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ザマァされた悪役令嬢の、Re:Re:リスタート  作者: 遥彼方
Re:Re:リスタート

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74 乗っ取り

遅くなりまして申し訳ありません。

しかも変なところで切れていたのを、後から気づきました。

すみません、修正しました(;´Д`)

「嘘でしょ……」


 馬車の中。イザベラは冷たい汗を流した。隣のセスが、鋭い緊張をみなぎらせる。


 王都に近付くにつれ、暗くなっていくような気がしたが、それは間違いではなかったらしい。


 国の中心である王都は、華やかで活気のある街である。整備された道。道に沿って立ち並ぶ家や店。しかしその華やかさや活気は、薄暗いベールに覆われていた。


「ジェームス殿下、バンザイ!」

「勇者様、聖女様、バンザイ!」


 イザベラたち一行が王都に入った途端、通りで待ち構えていた人たちが歓迎した。祭りさながらの熱気がかえって薄ら寒い。


「どうしましたです?」


 エミリーが心配そうに、眉と目じりをくしゃっと下げる。


「みんな黒い影だらけなの。影に覆われていない人もいるけど」


 道の両端にずらりと並ぶ人々を覆う黒い影。あちこちから聞こえるノイズ。それらが充満していて、王都全体が薄暗く感じる。


「そ、そ、そそそそそ、それって」


 エミリーがさあーっと顔を青くした。ジェイダの表情が普段以上に硬くなる。


「それは、殿下やアメリアと同じでございますか?」


 ジェイダの質問にイザベラはもう一度馬車の外を見た。体から薄っすらと黒い影をにじませているが、顔や服装も分かる。


「あの二人は顔も見えないくらいに濃い影だったけど、そこまでじゃないわ」

「では、お嬢様を襲った賊や、リアンとデイビッドたちとは」

「それよりも薄いわ……そうね。麗子の時に父親とクラスメートにも見えたんだけど、それくらいの濃さ」

「クラスメートって何でございますです?」


 エミリーがこくんと首を傾げる。


「同級生よ。学生の。嫌な奴らだったわ。黒い影が見える時、決まってアイツらに虐めを受けた。父親もそう。私……麗子を殴る時、決まって黒い影が見えた」

「お嬢様の前世の麗子は、実の父親に虐待されていたのでしたね」


 ジェイダが形のいい眉をしかめた。薄青の瞳が細くなり、普段よりも冷たい光を放つ。


「酷いでございますです!」


 ぐっと拳を握ったエミリーが叫んだ。青い目に涙がにじんでいる。

 セスは無言だったが、イザベラの手を握る手にぎゅっと力が入った。


「え、ええと。そんなに大したことじゃなかったわよ。虫の居所が悪い時に殴られる程度よ」


 嘘だ。大したことじゃなかった。死んでしまいたいくらい辛くて、悲しくて、惨めで、腹が立った。あの燃えるような感情が。


 自分のことで怒ってくれている。たったそれだけで、ふわふわとした感情に塗り替えられる。なんだか胸の奥がざわざわとくすぐったくて、イザベラはぷいっと横を向いた。


「そんなことより話を戻すわよ! 問題はこの黒い影だらけの王都よ。今までモンスターになった人より薄いけど、あの人たちもモンスターになるのかも」


 だとすれば、現在進行形で敵地真っただ中を進んでいることになる。しかし王命である以上、引き返せない。無理に引き返そうとすれば、黒い影を纏う人たちが牙をむくかもしれない。そうならなくても王命に背けば終わる。


「罠だとは思っていたけれど、まさかもう乗っ取られているなんて」


 イザベラは爪を噛んだ。


「エミリー、ジェイダ」

「却下です」


 イザベラとセスとは違い、二人は今なら引き返せる。そう思ったのに、却下が早い。


「まだ何も言ってないんだけど」

「下りて引き返せ、でしょう。どうやって?」

「一芝居打つから、この馬車で」


 黒眼鏡の奥から冷ややかに見下ろされる。どちらが主人なのだろう。疑問に思いながらも口を開いた。


「そうは参りません。これは勇者と聖女一行用の馬車です。帰りもあるのですよ。王都に馬車を借りるにしても、御者や乗り合わせの者が、黒い影に侵されていたら?」

「それは」


 一蹴され、ぐっと言葉に詰まった。


「巻き込んでごめんなさい」

「謝罪など無用です。そんなものは何の役に立ちません。いいですか。同行した時点で覚悟の上なのですよ。前にも言いましたが、私は逃げるのが嫌いですので」


「わ、私はでございますですね」


 はいっとエミリーが上げた手が、涼しい顔で避けたジェイダのすれすれを通過する。


「怖いでございますです! でも、あのぅ、そのぉ」


 エミリーが落ち着きなく体を揺らして口ごもる。


「そうよね、怖いわよね。王都は他の町とも近いから、そこまで歩いてそこから馬車で帰りなさい。それなら黒い影を避けられるわ」


 黒い影が怖くて迷っているのだろうと、避ける方法を教えるが、エミリーの顔はまだ曇っている。


「あの、もしかして方向音痴ですか? 大丈夫です。王都の周りには町が沢山ありますから、道を間違えてもどこかにたどり着けますよ」


 セスも心配して、助け船を出した。するとエミリーは両手と顔をぶんぶんと横に振る。


「そうじゃなくてでございますですね、ええと、あのぅ」


 今度は人差し指をつんつんと合わせ始めた。


「何ですか。はっきり言いなさい」

「はぃっ。あのでございますですね。ええと」


 歯切れの悪さに苛ついたジェイダがピシャリと促すと、エミリーがやっと本題を言い始めた。のだと思う。


「あのう。眩しいんでございますです」

「はあ?」


 思う、としたのは聴いたものの、意味が分からなかったからだ。


「だからですね! 人が光って見えるんでございますですよぅ」


 光って見える……? 人が? それはまさか。

 それはもしかして、イザベラが見る黒い影と反対なのではないだろうか。


「はーぁ!?」

「えええ!?」


 イザベラはセスと一緒になって、声を裏返らせて叫んだ。

お読み下さりありがとうございます。


本作は、毎週水曜日の更新。

あなたの心に響きましたら、幸いです。

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