五人:残された、
「よく顔が出せたよね」
シオンの通夜が行われる日の昼。
光志郎、夏芽、茜、桜子が式場に向かう前に藤田家に立ち寄ると、アンナは冷たくそう言い放った。相手は光志郎。
その光志郎は松葉杖をついたまま、無表情で彼女の目の前にぼんやりと立っていた。
みんな、アンナの言いたいことはわかっていた。同じ自転車に乗っていて、同じように事故に遭って、光志郎は奇跡的に骨折だけですんだのだ。
そしてシオンは、亡くなってしまった。アンナの双子の弟でもあるシオンだけが。
「……ごめん」
光志郎はうつむきリビングのフローリングを見つめながら、蚊のなくような弱々しい声で謝った。
「謝ったって、シオンは帰ってこないよ。ねえ」
アンナの地を這うような低い声に、茜と桜子と夏芽はびくりと肩を震わせた。彼女はキッと目つきを鋭くすると、勢いよく光志郎につかみかかる。
「なんでシオンだけ死んだの!? 謝るんだったら返してよ! 私の家族返せよ!」
「ちょ、アンナちゃん! コウちゃん怪我してるから……」
「うるさい黙れ!」
アンナは止めに入った夏芽の腕を振り払った。がくがくと光志郎が乱暴に揺さぶられる。彼は目に涙をためていた。
「ごめん」
「なんで二人乗りなんかした!? 信号なんで気づかなかった!? なんでよそ見した!? なんでよ……!」
「ごめん……!」
「お願い……もうやめて……」
彼らの後ろで茜がへなへなと床に倒れこんだ。荒く息をする背中を桜子がさする。
「過呼吸みたいになってる、どうしよう」
「えっ、ええと、おばさん呼んでくるっ」
まだ光志郎をつかんで睨み付けているアンナと泣いている光志郎にちらりと目をやってから、夏芽はばたばたとリビングを出ていく。
茜の口にハンカチをあてながら、桜子はシオン、と心の中でつぶやいた。
シオンがこの場にいてくれれば、何やってんだよってアンナたちを止めてくれるのに。
そんなことを考えて、絶望的な気分になる。
何を思っているのか。この状況はすべて、シオンが死んだから起こっているのだ。
シオンさえ生きていてくれれば、アンナは怒っていないし、光志郎は泣いていないし、夏芽は困り果てた顔なんかしていないし、茜は過呼吸なんか起こしていないし、桜子だってこんな、シオンに助けてほしいなんて思っていないのだから。
シオン視点はここまで。




