第五話
夜中、教会に忍び込み、そして大司教の部屋にある隠し階段から下へと降りようとした時だ。
部屋の外から誰かの足音が聞こえてきた。
「ブラン」
(任せろ)
落ち着いて、本だなを再び動かす。
隠し階段の入口が閉じられた瞬間、部屋のドアが乱暴に開いた。
「大司教はいないのかっ!」
えぇ……この声ってレオナードじゃん。
あいつ、こんな夜中に教会へ来るとは、なんて非常識なやつだ。
あたしが言うなって?
それはそれ、これはこれ。
そしてレオナードは、がさごそと音を立てて何やらやっていた。たぶん部屋中を調べているんだろうね。
んー、まあレオナードは放っておいて、奥へ行くか。
この隠し階段は、ブランでもなかなか見つけられなかったものだ。そうそう簡単に見つからない。
階段を降りていくと、なんだか重厚な扉が見えてきた。
めちゃくちゃ頑丈そうだな……これを開けるのは苦労しそうだ。
(上の棚と同じく、何やら魔法がかかってるな)
「あー、やっぱり?」
もう、地下室への入口にまで魔法の鍵をかけるなんて、面倒くさいなあ。
棚だって明け方近くまでかかったし、ここも時間かかりそうだよね。
でも今日中にケリをつけたいので、そんなに時間を取られるわけにはいかない。
「この扉って切れる?」
(容易いことだ。我をなんだと思っておるのだ?)
お風呂大好き魔剣だと思ってますが、なにか?
ブランは元々高位魔族だ。
そしてお父様と戦い、僅差で負けて死んじゃったんだけど、その身は魔剣となった……らしい。
どうやって剣になったのかは聞いてないけど、それでもその実力はお父様に並ぶほどだ。
「じゃ、いくよ」
あたしがブランに声をかけると、みるみる刀身が真っ赤に燃えあがっていく。
ちょっと熱い。
ブランがちゃんと火の耐性をかけてくれなかったら、ちょっと熱い程度じゃ済まないだろう。
では……。
あたしが扉へブランを突き立てると、まるで熱したナイフでバターを切るように、あっさりと扉を焼き切っていく。
うわー、相変わらずでたらめな火だね。
もちろんこんな状態で、人間相手に使えば、手加減とか一切できない。
お父様ですら、割と真面目に戦ってくれてた。というか危険物扱いされてた。
ここで肝心なのは、ブランがすごいのであって、あたしがすごい訳ではないところ。
悲しいよね……。
まあいいや。さっそく侵入しよう。
ではお邪魔しまーす。
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地下室の内部は、まず入ったところに牢屋が並んでいた。
ここに人工勇者が監禁されていたのね。
でも牢屋の扉は全部開けっ放しだ。鍵もついていない。
牢屋というか、鉄格子で区切られた出入り自由な部屋みたい。
牢屋の意味、あるのか?
でもアーティファクトには、人工勇者にしたものを操る機能があるので、鍵を掛けなくとも勝手に出ていくことは無かったのだろうけどね。
そして、あたしが外側を盗んでマジックバッグに入れたから、人工勇者たちは自由になって、外に出ていった。
こんなところかな?
牢屋の区画を過ぎると、次にあったのは食料倉庫だった。
たくさんある。
これだけあれば、しばらく籠ってても大丈夫だろう。
そこから先は生活スペースや、何かの研究室っぽいのもあった。
ぱらぱらと置かれていた資料を見てみるも、あのアーティファクトのこと、としか分からない。
あたしには分析の魔眼があるので、情報は簡単に得られるけど、他の人は苦労しそうだ。
そして一番奥と思われる、実験室と書かれた部屋の前に到着した。
実験室……ねぇ。
人工勇者たちを戦わせる闘技場みたいな場所かな。
中の様子を伺ってみると、数人の声が聞こえてくる。
その中の一人は、ミサの時にもきいた偉そうな人の声だ。たぶんこの人が大司教だよね。
「ブラン、どこに電池があるのか分かる?」
(ここまでくればはっきりと分かるな。一人が動力源を持って何かしておる)
何かって何を?
さっき研究室もあったし、何かを調べてるんだろうけど。
それで、今いる人工勇者たちに何か悪影響が出なければいいんだけどね。
では扉を開けようとするも、がちゃがちゃと音がなるだけ。
しっかり鍵が掛かってるらしい。
中に人がいるのに、鍵をかけたまま部屋にいるなんて、出るとき開け閉めが面倒じゃないの?
(この扉は、何らかの魔力波動を感じ取れば、すぐ開くようだな)
あっ、もしかしてカードを翳すと、ドアの鍵が開くやつかな?
それなら、ぴっ、と翳せば簡単に開くから不便ではなさそう。
でもあたしはカードを持っていない。
ということで……。
「切るか」
(任せよ)
ブランは、ようやく剣の本領を発揮できたのが嬉しいのか、やたらと張り切ってる。
そうだよね。毎日お風呂で磨いて、たまに魔法の鍵開けしてたくらいだもんね。
これは、もう剣じゃないわ。
扉を焼き切って中へと侵入する。
「むっ、誰だ!」
「お、おまえはっ!!」
ちなみに、あたしは怪盗の姿だ。ローブを深くかぶって顔を見えなくし、ブランの剣を燃えさせてる。
もうこれで、火の属性と勘違いされること、間違いなし。
そしてこの姿は、外側を盗んだときの格好だ。
「やあこんばんは。良い夜ですね」
「ふざけるなぁぁぁ! 貴様のせいで我々は!!」
いきり立った一人が、あたし目掛けて突っ込んでくる。
でも、こちらは第八級とはいえ探索者。いくら何でも、無謀じゃないかな。
軽く、相手の足をひっかけて転ばせた。
「大司教!!」
慌てて数人が駆け寄ってくる。
「貴様っ! 大司教になんてことを!!」
「だって、かかってこられたら、対応しなきゃダメでしょ」
そりゃ、捕まりたくないからね。
それ以前におじいちゃんに、襲い掛かられても正直きも……おっと自粛。
「貴様っ、なぜアーティファクトを奪うのだ!」
「え? だって、人工勇者製造なんて、どう考えても使っちゃだめでしょ。力を使うたびに十年も寿命が短くなるなんて、呪いじゃん」
「呪いとはなんだ! 勇者という力には、代償が必要なのだ!」
十分の代償が十年って、馬鹿じゃね?
コスト高すぎでしょ。
「勇者なんて、必要になれば神様が送ってくれるでしょ」
「何を言う、待っていては手遅れになる! 魔王がこのまま何もしないと言い切れまい。だからこそ我々の手で、勇者を生みだし倒さなければならないのだ!」
「そのために、犠牲を強いて?」
「当たり前だ! もし魔王が攻めてくれば、遥かに大きい犠牲が出る!」
だめだこのおじいちゃん。魔王が攻めてくる前提で考えてるよ。
まあ確かに絶対攻めてこない、とは言えないし、何かしら対策は必要だと思うよ。
でも勇者に拘り過ぎてない?
勇者じゃなくてもさ、城壁とか固めて、強い探索者とか何十人、何百人とか育てる。
それだけでも十分意味はある。
特に低級の探索者には、もっとお金を!
今のままじゃ、生活がカツカツすぎて辛いです!
まあ、そんな事よりも電池だ。
えっと、誰が持っているのかな。
(一番奥にいるやつだ)
たまにブランって、あたしの頭の中、覗いているんじゃないかと思う。
一番奥ってことは、あの若い人かな。
若いといっても、おじいちゃん軍団の中では、って感じ。
この人たちって、戦闘に関しては素人っぽいし、簡単に奪えるかな。
「えいっ」
軽い掛け声とともに、ブランの刀身から火をまき散らかす。
それに慌てふためく上層部の人たち。
敵対している人を目の前に、狼狽えるのはだめでしょ。
そんな彼らを尻目に、ダッシュして一番奥の男へと駆け寄ると、あっさり電池を奪った。
ちゃんと合ってるよね。
(それだな)
「それを返せ!」
ブランのお墨付きも貰ったし、早々に退散するとしよう。
奪われた男が、あたしにタックルしてくるけど、それを避けながら、遁走用のアイテムを使う。
「なっ、消えた!?」
それでは、さようなら。
しっかり奪った電池をマジックバッグへ入れて、その場から消え去った。




