第一話
「いらっしゃいませ! バーガージャックへようこそ!」
本日はバイトだ。
なお、バイトではきちんと制服が支給されている。
どこかで見たようなデザインだし、おそらく転生者が作ったんだろうね。
「やあ、フィーリア君」
「セブリアンさん、シルヴィさん、いらっしゃいませ! お二人ですか?」
「うん。席は空いているかい?」
この二人は、すぐ近くにある最大手クラン常闇の光の、クランマスターとサブマスターだ。
どちらも第三級であり、レオナードと並ぶくらい有名な人たちでもある。
クランマスターのシルヴィさんは、滅多にここのお店には来ないけど、サブマスターのセブリアンさんは、パンチョさんに連れられて、たまに寄ってくれるんだよね。
パンチョさんも常闇の光の幹部だし、男同士ってこともあって気安い仲なんだろうね。
「ございます! 二名様、お席へ案内しまーす!」
二人を空いている席に案内して、さっと注文を受ける。
おっと、期間限定のドラゴンセットを二つですか。結構量がありますよ?
「新作だ。しかも期間限定だし、頼まなければもう食べられないのだろう?」
「好評であれば、今後復活することもありますが、基本はこの期間のみと考えていただければ」
「ではそれを二つ頼む」
「はい! 毎度ありがとうございます!」
こうして期間限定という罠にはまっていくんだよね。限定商品って高めだから、顧客単価があがるのだ。
一個五百円でも三個買うと千円だよ、というのも薄利多売や在庫の回転率をあげるメリットがあるんだよね。
ふふふ、まいどー。
聞き耳を立てていると、パンチョさんが不平不満をあげてるらしい。
例の件がどうのこうのとか。
そういえば、今日来客した探索者たちの雰囲気がちょっと怖かったな。
ふーん、あやしい……。
このように、このお店は最大手クラン所属の探索者が大勢来てくれる、情報収集にはもってこいの場所だ。
そして夜には、このお店は酒場へと変わる。
あたしはまだ十六歳なので、その時間にバイトはできないんだけどね。お酒は十八歳からなんだって。
でもそれではもったいない。
酒場といえば情報、ゲームでも定番だ。
もちろん魔王軍のスパイであるあたしは、当然のように盗聴器を仕掛けてある。
年代物でポンコツだから、ちゃんとバイトが終わったあとこっそり確認する必要があるけどね。
ということで、お掃除と称して個室に堂々と入った。
盗聴器は……うん、ちゃんと起動している。でも電池入れ替えないとね。
この盗聴器は、お父様のマジックバッグに入ってた年代物だけど、この電池は魔石を利用している。
魔石は迷宮から魔物を倒すと取れるので、たくさん持っているんだよね。
浅層の魔物の魔石って、正直売っても微妙な値段にしかならないし……。
さて、お掃除も済ませたし、盗聴器のメンテナンスも終わった。
あとは帰宅して、ちょっと聞いてみるか。
うまくいけば、何かしら情報が手に入るかも知れない。
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「ええっ!?」
その日の夜、盗聴器を耳に当てながらベッドに潜っていると、パンチョさんが愚痴を吐きながらお酒を飲んでいた。
これだけなら割と日常的なんだけど、愚痴の内容がやばかった。
国もアーティファクトを使って何かやるってことは、以前愚痴ってたけど、とうとう人工勇者たちを連行していったそうだ。
さらに探索者たちの犯罪者も、まとめて王都へ移送するようだ。
パンチョさんは、犯罪者を強くしてどうするんだ。もし制御できなきゃ、やばいだろ。
と愚痴を吐いている。
確かにそれは一理あるよね。
まあ犯罪者を移送したところで、電池しか持っていないから人工勇者はもう作れないんだけどさ。
それでも、だ。
前にあたしのことを指名手配したって言ってたけど、国は本気で準備してるんだね。
もしかしてやばい?
(前に、動力源も盗んで壊すと言ってなかったか?)
「うん、たぶん教会にあると思うんだけどね」
(それなら好都合では? 以前、教会内部は事細かに調べただろう?)
「でもさ、同じところに隠すかなぁ。さすがに二度目は別のところへ隠してると思うんだよね」
(そうとう阿呆でもない限り、まあそうだろう)
「となると、また一から調べ直しだよね……面倒くさいなぁ」
ちょうど明日は教会でミサがある。
とりあえず、また行ってみるか。
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ところ変わって、こちらは勇者教会の一番奥にある大司教の部屋だ。
そこで複数の男たちが、水晶球を机の上に置き、頭を下げていた。
一番前にいるのが、勇者教会迷宮都市支部のトップ、アルバ大司教である。
そのアルバが水晶球の向こうにいる、モンロイ枢機卿から言われた言葉に驚愕を受けていた。
「は? なんとおっしゃいましたか猊下」
「動力源を探索者協会へ渡せ、と言ったのだ」
「な、なぜですか!?」
「そちらの国が、アーティファクトを欲しがってるそうだ。どうせ使えぬアーティファクトだ。国に渡して恩を売っておけ」
モンロイはいかにも興味なさげに、アルバへと通告する。
実際モンロイとしては、この件は終わったことだと考えていた。
ところが、王都クロボルトにある教会支部から連絡があったことで、蒸し返された気分となってしまったのだ。
「我ら勇者教会の悲願ですぞ!」
「そんなことより、国が盗人を捕まえてくれるそうだ。良かったな、責任が多少は軽くなるぞ」
「ですが!!」
アルバとしては、責任どうこうなどどうでもいいことだ。
勇者を我らの手に、勇者さえ現れれば全てが叶う、そう考えている。
もはや狂気に近い。
バンッ!!
そんなアルバを見て、モンロイは机を叩く。
「アルバ大司教。貴公は何やら勘違いをしているな。私は動力源を国に渡せ、と命じたのだ」
「くっ」
「いいか、速やかに渡せ」
「か、かしこまり……ました、モンロイ枢機卿猊下」
水晶球の輝きが消え、映っていたモンロイの姿も消え去った。
それから暫くアルバは、頭を下げたまま、震えていた。
後ろにいた幹部の一人は、暫く黙ったままのアルバに思わず声をかけた。
「大司教。仕方ありません。動力源は探索者協会へ……」
「……我々は地下に潜る」
「は?」
地下? どういうことだ?
いったい大司教は何を言っているのか、幹部たちは困惑した。
「動力源は勇者を生み出すものだ。絶対に他へ渡してはならぬ!」
「し、しかし猊下の命令はどうなさるつもりですか」
「我々が正しかったことを証明すればよい!」
「本国の命令を無視なさるのですか!?」
幹部たちもこれまで大司教の言う、勇者を迎える、ということには賛成をしていた。
確かに勇者教会だから、勇者を迎え受け入れるのは正しいことだと考えていた。
だが、本国の命令を無視してまでやらなければならない訳ではない。
「これが失われれば、我々はどのみち終わりだ! 貴様らもそれでいいのか!?」
「……」
確かに人工勇者製造アーティファクトの、外側を盗まれたのは失態だった。
いくら国が盗人を指名手配して、上手く捕まえたとしても、失態がなくなるわけではない。
大司教はもちろん、それ以外の幹部も何らかの責任を負う必要があるのは変わらないのだ。
むしろ、国に尻拭いをさせてしまった、と考えるものも多数でてくるだろう。
これをどうにか払拭するには、大きな功績が必要だ。
勇者を迎える。
確かに、これ以上の功績はないだろう。
もし勇者が生まれれば、全てがうまくいくはずだ。
「いいか! 何としてもこれを調べて、勇者を……勇者を我らの手に!」
「かしこまりました」




