と言わんばかりに、呆れた様子で肩を竦めた。

「私は報告してませんよぅ。お二人がどう立ち回るか……という方向性もあるでしょうしぃ、それに……リールちゃん自身から伝えるのが筋、ですからねぇ?」

「それは、そうですね……」

 リエムは何も言い返すことが出来ず、神妙な表情で俯いた。

 しばらく覚悟の時間が必要だったようだ。何度も自分に問いかけるように胸元に手を当てて深呼吸を繰り返す。

 それから、ひとつ頷いてレミィと視線を交えた。

「私なら大丈夫です。今から上層部へ行くんですよね?ぜひ、案内してくださいっ!」

「……その表情が、冒険者だった頃から出来ていれば良かったんですけどねぇ。まあ……良いですよぅ、案内しますねぇ」

「お願いしますっ」

 ラウンジ内の壁面に配置されたエレベーターに、俺達は案内された。

 複雑な魔法陣が組み込まれたそれは、静かな稼働音を奏でている。


「……ほとんど、転生前の世界と変わらないな」

 ちらりとエレベーター内に配置されたディスプレイに視線を送れば、ご丁寧に現在の階層が表示されていた。

 どこか周りと隔絶されたような気分になる中、俺はふと率直な感想をレミィに漏らす。

 彼女はエレベーターの操作ボタンをじっと見ていたが、しばらくしてから俺へと視線を送る。

「転生者って結構多いらしいですよぅ?もしかすると、そんな人達が建造物を作っているのかもですねぇ」

「……そうなのか?」

 初耳だった。

 というよりも、レミィがどうしてその情報を握っているのだろうか。


 その疑問が顔に出ていたのだろう。レミィは遠い目をして天井を仰いだ。

「ギルド本部で統計を取った結果ですよぅ。子供の頃に転生前の記憶を失う人も多いですがねぇ、私みたいに記憶を保っているパターンも中にはいますが……」

「……ん?()()()()()()

「あっ」

 普段からのらりくらりとした態度を取っているレミィ。そんな彼女は己の失言に気づいたのだろう、青ざめた表情を浮かべながら両手で口を押えた。

「……おい、レミィ。お前も、もしかして……」

「あー……霧崎さんが思う以上に、転生者はあちこちにいますぅ。覚えておいてくださいねぇ」

「……ああ」

 どこかはぐらかすような言葉だった。

 だが、レミィの素性に関してそれ以上詮索する意味を見出すことが出来ず、俺は大人しく身を引いた。


 しかし、それと同時にひとつの疑問が脳裏を過ぎる。

(……レミィも、相当の魔力量を持っているんだよな……)

 レミィが転生者だと仮定して、だ。

 俺も彼女も、周囲の冒険者よりも突出した魔力量を持っている。

 そんな偶然として、魔力量を兼ね備えた人間に転生できるものなのだろうか?


 考えられる可能性としてはやはり「転生者特典」だろう。

 自分達が特別、と言う訳ではないが……可能性のひとつとして視野に入れておくべきだろう。


「掠、どうしたの?何か気になることあった?」

 顔に出ていたのだろうか、リエムは俺の脇腹を小突いて首を傾げた。

「ん、ああ。いや、転生者ってどれくらいいるんだろうなって考えてた」

「そっか。私はそういうのよく分からないけど……掠を見てると前世の記憶があるって大変そうだなー、って思うよ」

「……まあ、な」

 薄紫色の髪を持つ、魔法使いリール。

 彼女も記憶こそないが、もしかして……。

(……いや、よそう。全部ただの憶測だ)

 論も根拠もない推測に振り回されていることに気付き、強く首を横に振る。

 

「さ、そろそろ代表取締室に着きますよぅ。お二人なら大丈夫だと思いますがぁ……失礼のないようにしてくださいねぇ。怒られるのは私なのでぇ……」

「わかったよ」

 俺が返事するのと、エレベーターの稼働音が止まるのは同時だった。

 静かなモーター音を奏で、ゆっくりとエレベーターの扉は開かれる。


 続く

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