表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザマァされた悪役令嬢の、Re:Re:リスタート  作者: 遥彼方
第二章 :Re:リスタート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/95

50 意外な協力者?

「ごきげんよう、イザベラ様。セス様。あら。今日はいつもの侍女ではないのですね」


 学園寮から校舎に向かう途中で、ばったりと出会ったマリエッタが、開口一番に首を傾げた。といっても、マリエッタとは毎朝ここで会うので、イザベラを待っているのだと思う。


「はじめまして。ジェイダと申します」


 ジェイダが軽くスカートを掴み、綺麗に腰を折った。


「エミリーは昨日ちょっと頭を打ったから、今日一日安静にさせているの」

「ああ。また転んだか頭をぶつけたのですわね」

「正解ね」


 驚くどころか平然と頷いたマリエッタに、イザベラは思わず苦笑する。付き合いの短いマリエッタにさえ、エミリーがドジな侍女というイメージは浸透しているらしい。

 

 校舎の前でジェイダと別れ、教室に入る。するとアメリアとジェームス王子が談笑していた。


 イザベラが来た途端、ぴりっとした空気が教室に走る。生徒たちがあちこちで何気なく話ながら、イザベラとジェームス王子に耳をそばだてているのが、独特の空気となって教室に満ちた。


 まったくもう。


 イザベラは内心で溜め息を吐いた。興味本位か同情か知らないけれど、イザベラはジェームス王子のことなんてどうでもいいというのに。周囲はそうはいかないらしい。


「イザベラ様。セス様。おはようございます」


 そんな空気を吹き飛ばしたのは、アメリアだった。満面の笑みを浮かべて立ち上がると、イザベラに明るく挨拶してくる。


「おはよう、アメリア。おはようございます、殿下」


 イザベラもことさらにっこりと挨拶を返した。もちろん、わざとだ。


 思った通り、普通なら敵対の位置にある二人が親しく挨拶を交わしたことで、さあっと空気が緩む。まだチラチラとこちらを気にしているものの、肌を刺すような視線はなくなった。


「おはよう、イザベラ、セス。それでは愛しいアメリア。また後でね」

「はい、ジェームス様」


 ジェームス王子がアメリアの手の甲に口づけを落とす。少しの間見つめ合って甘い空気を漂わせてから、イザベラたちの横をすり抜けていった。そのまま教室を出るかと思えば、セスの横を通る時に、ちらりと視線を流すとふっと小さく口元を緩めた。


 イザベラは眉をひそめた。


 なんとも含みのある笑みだ。馬鹿にしているという程ではないけれど、どこか上から笑っていた。


「セス?」


 心配になって声をかければ、王子の消えた入り口に厳しい視線を送っていたセスが、微笑んだ。


「何でもありません」

「本当に?」


 セスは自分が辛かったりしんどい時でも絶対に言わない。熱があるのに何も言わずにいて、急に倒れたこともある。


「大丈夫ですよ。殿下はお二人を悪いようにしませんから。ね?」


 アメリアが無邪気にウィンクを寄越してくる。


「悪いようにって、どういうこと?」


 さりげなく、探りを入れてみた。


 ここのところの都合のいい進展が、どうも気持ち悪い。イザベラが疑り深いだけかもしれないが、何か裏があるのではないかと勘ぐってしまう。


 あの事件以来、アメリアとは友人関係を築いている。しかしアメリアはヒロイン。物語と同じくヒロインの都合にいいように動くのだとしたら、悪役令嬢のイザベラは強制的に何かしらの断罪をされそうで怖い。


 アメリアはどこまで知っているのだろう。

 悪いようにしないとなると、ジェームスがイザベラを婚約破棄しないということになる。しかしアメリアは『お二人を』と言った。


 『お二人』がイザベラとセスのことだとしたら、イザベラがセスを好きだということを知っていることになる。アメリアに言ったことはないのになぜだろう。まさか、誰が見てもバレバレなのだろうか。


「ふふ。実は私、あの事件の後、馬車の中で聞いてしまったんです」

「!」


 イザベラは息を飲んだ。


 馬車の中で、というのはあれだ。皆寝ていると思って、「セス。ありがとう、大好き」って言ったあれだ。まさか聞かれていたなんて。


「アメリア、馬車の中って何?」


 近くにいたアメリアの友人のベリンダが、アメリアをつついた。


「ごめんね、内緒なの。イザベラ様のプライベートなことだから」


 肩をすくめてアメリアがぺろりと舌を出す。


「お嬢様のプライベートなことですか?」


 セスの眉根が寄った。まずい。


「なんでもないことよ。アメリア。少し話せる?」

「はい。セス様、ちょっとイザベラ様をお借りしますね」


 にっこりと軽く手招きすると、アメリアはもう立ち上がっていた。戸惑うアメリアの友人や、セスたちに二人で手を振って、教室の外に出た。

 早足で人通りのない校舎の裏手に回ると、アメリアに向き合った。


「アメリア、その」

「大丈夫ですよ、イザベラ様。私はイザベラ様とセス様を応援してますから!」

「ええっ?」


 アメリアにがしっと両手を掴まれて、イザベラは目を白黒させた。


「だって私たち友達でしょう? それに、護衛騎士と令嬢の恋なんてロマンチックじゃないですか」


 うっとりとイザベラの手を握ったアメリアが、瞳をきらめかせた。


「イザベラ様とセス様がくっつけば、お二人はハッピー。ジェームス様の婚約者は私だけになりますしね。ジェームス様も喜んでくれたんですよ」

「殿下が? まさかそれでセスに剣術大会の話が来たの?」


 まさかあの王子にも知られていたなんて。しかも喜んでいた? あのジェームス王子が。


 イザベラは本心の見せない王子のことを思い浮かべた。無駄にキラキラしい笑顔、上辺だけの甘い言葉で飾り立て、邪魔者は冷たく切り捨てる。

 あの王子はイザベラの同類だ。単なる善意と思えない。何か裏があるのだろうか。


「大丈夫ですよ、イザベラ様。全部上手くいきますから」


 胸を反らしたアメリアが、どん、と胸を叩いた。


 彼女の行動は、どこまで計算なのだろう。それとも全て天然なのだろうか。よく分からない。


「もう。イザベラ様ったら、ジェームス様と同じですね。難しく考えすぎです」


 伸びてきたアメリアの指先が、イザベラの眉間をつついた。


「殿下と……」


 つつかれた眉間を押さえて、イザベラは頬をひきつらせた。ジェームスがイザベラと同類なのは認めているが、他人から言われると嬉しくない。


「ほらほら、力を抜いて下さい。綺麗なお顔にしわが出来ちゃいますよー」


 無邪気に笑うアメリアの顔を見つめながら、イザベラは思った。


 少し能天気だけど、まあ、悪い子ではないのよね、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あまりに都合よく展開している最中なので、この先、何が起こり、イザベラが、そしてイザベラとセスの仲がどうなるのか気になります。 何かホラー映画で、今か今かと惨劇が起きる瞬間を固唾を飲んで緊張…
[良い点] マリエッタ久しぶりw 本当に今のところは、みんな上手く回ってるんだよねぇ…… 自称神がいなきゃ、このままハッピーエンドだろうなーと思うところだけど。 いつぶち落とされるのかを期待しています…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ