表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザマァされた悪役令嬢の、Re:Re:リスタート  作者: 遥彼方
Re:Re:リスタート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/95

88 終息と収束

完結時にはなかった、『87 全部認めて』の続きを差し込みました。

二度目の婚約破棄に向けて、もう二、三話差し込む予定です。

 どうしたいのか祈れと神に言われ、イザベラは口を開いた。


「私は」


 自分がどうしたいのか。そんなもの、最初から決まっている。

 幸せになりたい。ただ、それだけだ。


 イザベラは、祈った。自分の魂を賭けて祈った。


「私は大切な人の幸せを。皆の幸せを願ってる」


――ああ、愛し子。己のためではなく、人のために祈る。なんて美しく清らかな祈りでしょう。それでこそ、聖女です――


 確かにそうだ。他人のために祈る行為は、美しく感じるかもしれない。


「だから私が祈るのは、全てを認めて全てが元通りに存在することよ」


 祈りは光となり、イザベラから放たれる。結界に阻まれていたアメリアを、セスと剣を合わせるジェームスを、祈りの光が包んだ。


 白く眩い光が満ちる光景。それは現に美しい。眩しすぎて、色々なものが見えないけれど。


 イザベラは両手を広げた。


「だって私は、幸せになりたい。そのためには、皆が幸せじゃなきゃ嫌なの。気持ち悪いの。心から笑えないの」


『聖女とは。己自身をも犠牲にするほどの祈りと、それほどの祈りを捧げられる純粋で美しい魂の持ち主。私の声を聞き、私の力を受け入れ、振るうことの出来る器を持ち、私と契約を交わした者』


 エミリーの口を借りて、神はそう言っていた。神の基準での『純粋で美しい魂』と器、契約の条件は満たしている。イザベラはそれを利用する。利用して、神の力を、聖女の力を使う。使った上で、望んだ。


「私は、欲しいものはみんな欲しい。私の幸せも、皆の幸せも、全部全部、手に入れたいの」


 ――愛し子?――


 異変を感じたのか、神の声に訝し気な響きが混じった。


 他人のための自己犠牲とは、神の言うように純粋で美しいものなのだろうか。イザベラはそうは思わない。少なくともイザベラ自身は、違う。


「他人の幸せのために祈るのは、本当は他人のためなんかじゃない。全部自分のため。他人に幸せになってほしい、幸せな姿を見て自分が幸せになりたいっていう、自分の欲望よ」


 他人の幸せがほしいという欲のために自分を捧げる。それは、魔王に魂を捧げる人間‥‥‥魔王の器と何も違わない。美しい言葉で飾っても、エゴでしかないのだ。だって自分を犠牲にしたら、他人が悲しむ。絶望する。前のセスがイザベラを庇って死んでしまった時のように。


――そんな、まさか。違います。違う。貴女は聖女なのです。純粋で美しい、私の愛し子――


 魔王を倒す方法は二つ。ジェームスを勇者のセスが殺すか、祈りの力でジェームスの中の魔王を消すか。どちらの方法でも本当の意味で消滅させることは出来ないが、数百年は平和が訪れる。

 その代わり、前者はジェームスが死ぬ。後者は祈りの力だけでなく魔石の力まで使ってみたが、不完全な器のせいかノイズと黒い影を薄めただけ。消せなかった。


「そのまさかよ。さあ、魔王。欲望は好きでしょう? 私は誰よりも強欲よ! だから、私の中に来なさい!」


 殺すことも消すことも出来ないなら、自分の中に取り込んで封印してやる。


「ザザ‥‥‥やめろ、そんな欲はいらない。私が望むのは、もっとどろどろと暗く、深い絶望ォおおおおォォァザザザザザァアアアッッ!」


 セスと戦っていたジェームスが悶え、黒い影が引き剝がされると、イザベラに吸い込まれた。


「お嬢様っ!!」

「嫌でございますです」

「いけません、なんということを」

「イザベラ嬢」

「イザベラッ!」


 白い光が満ちる中。セスが、膝を着いたジェームスを放って駆けてくる。エミリーが、ジェイダが、エヴァンが、トレバーが、悲鳴を上げた。


 ――違う違う違う! 真っ白な私の聖女が、汚物を受け入れるなんて。ああ、純粋さが、美しさが、ああああぁ――


「うるさい!」


 イザベラの中で、神と魔王の力が暴れて相殺し合う。荒れ狂い、暴走しそうなそれをイザベラは必死に抑え込もうと踏ん張った。

 神と魔王を内に取り込むのは、思ったよりも苦しかったけれど。大丈夫だ。幸い、神と削り合っている分、魔王の力は弱っている。勝算はある。


「ザザッ‥‥‥魔王様! させるか、聖女ぉぉおオオオッ‥‥‥ザザザザアアッ!」


 アメリアから黒い影が立ち上り、離れた。モンスターになっていた人々からも。それらがイザベラに向かってきた。


「お嬢様‥‥‥イザベラ!」

「セス!」


 駆けてきたセスが、飛びつくようにイザベラを抱きしめる。イザベラも抱き締め返す。

 温もりに包まれて、こんな時なのに安堵する。


「大丈夫です。俺が今度こそ守ります」


 顔を強張らせたイザベラを、息が出来ないほど強く抱きしめてから、セスが体を離した。


「聞け、魔王!」


 イザベラの中の魔王に向かって、セスが声を張り上げる。


「何度も何度も彼女を殺しやがって。俺から奪いやがって。俺はお前が憎い。彼女に犠牲を強いる神が憎い。世界が憎い!」


 目の前の青い目が、炎を吹いた。暗い憎しみの炎を。


「……駄目」

「世界は優しくない。汚い奴らばかりだ。毎日毎日ひもじくて、冷たくて、暗くて。光りなんてなかった。希望なんてなかった」

「セス……!」


 イザベラが拾う前、セス母子はガリガリに痩せて、衰弱していた。屋敷に連れ帰って治療した医師から、二人の体に新旧いくつものあざがあったと聞いた。

 二人がどんな扱いを受けていたか。セスは話したがらなかったが、想像に難くない。体の傷が癒えても、大きな傷と暗闇を心に抱えたままだったのだ。


「正真正銘、お前の好きな絶望と憎しみだ。来い!」

「駄目。駄目よ、セス!」


 イザベラの制止を無視して、セスが叫ぶ。あちこちから向かってきた黒い影と、イザベラから出ていった黒い影がセスに吸い込まれた。


 ――ザザザザ……いいぞ、これだ。この憎しみだ。絶望だ。ははははは!……ザザザ――


「ぐうぅぅっ……ザザザ」


 黒い影に纏わりつかれたセスの顔が歪む。うめき声にノイズが混じった。


「セス!」


 イザベラの中には神がいるから、魔王を抑えられるという見込みがあった。けれどセスには何もない。


「……ザザッ……お嬢様……ザザザザッ」


 堪らず伸ばしたイザベラの手を、セスが握った。苦悶の表情をゆるめ、微笑む。

 大好きな微笑み。イザベラがどんなに我が儘を言っても、当たり散らしても。死の瞬間でさえ笑ってくれていた。


「……ザザ……お嬢様は光なんです。汚い世界の唯一の光。俺の希望。俺の光。魔王なんかにやるものか」


 微笑むセスの顔が、涙でぼやけた。


「好きです。愛しています。今も昔も、俺は君だけに命を賭ける。魂を捧げる。神だろうが魔王だろうが、やらない。俺はイザベラのものです」

「本当に?」

「はい」

「勢いとか、気の迷いじゃなくて?」

「十年以上ずっと好きだったんですよ。覚えてはないけど、前世とか合わせたら何百年。勢いや気の迷いなわけないじゃないですか」

「セスぅぅう」


 目尻でゆるゆると大きくなっていた涙が決壊する。


「私、セスがいなくちゃ幸せじゃないの。セスが好きなの。大好きなの。ずっとずっと好きだったの。セスがいなきゃ嫌ぁ!」


 一度溢れてしまえば、想いも涙も止まらくなった。気持ちと顔面もぐしゃぐしゃで、自分でも何がなんだか分からない。


「イザベラ。願って下さい。俺に。俺だけに」


セスの手を握り返し、祈りの力を注ぐ。震えて、詰まりそうになる喉を使って、願った。


「お願い。魔王なんかに負けないで」

「はい……もちろんです。俺は勇者なんですから」


 弾けるように笑ったセスが、腕を天に向けて。


破壊ディストラクション


 大規模攻撃魔法を放った。

 最初は王城の天井が吹き飛んだ。次に壁、床へと破壊が連鎖する。

 足元は崩れ、轟音と共に大小の破片が飛び散った。この場にいる全員が重傷や即死に見舞われる魔法を、魔王を取り込んだセスが放ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ