第99話〜スタートラインにも立てていない〜
かなう視点です
急いで雛の作った弁当をかきこんだ私は、
午後の訓練の準備を始めた。
もっとゆっくり味わいたかったな……
なんて思いながらも、雛から受けとっていた
リボンの形をした魔装具を皆に渡した。
「かなうさん、これは……?」
緑色のリボンを受け取ったうつつが聞いた。
「簡易的な魔装具だよ。」
この前うつつが買ってきた魔装具よりも、
効果の持続が小さいもの。
10回ほど魔法を使えば消滅していまう脆いものだ。
それをうつつの他に霧香と米丸、愛依ちゃんへと渡した。
「午後は魔法の訓練!雛とかなうちゃま2人で、
4人を指導しゅるでちよ!」
熱血教官のように、雛はうつつ達へ向かって
ビシッと人差し指を差し出した。
続けて私も、「説明しよう!」と
これからやる訓練のルールを皆に説明した。
「このリボンの魔装具は、試作段階のもので
魔法を10回ほど使うと消滅する。」
私はシステムコンピュータを使い、魔物を召喚した。
ウィーン__
現れた巨大な餅のようなアザラシの魔物
海豹雪玉
「でっか……!!」
「ぷにぷにお餅ですね……!」
天井にも届くほどの大きさの海豹雪玉に驚くうつつと
可愛いとぷにぷにつついてる霧香。
「今から、キミ達で協力して海豹雪玉を倒してもらう。」
こいつは、その餅のようなボディを生かした防御が特徴。
攻撃はしてこないが、倒すのには一苦労する。
魔物の中でも3本指に入る程の防御力の持ち主だ。
「ただし、基礎魔法"のみ"で戦ってもらう。」
この制限で一気にハードルが上がる。
ここで、いかに基礎魔法を覚えられているかが
重要になってくる。
「え、技魔法ダメっすか?」
「ダメだ。」
基礎だけじゃ倒せないと嘆く米丸。
まぁその気持ちはわかる……。
普通に基本魔法を唱えただけではこの魔物は倒せない。
おまけに、1人10回までしか魔法が使えないという
2つ目の制限付き。
「タイムリミットは120分。」
制限は厳しいが、4人で協力すれば倒せないこともない。
私がこの訓練で見たいのは、
米丸や愛依ちゃんのような魔法が使えるものに対しては
答えを導くためのリーダーシップ性
うつつや霧香のような基礎魔法初心者に対しては
化学のような爆発的アイディアを生み出す想像性
そして、トータルして4人で倒すという協調性も
この訓練のポイントになってくる。
これを今試すことで、私もギルド対抗戦へ向けて
メンバー同士の動きや組み合わせを練ることが出来る。
「倒すためのヒントが欲しくなったら雛を頼ってくれ。」
魔法に関しては私よりも雛の方がプロだと
雛を讃えた私は、その場を去り
部屋の端の方でうつつ達の観察を始めた。
近くにいても気が散るだろうしね……。
「それじゃあ頑張るでちー!」
雛の掛け声で始まる、魔法訓練。
しかし、全員性格的に陰の気質。
我先に!というタイプが居ないせいで、
中々会話に手こずっているようだ。
あれだね。
体術の時みたいに1対1だと話せるけど、複数人になると
周りを伺って急に喋れなくなるやつね……。
こういうのって、やけに静かな空気に敏感になるというか
時計の秒針とか風の音とか、普段なら気にしない音が
聞こうとしなくても耳に響いてくるんだよなぁ。
それが逆に焦りとなり
人は、静か過ぎる空気に耐えられなくなる。
「どうしますか?」
最初に耐えられなくなった米丸の一言で空気が変わった。
彼は、この場で唯一の男だから余計に気になるだろう。
「がぅ……。」
私の隣に来ていた虎太郎もまた飼い主の様子を
心配そうに見ていた。
飼い主想いで可愛らしいこと。
それに比べて……
「ぐごごご…ずびっ……。」
うちの犬はなんてマヌケなんだ……。
私の相棒"わっさん"は、飯食った後で眠くなったのか
ヨダレを垂らしながら呑気に昼寝をしている。
ペットは飼い主に似ると聞いた事があるけど、
そんなこと……断じてないはず。ああ、そんなことない。
「えっと……私、基礎魔法覚えてる途中であまり……。」
「自分も……はい。」
無言の10秒間
米丸が変えようとした空気も虚しく、
魔法初心者の2人の言葉でまた元に戻ってしまった。
「見ててムカムカするなこれ……。」
「ぅうが!」
遠くで見ていた私も思わず呟く。
会話続かなすぎだろうがよ。
天気いいですねとか趣味はなんですかとか
魔法関係なくてもいいから適当に
コミュニケーションとってくれよ……!!
この訓練をやらせてる私が1番、
気持ち的に辛くなってきたぞ。
「ひとまず、効きそうな基礎魔法を
各自5発ずつ撃ってみますか?」
遠くから送っていた私の念が伝わったのか、
愛依ちゃんが空気を読むように1つ提案を出した。
良いぞ、その調子……!!
「5個も覚えてたかな……。」
「今頭ん中の魔法書をめっちゃ読み漁ってます。」
あぁ……なんてこった。
コントでも見ているのだろうか、私は。
「あの……本貸しましょうか……?」
愛依ちゃんが、持ってきていた魔法書をうつつに渡す。
そこからなのね……。
私はメモに [うつつと霧香→基礎魔法要勉強] と
書き込んだ。
「うわ!サイン書いてある!」
なんでうつつは背表紙の内側見てるんだよ
……って
「んふふ〜。」
どうやら愛依ちゃんが自慢してたようだ。
嬉しいけども……!
キミ達、魔法の訓練中よ……。
皆からは死角になっていて見えないが、雛の手には
フリフリのレースがついた扇子が握られている。
私がここから声を張って注意をしなくても、
雛が何とかしてくれそうで安心した。
しかし、提案は出たものの
戦闘はいつ始まるのだろうか……?
プワァァァ__
待たされている海豹雪玉も
退屈そうに大きな欠伸を漏らした。




