第六話
教会の地下室、というより地下区画を、隠し階段まで走る。
その途中で遁走用アイテムの効果が消えた。
まああとは誰にも見つからず、逃げればいいだけだからね。
楽勝でしょう!
そしてその数分後。
「待て! お前は、謎の剣士か!」
隠し階段を登り、大司教の部屋を出たところで、レオナードと出会ってしまった。
……フラグが立ってしまった。今後下手なことは思わないようにしよう。
それにしても、まだここにいたのか。全く、面倒だなあ。
「あーレイナード君、ちょっと僕は忙しいんだけど」
「レオナードだ!!」
そう言って、切りかかってきた。
おっと。
レオナードの攻撃を避けながら、どうしようか考える。
遁走用アイテムはすでに使っちゃったからなぁ。
逃げる……にしても、ここは狭いんだよね。
「はぁっ!!」
レオナードが雷を纏った。
あー、仕方ないなぁ。ブラン、お願い。
剣の柄を強く握りしめると、ブランはそれを察して、火を刀身に纏わせた。
そのまま、互いに無言で向かい合った。
剣を構えたあと、レオナードが唐突に問い詰めてきた。
「君は、アーティファクトを盗んだが、どんな効果を持っているのか知っているのか?」
「そりゃ知ってるよ。知ってて盗んだんだから」
はぁっ! と気合を入れたレオナードが斬りかかってきた。
それをブランで受け止め、と見せかけて受け流した。
そのまま身体を反転させ、足を狙うがあっけなく避けられた。
一度、間合いを取って離れる。
うーん、レオナードって剣技上手いよね。
さすが第二級探索者。
小さいころから、お父様に鍛えられてたあたしより上手いもん。
「ならば、君はそれを盗んで何をしようとしている!」
「何もしないよ?」
「それを証明できるのか!」
「なんで証明しなきゃいけないわけ?」
「正義のためだ!!」
再び切りかかってくるレオナード。
もう面倒くさいなぁ。
雷の属性は、速いことが特徴だ。レオナードの手数がどんどんと増えていき、徐々に押されていく。
受けられる回数が減っていき、あたしが着ている鎧にかすり始めた。
やっぱり、あたしって、まだまだ弱いなあ。
このままだと負けちゃうね。
そう思った瞬間だ。
突如、ブランの刀身から火がレオナードへ目掛けて飛んでいく。
レオナードはそれを見た瞬間、その場を離れるが、火は彼を追尾していく。
「ちっ」
剣を振り、追ってくる火を叩き落とした。
(おい、交代だ)
ブランがとうとう我慢できなくなったらしい。
魔剣なだけあって、ブランは持ち主の身体を操ることができる。
とはいっても、元はあたしだから、そこまで強くはならないらしいけどね。
ブランの刀身が再び火を纏い、それがあたしの身体へと蛇のようにとぐろを巻いた。
それを見たレオナードも、再び気合を入れ直して、雷を全身へと広げる。
(さて、小僧に剣とは何か、というものを教えてやるか)
めっちゃ上から目線だ!
そして、再度打ち合うが……しかし、最初とは全然違った。
ブランの剣がまるで先を読むように、的確にレオナードの剣をさばいていく。
あたしの剣技が最初に打ち合った時と変わっているようで、戸惑っているようだ。
レオナードの攻撃すべてが綺麗に逸らされ、撃ち流され、軽く反撃を受ける。
反撃といっても、大したものではない。わざとぎりぎりを掠めるように、ほんの僅かの小さな傷を作る程度だ。
次第にそれが、戦いではなく稽古のような形へと変化していった。
レオナードもそれが理解できたのだろう。
戸惑いから次第に、真剣に打ち込んでくるようになった。
なお、これでも全然ブランは本気を出していない。
彼が本気を出せば、あたしの身体というハンデがあるのに、お父様ですら手こずるのだ。
徐々に焦りだすレオナード。
技だけでここまで圧倒するブランって、すごいなぁ。
「なぜ……なぜ君はこれだけの剣技を持っているのに、盗みなどという行為をするんだ」
そんなことを言われましても……。
あたし、スパイですから。魔族にとって不利益になるようなものは、排除するでしょ。
その方法が、あたしは盗むってだけ。
「レイナード、君はあのアーティファクトをどうするつもり?」
「もちろん、勇者教会を訴えるための証拠とする!」
わざと名前を間違ったのに、訂正する気もないようだ。
それにしても、こいつ馬鹿じゃね?
「はっ、君は馬鹿か?」
「なんだと?」
「馬鹿正直に出せば、国に奪われて終わりでしょ」
国立である探索者協会が、喜んでアーティファクトを奪って国に差し出す。
それくらいの事も分からないの?
「国が、教会を悪だと証明してくれる!」
「そんな訳ないでしょ。ほんと君って馬鹿だね」
「なんだと!」
わざわざ、国があたしを指名手配までして、奪おうとしているのだ。
当然、国は人工勇者の使い道を探ろうとするよね。
教会を訴えるわけないじゃない。
犯罪者を集めているってのも、実験材料にするつもりでしょ。
「そもそも、こんなものがあるからこそ、人工勇者なんてものが作られる。それなら壊せばいいだけでしょ」
「なっ!?」
壊す、という方法が予想外だったらしく、剣が止まった。
ブランは、ちゃんとそれを見て、同じように剣を引いた。
身体の主導権を戻してもらって、マジックバッグから、外側とさっき奪った電池をセットで取り出す。
「それ……は?」
「これを壊せば、今いる人工勇者たちも元に戻る。もっとも年は戻らないけどね」
既に取ってしまった年は戻らない。それはもうどうしようもない。
でもこれ以上、人工勇者という被害は増えない。
「では、これを君にやろう。そしてどうするか、見させてもらおう」
「えっ?」
そう言って、あたしはぽいっとレオナードへ向けて、放り投げた。
投げられたものを咄嗟に受け止めるレオナード。そのまま、それをじっと見つめる。
考えてるなー。
彼の思考がアーティファクトへと注がれているうちに、あたしはこっそりとその場から距離を取った。
さて、どうするつもりかな?
そう思った瞬間、がしゃん、という音が廊下に響き渡る。
あー、結局壊しちゃったか。
その音と同時に、あたしはその場から離れた。
では、さようならー。
この区画は窓もなく、視界は非常に悪い。
さっきは、ブランの刀身やらレオナードの雷で、ほんのり明るくなってたけど、今は漆黒の闇だ。
あたしには、ちゃんと暗視ゴーグルみたいな道具を持っているから大丈夫だけど、レオナードはもう追いつけないだろう。
(もし奴が、あれをもって探索者協会へ行けばどうするつもりだったんだ?)
え? そんなことさせないよ?
悪いけど、壊さなかったらブランで壊してた。
国が本気を出して調査すれば、魔族の脅威になるかも知れない。
それはスパイとして、ダメだ。
では何故レオナードに渡したのか?
答えは単純。責任をレオナードに押し付けるためだ。
あたしは盗んだだけで、壊したのはレオナードだ。あたし悪くないもん。
汚いって?
やだなぁ、スパイにそんなことを求めないで。
でもこれで、とりあえず魔族の脅威は去ったはずだ。
レオナードも馬鹿だから、正直に探索者協会へ報告するだろう。壊したアーティファクトを手に持って。
それで国は諦めてくれるだろうし、レオナードがその責任をかぶってくれる。
さあ、帰りましょ。




