第56話〜現実の先に見える覚悟〜
お腹が鳴った実くんのために
私は朝食で余った白米でおにぎりを握っていた。
いや、おにぎり5個食べてきたというのに
凄い食欲だな……。
そういえばこの世界へ来てから
当たり前のようにお米を食べてる気がする……。
かなうさんに感謝しなきゃな。
「まゆりと紫雨は知ってるのか?」
「知らない……。」
リビングでは引き続き、かなうさんが
実くんの話を聞いていた。
「まゆりねぇちゃんも学生で忙しいし、
魁斗にぃは、いつも何処にいるか分かんないもん。」
「つまり、私は暇そうに見えると。」
違うの?と無邪気に首を傾げる実くん。
「全く……口が達者なベイビーだ。」
まぁ、今日は暇だけど
と実くんの頭を優しく撫でるかなうさん。
「あれ、あんだろ。8区にあるギルド専用の塔。」
それは使わないのか?とかなうさんは言った。
「僕たち、基本クエストの時しか会わないもん。
使わないよ。」
実くんの回答に、かなうさんはクエスト職人かよと
突っ込んだ。
「ギルド専用の塔なんてあるんですね。」
聞き耳を立てていた私は、初めての情報に
気になって口を挟んだ。
「あるある。なんなら、8区はギルド専用エリアだよ。」
私達も、ギルド対抗戦の為に仮ギルド申請したから
使えるとかなうさんが教えてくれた。
「かなねぇ、ギルド対抗戦出るの?」
「まぁ。金に釣られて〜?」
一番ダサい参加理由だと思う。
まぁ、私も釣られてOKサイン出したし
人の事言えないけど……。
「うぇ〜。なんでウチのギルドに入らないのー?」
魁斗にぃに怒られろと変顔をキメる実くん。
中学生らしい煽りに思わず私も笑ってしまう。
「良いなー。僕も出たい!!」
「AYAKASHIは3人だから出れないだろ。」
かなねぇとうつつねぇちゃんが入ってくれれば
出れたのにと、実くんは口を尖らせた。
「魁斗にぃに、あと2人捕まえてもらうもん。」
紫雨さんにメッセージを送っているのか、
スマホを取り出し文字を打つ実くん。
「おい、今やるな。アイツ来るだろ!!」
大人気なくスマホを取り上げようとするかなうさん。
そんなやり取りを見ている間に、
炊飯器のお米は全て無くなり
3個のおにぎりが出来上がった。
それを実くんの元へと持って行った。
「どうぞ〜。右から鮭・梅・昆布だよ。」
「わーい!!全部好き!!」
そう言っておにぎりを2つ手に取り
美味しそうに海賊スタイルで頬張る実くん。
「うつつは良いお嫁さんになりそうだな。」
残ったおにぎりを狙いながらわっさんが言った。
「へへ、そうかな…?」
そう言われると照れるなぁ。
「私は?私。」
自身の顔を人差し指で指しながら、便乗するかなうさん。
「かなねぇは無いかも。嫉妬疲れしそう。」
もぐもぐとおにぎりを勢い良く頬張りながら
無いと言う実くん。
よく見てるんだなぁ。
かなうさんモテるしなんでも出来るから
私も一緒に住んでてたまに無性にムカつく時がある。
「うつつちゃ〜ん?分かる〜みたいな顔で見ないで〜。」
「別に嫉妬なんてしてませんけど??」
「その言い方はバリバリしてるでしょ。」
今日のかなうさんのツッコミのキレはかなり良いらしい。
漏れなく拾ってくれる。
「さて、どうしようか。」
実くんによって、いつの間にか完食されてるおにぎり。
作った側としてはとても気持ちが良いものだ。
「家出したと言っても、夜20時になったら
ログアウト通告来るだろ。」
「1日滞在許可申請してきたよ!」
そんな事もあろうかと、と言った様子で
実くんは滞在受理されたスマホの画面を見せた。
「親が騒ぎ立てて、大事にならなければ
良いけどな……。」
自分の子供を普段から自慢だと言い回っている親だ。
もし、実くんが今日1日家に帰らないってなったら
物凄く心配するかもしれない。
「そういえば、どうやって家出したんだ?」
かなうさんが実くんに、気になる質問をした。
「学校行くフリして公園のトイレからログインしたよ。」
おぉ…賢いと言うべきなのか、心配すべきなのか。
「スクールバッグどうした。」
「公園の茂みに穴掘ってて、そこに埋めた!」
「タイムカプセルかよ、おい。」
やっぱり今日のかなうさんは
一段とツッコミが冴えている。
穴を前々から掘ってたっていうことは、
家出の決行もかなり計画的だったのでは……?
「騒ぎになったらどうするつもりだ?
最悪な場合、二度と帰れなくなる可能性だってあるぞ。」
「そしたらずっとここに住む……!」
かなねぇとうつつねぇちゃんは、
その方法知ってるでしょ?
なんて可愛らしく笑う実くん。
その言葉を聞いて確信した。
あぁ、この子全部解っていて計画的に家出をした。
その覚悟がたまたま今日決まったから、ここに来たんだ。
彼は現実から逃げて幻想に来たわけじゃない。
現実での悩みを解決するために、幻想で生きると
覚悟してきたんだ。
ちゃんと自分と向き合っている。
「そうか。気持ちは分かった。」
今は感情的に行動した方がストレスも解消できる。
かなうさんはそう言って、今日はここに泊まれと
実くんを歓迎した。
「ただし、ベッドが足りない。
お子ちゃまは、人生の先輩を敬って
ソファで寝るんだな。」
どこから取り出したのか分からない
お花型のサングラスをかけて
体を反らしながら、ビシッと実くんを指さした。
「かなねぇ先輩!了解であります!」
「俺も先輩だ。」
「わっさん先輩!!」
さっきまでの重たい空気はどこへ行ったのやら。
「その調子だ。」
かなうさん、空気を変える魔法でも使ったのだろうか。
ガチめに使えそうで冗談にもならないや。
「へへっ!」
楽しそうな実くん。
今日は、賑やかな一日になりそうだなんて思いながら
2人と1匹のやり取りを微笑ましく眺めた。




