表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザマァされた悪役令嬢の、Re:Re:リスタート  作者: 遥彼方
Re:Re:リスタート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/95

81 愛し子なんかじゃない

「まさか詐欺だと訴えられるとは。本当に面白い子ですね」


 エミリーが、クスクスとエミリーらしくない笑い方をして、エミリーらしくないことを言っている。


「どうしちゃったの、エミリー?」

「エミリーさん?」


 その場にいた者たちの視線が集まった途端に、エミリーから余裕のある笑みが引っ込んだ。


「ふ、ふええええええっ、えっ? あれっ、勝手に手と口が動いたでございますです……ええ。そうです、エミリー。少し貴女の体を借りますよ」


 あわあわと手足を動かしたかと思うと、また表情ががらりと変わる。


「これでやっと話せますね、愛し子よ」


 『愛し子』という呼び方に、イザベラははっとした。その呼び方は何度か聞いた。やり直す前と、エミリーが死にそうになって祈った時だ。


「まさか、神?」

「ええ、そう呼ばれています……ええええええっ!?」


 厳かに告げてから、エミリーが目と口をこれ以上ないくらいに開いた。一人芝居みたいだ。


「役立たずの神が! 死ね!」

「きゃあああ」


 巨大ムカデが体をくねらせ、エミリーに向かってきた。

 ギャリィイィィ! ムカデの毒牙が空中で何かに衝突。火花を散らし、ムカデの突進が一瞬止まった。見えない壁に張り付いた巨大ムカデが、毒々しい赤の足を口惜しそうに蠢かせた。

 別のモンスターの攻撃も、やはり見えない壁に阻まれる。


 ザザザ……こんなもの無駄だ……ザザッ

 ザ……神がこの程度の結界しか張れぬとは……ザザザザアア

 ザザァ……子供だましの結界などすぐに破ってやる……ザァ

 ザァァアア……死を先延ばしにしただけだ。皆死ぬ。死ぬ。死ね。死ね死ね死ね死ねェ……ザザザァアアアッ


 ノイズと呪いの言葉を吐き出しながら、壁を破ろうと攻撃を始めた。


「ひぇぇええぇぇ」


 ぺたん、とエミリーが床に尻を着けた。腰が抜けてしまったらしい。へにゃりと眉を垂らし、今にも泣き出しそうだった顔が、すっと引き締まった。


「長くはもちませんが、しばらくは大丈夫でしょう」

「長くもたないって、あの壁みたいなやつが?」

「結界です。壁のようなものと思ってもらって構いません」

「どれくらいもつのでしょうか」


 剣を構え結界の外を睨んだエヴァンが尋ねた。


「数分というところでしょうね」

「数分! 冗談じゃないわ」


 イザベラはずいっと神に詰め寄った。


「神! 数分の結界なんていいから、この状況をなんとかして」

「いいえ。なんとかするのは神ではありません。あなた方人間です」


 落ち着き払った言い草にイラッときた。


「はあ? じゃあ何しに出てきたのよ! この役立たず!」


 鼻が触れるほどの至近距離で吠えれば、神の表情がエミリーに戻った。


「それは……ちょっ、ちょっとお嬢様!! 神様に対して失礼でございますですよ」


「失礼もなにもないわよ。神だからなんなのよ! 何もしてくれない神様なんて、詐欺師でしかないじゃない」


 両手でエミリーの手を包み込んだ。エミリーの瞳に目線を真っ直ぐ合わせる。


「エミリー、貴女モンスターにやられて死にかけたのよ。神が貴女の中にいたのたら、どうして死にかけたの。どうして助けてくれなかったの。死ぬような目にあう前に助けてくれたらいいじゃない。痛くて苦しい思いなんてさせないで」


 前半はエミリーに。後半は中にいる神に向けていた。

 神なんて嫌いだ。試練なんて与えないで、最初からみんな幸せにしてくれたらいいのに。


 エミリーの普段は晴れ渡った空色の瞳が、硝子のように透明になる。見透かしているような、それでいてイザベラを見ていないような、無機質な瞳。超越して、遠くから眺める神の瞳を射抜くように睨む。いっそ貫いてやりたい。


「神って何でも出来るんでしょう? 今のこの状況だって。神だったらなんとでも出来たし、出来るでしょ!」


 神なら出来たはずだ。前のイザベラが死なない様に。モンスターが現れない様に。ジェームスとアメリアが黒い影に飲まれてしまわないようにも。


「いいえ。神は直接世界に干渉出来ません。すれば世界を壊してしまうからです」


 神がゆっくりと首を横に振った。


「この結界も、私が張ったものではありません。私は聖女を通して力をふるっているに過ぎないのです愛し子。結界は貴女が張ったものです。誰も死なせないという祈りで」


 視線がイザベラの後ろに向き、また戻る。イザベラは透明度が高すぎて、底の見えない瞳を見ながら、口を開いた。


「神が世界に干渉できないのは分かった。納得はしてないけど、いいわ。神になんて期待しないから」


 神がそんなに都合のいいものじゃないことは知っている。所詮、神には人間の苦しみなど理解できやしない。小さな人間一人一人の祈りを聞き届け、願いを叶えてくれる筈がないのだ。

 だから今ここで神への文句を言っても仕方がない。時間の無駄だ。


「この結界は私が祈って張ったものなのね?」

「ええ」

「セスが勝ちますようにって祈れば、勝つの?」

「勝つ可能性を上げることは出来ますが、それはすでにやっています」


 聖女の祈りは身体能力向上、武器の威力を高める。三人を相手に戦っているセスの動きは、遠目からでも攻撃が見えないほどだった。


「じゃあどうしたらいいの! 結界がもっている間に、セスがアメリアとジェームスを殺すしかないっていうの!?」


「愛し子」


 目を細めた神が、エミリーの手でイザベラの頬に触れた。


「私は愛し子なんかじゃない」


 イザベラは神の手を払いのけ、神から距離を取った。


 この状況をなんとかしてくれるわけでも、助けてくれるわけでもないのに、優しい手つきで、本当に愛しそうに触れないでほしい。呼ばないでほしい。


 イザベラも麗子も、神に愛されるような人間じゃなかった。愛されていた記憶もない。愛し子なんて呼ばれる者じゃない。


「どうして私が愛し子なの。私はイザベラ。誰にも愛されず、疎まれて、憎まれて死ぬ悪役令嬢よ。聖女はアメリアでしょう」


 ローズコネクトではそうだった。アメリアが聖女でジェームスは勇者。イザベラはただの悪役令嬢。セスだってイザベラの護衛騎士でしかなかった。


「貴女は紛れもなく愛し子ですよ、イザベラ。貴女ほどの美しい魂はありません」

「は?」


 どこがだ。何人もの男を騙した麗子の。アメリアを妬んで陥れようとしたイザベラの、どこが美しい魂なのか。


「愛し子。過去の話をしましょう。かつて魔王を倒した勇者と聖女の話を」

お読み下さりありがとうございます。


本作は、毎週水曜日の更新。

あなたの心に響きましたら、幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁあああああ、エミリーだった!! そっか、そうだ、よく考えりゃぁ伏線いっぱいだったのに、気付かない私! ちくしょ!(笑) エミリーの一人芝居がww 意識が途絶えちゃったら、ただの乗っ…
[良い点] Twitterで感想書こうとしたんですが、ネタバレなのでこちらで。 エミリー!! オーマイゴット!! 絵面で笑い過ぎました(๑˃̵ᴗ˂̵) 面白かったです!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ