第101話〜石橋を叩いて渡るような策を〜
天川銀河の効果が切れ、
モヤモヤとした思考を頭の中に残したまま
私は海豹雪玉と向き合った。
今は訓練中……私の事はあとでも考えられる。
集中しなきゃ……。
「あの……!」
霧香さんが声を上げた。
「私、ちょっとやってみたいことがありまして……
協力して貰えないでしょうか……?」
その提案は、今まで受け身だった霧香さんが
殻を破るような瞬間だった。
彼女もまた成長の途中なんだ……
私も俯いてばかりはいられない。
霧香さんの提案に耳を傾けた。
「この魔物って弾力があって、攻撃が通らないから
物凄く絶望的だなと思ってたんですが……」
それは全員が感じていたこと。
霧香さんは皆よりも1歩後ろに下がりながら、
魔物を分析していたことがその一言で分かった。
周りが魔物に対して試し撃ちをしていたところ
何が効くか分からないから無駄に魔力を消費しないように
あえて何も攻撃していなかったんだ。
「あの……鏡餅ってあるじゃないですか。」
お正月に飾るあれの事だろうか?
「よく考えたら、あれって元々水分を含んだ弾力ある餅が
数日飾って置くことで水分が蒸発し、乾燥して
カチカチになるんですよね。」
その原理は紙粘土と似ていると。
霧香さんは、これからやりたいことの理屈を埋めるように
鏡餅についての話を始めた。
「そして、鏡開きの日に固まった餅を
木槌や手で割るんです。」
固まった餅を木槌で割るとどうなるか……。
それは、細かく分けられ粉々になる。
「これって攻撃にも置き換えれませんか……?」
決してふざけた話ではないと霧香さんは真剣に話した。
「つまり……海豹雪玉を魔法で固化して
粉砕するってことですね?」
霧香さんの提案を理解した愛依さんが、
話を簡潔にまとめた。
「なるほど……けど、あんなデケー奴をどうやって
固めるんすか?」
餅みたいだけど、海豹雪玉自体は
餅ではないから乾燥魔法も無意味ではないかと
米丸さんは言う。
確かにその通りである。
「血を抜くとか?」
「うつつさん物騒っ!!!」
血を抜けば固めるのもいくらか楽になるかと思ったが……
物騒だと愛依さんにツッコまれてしまった。
「多分本物の魔物だったらいけなくもないと思いますが…
目の前の海豹雪玉はコンピュータ同然なので
血を抜く方法は不適切かと……。」
魔物の気性や個体の性質などは
本物を忠実に再現しているらしいが、
流石に血液や内臓までは再現されていないと言う。
というか、仮想物体だから出来ないらしい。
まぁ……そうだよね……。
「固める魔法ならいくらでもあるかと。」
乾燥魔法の他にも石化魔法や氷魔法などでも
魔物を一時的に固められると愛依さんは言った。
「さっきまでの話を聞いた感じ、
うつつさんは攻撃魔法が使えないみたいっすから
柔軟に考えないといけないっすね。」
攻撃魔法でなくても、攻撃に繋がる魔法だって沢山あると
一緒に考えてくれる米丸さん。
「……ありがとうございます。」
「いいっすよ。チームなんすから。」
チーム……。
足を引っ張らないように、私も頑張らなきゃ。
借りた魔法書を開き、私はページを捲った。
「……さっき、石化魔法があるって言ってましたよね。」
ページを捲っていた私の手がピタリと止まった。
開いてるそれは丁度、石化魔法"化石硬化"のページ。
「え?ありますが……海豹雪玉を石化した後
それを粉砕する方が大変ですよ?」
石なので、多分このモチモチの体よりも
攻撃を通さなくなると愛依さんは言う。
けど、違う。そうじゃない。
私が思い付いたのは……
「私が石になるんですよ。」
自らを石化させることだった。
「実は餅つきって、餅をつき過ぎると
餅が形を保てなくなって液状化するんです。」
私がいた施設は、季節の行事をよくやっていた。
それは寮母の恵子さんが
"子供達の笑顔を見るのが好き"という理由と、
"行事を通して沢山の経験を積んで欲しい"という
思いがあったからだ。
餅つき大会なんてのも、お正月の準備で
もちろんやったことがあった。
「もっとつきたい!」
と駄々をこねる私よりも小さな子に
恵子さんは
「これ以上つくと、お餅の形が崩れるんだよ。
美味しくなくなってしまうし、何事も程々が1番だよ。」
と答えていた。
出来たお餅を台所へ運ぶ恵子さんの手伝いをしながら
その詳しい話を聞いていたのを、私は思い出した。
「魔物って液状化したらどうなりますか……?」
魔物については私にも分からない知識である。
詳しそうな米丸さんと愛依さんに聞いた。
「私は見たことがないですね。」
「うーん、俺も微妙かも。
大体の魔物は原型が崩れるとその姿も消えるから……
魔物が液状化するまで戦ったことは無いっすね。」
ということは……希望は低いけど……
「やってみる価値はあります。」
愛依さんが、青い左目を光らせた。
「餅つき作戦ですね!」
霧香さんは、杵でペッタンと餅をつくような動きをした。
「いや、でもちょっと待ってくださいっす。」
米丸さんは待って欲しいと声をかけた。
「海豹雪玉が液状化するまで何回つけば良いんすか?
石化した後は数分動けねぇっすから、それを魔法で
持ち上げるのにも回数制限で厳しいっすよ。」
それは、正しくこの作戦の穴であった。
全員の魔法を合わせても残り使えるのは31回。
そこから石化魔法を除いて30回。
たったの30回であの巨大海豹が液状化するとは
考えにくいものである。
「霧香さんの鏡開き案みたく海豹雪玉も固めて、
ドカンと会心の一撃を食らわす方がきっと良いっすよ。」
液状化させるよりも砕く方が確実で
魔力の制限内に倒せる可能性があると米丸さんは言った。
そこまで考えられていなかった自分の提案。
決して比べられて悔しいとかではない。
「そう……ですね……。」
自分の頭の回らなさに絶望している。
……そうだ、これはチームでやっているんだ。
石化した私を誰が持ち上げる?
石化した後の私はどうなる?
私は、自分のことしか考えていなかった。




