エピローグ
ここは人類が住む大陸から遠く離れた列島だ。
この列島は人類が言うところの魔族の国であり、その中心都市に建つ城には魔王と呼ばれる存在がいる。
その城の一室で、魔王と主人公がお父様と呼んでいるカイン、この二人がミニテレビの魔道具を見ていた。
「はははははっ! 見たかカイン? 人工勇者がたくさん沸いたってよ!」
迷宮都市に放っている影からの映像を見て、高笑いする魔王。
それに対するカインは冷静だ。
「有象無象だな。あれで俺たちを止められると思っているらしい」
「まったく、滑稽だな」
実際、カイン一人で人工勇者を数百人は抑えられるだろう。
万の数で攻めてこられれば面倒だが、それでも魔王軍の一軍で十分対処可能だ。
二軍を差し出せば、軽く蹂躙出来るだろう。
そして魔族の国には二十の軍団が揃っているのだ。
四天王のうち二人と十ほどの軍団、つまりは半分の戦力を差し向けるだけで、人類を壊滅へと追いやることが可能だ。
圧倒的な戦力差である。
「あっちの大陸に攻め込んでも、面倒なだけだ。特に統治できるものが少なすぎる」
そもそも魔族はある意味戦闘民族だ。大半は戦った後のことを考えていない。
戦争を起こすのは簡単だが、終わった後の処理が一番苦労するのである。
「先代魔王のように、放置すればいいんじゃないか?」
「戦ってストレス発散させるためだけに、戦争を起こすのか? しかも弱い人類相手に?」
「……確かに弱者を甚振る(いたぶる)のは楽しくないな」
ブランもそうだし、カインもそうだ。
弱者を甚振るのは楽しくない。
これがあるからこそ、魔族側から戦争をしかけていないのだ。
魔王としてもその思いは強い。
しかしそれ以上に、戦争を起こすには大量の物資が必要となる。
それらの消費量は、魔族の国を治める魔王からすれば、頭の痛い話だ。
だからこそ、攻め込むには理由が必要だし、勝てば消費した以上の見返りが必要なのだ。
「まあそんなことはどうでもいいか。それよりお前が育てた人間、あのあとちょっと調べたんだけどさ」
「フィーリアか? 何かあったのか?」
「あの子、うちらのスパイって思ってるらしいぞ」
「……は?」
どういうことなのか、一瞬カインは惚けてしまった。
そのようなことをやれと命じたことはない。
そもそも宙に浮いているミニテレビ、この動画を送っているのは魔王軍のスパイなのだ。
既にいるのに、わざわざフィーリアに頼む必要性はまったくない。
「なんでもお前に育てられたから、その恩を返すために魔王軍のスパイ行為をやってるそうだ」
「そんなこと頼んだ覚えはないんだがな」
「俺は彼女からの情報を受け取ってないが?」
「俺も聞いてない。というより、フィーリアはこっちへの連絡手段を持っていないぞ?」
それを聞いた魔王は、つい噴き出した。
「ひでぇ! 完全放置かよ! 俺から連絡を入れてやろうか?」
「いらんだろ。あれはあのまま人間社会に染まればいい」
カインの言葉に、少し考える魔王。
迷宮都市には既にスパイを潜ませているし、それで十分情報も得られている。
ここで人間のスパイを増やしたとしても、特段メリットは無い、とは言えないが非常に薄い。
だいいち人間は百年もすれば死んでしまうのだ。
わざわざスパイに仕立てたとしても、百年で終わりではコスパが悪い。
しかし魔王は、一瞬とあることを思いついた。
「ふーん、かき回すこともできるが?」
「弱い。あっという間に潰されて終わりだ。せっかく育てたのに、それはもったいないだろう」
「そういえば彼女の料理が美味かったっていってたな。それを味わう前に潰されたら、確かにもったいないな」
確かに以前、機会があれば食べてみたいと思った。
ここで潰せば、それを味わえなくなる。
「うむ。それにブランがいる。あれはフィーリアと意気投合しているからな。ブランが本気を出せば面倒になる」
「そのブランをやったくせに」
「そのほうが楽しいだろ?」
「確かに! それは否定できないな」
はははは、と高笑いしながら魔王は、今はまだ様子見でいいか、と考え直した。




