第48話〜闇の侵食〜
ライブハウスでの事件から2日が経った。
かなうさんはいつもと変わらない様子で
事務所で仕事をこなしていた。
いや。私には、そう振舞っているだけのように見えた。
時折、泣きそうになっては顔を隠し、
静かに鼻を啜っていた。
あの一件で、舞依さんは帰らぬ人となった。
そんな悲しみを表すかのように、空はどんよりとした
鈍色の雨空だった。
「かなうさん。これってゲームなんですよね。」
応急処置で、回復呪文を舞依さんにかけたけど
血が止まることは無かった。
「そうだよ。」
ゲームだとかなうさんは言う。
「じゃあなんで舞依さんは……。」
ゲームなら死ぬことなんてありえない。
「簡単な話だよ。誰かが"実銃"を撃ったんだ。」
実銃とこの世界の武器の銃って
何も違いは無いように思うけど…。
「怖いかもだけど、ちょっとそこに立って。」
かなうさんは、少し広いスペースに私を立たせた。
そして、立てかけていた剣を手に持ち
私に向かって振り落とそうと……
「ちょちょちょ!!!!待ってください!!!!
死にますって!!!!」
私は必死に止めた。
「大丈夫大丈夫。死なないし痛くないよ。」
そうは言っても、怖すぎる。
ホントにこの人いつも何するのか読めなくてヒヤヒヤする。
「身をもって解らせようと思ったのになぁ。
うつつちゃんのケチ〜〜!」
そんな口を尖らせて可愛く言っても、
言ってることが恐ろしい。
「要は、この世界で作ってる武器は人体に危害を
加えることが出来ないってこと。」
それなら、そう言ってくれれば良いのに……。
「人は武器を手にすると強くなった"気"になる。
その気が人によっては思わぬ方向に転ぶ事もある。
例えば……戦争とかね。」
かなうさんは剣を元の場所へと戻した。
「人は賢い生き物だからちょっとした考えのズレから
争いを生むことがある。
そんな状態の時に、武器を手にしてたらどうだろう?」
「人によっては危害を加えたり、
上に立とうとしますね……。」
この世界が平和なのってもしかして……
「人同士の争いを生まないために、武器は対魔物用に?」
「そう!うつつちゃん大正解。」
なるほど……そしたら実銃はどこから……?
「ここからは私の憶測で話すから鵜呑みにしないでね。」
かなうさんは、自分のデスクの席に座り
1つのファイルを手にした。
そのファイルの表紙には、
2500.6.7ライブハウス事件簿とタイトルが書かれている。
「今回、命を狙われていたのはステージ上に立っていた
彼女達ではなく……"私"だった。」
舞依さんは、かなうさんに覆い被さるように
ステージから飛び降りた。
そして、「キミを守れてよかった」と
ハッキリ言っていたのを、私もこの耳で聞いた。
「舞依ちゃんが倒れたあと、不審な人物が居ないか
米丸と紫雨に協力して貰ってライブハウスを
捜索させた。」
かなうさんが冷静に指示を出していたのを覚えている。
それで、私は回復呪文を。
まだ幼い実くんにとっては衝撃過ぎる事件だったから
まゆりさんが実くんを連れて会場を離れた。
グラさんとわっさんは、ステージ上で呆然としている
愛依さんのメンタルケア。
虎太郎は、かなうさんの指示で
舞依さんの"匂いを嗅いでいた"。
天科さんは、救急の手配をしてくれていた。
「そしたら、犯人を捕まえたんだよ。20後半の男。」
米丸さん達捕まえたんだ……!
めちゃくちゃお手柄なのでは。
「けど、色々白状させる前にソイツは自害した。」
「え。」
そしたら……何も分からないままってこと……?
「まぁまぁ。うちには優秀なスキルを持ってる子がいてね。それが……あの"虎太郎"なんだけど。」
「虎太郎が…?!」
あの可愛い虎の子が?!
「正直いつ使うんだよってスキルだったんだけど……。
今回は役に立った。強き記憶」
死者の匂いを嗅ぐことで
死者の1番思い入れが強い記憶を映し出す
虎太郎の固有スキルだという。
もちろん、魔物にも使えるらしいが
魔物の場合は、大体が死と同時に消滅してしまうため
ほぼ不可能らしい。
舞依さんの匂いも嗅いでいたということは……
あの時、彼女の記憶の一部を虎太郎は見ていたのかな。
「それで男の死体を嗅がせたところ
1番強く出てきたのが、舞依がステージの上で
歌って踊る姿だったんだよ。」
「かなうさんを撃った犯人は、
舞依さんの"ファン"だったってことですか……?」
なんだか、胸が苦しくなった。
「舞依ちゃんの私に対しての様子見ただろ?
恋する乙女の目だったよ。私の事勘違いしてるのは
少し可哀想に思ったけど、変に言って
パフォーマンスのモチベを下げるのもね……。」
やっぱり、かなうさんなりの気遣いだったんだ。
「推してるアイドルが、
自分以外の人に目を向けていたらどう思う?」
「そりゃもう嫉妬心でメラメラですよ。」
男の動機はそれだとかなうさんは言った。
「けど、問題はその動機じゃないんだよ。」
「確か、このゲーム内に持ち込めるのって
着ている服と自分のスマホだけですよね……?」
実銃はどこから来たのか。
そこが謎だった。
「彼は、私を殺すための駒に過ぎなかった。
つまり、別の人物が自分の手は汚さずに動かしたんだ。」
そんなことが出来る人物って、運営とか
相当偉い人なのでは……?
「かなうさん、これって本当にゲームなんですか…?」
私はまた彼女に同じ質問をした。
どうしてもこの疑問は拭えない。
ここでの平和な生活を過ごしているせいなのか。
それとも、少しずつ見えない闇に
侵食されている気がするからなのか。
「前にもうつつに言ったけど……
それは、自分の目で確かめなきゃね。」
やっぱり答えてくれないんだ……。
「午後からここに愛依ちゃんが来る。
まずは、彼女から受けている依頼と向き合おうか。」
パタンとかなうさんはファイルを閉じた。
愛依さんも気分的に依頼どころでは無いと思うけど……。
それでも向き合わなきゃいけないと言うのなら、
私も彼女にしっかり向き合って、力になりたいと思った。




