第43話〜衝撃〜
かなう視点です
ジェラート屋に入っていく彼女を遠くから見送った後
私は地下エレベーターへ乗った。
そして、手に持っていたチケットを見た。
自作なのだろうか。
今時、ライブのチケットは電子化してるのに。
イラストもなく、白い紙に手書きの黒い文字だけ。
映画のチケット並にシンプルなデザインだった。
その分、活動に対する熱意や思いは透けて見えた。
「双子アイドル【曖昧ME】 ね……。」
凄く元気な子だったな。
ビジュアルが良いだけに少しパンチが弱いというか
私ならもっと上手くプロデュース出来るのにな。
彼女達の人生に足を踏み入れる
資格なんてないのに余計なことを考える。
でも、折角の縁だ。
明日は予定もないし、私の周りの連中だって暇だろう。
AYAKASHIの奴らと探偵事務所の人達に連絡を入れた。
[明日、夕方17時に4区のThoth Noteに集合]っと…
「わ、みんな返信はぇ〜〜。」
しかも、返信の大半が同じ内容なんだけど……。
デート?って、かなうちゃんモテモテね。
とりあえず、来ればわかると送っておいた。
ウィィーン__
静かに動くエレベーター。
次の行先は、15区にある【アストラニア・アカデミー】
私の母校でもある。
アストラニア・アカデミーは週に2回しか開校していない。
火曜日と土曜日だ。
魔法の知識や武器の使い方、経営の仕方も学べたりする。
金さえあれば誰でも通えて1年で習得し卒業できる
超短期学校である。
大体の人は報酬アップのために通ってるよね。
しかし、アカデミー関係者以外の人は
開校時にしか入れない。
本当は今日行く予定はなかったけど、
さっきのマチコおばちゃんの話を聞いて
私は、"ある人物"に会いに行きたいと思った。
今日がたまたま土曜日でよかった……。
アカデミーは私が拠点にしている2区のアトリエからは
物凄く遠い。
蘭の所の14区にしかり、リブリー・マージュ内が広すぎて
行くってだけで気力が奪われるよねぇ…。
あぁ、私も霧香みたいに引き篭りたくなってきた。
そんなことを考えているうちに、エレベーター上部には
【15区・アカデミー前 到着】の表示が出た。
♢15区・アストラニア・アカデミー__
扉が開き、目の前には巨大な建物。
本校舎の中央上部にある球体がとても印象的で、
私もここに通っていたんだなと懐かしい気持ちになる。
「…誰あの人?」
「知らない。けど、ビジュ良くね?」
授業も終わったのだろうか。
校舎から出てくる指定の制服を着た人達とすれ違いに
ヒソヒソと話のネタにされる。
こんな規律に則って制服着ている集団の周りじゃ
私の着ているコートの装飾はかなり目立つもんね…。
「チッ…。」
タイミングが悪かったな……。
「幽霞の主」
私は、虫の羽音くらい小さな声で呪文を唱えた。
自分から注意を逸らす魔法……
いわゆる透明魔法みたいなもの。
「そういえば、昨日のファントムTV観た?」
「みたみた!"花邑みらい"可愛すぎたんですけど!!」
生徒達が日常会話に戻ったことで、
自分がかけた魔法が効いている事が分かる。
花邑みらいね……。
確か、S.D.Dのマスターも推してて
お店にポスター飾ってあったよなぁ。
舞依ちゃんにとっては今後
目指す存在であり、ライバルになるだろうね。
無事に校舎へ入れた私は、魔法薬研究室へと向かう。
「……なんか焦げ臭い……?」
研究室が近くなるにつれて、匂いが濃くなっていく。
ドゴォォン__
「天科先生?!」
とんでもない衝撃音を聞いた私は、
急いで研究室の扉を開けて、先生の名前を呼んだ。
「やぁ、久しぶりだね…かなうさん。
へへ、失敗しちゃった。」
机の下から、少し汚れた顔を覗かせた先生。
実験用のゴーグルにはヒビが入ってしまっている。
「何やってんすか。」
私は先生の近くへ行き、机の下から引っ張り出す。
「ちょっと、癒神露の資材が集まったから
調合をしようと思ったらね……。」
癒神露とは、
ギフテッドパウダー・緑の幸運卵・雷龍の涙などの
レア資材7種類から作る高級回復薬。
蘇りの薬だとか、不老の薬なんても言われている。
傷を治す程度の回復薬が1000円だとしたら
高級回復薬は、市場価格1億はするだろうな。
「調合失敗したにしても、資材よく集めましたね。」
「伊達に遊んでないからね。」
男にしては長く綺麗な白髪のポニーテールを靡かせ、
汚れた白衣を着ているこの人は、私の師。
ここのアカデミーの先生でもある天科智教授だ。
年齢は分からないけど、その見た目から
私とさほど変わらない気がする。
「それにしても、珍しいんじゃない?
ここに来るなんて。何年ぶり?」
「卒業以来だから、2とか?」
大体そのくらいな気がする。
先生が、どうしたのと要件を尋ねた。
「天科先生って、
このゲーム詳しかったよなぁって思って。」
私も初期からやっているが、
知らないこともまだ沢山ある。
それくらいやり込み要素というか……
永遠に2048をプレイしている感覚で、
ユーザーの数だけ何万通りもののドラマや裏がある。
「幻装祭はもちろん知ってますよね?」
「うん。このゲームの一番のお祭りだね。」
天科先生はゴーグルを外し、タオルで汚れた顔を拭いた。
「今年、運営として参加したいと思ってるんですよね。
でも、誰に言えば良いのか分からなくて。」
マチコおばちゃんから貰った動画を見て思った。
幻装祭やギルド対抗戦は、言わば
ユーザーではなく運営がゲームを盛り上げるために
作りあげたイベント。
つまりそこには、ファントム・ストーリーの
真の目的を計画している"黒幕"が居ると
目星が付いている。
「基本、集会所の役員とアカデミーが主体で動いてるね。
僕から手続きしてあげようか?」
「そうだったんですね!ぜひ、お願いしたいです。」
私は、先生に両手を差し出した。
「うん、任せて。7月のギルド対抗戦の後には
本格的に動くと思うから、追って連絡するね。」
先生も両手を出し、私達は握手を交わす。
「先生、マジ神。この流れで年齢も聞けたりして〜。」
「あれ?言ってなかったけ、僕49だよ。」
え?え?え?
「来年は50だね。」
なんてにこにこと照れ臭そうに笑っている先生。
「嘘でしょ……。若すぎ……。」
「ふふふ。」
人は見かけによらないって本当だったんだね……。
今年一番の衝撃だったかもしれない。
「たまにタメ口聞いてすんませんでしたぁぁぁ!!!」
やっぱり、先生には敵わないなんて思った。




