第12話〜二日目の選択〜
ジリリリリガンガンシャンシャンシャンシャン__
「うるせぇ……。」
かなうさんの拠点で暮らすことになった私。
この大量のアラームをどうにか出来ないものかと、
寝ぼけた頭で考えていた。
スマホで時間を見たら朝の9時だった__
普段7時前には起きている私からしたら
2時間の差は大きく感じた。
「ぐっすりだったんだ……。」
今まで眠りが浅く、睡眠薬が手放せなかった私生活。
この2日間、アラームの音を聞くまで
目が覚めなかったという事実にも驚きである。
ある意味、最高の目覚ましなのかも……?
私は顔を洗おうと、起き上がり洗面所へと向かった。
「やっぱり冷たい……。」
どういう仕組みなのだろう。
昨日の歓迎会でのご飯もそうだけど、
あまりにも感覚が現実と似すぎていて
現実とゲームの境目が分からなくなっている。
かなうさんは3年住んでるって言ってたけど
どうなんだろう?慣れるものなのかな……?
私は顔を拭いて、
昨日の夜に全自動洗濯機へ入れて置いた
自分とかなうさんの衣装を取り出した。
今では服と洗剤を入れてボタン一つ押すだけで
洗濯機に搭載されているAIが、衣装のタグから
洗濯方法を算出し、衣装に合った洗濯方法から乾燥、
更には除菌と抗菌にシワ取りや毛玉取りまでしてくれる。
私が産まれる前は、
手洗いをしていた時代もあったみたいだけど……
それを考えると人類の技術って
かなり成長しているんだなって感慨深くなった。
「おはよう。うつつは早起きだな。」
洗濯物を持ってリビングへの扉を開けると、
そこにはかなうさんではなく……
渋い声の犬型魔物__わっさんがいた。
「おはようございます。かなうさんは……?」
「二日酔いで潰れてる。」
昨日沢山呑んでたもんな……。
嘔吐はなかったけど、あの後起き上がった紫雨さんと
至近距離で話すほどベロベロに酔っていた…。
その様子を見たまゆりさんが嫉妬して、
ゲームログアウト通知が来た実くんを連れて
帰ってしまい、歓迎会はお開きに……。
実くんは未成年だからゲームのシステム上、
安全のために20時を過ぎると強制的に
ログアウトさせられるみたい。
「かなうは2日目に吐いたりする。
今日はそっとして置くのがベストだ。」
「そうなんですね…。」
今度かなうさんがお酒を呑む時は、ちゃんと見てなきゃ。
しっかり者に見えて、危なっかしい…。
「今日は、家でゆっくりだね。」
私はかなうさんの洗濯物を畳み、
彼女の部屋の前に置いた。
「いや、俺がこの街を案内しよう。」
「わっさんが?」
「ああ。お腹も空くだろう?」
「それ、わっさんがご飯食べたいだけじゃ…?」
ギクリと冷や汗を垂らすわっさん。
「分かりました。着替えてきますね。」
使わせてもらっている部屋で着替えようと、
自分の衣装を手に持った。
「け、決して…飯のためではないからな…!
うつつがこの街に馴染むための一歩として
誘っているだけだ!」
分かりやすく、少し早口に弁明するわっさん。
「分かってますって。
すぐ着替えるんで待っててくださいね。」
昨日のマスターの料理が美味しかったから、
私もご飯については凄く興味がある。
今日はどんなものが食べれるのか__
ワクワクしているのもまた事実である。
部屋の扉を閉め、私はかなうさんから借りた
自分には少し大きいパジャマを脱いで、
あの緑色のワンピース衣装へと着替える。
「これを着るとなんだか気持ちが引き締まるな…。」
そういえば、子供の頃
こういう魔法少女とかメイドのような服への
憧れもあった記憶がある。
まさか自分が……
なんて気持ちの反面、嬉しい気持ちもある。
ガチャ__
「お待たせしました。」
着替えが終わり、扉を開けて
わっさんがいるリビングへと戻った。
「おう。スマホも持ったか?
それが無いと買い物とかできないからな。」
「はい!バッチリ!」
この街の通貨、Wealthはクエスト討伐や
お店のアルバイトで得られる。
そしてWealthの大きな特徴と言えば、
電子マネーという点だ。
昨日、華毒蜘蛛を倒した報酬の通貨は
集会所で変換してもらった。
結構な量を稼いでいたらしく、
円に置き換えると3万円ほど。
日給3万円……私にとってはかなりデカイ。
「これは家の鍵だ。」
わっさんがこの家の鍵を口に咥えて持ってきた。
咥えたせいで、ヨダレが付いてちょっとヌメってる……。
場所を教えてくれれば自分で取ったのに…。
「2階の玄関と、ショップの入り口と共通で使えるから
1本持っておくといい。」
「うん、ありがとう。」
私は、ヌメリをティッシュで拭き取りスマホと一緒に
ワンピースのポケットへしまった。
ウエストポーチみたいな小さいカバン欲しいな。
出かけるついでに探してみよう。
「あ、そうだ。」
私は、テーブルに置いてあった紙とペンを借りた。
スラスラと文字を書いていく。
「これで、よし。」
一応、わっさんと出かけてくることを
リビングのテーブルの上に置き手紙として残しておいた。
起きて、私もわっさんも居なかったら
昨日みたいに心配するだろうしね……。
私は玄関へと向かい、靴を履いた。
「それじゃあ行くか。俺に着いてきて欲しい。」
そう言ってわっさんは、
まだ開いていない玄関の扉に向かって歩きだし
__ぶつかった。
「俺、ダメだ…………。」
えええぇぇぇ?!
ば、馬鹿なのか??この魔物は……
犬も歩けば棒に当たるとかいうけど、
そのレベルを遥かに超えている。
扉見えてたよね……?
「と、扉は私が開けるよ…。あと、抱っこするから…
道だけ教えて欲しい…かも。」
それがいい。
いや、それしか方法は無いと思った。
気を取り直し、少し涙目になっている
わっさんを抱っこして扉を開ける。
2階と1階の鍵を閉めて外に出ると、
気持ちの良い青空が広がっていた。
この西洋風な建物の街並みと、よくマッチしている。
「星空も綺麗だったけど、青空もいいね。」
「そうだろう?より街が見える場所に案内する。」
わっさんは、右に進んで欲しいと道案内を開始した。
かなうさんが居ない中での探索は不安だけど、
わっさんが居るから昨日とは違う。
まゆりさんが言っていた、心の支えるペットという意味も
少し理解できた気がする。
私は街の景色を楽しみながら、
わっさんの案内通りに進んで行った。




