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ザマァされた悪役令嬢の、Re:Re:リスタート  作者: 遥彼方
第二章 :Re:リスタート

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45 口より剣で

「なあ、坊主。お前、本当にこのままでいいのか」


 学園寮からセスを連れ出したエヴァンは、大人しくついてくるセスに切り出した。勿論、学園の外れに差し掛かり周囲に人がいなくなったのを確認済みだ。


「このままとは、どういうことですか」


 質問の意味が通じなかったようで、セスが首を傾げて聞いてくる。


「爵位をもらってイザベラ嬢と添い遂げる。それでいいのかってことだ」

「……」


 セスが足を止めた。警戒の色をたたえた目で、じっとエヴァンを見てくる。

 当たり前だろう。知り合ったばかりのエヴァンを、昨日今日で信じるなど無理な話だ。


「坊主。俺たち護衛騎士はな。お前に命を救って貰ったんだよ」


 オークを倒したのは王子だ。しかしガーゴイルを倒したのはセスで、オークもセスの助けが入らなければ危なかった。


「もしもあの時坊主がいなければ、殿下はモンスターに勝てず、俺たちもろとも殺されていた。たとえモンスターに殺されなくても、殿下を守れなければ首が飛ぶ。坊主は護衛騎士たちの命の恩人だ」


 モンスターとの戦いで無事に勝利できたのは、王子の力ではなくセスの力だと、あの戦いに加わっていた護衛騎士たちは分かっている。しかし都合のいい事実だけを誇張し、王子の功績にしなければならなかったのは、正直心苦しかった。


「殿下に忠誠を誓って身を立てている以上、逆らうことは出来ないけどな。それに納得しているかどうかは別だ」


 私情を殺して王子に従ったが、腑に落ちてはいなかった。


「俺たちは、出来るだけ坊主の味方になってやりたいと思っている。だから本音を話せよ。坊主はイザベラ嬢をどう思っている?」


 命の借りは命で返す。建前の騎士道ではなく、戦場を共にする者たちの、暗黙のルールだ。エヴァンは、場合によっては王子を裏切ることも覚悟していた。


「……」


 返ってきたのは硬い表情と無言。だろうと思った。

 エヴァンはニッと口の端を吊り上げた。


「分かった。じゃあ勝負だ、坊主。俺が勝ったら本音を教えてもらう。負けたら余計なことは聞かない」


 口で語るよりも剣で語った方が早い。

 腰に差していた剣を置き、背負っていた木剣を出して片方をセスに放った。


「本音も何もありませんから、勝負には乗れません」

「だったら俺に勝ってみせろ!」


 セスが反射で木剣を受け取るなり、仕掛けた。踏み込みと同時に体重をかけて振り下ろす。木剣をセスが受けるが。


「!」


 インパクトの瞬間、わずかに角度を変えて木剣を押し上げ、体ごと弾き飛ばした。飛ばされたセスがすぐさま地面を踏みしめ、体勢を立て直そうとしたところへ、一歩前進。殺気と共に左肩と左足をくい、と動かした。


 殺気に釣られたセスが木剣を防御に回す。その間にエヴァンは右に軸を移し、木剣を胴めがけて振り抜いた。


「ぐっ」


 木剣が胴の真ん中を打つ。セスの体が、大きく後方に飛んだ。地面に足から着地し、二、三回転して木剣を構え直す。


「わざと後ろに跳んだか」


 派手に吹っ飛ばされたように見えるが、後ろに跳ぶことで衝撃を逃がしている。


「とっさの判断力、反射速度、どちらも悪くない。悪くないが」


 実を言えばエヴァンがセスに剣術について教える必要はない。決勝まで上がらなければ困るが、モンスターを倒したあの動きなら、今のままでも学園に在籍する生徒程度に負けはしないだろう。


 だがそれは生徒相手の話だ。


「経験と膂力が足りないな、坊主」


 セスに向けた木剣の先をゆらりと動かし、エヴァンは目を細めた。




 数十分後。


「どうだ、坊主。降参かー?」


 木剣を肩に担いだエヴァンは、地面に転がって荒い息を吐いているセスに声をかけた。

 喋る気力がないのか無視をしているのか。答えないので、わざとらしく大股を開いてしゃがみ、木剣を持たない左手をひらひらと動かしてやる。セスの眉間に力が入った。


「おっと」


 ぶん。苦し紛れに振ったセスの木剣が空を切る。


「クソッ」


 悔しそうに悪態をついて、セスが仰向けに寝転んだ。


 体力と一緒に思考力も落ちるものだ。お陰で大分素直になってきた。

 セスの木剣を鼻先すれすれでかわしたエヴァンは白い歯を見せた。


「よし、坊主。飯でも食いに行くか!」

「……はぁ?」


 あと少し足を伸ばせば商業施設街だ。エヴァンはセスの脇の下に手を入れ、ひょいと肩に担ぎあげる。


「ちょっと! 離して下さい」

「なんだよ、飯くらい付き合えよ。寂しいだろー。ああ、あと敗者に拒否権なんてないからな」

「勝負なんて受けてないんだから、勝ち負けなんてない」

「おーそうか。じゃあ俺は剣術指南でお前の師匠。師匠の言う事は絶対な」

「ああ、クソ!」

「飴も買ってやるから機嫌直せよ」

「そんなもんで機嫌直すか! 子供扱いするな!」

「わはははは!」


 本気で怒っている砕けた口調に満足して、エヴァンは笑い声を上げた。


「明日から毎日勝負な。またこうやって担がれたくなかったら、俺に一本くらい入れろよー」


 流石に肩から下ろしてやり、本当に飴を買ってやると、ぶちぶちと文句を言った。


「いらないって言ったのに」

「ははは。今食いたくなかったら持って帰ってイザベラ嬢と分けろ」

「お嬢様も俺もそんな年じゃありませんよ」


 プイッとそっぽを向いたセスの頭をぐりぐりと撫でる。


「だから子ども扱いするなって!」

「そういうことを言っている間は子供だぞー」


 怒って叩きにきたのをさっと避けると、セスの顔がさらに仏頂面になった。


「坊主。坊主がイザベラ嬢と一緒になりたくないなら、サンチェス公爵の命令に従えばいい。逆に、イザベラ嬢のことが好きなら、殿下の思惑に乗ればいい。どっちにしたって味方になってやるから」


「……」


「坊主もイザベラ嬢も子供だ。もっと大人を頼れ。甘えろ。な?」


 からかう口調をやめて本音を伝えると、目を合わせない長い長い沈黙の末、ボソッと低く呟いた、


「……殿下の回し者の癖に」

「そうだな」


 ぽんぽんとセスの頭を叩いたが、今度は振り払われなかった。

お読み下さりありがとうございます。


本作は、毎週水曜日と土曜日の更新。

あなたの心に響きましたら、幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだか、大人らしい大人が出てきたって感じがします→エヴァン しかもいい男ですねぇ(〃∇〃)
[良い点] おっと、まさかのエヴァン回! エヴァンつえぇ! 経験の勝利ですね! セスに味方が出来て良かったー!
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