表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザマァされた悪役令嬢の、Re:Re:リスタート  作者: 遥彼方
Re:Re:リスタート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/95

82 足りないのなら

 アメリア、リアン、ジェームス。三人……といっていいのかは知らないが、便宜上そう呼ぶことにした三人の攻撃を捌きながら、セスは状況を好転させる機会を探っていた。


 さきほどから、アメリアの爪をかいくぐればリアンの攻撃が。リアンの攻撃を捌けばジェームスの攻撃がくる。剣だけでなく足技や体術も駆使して躱し、反撃してはいるが膠着状態だ。

 何度もアメリアの爪やリアンの拳を受け、床はボロボロ。足場も悪い。


 アメリアの爪が正面からくる。


 常人を超えている速度と威力ではあるが、それだけだ。技量の伴っていない彼女の攻撃は、単体では恐れるに足りなかった。


 ……動きが甘い。威力も大したことがない。軽く流せ。


 過去の自分の経験が冷静に判断し、体が動く。剣の角度をわずかに変えた。力を流され、爪と共にアメリアの体も流れる。

 このまま隙に剣を差し込みたいが、すぐさましゃがむ。頭の上をリアンの腕が通過した。


 リアンの攻撃が空気を鳴らし、凄まじい風を起こす。セスの銀髪がたなびき、拳風に押される。

 くそ。この体は小さくて軽い。心の中で悪態をつきながら、体が持っていかれないように足裏に力を入れた。


 ヴァンパイア。馬鹿力と不死に近い再生能力が取り柄のモンスターだ。攻撃は重い。速い。しかしこれもまた、身体能力にあかせた力技だが。

 これが侮れない。


「くっ」


 間髪入れずに振り切らずに戻ってくる拳を、すれすれで避ける。全力で振り切りにいってから、途中での急制動。骨と筋肉への負荷は計り知れない動きだが、ヴァンパイアの身体能力が可能にする。


 上下左右、息つく暇もなく攻撃が続く。掠っただけでも致命傷なそれを、セスは紙一重で避け続けた。直接触れてもいないのに皮膚が裂け、あちこちで血の花が咲いた。


 さっさと隙を見つけないと体力を削られる。


 普通なら攻撃する側の方が消耗が激しく先に根を上げるものだが、ヴァンパイア相手にそれは見込めない。そもそもリアンの攻撃を捌いている間にも。


 ……ジェームスが攻撃を仕掛けてくる。


 肌が泡立つ。危険信号が身体中を巡る。セスは剣の腹に腕をクロスさせて、リアンの拳をわざと受けた。

 聖女の加護があるだけで、身体強化の魔法のない腕では、ヴァンパイアの攻撃を受けきれないがそれでいい。


 自分に力が足りないのなら、相手の力を利用しろ。


 セスも前の自分も。いつだってそうしてきた。


 元より自分は、豊富な魔力量を持っていなかったし、力だって並だった。剣の力量は並みよりあったが、それだけだ。剣も魔法も、天才と呼ばれたのは弟の方。

 なのに勇者に選ばれたのは自分だった。

 おかげで単なる王子から、王太子に押し上げられた。


 なぜ自分が勇者に選ばれたのか。心底分からない。

 世界なんてどうでもよかった。むしろ嫌いだった。息を吸うのも苦痛。壊れるのなら壊れてしまえばいい。


 そう思っていたのに。聖女に出会った。


 王命を拒めずに嫌々出た旅先で、訪れた村の娘。

 彼女が世界に色をつけた。彼女を守りたいと思った。彼女のいる世界なら、救おうと思った。


 なんだ。前の自分も今の自分も同じだな。


 セスは思わず口角を上げた。そこへリアンの攻撃がくる。


「ぐうぅっ!」


 腕がもげそうな衝撃に、骨がみしみしと嫌な音を立てる。筋肉が断裂する痛み。それらを無視してインパクトの瞬間、後ろに跳ぶ。


 闇を纏い、空気と時間さえ斬って、ジェームスの剣が先ほどまでセスのいた場所に到達する。そこにはまだセスを殴ったリアンがいた。

 リアンは味方に斬られ、ジェームスは味方を斬る状況。しかし互いに驚きも躊躇も停滞も生まず、ジェームスが剣を振りきる。


 ザァアアアアアッ!


 真っ二つになったリアンが黒い影となってノイズをまき散らし、消えた。


 仲間意識はないのかと驚いたセスだが、もう一人の自分がそうだとうなずく。

 やつらは人間とは在り方が違う。一応個で存在しているが、全の考え方なのだ。


 自分個人の命というものを尊重しない。自分が死んだとしても、仲間の誰かが目的を果たせばいい。そういう考え。


 セスは空中で回転して勢いを殺し、着地した。腕はじんじんするものの、折れてはいなさそうだ。

 まずはリアンを撃破出来て怪我もなし。重畳だ。これで膠着から抜け出せる。


 自身の状態を把握して安心したセスは、アメリアに意識を向けた。


 ……魔法!


 アメリアの周りに魔力が渦巻いている。空気中に浮遊する魔力でも、大地や植物などが持っている魔力でもない。それらは希薄で使い物にならないからだ。


 前の自分が一番驚いたのはそこだ。自分自身の魔力量が少ないよりも、世界を満たす魔力の少なさに驚いた。

 これではかなりの魔力量がないと、魔法が使えない。魔法の時代にいた魔法使いがほぼ姿を消し、魔具の時代となったのは、このためだ。


 ……そうだ。だからあの時。お嬢様を助けに行っても守りきれなかった。

 解錠の魔法が使えれば、地下牢の扉を壊さずにすんだ。魔法が使えないために、地下牢の扉を壊すのだって、普通にはいかなかったのだ。


 ザザザザ。


 耳障りな音が這い、アメリアを中心に黒い影が広がる。少々通常より禍々しいが、魔力だ。


「死になさい、勇者!」


 魔力障壁は作れない。効果範囲から逃げようにも、ジェームスが邪魔な位置に回り込んでいる。魔力の少ないセスには、魔力耐性も期待出来ないだろう。


 チラリと背後に意識をやれば、イザベラたちは結界の中。


 今度こそ彼女を守る。


 空気が重くなるほどの魔力を身体中でとらえ、セスは前方に意識を戻した。

お読み下さりありがとうございます。


本作は、毎週水曜日の更新。

あなたの心に響きましたら、幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >自分が死んだとしても、仲間の誰かが目的を果たせばいい この考え方ってすごいですよね。 一般的なファンタジーで、モンスターがこういう考えをするのってまずないんですよね。 全員が魔王という…
[一言] 6週間ぶりで最新話まで読みましたが、トレバー、改心したというか真実に目覚めたようで良かったです。 その後も、なかなか素直になれないところは、イザベラとそっくりで、親子だなあと思いました。 …
[良い点] 今回、遥さん得意のスピード感ある文章に、心理描写のバランスがすごくよく組み合わさってて、かなり読みやすかったです!(๑˃̵ᴗ˂̵)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ