第59話〜とある舘の摩訶不思議②〜
《むかーしむかし、この舘には
裕福な一族が暮らしていました♪》
フランス人形が、可愛らしい声でナレーションを進める。
テレビに映るのは、紙芝居のような映像。
私達が今いる舘のリビング、それから
初めに住んでいたと思われる家族が
食卓で楽しく食事をしている様子が描かれていた。
煌びやかな服を着た夫婦らしき男女に、
その子供と思われる高校生くらいの背の高い男の子1人と
中学生くらいの可愛い女の子が1人。
4人が楽しく、ステーキやパンを食べている。
そして、夫妻と同い年くらいのメイド服を着た女性もまた幸せそうな顔をしてワインを注いだり、
女の子の口に付いた汚れを落としたりしていた。
よくよく見たらクリスマスだろうか……?
赤と緑に彩られた飾り付けがされている。
「この女の子、どことなく実に似てるな。」
「えー?そうかな?」
かなうさんが似ていると指さし、
実くんが似てないと否定した。
《すっごく楽しそうでしょ!!
仲が良い家族だったんだぁ♪》
明るい映像から一変、真っ黒い映像に切り替わった。
《でも、この家族には
"たっくさぁんのヒミツ"があったんだ__》
その中心に白い文字が浮かび、揺れ
ナレーションが沢山という言葉を誇張させた。
《その秘密のせいなのかなぁ?》
また、画面が切り替わり
フランス人形が分からないと言ったように
首を傾げていた。
《ある日突然、この舘に住んでいた全員が
死んじゃったのぉ!》
画面に映る5人の絵。
その絵はさっきのにこやかな顔とは違って
目がバッテンとなり、倒れて消えた。
《不思議なのが、その次に住んだ家族も。
またその次に住んだ家族も。》
画面の中で遠くからどんどん近づいてくるフランス人形。
《み〜んなぁみんな!死んじゃうんだぁ!!!!》
バンッ__
今にもテレビから出てきそうな勢いで
さっき戦った方の強面なフランス人形が
画面にドアップで映し出された。
《アハハハハハッ……イヒヒヒヒッ!!!!!》
狂ったように笑い続けるそれを見たかなうさんは
肩を跳ねさせ、少し涙目である。
ビビりめ……。
《キミたァちもぉ〜呪われに来たんだネェ〜!!!!》
高らかに笑うフランス人形。
ガチャン__
何かが閉まる音が聞こえた。
「……まさか。」
舘に閉じ込められたとかないよね……?
映像から何かヒントが得られるかと思ったら
ただの煽りだったし!!!
《さぁ、生死をかけたゲヱムが始まるよォ……♪》
バチンッ__
まるでここから、このクエストの本編が始まるかのように
テレビの映像が切られた。
グァァ……
生暖かい空気が首元を通った。
カチッ……チッチッ__
かなうさんが魔法でつけた部屋の電気が
チカチカと点滅し始める。
「来る……っ!背後を取らせるな。」
そう言ってかなうさんは、私と実くんを呼び
3人の背中を合わせた。
どこから魔物が来るか分からない恐怖感で、
私が握る杖への力加減も強くなる。
バチッ__
点滅していた明かりが消える。
「クソッ……電光星灯!!」
かなうさんが再び明かりを灯したが、
しかしそれは、このクエストの最悪な状況を
一目でわからせる演出の手助けに過ぎなかった。
ヴァァァァァァ……フシュゥゥ……
明かりと共に現れる、
数十体の目と耳が無いキョンシーの魔物。
大きさは異なるが、全ての個体が両腕を前に突き出し
その場でピョンピョンと跳ねている。
「おいおい、舞台は日本じゃないのかよ……。」
クエストの詳細には日本にある舘での話とあったのに
出てくる魔物はフランス人形やキョンシー。
「まるで異世界ファンタジーですね……。」
このままではまずい。
舘自体が広いとは言え、1つの部屋に
十何体もの魔物が居ればかなり狭い。
「一旦壁壊す?」
気付けば、部屋の中心へと追い込まれる私達。
実くんが壁を壊すかと提案するが、
そもそも囲まれているため壁には届かない。
「待て、ステイだ。全員、1分間息を止めろ。」
そう言うと、かなうさんは大きく息を吸って息を止めた。
それを真似して実くんも息を止める。
「マジですか……?」
こんな危機的状況で追い込むの……?
私が戸惑っていると、かなうさんに早くしろと
ジェスチャーで怒られる。
「……。」
言われるがまま、仕方なく息を止めた。
全員が息を止めて数十秒。
大量のキョンシーは、キョロキョロとしながら私達を避け
かなり早い速度で跳ねながら、リビングの扉から
廊下へと出て行ってしまった。
「プハッ……今のうちに扉閉めるぞ。」
かなうさんは、もう大丈夫だと言って部屋の扉を閉めた。
「なんで避けたんですか……?」
ただ息を止めただけで、キョンシー全員が
この部屋を出て行ってしまったのだ。
「簡単だよ。
アイツらも、嗅覚で動いてるように見えたから。」
目も耳も無かっただろ?とかなうさんが言った。
「ニンニク食ってたらアウトだったけど……。」
どうやらキョンシーの逸話通りに嗅覚で敵を察知し、
近付き攻撃する魔物だったよう。
彼らは死体であり、普通に剣を振るうだけでは倒せない。
倒すためにはお札や鏡を使うらしいが、
生憎そんなものは手元に無い。
「試しに攻撃してみても良かったけど、
何せ探索してない部屋で暴れるのはな……。」
そう言ってかなうさんは再びテレビをつけようとするが
もうつかなくなっていた。
「でもこれじゃ、この部屋から出れなさそうですよ。
詰んでませんか?」
他にも部屋はありそうだったし、
この部屋に閉じ込める方が良かったのではないのか。
「どうだろう……去年参加したクエストは、
最初のアトラクション以外は全部鍵付きだったよ。」
去年、廃墟遊園地が舞台だったという怨霊クエストに
参加した実くんは、これが正解かもしれないと言った。
どの部屋を回っても鍵がかかって開いてないのなら
結果、私達の行動は既に矢印通りに進むことを
示唆されていたのだと、私は悟った。
始めからそうする選択肢しかなかったのだ。
その方が最小限のストレスで楽しめる。
ベタなホラゲあるあるだ。
実くんの"矢印通りに回った方が面白いかも"
という言葉も、ここまでの状況で物凄く解った気がした。




